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25 ニャゴ教授


 ニャゴ教授は魔王城から無事に抜け出し、ホッとする。


「魔王の娘に錬金術……?」


 変な約束をさせられてしまった。


「いやいや、逃げればこっちのものだニャ。どうせ、あのガキにオレの居場所なんか探せないニャ」


 魔族の約束ほどあてにならないものはない。裏切りは日常だ。

 契約でもない限り、反故にされてもしかたがない。

 ティララだってそれをわかっているはずだ。


「べ、べつに行かニャくたって……。そうだ、逆に罠かもしれニャいし、命大事ニャ」


 ニャゴ教授はニャゴニャゴと言い訳を重ねる。そして、小さくため息を吐いた。


 いくら言い訳を考えても、必死な顔で錬金術を学びたいと言った幼女の姿が、目の奥に焼き付いている。


「……アイツ、いっちょ前に駆け引きニャんかして……。ガキのくせに生意気ニャンだよ」


 ポケットのアーティファクトが重く感じる。


 今までいろいろなダンジョンや遺跡から宝物を盗んできた。

 魔族にしてみれば、自分が見つけた財宝を奪うのは当然の権利だった。

 使われない遺物なら盗み出して日の目を浴びさせてやったほうが良い。


 それなのに、ニャゴ教授はなぜか罪悪感を感じていた。


「べ、勉強代ニャ! これで魔族を信じちゃいけないとわかったニャろ。罰はその場で与えるのが普通ニャンだ!! それをしないアイツが甘い。契約しないアイツが悪いニャ!!」

 

 ブンブンと頭を振る。


「そ、それに大丈夫ニャ!! アイツは姫ニャ。本物の大錬金術師に教わったほうがいいニャろ?」


 口にして、歯を食いしばった。


 違う。アイツにはそれが許されないからあんなに必死だったんニャ。

 アイツの親は、子供の夢を潰そうとする馬鹿親ニャ!


 ポケットがズシリと重い。憧れのアーティファクトを手に入れたのに、まったく嬉しくはない。


「っチ! くっそ! しょうがニャいニャ。ちょっとだけニャ。こっちは利用してやるだけニャ。あそこのアイテムが気になるだけニャンだからニャ!」


 ニャゴ教授はがま口カバンに古びた教科書を詰め込んだ。


「ガラスペンも必要ニャ。あいつ魔力がないって言ってたからニャ。魔法インクもどこかにあったはずニャ。まったく面倒なことになったニャ」


 悪態を吐きながらいそいそと部屋中を引っかき回すニャゴ教授。そののフワフワの尻尾は楽しげに揺れていた。




***


 翌日、ティララは『魔道具の墓場』の一角を片付けていた。

 ニャゴ教授に錬金術を教えてもらうための準備である。

 昨日、出会った時間に合わせて部屋を整え、隅に追いやられていた広い机を拭いた。


 エヴァンから貰った『機密ノート』や、ベレトから貰った魔宝石図鑑を用意した。

 『機密ノート』は書いた本人しか内容を見ることができないノートだ。

 紙は無限で一冊のノートに永遠に書き込むことができる。


 そのほかにも、宝物庫にあった良くわからないアイテムなども机に置いてみる。


「ママ、アイツ、こないかもしれないよ?」


 ルゥが心配そうに言った。


「わたしもそうおもう」


 次に会う時間すら約束はしていなかった。

 それでもティララは一抹の可能性に縋るしかないのだ。


「あいつ、泥棒。ジィジに言う?」


「いわないよ」


 ルゥの問いにティララは笑った。脅しはしたが本気で告げ口する気はない。

 そもそもうち捨てられている宝物庫なのだ。

 すでに収蔵リストには載っていても、見つからないアイテムもあった。

 誰かが返すのを忘れたのか、盗まれたのか。

 盗まれたのだとしても、エヴァンは興味も示さないだろう。


「こなかったらどうする?」


「うーん……。ひまつぶしでしゅうぞうぶつリストのつづきでもつくろうか」


 ティララは笑って、ニャゴ教授が消えていった窓を見上げた。

 すると、そこにはマントを羽織ったニャゴ教授が座っていた。


「きょうじゅっ!!」


 ヒラリと窓から飛び降りる。


「ほんとうにきてくれた!!」


 ティララは思わず駆け寄って抱きついた。

 もふんとフワフワのお腹に顔が埋まる。

 おもわず目尻に涙が浮かぶ。


「……ほんとうに……ほんとうにきてくれたんだ……。うそみたい……!! はぁぅ、もふもふ……」


 思わずクンと匂いを嗅げば、ニャゴ教授が慌ててティララを引き離した。


「きてやったぞ!」


「ありがとうございます! きょうじゅ!! こないとおもってました」


 ティララはガバリと頭を下げた。


 ルゥはつまらなそうにニャゴ教授をひと睨みすると、ティララの首にグルリと巻き付いたまま、眠り始めた。


「……約束は守るニャ」


 ニャゴ教授は照れくさそうに鼻を擦った。


 はじめは弟子を取るつもりなどなかった。

 しかし、魔力がない幼女が、手段を選ばずに錬金術を学ぼうとしている姿を見て、ほだされてしまったのだ。


 また、彼にしてみれば、師と仰がれたのは初めてだった。

 人族には重用されている錬金術だが、高等魔族には「自らの魔力ではなく道具の力を借りるのは人と同じで恥ずべきこと」と軽蔑されている。

 そのため、魔族で錬金術を学ぼうとする者は少なく、学んだとしても人族との間で生活をする。


 人は魔力を持つ者が少ないため、錬金術師を尊敬しているが、魔族から錬金術を教わろうと思う者はいないのだ。

 ケット・シーは妖精でモンスターではない。妖精はモンスターと違い、魔王から闇の魔力の恵与は受けずに生きていける。

 しかし、人からは魔族とひとくくりにされていた。

 そんな事情もあり、ニャゴ教授に今まで弟子になりたいという者はいなかった。だからこそ、教授と呼ばれて嬉しかった。


 どうせ子供ニャ。飽きるまでだニャ。それまではお勉強ごっこに付き合ってやるニャ。


 教授と呼ばれて気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように言い訳をする。


「それでなにを知りたいんニャ?」


「なにもしらないから、はじめからぜんぶ」


 ティララの言葉に、ニャゴ教授は呆れたようにため息を吐いて、がま口カバンから古びた本を数冊取り出した。


「これをやるニャ。基本の教科書だニャ」


 ニャゴ教授自身が幼い頃に学んだ教科書だった。

 書き込みがされた使い込まれた教科書を、ティララはギュッと胸に押し抱いた。

 念願の錬金術が学べるのである。

 しかも、大錬金術師が自ら学んでいた教科書だ。

 書き込みのひとつひとつが尊いのだ。


 ジーンと感動しているティララを見て、ニャゴ教授は少し戸惑った。

 なにせ、ティララは王女である。古びた本などガッカリされると思っていたからだ。

 ニャゴ教授はポリポリと鼻の横を描いて目を逸らした。


「次までに予習してくるニャ。……ところで、ティララ、字は読めるニャ?」


「よめましゅ!」


 ティララはムフンと気合いを入れて答え、思わず噛んだ。カーッと頬が赤くなる。ニャゴ教授は小さく笑った。


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