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Ⅷ:龍ノ脈動

奴等が動き出した時、地は震え、海は泣き、天は声を上げた。────閃雷罰騎トニトゥルス・トリビュナー


 星空の世界は再び世界を変え、いつも見る地球の街並み、なんて都合の良い事は起こらず目に映るものは一面の原っぱと雲が揺らめく青空。少なくともビルが建ち並ぶ何て事は無く、牧場に近い物を思わせる。何処を見ようとも地球と言える物は無かった。


 星空の世界から映った世界は別の宇宙の地球とも言える惑星ルナポロ。


「此処は…………何処だ?」

「うーん何処だろうね~。ドラゴを助ける時に急いでこっちから跳んだから詳しい座標は分かんないや」

「あの時助けてくれたのってノヴァだったのか?」

「フハハハハハ。そうともそうとも!ドラゴを助けたのはこの龍神星であるノヴァだよ!」


 バン!と俺の前に仁王立ちして閉じていた翼を広げ、腕を組むノヴァ。太陽に照らされて輝く白髪を揺らして誇らしげに笑い声を上げ、翼を凄い勢いでバタつかせ上機嫌になる彼女。興奮すると翼が生えてくるのだろうか。こうやって彼女の姿を見ていると益々ドラゴンに見えない。それに人魔と言い、天魔に冥魔もノヴァみたいに人間らしい。


「そっか。ありがとなノヴァ。ノヴァが助けてくれなかったら危うく人生の終着駅に着く所だったぜ」

「えへへ~。ドラゴの為だったら地の果て、天の果て処か次元の果ての何処へだって駆けつけるもの!」


 確かに鎧を着た人魔に襲われたとき烈華が助けようとしてくれたけどあの距離だと確実に間に合わなかったな。あんな状況で助けられるのはずっと星空の世界に居た彼女だけだろう。にしても地球にいた時はノヴァの姿が一切見えなかったのにどうしてルナポロだと急に見える様になったんだ?でも声は何となく聞こえていたし、尻尾でも縛られていた。地球とルナポロの違いって訳じゃ無さそうだけど…………。


 にしても地の果て、天の果て、次元の果てまで追いかけるってなんとなく嬉しいけど、随分スケールが大きいな。少なくともノヴァは今の所この世界で信頼できる存在で命の恩人(?)。何だか人に助けられてばかりな気がする。


「これからどうすりゃいんだろ。行く宛も無いし、地球に帰る方法は見当つかないし」

「そーだねー。転移魔法や転移魔術でさえ相当な技術と魔力が無いと難しいし。別宇宙ともなると…………今のルナポロの魔素の量を見ると本当に無理だね。…………良く人魔神はあのご時世にあんな大層な魔術を仕込んだ物だ」


 最後だけ何故か声のトーンが変わってる?まぁそんなのは気にする事じゃない。ノヴァの言っている事が本当なら可能性はほぼほぼゼロってことか。アルベールの言っていたようにこの星の水とも言える魔素が無くなってるっていうのは本当か。転移魔法と転移魔術…………。魔法と魔術の違いって何なんだ?魔法は地球で言うなら人智を超えた超常現象だけど。


「魔法と魔術の違いって何なんだ?」

「魔法は個人の魔力を使って発現する現象の事で、魔術は道具とか多人数で行う儀式みたいな事で発現する現象の事を言うんだよ」

「ふーん」

「因みにドラゴの魔力、っていうか肉体に魔素を取り込む機能は無いね」

「え゛」

「だってドラゴは魔族じゃなくて人間だからね」

「って事はもう地球に帰れないのか…………?」

「まだ分からないけど可能性は低いかもね」


 伝えられた事実に思わず座り込んでしまう。薄々気が付いてはいた。プロパティプレートには何故だか分からないが称号しか刻まれて居らず、他の情報が記載されていなかったのはそう言う事だろう。にしてもあの称号は何て書かれてたんだ?烈華ですら読めなかった文字らしきもの。あのプレートはアルベールの手の中、もう手元に戻って来ないだろう。


「駄目だ。究極的に詰んでる。この世界で生きていける自身が無い…………」

「まぁまぁそう悲観的にならないで」

「どうしろって言うんだよ」

「大丈夫。ドラゴは私が守るから」

「それは有り難いことだけどそう言うじゃなくて」

「なら立ってほら!」


 目線を合わせてそう言い放つノヴァ。言われた通りに立つも一体どうしろと言うのだろうか。ルナポロは問題を抱え込んでる。三魔族の関係に皇魔というボス的存在、減りゆく魔素、と毒にしかならない皇魔の流す高濃度の魔素。


「ドラゴはドラゴンが見たいんでしょ?

