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10 魔族が勉強!?


「魔族が勉強……!! なんてことですか! 天変地異の前触れです!!」


 ベレトは眩暈を感じた。なにしろ魔族は自分の快楽を追求して生きている。

 勉強や労働を自主的にすることはない。

 シルフィーやスライムたちが魔王城の掃除をするのは、それが自身の快楽に繋がっているからだ。


 もちろん、より強者から命令されれば従う。

 魔王の命令は絶対だ。

 闇の魔力を与えてくれるのは魔王しかおらず、死ぬのは嫌だから、である。


 魔王は生まれ持っての魔王であり、学ばずとも魔族の統治ができる。努力など必要ないのだ。


「だめ? わたし、やみのまりょくないから、べんきょうしてつよくなりたいの」


 ティララが小首をかしげると、エヴァンは目を細めた。


「強くなりたいと……。さすが私の娘だけある。ベレト魔法を教えてやれ」


「魔法……ですか……」


 ベレトが思案顔でティララを見た。

 ティララには闇の魔力がない。これは決定事項だ。

 邪眼はあるが、それだけでは魔法は使えないだろう。


「ティララちゃんは魔法は無理……」


「ベレト!!」


 エヴァンがベレトを睨みつける。


「まほうがむりなら、ほかでつよくなれない? がんばるから!」


 ティララが必死に訴える。


「どうしてそんなに強くなりたいんですか?」


 ベレトは問う。ティララの父は、最強最悪の大魔王だ。

 そんな魔王の娘を傷つけようとする愚か者はいない。

 心配することなどなにもないのだ。


「いまのままだと、わたし、なにもできないやくたたずだもん……」


 ティララはサバトの日に魔族たちから投げられた言葉が忘れられない。

 ただの中傷ではなく、事実だったからだ。


 それに、マンガではティララの血がエヴァンを殺すのだ。

 役に立たないどころか、存在自体が魔族にとっては悪である。

 せめて生きている限り、エヴァンの邪魔にはなりたくない。

 自慢の娘は無理だとしても、迷惑はかけたくない。


「……パパの、……パパのあしでまといになりたくない」


 俯いて、ギュッとスカートを握りしめる。


 その姿が痛ましく、ベレトはエヴァンを見た。


「ティララには金剛石のアーティファクトをやろう。それがあれば俺の足手まといになることはない」


 エヴァンがゆったりと答えた。


「金剛石のアーティファクト?」


「ああ、代々人族の皇帝が受け継いでいる『光のローブ』という最強の防具だ。やつにはもったいないからな。明日にでも奪ってきて」


「ダメー!!」


 ティララは慌てて止めた。


 それ知ってる!!

 マンガでは『光のローブ』をエヴァンが奪ったことをきっかけに、魔王討伐の命令が下ったはず!

 そんなことしたら、パパが勇者に退治されちゃう! 


「なぜだ」


「ひとのもの、ほしくないです!!」


「なぜだ? 奪えば俺のものだぞ?」


「ダメったらダメ!」


 ティララは頭を抱える。

 魔族には人間の常識は通用しないのだ。


「つよくなるモノがほしいんじゃないの! つよくなれるほうほうがしりたいの。まほうがむりなら、れんきんじゅつとか――」


「たしかに錬金術は良いですね。私は教えられないので、錬金術師を家庭教師につけましょう。魔族でも錬金術を使う者は昼間に活動することも多いですし。昼の間に授業をしてもらえば助かりますね、エヴァン」


「錬金術は邪道だ。絶対にダメだ。許さん」


 エヴァンは不機嫌に吐き捨てた。


「……ふぇ……」


 ティララはビクリと震えた。

 思わず泣きたくなるような恐ろしさに、ウルッと瞳が濡れる。


 ベレトが慌てて説明する。


「ティララちゃん、びっくりちまちたね? エヴァンは錬金術師が大っ嫌いなんです。だから、ティララちゃんを怒ってるわけではないんでちゅよ? でもね、錬金術のお話はエヴァンの前ではしないほうが良いでしゅ」


「それにだ! 錬金術師はもちろん、魔族の家庭教師などダメだ!! 絶対に許さん!!」


 エヴァンが吠えた。


 ティララはビクリと体を震わせる。


「パパ?」


 ティララが恐る恐るエヴァンを見上げると、エヴァンは気まずそうに目を伏せた。


「ベレト、俺はティララを魔族に見せたくない。勉強はお前が教えろ」


 その言葉にティララはショックを受ける。


 パパ、怒らせちゃった……。

 もしかして、私が自由に歩けないのって、「魔族に見せたくない」から?

 闇の魔力がなくて、この間のサバトで一杯悪口言われたもんね。

 きっと、私が娘で恥ずかしいんだ……。だから魔族に見せたくないんだ……。


 そう思ったら悲しくて、スンと鼻が鳴る。


 泣き出しそうなティララを見て、エヴァンはバッと顔を逸らした。


「駄目だ……絶対……駄目だからな。泣いても、ダメだからな」


 言い訳をするように小声で呟くエヴァンに、ベレトは肩をすくめてため息をつく。


「……仰せのままに、我が主。ティララちゃんには私が教えます。そのかわり、夜は寝させてくださいよ」


 ベレトの言葉に、ティララは無理やり笑顔を作った。


「おねがいします」


 気まずい空気の中で三人は食事を終えた。


 エヴァンはティララを抱いて自室に戻ると、ティララを部屋に置き、執務に向かった。


「ちょっと、エヴァン、ティララちゃんを魔族に見せたくないって」


「あのサバトを見ただろう。皆、ギラギラした目でティララを見ていた。俺の目の届かないところで、なにをされるかわからない。その点、お前なら安心だからな」


「……心配性ですね。私は逆にきちんと魔族に紹介し、王女として君臨させるべきだと思いますよ?」


「あんな小さくて可愛くて清らかな子が、魔族の王女だと? 無理だ、無理に決まっている!! ティララが恐ろしい魔女のようになったらどうするのだ!」


「なるわけないでしょ? まったく……パパは心配性で困りますね」


「ともかくティララはひとりで魔族には会わせない。絶対に俺と一緒だ!!」


「はいはい、暴君、嫌われない程度にしてくださいよ」


 ベレトはため息をつきながら、執務室へ向かっていった。




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