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36 ティララは軟禁中


 ティララはあれからエヴァンの部屋で軟禁状態だ。

 ニャゴ教授がティララを攫いにくるのではとエヴァンが心配したのだ。

 部屋の入り口にはケルベロスが配備された。

 中には入れるのは、サキュバスたちとスラピぐらいだ。

 大げさすぎる警護にティララは自嘲する。


 ニャゴ教授がここに来るなんて、そんなことありっこない。

 あんなにヤなこと言ったんだもん。

 教授は私のことなんてもう嫌いになっている。

 そもそも、私が脅したから付き合ってくれてただけだもん。

 清々したと思ってる。


 ニャゴ教授を失ったティララは、人形のようになってしまった。

 エヴァンを起こす時間になっても、起こすことを忘れてしまう。

 一緒に食事を取っても、食事も喉を通らない。

 やる気も起こらず、母のホログラムさえ見る気持ちになれない。


 あんなに大好きだった『ヘブヘル』の世界なのに、もう二度とニャゴ教授に会えないとおもうと、なにもかもどうでもいい……。

 錬金術を勉強することもできなくなって、どうせ監禁されたまま、ストーリーどおり死ぬしかないんだもん。


 夢も希望も奪われたティララは、生きる意味さえ失っていた。

 魔王城の周辺はずっと曇天が続いている。

 林の草花たちはしんなりとしおれてしまった。

 あるべき日差しを得られない上に、ティララの散歩がなくなって、元気を失っているのだ。

 

 やる気もなく、ボーッと一日を過ごすティララにエヴァンは困り果てていた。

 なにしろ、エヴァンには原因が分からないのだ。

 自分が錬金術を禁じたことが原因だとはつゆほどに思っていない。

 魔族は自分の欲望を優先することで、周囲がどれだけ傷つくのか考えもしないのだ。


「ティララはなぜ笑わないのだ?」


 ティララは答えない。

 間違ってもニャゴ教授に錬金術が習えなくなったからとは言えない。

 魔王の怒りに触れたら、ニャゴ教授は殺されてしまう。

 そんな迷惑をかけられないのだ。

 

「あの猫が気に入っていたのか? だったら、黒い猫を獲ってきてやろう。眷属にすれば良い」


 見当違い甚だしいエヴァンの言葉に、ティララは頭を振る。


「……あれか、ケット・シーがいいのか? だが、ケット・シーを飼うのは難しいのだ。あいつらは人慣れしない種族で自由を好む。一つの場所にはとどまれない」


 エヴァンが言えば、ティララは力なく笑った。


「ねこちゃんだってじゆうがいいもんね」


 諦めを帯びた瞳は従来の輝きを失ってしまった。


 今のティララには、俺にしてやれることはない……。


 エヴァンは自分の無力さを感じていた。オロオロとし、娘の香りを窺うエヴァンには冷血帝王の面影は皆無だ。


 見かねたベレトが間に入る。


「ティララちゃん、少しひとりになりたいですよね?」


 ティララはコクリと頷いた。


 エヴァンはショックのあまり凍り付く。


「エヴァン……。今はティララちゃんを少しそっとしておいてあげましょう? いいですね?」


 エヴァンは反応すらできない。


「ごはんはお部屋で食べれるようにしましょうね? 好きな物を言ってくださいね?」


 そういうと、名残惜しそうにするエヴァンの背を押して、ベレトは部屋から出て行った。


 代わりに軽食が部屋に届けられた。

 花の乗ったケーキだとか、美味しそうなパンだとか、工夫を凝らした食事を用意してくれるのはベレトの優しさなのだろう。


 それを見たティララはポロリと涙を流した。

 魔族とは違う人らしい優しさが琴線に触れたのだ。

 

 ルゥが心配そうに涙を舐める。

 

「ママ……」


「ありがと、ルゥ」


 ティララは目元を拭った。赤くこすれてしまっている。


 初めて一緒に作った人造魔宝石。

 教授のために作ったマタタビ酒はまだ『魔雑具の墓場』でひっそりと眠っている。

 エンチャントベンチはどうなってしまっただろう。

 壊れた屋根は誰か直してくれただろうか。

 どうせなら、あの宝物庫の中身は全部、ニャゴ教授が盗んでくれたらいいのにとティララは思う。 


 ルゥが心配して小さな手でヨシヨシしてくれる。

 その手の小ささが、逆に大きな肉球を思い出させて辛くなる。


 スラピもその大きな体でティララを受け止めた。

 もにょんもにょんしたスラピの体にティララは癒やされる。スラピは人をダメにするタイプのスライムであった。

 

 しかし、それすらも白い腹下のモフモフを思い出させて苦しいのだ。


「姫様にプレゼントよ! クッキーですって!」


 サキュバスたちがやってきた。

 トレイに乗せられた一枚のクッキーは大きな猫型で、ティララはホロリと涙をこぼす。

 以前、ティララはニャゴ教授に猫型のクッキーを作って渡したことがあったのだ。


 ニャゴ教授には「共食いか」って笑われたっけ。まるで、ずっと昔のことみたい。


「やだぁ! どうしたの? 姫様」


「なんでもない」


 ティララが口を噤むと、サキュバスはティララを抱きしめた。

 ふくよかな胸がパフンとティララを圧迫する。


「まぁ、黙って私の胸で泣きなさいな」


 サキュバスはなぜかご機嫌だ。


「ガキが泣くの嫌いなくせに」


 インキュバスが突っ込む。


「ギャーギャー泣く子は苦手なのよ。姫様ったらいじらしく泣くんですもの。あぁん、可愛いわ!」


「わかる、姫さんの泣き顔って、最高だよな。あー、早く大人になんないかな」


 インキュバスが舌なめずりをすれば、サキュバスがギュッとティララを抱きしめた。


「アンタなんかに姫様渡さないわよ?」


「はぁ? 姫さんが堕ちれば問題ないだろ?」


「姫様がアンタに墜ちるわけないでしょ?」


「魔王様、堕とせなかったお前と一緒にすんなよ」


「アンタだって堕としてないじゃない!」


 ギャーギャーと言い争うサキュバスとインキュバスに、ティララは思わず小さく笑う。


「あ、姫様笑ったわ!」


「やっぱ、泣き顔より笑顔のほうが可愛いわ」


 ティララが顔を上げると、インキュバスがチョンと鼻先を突いた。


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