「おう」

「なら一緒にドラゴンを大地に蘇らせよう!この世界の地にもう一度龍を立たせるんだ!」

「どうやって」

「それはドラゴの持つ力にある」

「俺の持つ力?」


 何でただの人間である俺がそんな力なんてあるんだ?確かに俺はドラゴンを作ったりするけども。


「そう!今はまだ中途半端だけど完全に覚醒すれば君は龍の神様に成れるんだよ!」

「何それ胡散臭い」

「胡散臭くなんてないってば!」


 龍の神様って。俺あんまり神様とやらに良いイメージを持っていないんだけど。目を輝かせて必死に訴えるノヴァ。正直言ってイメージが湧かない。人間である俺がどういった方法でドラゴンを呼び出すのか。ルナポロの模範的な龍を一目ですら見たことがないというのに。


「第一それをやる為に覚醒ってどうするんだよ?」

「うーん、いざ聞かれるとややこしすぎて説明出来ないんだよ。でも必要な事は説明出来る。ドラゴが覚醒してやらなきゃいけない事は三つ」

「三つ?」

「一つ目はドラゴ自身が誰にも負けない位強くならなきゃいけない。お世辞にも今の君は雑魚相手でも辛勝位。最終的には魔神達を殺せる位にならないと」

「はぁ!?魔神達を殺す!?」

「うん。続き行くよー。二つ目は皇魔を滅ぼす事。彼等は七星の魔女と同格だがその全ては害と言っていい。ドラゴンが生きるのに彼等の存在価値は無い」


 ノヴァは平然とした口振りで語る。彼女はこの世界の上位存在である人魔神、天魔神、冥魔神、皇魔神を殺せるぐらいになれと平然と言う。彼等がどれだけの存在かは計り知れないが少なくとも俺なんかじゃ勝てっこないのは火を見るよりも明らかだ。それに皇魔を滅ぼすって言ったって、奴らは軍隊に近い。これに対して俺は蟻んこ一匹に近い。言わば人間数千人に対して、蟻が一匹で挑むという事だ。


「そして三つ目は七星の魔女を『全員』見つけること。七星の魔女はこの世界において最も強力な存在。星の使徒とも言われる伝説扱いされている彼女らは昔と違って今はその姿は確認されていない。けれど奴らは死んだ訳じゃない。何処かに身を潜めてる。星の使徒ともあろう奴らの力を消すか奪うかすればほぼ確実にドラゴン達は蘇る。まぁ彼女等はそれだけの力を持ってる」

「先が思いやられるんだけど」

「大丈夫大丈夫ドラゴなら絶対に出来るもん!」


◆◆◆◆◆


「やる事は決まった訳だし行動に移そうか」

「俺が強くなるって奴?」


 俺の問いにノヴァはそうだよ、と返す。ならばそれはどうするか。その答えは地道に訓練を重ねて肉体を鍛える、と言う訳ではないらしい。但し全く必要っては訳ではない。何事も基礎や土台がしっかりしなければ意味は無い。ノヴァ曰く俺に大きな切っ掛けが必要らしい。よっぽどの出来事が起きるとそれがトリガーとなって、内に眠る物が、現実となってその姿を現すんだとか。

 けれど覚醒する切っ掛けと言われたら幾つか引っ掛かる物がある。ヒデの死だ。あの時、俺は紛れもなく身体のリミッターが吹っ切れたいた。後先考えずに化け物へと突っ込んでいったあの時、明確に感じたのだ。それが何なのかまでは正直言って掴めていないのだが。


