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26 エンチャントベンチ


「とりあえず今日は簡単な錬成台エンチャントベンチを作るニャ」


「エンチャントベンチ?」


「錬金術には、正確な魔法陣と精錬せいれんされた素材が必要だからニャ。そこらの机じゃダメにゃのニャ。だから、まず錬金術用に机を改造するニャ」


 ニャゴ教授はそういうと、ティララが拭いていた机の上につぼ刷毛はけを置いた。

 ニャゴ教授のがま口カバンからはいろいろなものが出てくるので面白い。


「これは、エンチャントベンチ用の液ニャ。世界で二番目に硬い玄黒げんこく石を含んだ液で、冷えると固まる。固まると最高に硬くなるニャ。これを机の表面に塗るニャ」


 教授は壺の蓋を開けるとおもむろに中身をぶちまけた。

 黒いドロリとした液が、机の上に広がる。

 ティララが呆気にとられていると、げきが飛ぶ。


「ほら! 見てないニャ! まんべんなく広げるニャ!! 三月の気温だと、早く固まるニャ!」


「はいニャ!!」


 ティララは慌てて語尾が釣られる。

 ドバリと机に垂らされた黒い液を、刷毛に取り、数カ所へ分けて置く。

 そして刷毛で塗り広げていく。古い机の天板てんばんは、ひび割れている。

 ひび割れたりへこんだりしている場所には、塗り込むようにして補修した。


 ニャゴ教授は、感心したように「ほう」と呟いた。


 垂れないように気をつけたつもりだったが、一部は机の面から垂れ、氷柱つららのように固まった。


「なかなか……やるニャ。ま。氷柱みたいなのはご愛敬あいきょうだニャ。もう固まったから削るにはオリハルコンでもなきゃ無理ニャ。初めて作ったベンチにしたら上出来ニャ」


 笑うニャゴ教授を横目に、ティララはゴブリンから貰った金づちとタガネを出した。

 そして、それを使って、天板の脇に垂れた黒い氷柱を削り取った。


「おま! それニャんニャ!?」


「オリハルコンのかなづちとタガネだよ」


「それどうしたのニャ……」


 ニャゴ教授が呆然として立ちすくむ中、ティララはキョトンとした。


「ゴブリンからもらったの。きょうじゅ、つかってみゆ?」


「うニャ? うニャ、ニャァ……」


 ニャゴ教授はゴニャゴニャいいながらも、両手を出した。

 ティララはなんのてらいもなく、オリハルコンの金づちとタガネを教授の手に乗せた。


 オレは泥棒猫ニャぞ? こんな宝物をあっさり渡すニャんて……。宝物だとわかってニャいのか?


 ニャゴ教授は戸惑った。


 ティララは瞳をキラキラさせて彼を見上げた。


「つかってみせて?」


 ニャゴ教授は肩をすくめ、長く長ーくため息を吐いた。

 そして、おもむろにポンポンとティララの頭を撫でた。


「?」


「ありがとニャ」


 そう一言礼を言い、胸に下げていた小さな丸底フラスコのような入れものから、石をひとつ取り出した。

 透き通るすみれ色の石だ。そして、その石にオリハルコンのタガネを当てて、金づちで打つ。コン、と澄んだ音が響き真っ二つに割れた。


「さすがオリハルコン製のゴブリンの金づちだ。綺麗な断面ニャ」


 震えるような声で嘆息し、石の片割れをティララに押しつけた。


「やるニャ」


 唐突でぶっきらぼうな物言いにティララはポカンとする。


「ほニャ。オレの弟子の印ニャ」


「あ、ありがとうございます」


 ティララが両手をおわんのようにして差し出すと、もふもふの手からすみれ色の石が落ちた。


「導きの石ニャ。迷ったら道を教えてくれるニャ。そして、同じ石からわけられた石は共鳴しかれ合うのニャ」


 ティララは石をかざしてみる。

 すみれ色の石は角度によって、濃い紫にも透明にも見えた。

 中にはインクルージョンが銀河のように輝いている。


「きれい」


「まずはそれを入れて作る『水脈導みおびく球』を作るのを目標にするニャ」


「はい。きょうじゅ! おねがいします!」


 ニャゴ教授はニヤッと笑いティララの頭をポンポンと撫でてから、オリハルコンのタガネと金づちをティララに手渡した。


 ティララは思わず笑顔になる。


 肉球モヨンモヨンで気持ちいい!


