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Ⅳ:龍ノ不安

考える事が出来る生き物ってそいつ等一匹一匹に考えがある。全部が全部、同じ訳ってには行かない。考えが違う……だからかな、争っちまうのは────超龍ノ超龍者ドラゴニックドラゴノイドドラゴン

 場所は変わり、教会の内装の様な場所。老人曰く王宮との事。そんな中に俺は居た。どうにもさっきから様子が可笑しい。何故か俺と焔がまるで居ないかのようになっているのだ。金剛に声をかけたり、肩を叩いたりしてみるがちっとも反応が無い。挙句の果て、焔は何処に行ったんだ!と騒ぎ出す始末。そんな彼に神代は「きっと舞い上がって『紅隠』を使ってるのさ」と返す。




 ベニガクレとは一体何なんだよ。焔が紅い髪になっているのと関係あるのか?




 兎に角、王宮の奥に進み続け祭壇の様な場所に辿り着く。其処には明らかにジンマシン様とやららしき像が祀られていた。ジンマシン様とやらは女性なのかまるで女神のの様な外見をしている。盛大に装飾され、唯一無二、我以外は跪かんと言わんばかりに自分を主張していた。




 そしてここにもまた崇める人間は居た。此処に来た俺達に気が付いたのか、その人間は今俺達の先頭に居る老人よりも豪華な服装をし、錫杖を持った中年の男。




「ようこそおいでなされました。我等が人魔神様が選びし勇者様方。私の名はアルベール=カルコル。人魔達が住むこの世界、人界を治める者です。と言っても貴方方は理解できないでしょう。勇者様方が消え去ってから何百年と経って居られますからな」


「宜しくお願いします。アルベールさん。……何百年そんなにか」


「ささっ皆様方立ち話も何でしょうから其処に座って下され。中には状況が分かっていない勇者様も居る様ですし」




 アルベール=カルコルと名乗った男はクラスカースト最上位の人間以外を見やる。当然何が起きたのか全く理解できていない彼等はアルベールに警戒心を持つ。しかし神代勇人の手に掛かれば彼等を安心させる事なぞ造作も無かった。




 広いテーブルに座った彼等は改めてアルベールの方へと顔を向ける。




「えぇ、結論から言いましょうか。勇者様方は元居た星とは別の宇宙の惑星ルナポロ、その中にある人界と呼ばれる場所に転移させられたのですよ。人界を救う為、人魔神様の手によって」




 その言葉を聞いて生徒達はどよめき出す。当然だ。ジンカイと言う変なのを救う為にジンマジン様とか言う訳の分からない奴らに呼び出されたのだから。


 そこからこの星、ルナポロについての話が始まった。




 この星には『魔素』と言う物質があるらしい。魔素はこの星の生物が生きる為には必須とされている物質。魔素を空気中から体内に取り入れ、成長する事が出来るらしい。生物の体内に入った魔素は魔力と言う体外に放出すれば何にでもなる万能の物、『魔力』と言う物になる。




 そして何より驚いたのはその魔力を使えば生物は『魔法』を使うという事。




 何て馬鹿げた話だ。当然生徒達はそんな言は信じられない。しかし俺達は信じざるを得なかった。


 御伽噺にしか聞こえないそれをアルベールは目の前でやってみせたのだ。




「フレイム」




 そう言って裾を捲くった腕で何も無い掌から火を出した。これを見せてアルベールは俺達に魔法を使える様になってもらう等と言い始める。




「皆落ち着いてくれ!いきなりこんな事を言われるのは困るかもしれないが本当なんだ!俺もこうやって火を出せるんだから皆だって出来る筈だ!」




 そう言って神代、金剛、鈴野、丸井、影野は徐に立ち上がり影野を除いてアルベールと同じく手から火を出す。彼女は忍者の様に姿を消した。




 ライターやマッチを持たずして火を放つ、その事実に俺達は余計に訳が分からなくなる。そもそもこの星の生物だから魔素を取り込み、魔力を生成し、魔法を行使するのでは無いのか。魔素なんて物質は俺達の居た地球には発見なんかされなかった。


 魔素は空気中に溢れているとアルベールは言った。なら地球で発見されなかったなんてあるのか?そもそも近代において魔法なんてものは空想にしか過ぎない物だったのだ。それに見つかっているのなら教科書に位載ってたっていい筈。


