なぜこんなことに?
突然の事故ではあったが、俺の童貞心はリズさんが医者を付近の村から連れてくるまでには収まっていた。
医者も特に具合の悪い所はないとの診療をして帰って行った。
「大事ないようで安心致しました……」
リズさんは頭についている、ちょこんとした耳を垂らしながら、ホッと一息ついている様子だった。
「……ま、まぁ今朝は寝ぼけてただけだからな。」
「お医者さまもそのようにご判断なされていましたね。」
「とりあえず、色々お騒がせして悪かったな。」
「いえ……むしろマナト様は私のことをご信用なられていたからこそ、お寝ぼけになることができたということですよね?そうともなれば今回のことは光栄以外のなんでもございません。なんならもっともっとお寝ぼけになってもらっても私は構わないと言いますか、お寝ぼけになっていただきたいと言いますか……」
「ちょ、なんか早口だし鼻息荒いよ。」
「あ。」
なんというか、推しを目の前にした昔の俺みたいな反応をする美少女に困惑しながらも、尊そうな反応について苦笑いを返す。
「さて、そろそろ洗濯物を干さなければ……」
「お、おう。そうか。」
「マナト様はごゆっくりお休みになられてください。昨日の件でお疲れにもなられているでしょう。」
「そ……うだな。うん、ゆっくり休んで頭を冷やすわ。」
そう言ってリズさんは部屋のドアへと歩いていき、
「───」
笑みを浮かべて退室し、洗濯物を干しに小屋の外へと出たのだった。
「さてと。……どうしてこうなったかなぁ……。」
1人きりになった俺は、この不可解な現象の原因は何か思い当たる節がないかを探った。
……思い返せば、それらしいことを言っていた人物は一人しかいないわ。
『とにかくね。君ちょっと最近調子乗ってキモいから。最初の頃よりも酷くなってるから。だから最初のマシな君に戻すわ。』
昨晩夢の中で会った女神メメリ。彼女だって威厳こそ無いがそれでも神様だ。それも人を別の世界に飛ばせるほどであれば、俺の性格か何かをいじるのも簡単なことだろう。
ということは俺はメメリに最初のマシな君、つまり前世の俺みたいな性格に戻されたということだろうか。
いったいどうしてそんなことを……?
「……調子乗ってる、か。」
メメリの言葉を思い出し、俺の今までの行動がリフレインしてくる。
そう、確かに俺は調子乗っていた。なんというか、自分では謙虚でいたつもりでも、心のどこかではイキっていた節があったのかもしれない。
下手したら笑えない黒歴史レベルだ。
「……洗濯物手伝いに行こう。」
じっとしていると恥ずかしさでまた叫んでしまいそうになる。少女に家事を任せっきりにするのも気が引けるし。