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35 れんきんじゅつなんて


 パサリ。乾いた音がして、オパール色の髪が床に散らばった。


「ママ!」


 ルゥがティララにしがみつく。


 エヴァンは呆然として自分の手を見た。


 俺がティララを傷つけた……。


 ティララは動揺するでもなく、毅然とした態度で深々と頭を下げた。


 ニャゴ教授は私が守る。そう約束したもん!


「パパ、わたし、もう、れんきんじゅつしあきらめる。だから、パパ、きょうじゅのことはゆるしてください」


「おい、ティララ、なにいってるニャ! 錬金術師になりたいんニャろ? いっぱい、いっぱい勉強してたニャろ?」


 ニャゴ教授が慌てる。


「でも、もう、いいの……」


「馬鹿ニャこと」


 ティララはニャゴ教授に振り返って笑ってみせた。


 このままではニャゴ教授はエヴァンに殺されてしまうだろう。

 発端は自分のわがままだ。

 それで、尊敬する教授を失うのは絶対に嫌だった。

 それに、教授は大錬金術師だ。

 世界のために失われてはいけない存在だ。


 私が嫌われたとしても、絶対に守らなきゃ!


「ほんとは、すっごくつまんなかったもん。れんきんじゅつなんてあきあきだったもん。でも、『みおびくたま』がほしかったからがまんしただけ。だから、ちょうどよかったわ。もう、ここにはこないで」


「ニャ!? ニャに言ってるニャ。嘘吐くニャ」


「うそじゃない。ねこちゃん、あなた、りようされてただけなのよ。まおうのむすめにね」


 本心を悟られないように、あえて小馬鹿にしたように言う。


 ニャゴ教授は愕然としてティララを見た。


 ごめんなさい。本当は楽しかった。

 もっと、もっと、いっぱい教えてほしいことがあった。

 でも、教授を守るためにはこれしかないから。


 ティララは唇を噛みしめてから、フウと息を吐き、天井を見上げた。

 ブスブスと焼け焦げた天井の先に、暗雲立ちこめる空が広がっている。

 ゴロゴロと鳴る雷は、エヴァンの怒りの現れだ。


 油断したら、涙が零れ落ちそう。

 最後まで泣いちゃダメ。

 教授を逃がすまでは泣いちゃダメ!!


 ティララは自分を叱咤しったした。

 そして、やれやれと言ったように息を吐きながら、嘲るように笑った。


「はやく、どっかいって、めざわりよ」


 ニャゴ教授はヒュッと息を呑んだ。

 そして、光の剣を鞘にしまい、カバンへ乱暴に突っ込んだ。


「こっちだって迷惑してたんニャ!! この悪魔!!」


 ニャゴ教授はそういうと、フンと背中を向けて窓から外へ消えていった。

 ルゥが慰めるようにティララの頬を嘗めた。


「ティララ……」


 エヴァンは戸惑いながら娘を見た。

 ティララはニッコリとエヴァンを見上げた。


 エヴァンは落ち込み、ティララの前に膝をついた。


「お前の髪を切ってしまった……すまない」


 切れた髪を摘まんでエヴァンが謝る。


「かみなんてすぐのびるよ」


 ティララは笑ってみせた。


 ぎこちない娘の笑顔にエヴァンは胸が苦しくなる。

 エヴァンにはなぜティララがこんな顔をしているのか理解できないのだ。


「ティララ、悲しいのか?」


 問うて、ハッとする。

 ティララのすみれ色の瞳は滲み輝いている。

 しかし、ティララは微笑んだままフルフルと頭を振った。


「パパ、だっこ、して?」


 そう言って腕を伸ばす。

 エヴァンは愛娘を抱き上げた。

 ティララは首に巻き付いたルゥに顔を埋めて、涙を隠した。


 腕の中で嗚咽を堪えるティララに、エヴァンはどうしたらいいのかわからなかった。


 魔族はシンプルだ。欲しいものは欲しいと言い、いらないものはいらないと言う。

 好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いなのだ。

 喜びも、怒りも、かなしみも、楽しさも、感情のまま表現する。

 淋しげな顔をして笑うことや、涙を隠す意味がわからない。


 ティララは錬金術を飽きたと言った。

 目障りだと言った。だから、俺がしたことは間違っていない。

 それなのに、なんでティララは泣いているんだ?


 エヴァンは途方にくれつつ、ティララの背中を優しく撫でることしかできなかった。




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