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14 狂乱の魔宴


 今夜は一月いちがつの満月。サバトの夜である。


 十三月のサバトから、一ヶ月ぶりに開かれるサバトだ。

 この世界は月の満ち欠けによって一ヶ月が決まる。

 新月から次の新月までの二十八日間が一ヶ月であり、一年は十三ヶ月ある。

 サバトは毎月満月の夜に行われ、その日は魔族たちが魔王城に集まり、魔王から闇の魔力の恵与を受けるのだ。


 闇の魔力は、魔族たちの飢えを和らげ、力を与える。

 しかし、魔王から与えられた闇の魔力は、時間とともに消えてしまう。

 そのため、満月近くになると、飢えを満たそうとする魔族たちの活動が活発化してしまうのだ。


 ティララは先月とは違い、サイズがぴったりとした豪華な衣装に身を包んでいた。

 エヴァンが「この世で一番可愛らしいドレスを用意せよ」と命じ、きちんと採寸し、ベレトが用意した物だ。


 ティララの小さな体を考えて、暖かいハイネックのベルベットドレスだ。

 エヴァンの瞳に合わせたのだろう、深い紫色である。

 同色のレースが手首や裾を縁取り、深紅のイヌサフランが刺繍されている。

 白いタイツに、丸くコロンとした紫の靴。

 頭にはティアラが載せられた。

 子供の負担にならないよう、軽くて小さな物だが、細かく繊細な彫りが施され、魔王のみ付けることを許されている紫ダイヤモンドが中央に輝いていた。

 着つけてくれたのはシルキーだ。


 最後にブルーグレーの毛皮のケープを着けて、ティララはエヴァンに抱かれて広間に向かう。


 平伏する魔族たちを見ながら、エヴァンはゆったりと王座に腰掛けた。

 膝にはティララを抱いている。

 ティララは気まずく思いながら、広間の魔族達を眺めた。


「面を上げよ」


 ベレトの声に、魔族たちが顔を上げる。

 そして、魔王の膝の上にちょこんと乗るティララを見てどよめきが起こった。


「かーわーいーいー!!」


「姫様だ、姫様だ!」


「前のサバトはドッキリじゃなかったんだ」


 ティララはびっくりして、エヴァンを見た。

 エヴァンはバサリとマントを翻し、その中にティララを隠す。

 そして、ジロリと魔族たちを見た。魔族たちはエヴァンの邪眼に戦いて、シンと静まりかえった。


「本日のサバトでは、王女ティララのお誕生日会を執り行います」


 粛々(しゅくしゅく)とベレトが告げ、ティララは思わず噴きだした。


 そんなこと聞いてない!


「お誕生日会?」


「お誕生日会……」


「お誕生日??」


 魔族たちがキョトンとして、小首をかしげた。


 あああ~! そうなるよね? 私も意味がわからないもん!


 ティララはいたたまれずに顔が真っ赤になる。


 突然決まった誕生日会である。

 先日の人狼とのトラブルをベレトが聞き、ティララを改めて王女としてお披露目したほうが良いと提案したのだ。

 それを受け、サバトで誕生日会をすることになったのである。


 エヴァンは立ち上がると、ティララの脇に手を入れ、頭上高く掲げ持った。

 そして、厳かに告げる。


「本日は我が愛娘、王女ティララの六歳の生誕記念式典である! 先月のサバトでは行われなかった祝いを本日改めて執り行うこととした。この奇蹟きせきの存在に感謝し、喜び、祝え!!」


「そんなむりやり、やめて、パパ」


 顔を真っ赤にして頭を振り、戸惑うティララだ。 


「うぉぉぉぉ!! 姫様、お誕生日おめでとう」


「おめでとう、おめでとう」


「お誕生日! お誕生日!」


 魔族が一斉に盛り上がる。


 素直に従う魔族の姿に、ティララは恥ずかしくてしかたがない。


「さぁ、ティララ、魔族どもに手を振ってやれ」


 ご機嫌なエヴァンに囁かれ、ティララはサクランボのように赤くなった顔で、唇を噛みしめて、それでも手を振ってみせた。


 エヴァンは魔族たちに見せつけるようにゆっくりと左右に動かした。


 やーめーてー!! トロフィーじゃないんだから!!


 ティララは基本、エヴァンの言葉に従う。

 わがままを言って嫌われたくはないからだ。

 しかし、納得はしていない。半泣きである。


「ひめさまー!!」


「こっちみてー!!」


 異常な興奮をみせる魔族に、ティララはゾッとする。


 まるでフェスじゃない!! もういやぁぁぁ!!


 そう思いつつ、言葉にできるはずもなく、涙目でエヴァンに助けを求める。

 放っておいたら、サバトが終わるまで、トロフィー扱いされそうだ。


「パパァ……、これ、いたいよ。やだよ。ちゃんとだっこして?」


 ティララの紫色の瞳が潤み、エヴァンは心臓を打ち抜かれた。

 そのほかにもトストスと矢を受ける者たち。

 些細なことでは倒れない屈強な魔物たちが、広間で膝をついた。


 エヴァンは慌ててティララを抱き直す。そして魔族たちに向き直った。


「以後、王女ティララに無礼を働く者には永久とこしえの死を約束しよう」


 ニヤリと笑う紫の瞳。

 赤い光がキラリと光って、人狼が思わず「きゅぃーん」と鳴いた。

 シーンと静まりかえる大広間。


 エヴァンは気にとめる様子もなく、王座に着く。


「さて、俺からティララに与えるものがある」


 エヴァンの言葉にティララがキョトンとしていると、ベレトが命じた。


「前へ出よ。インキュバス、サキュバス」


 インキュバスとサキュバスが、エヴァンの前に歩み出て膝をついた。


「お前らふたりに、ティララの家庭教師を命じる」


「え?」


「なんで、俺たち?」


「うそでしょ?」


 サキュバスが驚き、インキュバスは目を剥き、ティララは信じられなく思う。


 ベレトが得意げに笑った。


「私がお前たちを指名しました」


 五歳児の家庭教師に淫魔を指名するってどういうこと!? ベレトの変態!!


 ティララは思わずベレトを睨みつける。

 ベレトは嬉しそうにトロリと微笑んだ。

 ティララに睨まれ、喜んでいるのだ。


 違った。ベレトはド変態だった!


 ティララはゲッソリとする。


「お前らは成人の精気を吸うが幼児には無害なため家庭教師にちょうど良いだろう。お前たちの闇の魔力は大きいものではない。しかし、魅了という力では誰よりも強いだろう。まだ力の弱いティララちゃんにはお前らの持つ強さが参考になるだろう」


「あ、なる」


「可愛いは正義よね~!」


 インキュバスとサキュバスは納得し、あっけらかんと笑った。


「それじゃ、姫様よろしくね?」


「いいサキュバスにしてやるからな!」


 バチコンとウインクを送ってくるインキュバスに、ティララは乾いた笑いを送った。


 強くなりたいって言ったけど……、ちがう、そうじゃない……。

 そもそも、人間は努力してもサキュバスにはなれません!


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