「じゃあ今一石二鳥な事をしよう!」

「一石二鳥?」

「私達はこれからある街へと向かう。しかしその町まではかなりの距離があってね。人間が全速力で走れば丸二日位かかるかな。そこで拠点を移動するのも兼ねてドラゴの体力を着けようって訳さ」

「はぁ」

「でその町っていうのはねクロック街って呼ばれる所さ!なんとねなんとねその町は────」


 皇魔を除く、人魔、天魔、冥魔、聖魔、妖魔達が住み着く逸れ者の街────。七星の魔女によって魔族はそれぞれ、人界、天界、冥界に結界と言う形で閉じ込められた。結界外に居た者達は軒並み死んでしまったとの事。けれどもその中に生き残りは居たらしく、違う種族故に否が応でも協力せざるを得なくなり、結果として皇魔以外には干渉されない街になったそうだ。クロック街(くろっくがい)はそう言う成り立ちもあってか、獣魔の狩猟が盛んであり、魔族の混血が盛んにいるらしい。

 現状、行く宛があるのは星空の世界かそのクロック街のみ。星空の世界に引きこもる事も出来るが遅かれ早かれ餓死が関の山。

 俺はドラゴンが見たい。ドラゴンは俺の生涯の憧れでもあるんだ。地球に帰れる術はほぼ断たれたと言っていい。ならばそれ以外にする事は無い。

 そう思うと自然に笑みが浮かんでしまう。


「えへへ、その顔を見る限りドラゴのやる気は沸いたみたいだね。よしそれじゃあ行ってみようー!!!!」

「うぉ!」


 ノヴァは突然、尻尾で足首を掴み取り、大きく尾を振り上げる。人一人簡単に持ち上げられる力。これで投げ飛ばされたら一溜まりもないだろう。尾で俺を持ち上げたノヴァは相変わらずの笑みを浮かべている。そんな彼女の表情を見て俺は冷汗が止まらない。何時の日かと同じく繰り出される心臓の鼓動。


 そうした俺をノヴァは容赦無く、ぶっ飛ばした。


「いっけぇぇぇぇぇ!!!!」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ────────!!!!」


 全身に係る風の重力。剛速球にでもなっているかと錯覚するほどの速さで投げ出され俺は原っぱを飛びぬける。何もないが故に打ち出された弾丸はその速度が落ちるまで止まる事は無い。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛────」


 有り得ない速度で高々と放り出された身体がまともに動く訳でも無く、半ばパニック状態になりつつある俺は地に手足を着けようと必死に動かそうとする、空気圧のせいで思う様に動かない。全身に重りを着けているみたいに身体gふぁ重い!呼吸も段々し辛くなって来ている。一度口を開けててしまうと流れる空気は一瞬にして口内に突っ込まれる。


「ドラゴーーーー!!!頑張れ頑張れドラゴ!」


 そんな俺を余所に、こんな風にした張本人であるノヴァが呼び掛ける。弾丸の如く飛ぶ俺に対して簡単に追い付く彼女はその龍翼を羽ばたかせ、宙に浮いている俺とは正反対に彼女は持ち前であろう力で空を飛んでいた。走る共々の話は一体どうなったんだよ!しかも口笛を吹きながら、俺の上、下、横と縦横無尽に飛びまわるせいで風圧が発生し、肉体に回転が罹ってしまう。


「────────────!!!!」


 とうとうまともに声すら出せなくなってしまう。それに意識も段々遠のいてきた。


────駄目だッ!ここで意識が飛んでしまえば俺は何も成長出来なくなってしまう!ノヴァは俺の為にやってくれているというんだ!