 だったら地球には魔素なんて物無かったと言う事になる。いや、じゃあ教室のあの時計や化物、何より隣に居る焔のあの姿や白黒の世界はどうなっているんだ。


 駄目だ、頭が可笑しくなる。今の焔に聞いても答えてはくれなさそうだ。




 そして次に始まったのはこの世界の歴史だ。この世界には元々魔物、地球にとっての生物がいたらしい。魔物は大きく分けて七つ、




 俺達地球の人間と同じ姿をした『人魔』。




 人間に白鳥の翼を背に生やした『天魔』。




 同じく背に蝙蝠の翼を背に生やす『冥魔』。




 知能は持たないものの意志を持ち上記の魔族と共に行動し、姿は俺達にとって地球の空想の生物の姿をした『聖魔』。




 聖魔とは正反対に扱われ、聖魔とは反りが合わない物の同じく魔族と共に行動する事がある『妖魔』。




 地球に於いての獣であり本能のまま生きる『獣魔』。




 最後に、突如として現れ、魔族の脅威となった人が鎧を着た姿をした『皇魔』。




 人魔、天魔、冥魔はそれぞれルナポロに生活圏を持っていおり、地上にある人界、空中にある天界、地下にある冥界。聖魔、妖魔、獣魔は自然の中に住み着き、特定の場所が無いらしい。皇魔については何故か触れられなかった。


 魔族には絶対となる長がおり、人界における長は先程から聞こえた人魔神と言う神様らしい。




「遥か昔、私が生まれる何千年も前、人魔、天魔、冥魔は己が欲する物の為に戦争をしておったと伝えられていました。領土、富、聖魔と妖魔、ありとあらゆる物を巻き込み、この星を荒らしたそうです」




 魔族は昔、今のように人界、天界、冥界と隔たれる事なく同じく地上で生活していたらしい。けれど魔素は全員知能を持った地球における人類である魔族や生物にとっては必要な物。しかし魔素も無限にあるという訳では無い。


 土地や資産を求め魔族が魔法を使い、それが発達する度に他者から何かを奪おうと有限の魔素を使って争いが起こった。


 最終的に魔族それぞれの神、人魔神、天魔神、冥魔神までもが身を投げ出し、元々減っていた魔素は必要以上に消費された。そして何百年も続いた争いは星が傷付くのを悲しんだ『七星の魔女』によって終止符を打たれた。多くの犠牲、何より人魔神、天魔神、冥魔神、各々の神の絶大な力と引き換えに。魔神は弱体化し、魔族も互いに争うだけの力を失ったらしい。




 七星の魔女、ルナポロを囲む星の使者として考えられた魔神と並ぶこの星における上位者。神の名を冠せずともその絶対的な魔力で魔族を捻じ伏せた者達。今後争いが起きないよう魔女達は混沌と化していた星に人界、天界、冥界を作り上げ魔族達をその中へと閉じ込めたのだ。


 ルナポロを救ったものの消耗はしたのかその戦争以降魔女の姿者は居ないらしい。




 しかし問題は此処からだった。戦争の中心にあった孤島、ジニホングに皇魔が現れたのは。皇魔は魔族と同じく知能を持ち、今や魔族の合計に及ぶ程数を伸ばした勢力。


 魔族とは桁違いの魔力持ち、瞬く間に魔族が欲した領土を掻っ攫ったそうだ。魔神達は皇魔の存在、もっと言えば皇魔の長、皇魔神が人界、天界、冥界を滅ぼしに来ると察知し先に神同士で再び争ったらしい。


 何故結界に閉じ込められた筈の魔族や魔神が出られる様になったのか。年月が経ったのもあるそうだが何より皇魔が現れた事が原因らしい。桁違いの魔法出力を持った皇魔は空気中の魔素にすら影響を及ぼし、魔族、魔物ですら生活が出来ない高濃度の魔素がジニホングを中心に流れ出したからだ。高濃度の魔素は低魔力の魔物が取り込めばその肉体を壊し、死に至るらしい。死体すらも残らず灰になって。元々魔素が大量に使われ、大地が息をする程の物は無く荒廃していったそうだ。しかし皇魔はそれとは正反対に魔素を溢れさせた。どっちにしろ人界等の地域外には魔素が極端に薄れているか過剰にまであるというこの星の生物にとってはとても生きていけない環境だ。


 このまま時がすぎれば高濃度の魔素はルナポロ全体を覆い皇魔以外の魔物は生きられないらしい。




 神々の争いによって皇魔神以外の神は封印され、徐々に皇魔の手はそれぞれの世界に手を伸ばし始めた。




 しかし人魔神はただ封印されるだけには終わらなかった。消える間際に七星の魔女との戦いによって消え掛けた勇者達を救う為に地球へと送り込んでおり、今再び人魔に危機が訪れ召喚したとの事。