 実は、ケット・シー族が、自分から他の種族に触れるのは珍しい。

 馴れ合いを嫌い、自由を好む彼らは、本当に気に入った相手でなければ、みずから触れようとはしない。

 また、触られることも苦手だ。しかし、ティララはそのことを知らなかった。


「あまり魔族を信用するニャ。使いもしない宝物でも奪うことが楽しみな奴らがたくさんいるんニャ。大切なものは触らせるニャよ」


 ティララは自分の父を思い出し、苦笑いをする。


「でも、きょうじゅは、ちがうでしょ?」


 ティララが首をかしげると、ニャゴ教授は苦笑した。


 泥棒に入った先で、信頼されるとはおかしな話だ。

 気まずくなって、コホンと咳払いをする。


「では授業を始めるニャ!」


 そう言って、ニャゴ教授はティララに錬金術を教えはじめた。


「魔宝石はなにか知ってるニャ?」


「まりょくのこめられたいし……だよね?」


「そうニャ。どうやって生まれるかは知ってるかニャ?」


 ティララはフルフルと頭を振った。


「モンスターが強い感情を抱いたとき、恐怖や敗北、感動や感謝とかニャ、ドロップすることが多いニャ。また、モンスターの中からも取れるニャ。魔力が大きいものたちが朽ち果てたとき、そこが鉱脈になることもあるニャ。温魔石はファイアードラゴンの化石だと言われているニャ。また、魔宝石と同じ効果を持つ水もあるニャ。これらは魔鉱泉と呼ばれるニャ。温かく治癒効果が高いものもあるニャ」


「おんせんみたいね」


「そうニャ。人が入っても問題ない魔鉱泉は温泉と呼ばれるニャ。錬金術師は、魔鉱泉を蒸留することでより純粋な魔鉱泉にして、薬草などを組み合わせてポーションや魔道具を作ったりするニャ」


 ティララは『機密ノート』にいそいそとメモを取る。ニャゴ教授はニヤニヤと笑った。熱心に勉強する姿は好感が持てる。


「実物を見てみよう。これは、懐炉かいろニャ」


 ニャゴ教授は懐から手のひらサイズの枕のような物を取り出した。

 ティララは触ってみた。スライムのようにポヨンとしていて、ホカホカと暖かい。

 ティララの知っている使い捨てカイロとはまったく違ったものだ。


「やわらかい……。あったかい……」


「そうニャ。普通の懐炉は金属容器の中に灰を入れて使う。でも、オレの懐炉は特別製ニャ」


 そう言うと横のボタンを押して懐炉を開けた。中には温魔石が入っている。


「温魔石を熱源にして、『加熱』『保温』『柔軟』をエンチャントした魔道具の懐炉を作ったニャ。だから、温魔石より温かく、金属なのに柔らかいのニャ」


 はわぁぁぁ、と瞳をキラキラさせるティララを見て、ドヤ顔になるニャゴ教授。


「このためには、エンチャントベンチに正確に魔法陣を描く。魔法陣は設計図ニャ。そこに、できるだけ不純物の少ない魔力や魔法素材を正確に加えるニャ。見てるニャ」


 ニャゴ教授はエンチャントベンチの中心に透明な石を置き、茶色い粉と赤い粉、なにかの赤い液体を垂らした。

 そしてのその周囲に指先で魔法陣を描いた。


「錬成!!」


 ニャゴ教授が唱えると、真っ黒な天板に金色の図形が浮かび上がる。

 ニャゴ教授の魔力だ。


 ブオンと金と赤と茶色の渦が透明の石を巻き込んで、ギュンと吸収された。


 すると透明の石は、赤と茶色のマーブル模様の石に変わっていた。


「これは錬金術で、『人造魔石』に『温魔石の粉』と『灼熱しゃくねつの砂』と『温鉱泉』をエンチャントして、『人造温魔石』に変えたのニャ。触ってみるニャ」


 ティララが石を触るとほんのりと温かい。


「温魔石みたい!」


「でも、人造魔宝石からは、新たな人造魔宝石を作り出せないのニャ。そして術者の技術により、精錬度が変わってくるニャ。錬金術はこういうことニャ。まずは、魔質を知り、魔法陣を覚え、ゆくゆくは自分自身の魔法陣を作り出すのニャ」


「はい!」


「いい子ニャ。では次までにしっかり復習しておくニャ」


 そう言って、ニャゴ教授はティララの頭をポンと叩いた。そしてヒラリと窓へ飛び乗る。


「にゃごきょうじゅ! つぎはいつきてくれましゅかっ!」


 ティララは慌てて呼び止めた。


「気ままなケット・シーは約束はしないニャ。でもま、気が向いた日があれば、この時間この場所にきてやるニャ」


 そう言うとニャゴ教授は窓から外へ飛び降りた。


 魔王城の庭に立ち、ニャゴ教授は今出てきた窓を見上げた。

 ツタの絡まる石壁上部に汚れた窓が閉じられている。


「あんなふうに信じられたら……変な気分にゃ……」


 ポリポリと頬を掻く。黒くてフサフサした尻尾は、機嫌良くユラユラと揺れていた。



 そうやって、ニャゴ教授とティララの秘密の授業がはじまった。

 ニャゴ教授から貰った教科書は、雑な字ではあったが的確なメモがありとてもわかりやすかった。


 本格的な錬金術を勉強する前に、錬金術に必要な素材集めや、ポーションを作るところから始めることになった。

 魔力がないティララは、ガラスペンを使って魔法陣を描かなければならない。

 ガラスペンと魔力の込められた魔法インクを使う必要があるのだ。


 そんなティララのために、ニャゴ教授はガラスペンと魔法インクのセットをプレゼントしてくれたのだった。




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