「────────ぅ!」


 瞼は決して閉じない。耐えるんだ。この重力を物にするんだ。


「後もうちょっとだよー!」


 瞬間、全身に衝撃が走る。言うまでもない。翼が生えているわけでもないというのにずっと宙に受ける筈もない。ならば落下物は落ちるのが当然の道理だろう。


「────あ」


 一度地に当たっても尚、俺の身体が止まる事無く、肉体は回転を続ける。


「げふっ」

「よしよーし。じゃあ次こそ走ろっかー」


 そこからは地獄の始まりだった。脳が振動が視界がおぼつく中、ノヴァを背負って走るという明らかに創作の世界でしか有り得ないような体力作りを始めさせられたのだ。


「ゲホッ」

「ほらほら避けろー!」

「ボェッ!!」


 背に乗らなくなったかと思えば何処からか突っ込ん出来て身体があらぬ方向に曲がったりと360度ありとあらゆる所から人型ロケットが飛んでくるのだ。故に身体はまたしも宙に飛び、ボロボロになっていく。けれども俺は耐え続けるのだ。俺が望む未来のために。


◆◆◆◆◆


 時間はすっかり夜に変わっていた。ルナポロの恒星は地平線の向こうに沈み、衛星が恒星の光を反射してその姿を現していた。世界が変わることなく星々は浮かび上がっていた。

 着ていた制服はボロボロに崩れ、所々破けていた。疲れ切った心と体を夜風が煽り、火照っていた身体は冷めていく。


 メラメラと燃え盛る薪の炎をぼんやりと見つめながら、夕飯を取ってくると言って何処かを行ってしまったノヴァの事を考える。今日一日で滅茶苦茶に俺を鍛え上げた鬼…………じゃなくて龍教官と言うべきか。ああも怪力を見せられたり、咆哮にも似た叫び声を浴びたり、本当にドラゴンだと思えてくる。


「はぁ…………疲れた」


 何だか眠くなってきた。これから夕食だと言うのに身体がフラフラして瞼が重い。それに合わせて炎も消え去ってしまう。

 もう寝てしまおうと思った矢先、近くからバサバサと羽音が響いた。しかしそれはノヴァの物ではない。何度も彼女の翼が羽ばたく音を聞いた俺には分かる。


「…………」


 何も無い草原故に辺り一面全てを見渡せるが、今は夜、月明かりがあるといえど、舞い降りた者の姿を完全に確認する事は出来ない。十数秒掛けて眼を凝らしてその者を見る。

 あれは人間の姿。だがその背には蝙蝠の様な翼が見える。その者は紛れもない冥魔だ。此処に舞い降りてきたラフな格好をした青年の様な冥魔。


「ふむ。人界からぽっくりと開いた『穴』が出てきた思ってきてみればこれが勇者だというのか?人魔神が最後に遺した置き土産がこの様とは笑ってしまうな。うーん勇者は一人では無い筈なのだがな。面倒だな。一人だけならば直ぐにでも殺せるというのに」


 まさか俺の事を言っているのか?人界から穴が出て来たってどういうことだ。それに人魔神が勇者を召喚したことを知っている?

 不味いな。どうする?まだ見つかった訳ではないがこのまま見逃されるとは思えない。冥魔とはそれなりに距離自体はある。だがノヴァのことを考えるとそれが意味の無い事だというのは分かる。


 戦ってアイツを殺すしかない。分かる。アイツは明確に俺を殺しに来た。そして蹲っていれば俺は殺される。何よりも俺が成長出来ない。今ある武器はシャーペンと金属で出来た水筒のみ。だが生物をころすのならそれで十分。


 やってやる。俺はもう殺される訳にはいかないんだ。もう不条理に押し潰されて堪るかッ!


「オイ!出て来いよ勇者!たった一人と言う事は貴様は人界から追放された口か?」


 俺は何も答えない。奴がしに来た事は恐らく人魔神が召喚した勇者の殺害。もっと言えば冥魔の目的は他の魔族の殲滅だろう。各陣地えお覆っている結界が弱まっているのは知っているが、まだ完全に解けた訳では無い筈だ。どうやって冥魔が冥界から出てきたのか知りたいところだがそうもいってられないか…………。恐らく冥魔には既に居場所は割れている筈。もう後戻りは絶対にしたくない。不条理になんか屈したくない!


「貴様、そこにいるな!」


「ああ、居るぜ冥魔さんよ」


 立ち上がった俺に対して冥魔は怪奇を見るような目で見た。


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