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5 ちゅめきって


「パパ、わたし、きらいじゃないの?」


「……嫌いではない」


 エヴァンはティララを見ずに答える。


「じゃあどうして、わたしをみないの?」


「俺の目は『破滅の邪眼』だ」


「はめつのじゃがん……?」


「弱い者は睨まれただけで死んでしまう。お前などイチコロだろう」


 エヴァンの言葉を聞き、ティララは周囲を見回した。

 するとたしかに小さなモンスターが大広間の床で失神している。

 スラピもカチコチに固まっていた。先ほど、エヴァンがひと睨みしたせいだろう。


 エヴァンは自分の邪眼が、闇の魔力を持たない娘を殺すと思い込み、直接見るのを避けていたのだ。

 なにしろ、魔王と人間の間に子供が生まれた前例はなかった。

 そのうえ、人の子は闇の魔力の耐性が弱く、魔族と関わると短命になると信じられていた。

 エヴァンはそれを恐れていた。


 なんだ……自分が私を傷つけるのが怖かったんだ。


 ティララはエヴァンが目を逸らす理由がわかり、ホッとした。


「でも、姫さんもたぶん邪眼だぜ? さっき紫の目の奥が赤く光った」


 インキュバスの言葉に、魔族たちがざわめく。

 闇の魔力の発現しないティララを、魔族たちは魔王の子供ではないのではないかと疑わしく思っていた。

 しかし、魔王と同じ赤い邪眼を持つのなら、話は違ってくる。間違いなく魔王の子供だ。


「目、色一緒、似てる、似てる」


「本物の娘だ!」


「姫だ! 姫だ!」


「大魔王の娘だ!!」


「魔王城に姫がきたー!!」


 興奮気味な歓声が上がる。カチコチになっていたスラピも溶けて、ボヨンボヨンと嬉しそうだ。飛び跳ね、クルクル回る道化もいる。


 一転しての掌返しに、ティララは呆気にとられた。


「ティララも邪眼?」


 エヴァンはティララを薄目で見た。そうやって邪眼の力を少しでも弱めようと思ったのだ。


「私が確認します」


 ベレトがそう言って、ティララの頬に触れようとした。ティララはイヤイヤをする。


「やー!!」


 ベレトは「幼児が好き」って書いてあったもん!


「おひめさま? ちょっとだけでちゅよぉ? ベレトめはこわくないでちゅよぉ?」


 安心させようと無理に微笑みを作るベレトに、ゾワワワと身の毛がよだつティララだ。


「やだぁぁぁ!! たすけて!!」


 ティララの声に、エヴァンはブンとティララを頭上に掲げ、ベレトに触れられないようにした。


 ティララはあまりの勢いにグエとなる。


 魔族、手加減知らないのなんとかして……。

 とりあえず、この脇わしづかみ、足ブラブラな状況、いい加減終わらせたい!

 嫌われてないなら、おねだりが有効かも。


 ティララは初めてのお願いを大魔王にしてみる。


「パパ、ちゃんとだっこ、して? おちちゃうよぉ」


 ティララはエヴァンの頭上で足をパタパタしてみる。

 少し大きな靴が脱げそうにカパカパとする。


 大魔王エヴァンは動揺した。


「ちゃんと抱っことは……?」


「ぎゅって、するの」


 ティララは両手をエヴァンに差し出し、抱っこをせがんだ。


 ちょっとあざとすぎたかな?


 ティララは内心ドキドキだ。


「ぎゅ? か? こうか?」


 エヴァンはティララを胸に抱き寄せた。ティララはエヴァンの首にすがりついて、ほっと一息つく。


 これはセーフだったみたい。


 おねだりが受け入れられたことに安心したのだ。


「エヴァン、お尻の下に腕を沿わせなさい」


 ベレトがアドバイスをする。


「うむ、こうか」


「そうです」


 やっと安定した姿勢になって、ティララは安心した。

 恐る恐るティララを抱くエヴァンの不器用さに、それでも娘への愛を感じた。


 ティララはエヴァンの頬に触れた。


 冷たい頬……。きっと、監禁してたのって自分の邪眼からティララを守るためかもしれない。

 だったら、パパに私を見ても大丈夫だってわかってもらわなきゃ。


 そして、無理やりティララに向き合わせる。


「め、みて? にらまなきゃ、だいじょぶよ」


 エヴァンはゴクリとつばを飲み、一息吐いてから恐る恐るティララを見た。


 そしてその瞳の美しさに驚いた。


 夜を待ちわびる夕闇の紫に、夕日の閃光が残っているようだ。大きな紫色の瞳に、エヴァンが映り込んでいる。

 そこには冷酷非道と呼ばれる大魔王の姿はなく、娘の扱いに困った情けない父がいた。


「たしかに赤い瞳孔だ。しかし、こんなに綺麗な瞳が、本当に俺と同じ邪眼だと……?」


 エヴァンはにわかには信じられなかった。

 たしかに同じ色ではあるが、ティララの瞳はあまりにも澄んでいて『邪眼』と呼ぶには清廉すぎた。

 エヴァンはティララをまねて、彼女の頬に触れた。

 しっとりとした水の跡。涙の筋だ。力加減がわからないのか、オズオズと迷いつつ、涙の跡を指で拭った。


 エヴァンの長い爪が、ティララの頬を傷つけ、うっすらと青いひっかき傷ができた。


 エヴァンは息を呑んだ。薄紅に染まるはずのミミズ腫れが、淡い青色をしているのだ。


 この子は、母と同じ青い血の乙女なのか!? 遺伝しないはずではないか!!


 ティララの母は珍しい青い血の持ち主だった。

 青い血には不思議な力があると伝承され、その血を使わなければ作れない魔道具がある。

 しかし、青い血は、遺伝ではなく突然変異で現れる。

 そのため、ティララの母は人間の錬金術師から執拗に追われていた。

 命からがら魔王城の森へ逃げ込んだ。それをエヴァンが匿ったのがふたりの馴れ初めだった。


 妻も青い血に苦しめられてきた。

 きっと、この子も自分が青い血だと知れば苦しむだろう。

 このことは誰にも知られるわけにはいかない。


 エヴァンは誰にも気付かれぬよう、即座に治癒魔法をかけた。


 ティララはそれに気がつかない。


「やはり、私が触れると傷つける。側にはいないほうが良い」


 エヴァンはまるで自分が傷ついたかのような顔をして、ティララの頬から手を離した。


 顔を背けるエヴァンは、悲しげに見えた。

 冷酷無慈悲と呼ばれる男の、落ち込んだ姿にティララはいとおしさすら感じてしまう。


 パパは不器用なだけなんだ。まるで自分のほうが痛い顔をしてるもん。

 このまま「私を傷つけないため」って理由で監禁されたら最悪だ。

 触っても大丈夫だって、知ってもらわなきゃ。だから、まずは、子供をひっかかないように。


「ちゅめ、きって」


 ティララはプクッと頬を膨らませた。



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