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32 今夜の議題は『ティララの帰りが遅い問題』


 とある、深夜。ティララが作ったお菓子をつまみながら、

 エヴァンとベレト、サキュバスとインキュバスが会議をしていた。


 会議の議題は、『ティララの帰りが遅い問題』である。


 ちなみに、エヴァンが食べているマシュマロだけは特別製でピンク色の肉球型で、甘酸っぱい苺味だ。

 ティララお手製の『パフパフマシュマロ』である。


 ほかの者たちは、『ハッスルクッキー』なるものを食べている。


「はぁー、姫様のクッキー美味しいじゃなぁい? オレンジの香りがいいわよね」


「姫さん、マジ、才能あるよな。これ、おんなじの人間の女に貰ったけど、こんな効果高くなかったぜ?」


「少なくとも五歳の子供に作れるものではありません。それになんでしょう? 人族の子供だましのおまじないのようなもののわりに、効用を感じますね」


 ベレトが子リスのようにカリカリともったいぶって食べながら評する。


 エヴァンも頷いた。

 甘酸っぱい苺の香りがパフンと鼻の奥に広がり、ティララの笑顔を思い出させる。胸が幸せに満たされる。


「先ほど別れたばかりだというのに、もうティララに会いたい」


 魔王の呟きにサキュバスたちは笑った。


「それはいつものことでしょー?」


 エヴァンはムッとして、トンとテーブルに手を突いた。


「さて、本題だ。最近、ティララの帰りが遅い。これについての解決策を考えよ」


「遅いって言っても、こないだの一回以降は、鐘の鳴る前に帰ってきてるじゃない? 門限は守ってるわよ?」


「だめだ、それでは遅い! 夕暮れの魔王城は危ないのだぞ!!」


「魔族たちはサバトでお披露目して以来、ティララちゃんを王女と認めてあがめています。心配はないでしょう」


 ベレトが答える。


「薄暗い庭で迷ったり、木の根につまずいて泣くかもしれないではないか!!」


 エヴァンの言葉に


「カーバングルがついてるぜ? だいじょーぶ! だいじょーぶ! スライムだって庭にはいるし」


「心配しすぎは良くないわ。魔王様」


 インキュバスとサキュバスの言葉を封じるように、エヴァンはバンと机に両手を突いた。


「ティララは俺を起こさねばならない! 鐘が鳴ってから帰ってくるのでは遅いのだ!!」


 ベレトたちは顔を見合わせ、はーっとため息を吐いた。


「だったら、門限を早めればいいじゃなーい」


「違う、そうではないのだ! ティララが自主的に早く帰ってきてほしいのだ!!」


 ベレトは脱力した。

 これが、冷血帝王と魔族からも恐れられる、大魔王エヴァンの言うことか。


「エヴァン、わがままですか」


「わがままではない。俺は魔王だ。お前たちは俺の望みを叶えるべきだ!」


「暴君!! 暴君!!」


「っていうか、どっちかっていうと、ポンコツ?」


「ポンコツですね」


 エヴァンは破滅の視線を三人に送る。三人はピリリと背筋を伸ばした。


「……ていうか、なんで遅くなるか考えてみた?」


 サキュバスはニヤリと笑った。

 インキュバスもニヤリと笑う。

 双子の二人はいたずらに関しては息ぴったりなのだ。


「きっと、姫さん、魔王様より楽しいことができたんだぜ?」


「きゃー!! もしかして、か・れ・し、とかぁ?」


「なんだと!?」


 ブワリ、エヴァンの背中から黒い闇が立ち上がる。

 城の外に、ピシャーンと雷が落ちた。

 雨粒が窓に当たる音がする。


「クッキーだって試作品かもね?」


「もう、魔王様に見向きもしなくなっちゃったりしてー」


「ゆるさんゆるさんゆるさーん!!」


 エヴァンが吠えた。ゴウと風が窓を揺らす。


「ちょっと、ふたりともふざけるのは止めなさい」


 ベレトが制止する。


「だーって、魔王様、理不尽なんだもん。こんなバカげたことで破滅の視線送るなんて! それに長い会議なんてイヤ!! ティララちゃんのクッキーのおかげで、ハッスルなのよ? あたし。早く精気がほしいわ~!」


「そうだよ。それに、愛を深めるためには雨風あめかぜも必要だぜ?」


 ふたりはゲラゲラと笑う。


「彼氏など許さん。処す」


 低く唸るエヴァンをベレトがどうどうと宥める。

 暴風雨のせいで魔王城の窓がガタガタと音を立てて揺れている。


「ちょっと、本気にしない。エヴァン。あんまり怒るとティララちゃんが起きてしまいますよ」


 窘められてエヴァンはハッとした。

 そして、自分の体を抱きしめて大きく深呼吸をする。

 闇の魔力の暴走を必死で押さえ込もうとしているのだ。


 雷を抱えこんだ雲がゴロゴロと苦しそうに呻く。


「じゃあな、魔王様! 俺たち、暴走に巻き込まれたくないから、ハッスルしてくるわ!」


「相談ならいつでものるわよ?」


 サキュバスとインキュバスはそういうと、ティララの作ったハッスルクッキーをかき集め、部屋から飛び出していった。


 二人の背中を見送って、ベレトは深くため息を吐いた。


 ふーふーと息を吐き、エヴァンは必死に心を落ち着かせる。


「……どう思う、ベレト」


「どうもこうも、彼氏なんて、ふたりのれ言ですよ。たしかに、楽しいことをみつけたのかもしれませんが、外の世界に興味を持つことはいいことです。門限を守っている分にはいいじゃありませんか。ティララちゃんは、少し聞き分けが良すぎて心配なくらいです。魔物ばかりの城で、たくさん我慢してると思いますよ。少しの自由くらい許してあげなければ」


 ベレトの答えに、エヴァンは眉をひそめた。


「いやしかし、怪我をしたらいけない」


「だから、カーバングルのバリアがあるでしょう? どうしてそんなに怪我を心配するんです? ティララちゃんになにかあるんですか?」


 ベレトの問いに、エヴァンは表情を殺した。


「そんなことはない。ティララは魔王の娘なのだ」


 ベレトにもティララが青い血であることを知られてはいけない。


 エヴァンは娘が青い血であることを自分ひとりの秘密にしていくつもりだった。


 ベレトは呆れてため息を吐く。

 エヴァンとは長い付き合いだ。

 突然、魔王然とした顔つきになったことに違和感を感じつつ、それには触れない。


 どうせ、聞いたって無駄ですからね……。


「理由はないんですね? それならパパ、干渉しすぎは嫌われまちゅよ?」


 ベレトがティララの声まねをした瞬間、エヴァンが頭をはたく。

 ポロリと首が転がり落ち、ベレトは慌ててキャッチした。




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