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40 決戦の一週間


 ニャゴ教授は、『魔道具の墓場』の前で懐中時計を確認していた。

 足元にはフェニックスの羽根の入ったランタンが煌々(こうこう)と輝いている。


 カチリと時計の針が重なって、十二時を示した。

 ニャゴ教授は窓へヒラリと飛び乗り、『魔道具の墓場』の中へ入る。

 何度も通った窓だった。もちろん、ニャゴ教授が来るときは、いつだってドアの鍵は開けられていた。

 ティララも何度もドアから入るように言っていたが、窓から入るほうが性分に合っていた。


「オレの結界が生きたままだったニャ。本当に魔王はここに興味がないんだニャ」


 ニャゴ教授は少し呆れる。雷で壊された天井も直されていなかった。

 とりあえず、急場しのぎの錬金術で屋根を治す。

 床は先ほどの小糠雨でしっとりと濡れている。


 教授にとっては宝物庫なのだが、魔族にとっては物置らしい。

 初めて侵入したときも、鍵はかけられていたが形ばかりのもので、収蔵物に見合った保護結界などは一切かけられていなかったのだ。


「『悪魔の坩堝るつぼ』に『阿摩羅あまらのピペット』、『ファイアードラゴンの溶解炉』……。今では幻のアーティファクトがあるって言うニョに、不用心にも程があるニャ」


 窓から中へ飛び降りる。ランタンを持って、スキーズブラズニルを探し始めた。


「リストには載ってた、と言ってたニャ」


 ニャゴ教授は、がま口カバンからブリキの巻き貝を取り出した。


「ニャいニャい……」


 言いかけてコホンと咳払いする。


「ナイナイツブリ、ナイナイツブリ、スキーズブラズニルを探しだせ」


 呪文を唱えると、ブリキの巻き貝から頭が出た。そして、目が伸び、ツノがクルクルと動きだす。

 ブリキの巻き貝は、カタツムリに変化した。『ナイナイツブリ』は探し物を探し出す、探索型アーティファクトだった。


 ナイナイツブリは、床をグルグルと動き出す。しかし、混乱しているようだった。


「はー、やっぱり無理だったニャ」


 魔王エヴァンが見つからないといっているのだ。珍しいアーティファクトを使っても、簡単には見つからないらしい。


「ティララがくるまでに手がかりくらいは見つけておかないとニャ!」


 魔王の腕に抱かれたティララを思い出す。

 着飾ったティララは、いつもよりずっと可愛らしかった。

 しかし、憔悴しょうすいを隠すための白粉おしろいが人形のように思えて、悲しかった。


「アイツに化粧なんて、まだ早いニャ」


 父親のくせに娘を泣かすなんて、魔王は本当に冷血帝王ニャ! オレがティララを守ってやるニャ!!


 ニャゴ教授は気合いを入れた。


「さて、と、どこから探そうニャ」


 んー、と教授は顎に手を当てた。

 伝説の帆船だ。小さな物ではないだろう。

 しかし、物置にしまえるものでもない気がした。


「地下、かニャ?」


 ニャゴ教授はひらめいた。


「ニャ……。ナイナイツブリ、ナイナイツブリ、地下室への入り口を探しだせ」


 ナイナイツブリはノロノロキリキリと床の上を歩き出した。そしてとある本棚を指し示した。


「この下かニャ……」


 ニャゴ教授は、本棚から本を抜きし始めた。

 放置された古い本が多いため、魔法が使えず手で取り出す。そしてやっとの事で、本棚をどかした。


 床には扉のような物はない、ニャゴ教授はコツコツと杖で床を叩いてみる。

 空洞がありそうな音がして、ニヤリと黒猫は笑った。


 ティララは目を覚ました。


 昨晩のことは途中で記憶がない。「安心してグッスリ眠るんニャ」と言うニャゴ教授の声と、柔らかな肉球の感触だけが残っている。

 たしかめるように頭を触ってみる。不思議とほんのり温かい気がした。


 囲うようにエヴァンの腕が肩に乗っている。エヴァンの顔を見れば、珍しく起きていた。


「おはよ、パパ」


 ティララが言えば、エヴァンは気まずそうに「うむ」と答えた。

 ティララが起き上がろうとしても、離さない。


「パパ、おきしよ?」


 ティララの言葉にエヴァンの唇はニマニマとしてしまう。

 久々に聞いた「おきしよ?」は格別に可愛らしい。

 ウキウキと浮かれる気持ちと、今からティララが教授のもとに行ってしまう悔しさがない交ぜになって、胸の中がおかしいのだ。


「いっしょにごはんたべよ?」


 その一言でエヴァンは起き上がり、ティララをギュッと抱きしめた。


 言いたいことはいろいろある。「錬金術師はダメだ」とか「教授のことは認めない」だとか。

 契約を反故にする気はないが、言葉にして罵りたい。


 だが、ティララはきっと悲しむ……。言ってはいけないことなのだ。


「……おはよう」


 ただそれだけエヴァンは言った。


 誰かのために我慢するなんて、俺らしくない。


 そう思いながらも、悶々とした気持ちをかみ殺した。


 とりあえず、一週間だ。一週間我慢さえすればいい。どうせ、スキーズブラズニルは見つからない。見つかっても直らない。


「さあ、食事に行こうか、ティララ」


 エヴァンは優しく娘に微笑みかけた。

 ティララは、穏やかなエヴァンの微笑みに安心し、コクリと頷いた。




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