 そしてその地球に送り込まれたのが他の生徒は分からないが確実にクラスカースト最上位の奴等であり俺はそれに巻き込まれ、このルナポロと言う別の世界の地球に召喚された。




 そしてアルベールは言った。俺達に皇魔からこの星を救って欲しいと。




 巫山戯んな。そう思った。普通に生きていたと言うのにどうしてそんな事になるんだよ。




「何言ってんだアンタ!俺達にはあんた達の事とは何も関係無いよ!俺達を元の世界に帰せよ!」


「そうよ!こんな訳の分からない事に巻き込んでおいて戦争って何考えてんのよ!」


「第一俺達はただの高校生何だぞ!そこの神代達はそうじゃねぇかもしれねぇけど少なくとも俺達に戦う理由なんてねぇんだよ!」


「いいから私達を地球に帰して!戦争やるってんならアンタ達だけでやりなさいよ!」


「そうだそうだ!ルナポロとか言う場所に移せたんなら元の世界に帰らせられるだろ!」




 神代一行や姿が見えていない俺と焔を除いたクラスメイト達が不満の声をアルベールにぶつける。


 知りもしない場所で勝手に自滅しあった奴等の尻拭いを、戦争と言う形でしなければならない。この世界において全ての生物は大なり小なり他者を殺せる手段を持っている。そんな世界、さらには戦いの渦中に入り込めと言うのだ。冗談ではない。何の見返りがあった訳でもないに命を賭けたボランティアをしろと。


 不満の声が出て当然だ、アルベールや神代の言ってる事はそういう事だ。




「勇者様方それは不可能であります。勇者様方を呼んだ人魔神様は既に封印された身。その御姿も御声も確認する事は出来ませぬ。平行宇宙における勇者様方のルナポロに返す魔法……魔術は御座いません」




 再び生徒達がどよめき出す。薄々勘付いてはいた。『封印』、といった物がどんな形であるかは分からないが人魔神とやらにそれだけの力があるとは思えない。




 今すぐ発狂したいがそんな事をしたって無駄に感じてしまう。発狂なんかしてアイツは喜んだりしない。そう言えば何でアイツは化物が来るって分かったんだろう?




「皆聞いてくれ!」




 神代は立ち上がりバンッとテーブルを叩く。その場に居た生徒達が神代を見やる。絶望的な表情をする彼等に対して、彼は希望に満ち溢れた顔をしていた。




「確かに今の君達は関係無いかもしれないけど………………。いや、今まで黙っていたけど俺達はこの世界に居た勇者なんだ。此処に焔は居ないけど俺達だっていきなり地球に飛ばされて困惑した。皆の今の気持ちも分かる。でもこの世界に居る人魔、人間達は困って、苦しんでいるんだ。俺は全ての人魔を助けたい。だから皆の力を貸してほしい!人魔神様だって封印さえ無くなれば皆を帰してくれるかもしれない」


「えぇきっとルナポロを救った皆様方の願いを人魔神様も無碍にはしない筈です。勇者様方は人魔神様に選ばれた者。恐らく我等では到底立ち打ち出来ない力を持っておられる筈です。今一度私からも御願い申し上げます。どうか、どうか人界を救ってくださいませ」




 そう言ってアルベールは頭を下げる。神代の声もあってか生徒達はたじろぐ。囁かれた甘言、自分達は選ばれた存在であると言う特別感、引くに引けない状況。彼等の心を揺らすには十分過ぎた。




「そうだぜ!俺達ならやれるんだよ!」


「そうそう♪私達で世界を救っちゃおうよ!」


「ええ、我々が力を合わせれば可能です」


「……出来るもの私達なら……ニンニン」




 クラスカースト最上位の人達、神代のカリスマはそれによって完成してしまう。絶望に染まっていた生徒達は一転してやる気に満ち溢れた者へと変わる。




 ある者は涙を、ある者は拍手を、ある者は歓声を、ある者は憧憬を。現実から引き離す手は既に結ばれた。




 彼等の様子に俺は焦る。帰る方法が今の所それしか無いと言うのは分かるし、それ以外に手段は無い。しかし戦争に首を突っ込むの絶対に拙い。人魔神とやら本当に俺達は選ばれただけなのか?ただアイツラに巻き込まれただけなのではないのか?そんな都合の良い力なんてあるのか?




 疑念だけが俺の中に取り残されていく。今俺が為すべき事はなんだ?どうする事も今の俺には出来ない。




 今日はもう遅く、疲れているだろうからと個室に案内し始める。脳味噌にお花畑を抱えたままアルベールによって個人個人の部屋へと連れられていく。この部屋に残ったのは俺と焔だけ。




 思い浮かぶのは死んでしまった親友の顔。俺はヒデにこの命を救ってもらった。だから絶対に死ぬなんて嫌だ。そんな簡単に死んだら顔向け出来ねぇ。俺は決して後悔しない最高の人生を送らなきゃならないんだ。俺の人生は俺が決めて俺が生きる。それがアイツの望む事。




「おい」


「…………………」




 依然としてだんまりを決め込む焔。コイツも恐らく此方の世界の人間、いや人魔だったか。彼女には色々と聞きたい事があるのだが精神状態が良くならない。取り敢えずは休ませた方が良いだろう。時間は薬だ。時が経てば経つほど良くしてくれる物だから。




「失礼」


「ん……」




 赤く腫れた顔でただ頷く焔を背負ってこの部屋を後にする。




 訳も分からず親友は死に、知りもしない世界に飛ばされ帰れるか分からない現状。残った物は死んではならない、最高と言える人生を送るという使命感、




 そして何処からか送られてくる怨讐の視線。





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