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Ⅱ:龍ノ日常

不変なんて有りはしない。だって宇宙はそうやって廻るだろう?────■■■■■■ ■■■■■■■■

「んっ…………?」




 彼女が目覚めると同時に白黒の世界は元の色鮮やかな世界へと戻る。人の居なかった道は何時の間にか学生が現れ、多くの声が耳に入る。




「ぁれ……私は確か……って!」




 急に背中に衝撃が走りら重みはそれと同時に無くなる。振り向くと顔を真っ赤にした焔が長い茶髪を靡かせ指差している。




「何であんたが私を背負ってるのよ!」


「何でって言われたって焔が倒れてたんだから仕方無いだろう?」


「仕方無いってあんたねぇ……。病院に運ぶなり誰かに連絡するなりあったでしょう!」


「いや繋がんなかったし」


「繋がんなかって……」




 突然彼女は顔色を変えて考え読み始める。あの幻覚はやはり現実だったのだろうか。この事を周りに伝えても信じてもらえるかは分からないが。彼女が難しそうな顔をすると周囲を見渡しだす。するとはたまた一瞬にして綺麗な白色の肌は紅色に染まる。


 これだけ大声を出していれば周りの人間の目も惹くだろう。しかもあの有名?な焔 烈華が声を荒げているだから。




 焔 烈華。俺が通う真宝学校の最上位カースト?に所属すると噂で聞いている。成績優秀、運動神経抜群と絵に描いたような完璧超人。そんな奴らが数人居てクラスの中心に成っているのが俺のクラスに居る。正直カースト制度とか言われても世界史?位のイメージしか沸かない。




「……っ!と、兎に角放課後私の所に来て場所は……校舎裏!絶対に来なさいよ!」


「えぇ……嫌なんですけど」




「はぁ……あいつらとは扱いの仕方が違うせいで面倒ね……」




 こっそりと耳打ちしてくる彼女の言っていること内容に果たし状か何かか。後最後のはボソボソ言ってて聞こえ辛い。言いたい事があるならハッキリ言って欲しい。




 同じクラスなせいか嫌でも聞こえてくる彼女は学校だとファンクラブも出来る程優等生らしく穏やかな口調だが実際は違うらしい。何時もカースト最上位?の奴らのデカい声と一緒に混じってくる彼女の話し声とは大違いだ。まぁ何時もは何かぐにょぐにょとくねっていている、というか着飾ったみたいで気色悪いがさっきの様に真っ直ぐ言ってくれると何だか良い感じがする。




「ん……まぁ運んでくれてありがと」


「どう致しまして……てか身体大丈夫なの?さっきまでボロボロ、って治ってる?」


「うん、身体は大丈夫……」




 焔は思いついた様に口元に三日月を浮かべる。あまり話した事もない彼女が何を考え付いたのかサッパリだ。しかし変な世界や怪我の事についてはあまり言及してこない……。返答はあったもののあの世界や化物はやっぱり幻覚なのだろうか。




「ねぇねぇ、天野君何で私の身体の傷が治ったのか知りたくない?」


「知りたくないです興味ないです気色悪いです……」


「……気色悪いって、何かな天野君?」


「いや気色悪いは気色悪いだけだぜ」




 急に彼女の口調が荒いものから緩やかものに変わる。学校で偶に聴く優等生声、猫撫で声ってやつだろうか。いやはやマトモに聞くとやっぱり気色悪い。彼女には申し訳無いが。




「何よ何時も何時もドラゴンドラゴンドラゴンしか言わない夢見がちなボーイの癖してこっちの話には喰い付いてこないのかしら」




「…………」




 日頃から子供っぽい事ばかり言うからか釣れると思っていたらしい。ドラゴンに興味は死ぬ程有っても他の事は必要じゃない限り関心が沸かない。




 彼女がどうにかして俺に話を付けようと考えている。俺が何時も見る幻覚と彼女の居た世界は違うし、気になる点があるがどうにかなりそうでは無い。焔はボロボロに成った結果倒れてしまったし、知った所で、だ。




 彼女と並んで二人で歩いていると教室の扉の前。朝から濃い事があって精神的に若干疲れた。




「おはよー」


「おはよ」




 いつもよりかは遅い時間で教室に入る。すると五人が俺、いや焔の前に駆け寄った。そしてついでと言わんばかりに俺を責める様な視線がチラホラ向けて見える。友人曰く子供っぽい俺はクラスに馴染めず浮いており価値観が合わずある種の、俺からすれば敵意だが団結の楔との事。何かをした覚えは無いしクラスは30人だがそもそも話した事がある人間が少ない上まだ名前もマトモに覚えられていない。片手の指で数えられると思う。




「大丈夫か烈華!?お前の"アレ"が無くなってたみたいだったが!?」


「それにアレは倒せたのかよ?あ、後天野と一緒に居たのはどうしてなんだよ!詳しく教えてくれ!俺、お前の事が心配なんだよ!」


「後々天野と一緒来たのは何なの!?」


「もしかして天野はやっぱり……」


「……どうする?……でニンニン」




 焔の眼の前にやってきた五人。いきなりの質問責めに思考する男女。他にも周りのクラスメイトがざわざわと視線を彼らに向ける。クラスカースト最上位?のメンバーがやってくるなり友人から聞いた話を思い出す。




 最初に口を出してきたのは確かクラス委員長で焔と同じく成績優秀、運動神経抜群で友人曰くイケメンでファンクラブなる物が作られている黒髪の青年、神代 勇人。




 誰にでも別け隔てなく優しいのが長所で困った人は放っておけない性分との事。正義感が強く曲がった事が苦手らしい。友人が絶対に手が届かない領域に居る人間、クラスカースト最上位のトップでありリーダー。何時も誰か、特に今集まっている人と居て一人で居る所は見た事が無いらしい。友人曰く時々焔に突っかかっているとの事。




 何時もはクラスを引っ張って爽やかオーラを出しているらしいが今日は焔を見るなり焦っている様子。




 しかし彼は時々自分の事を神に選ばれた勇者と意味の分からない事を言い始める。それも割と大きな声で言うので嫌でも聞こえるし、学校で最も有名人?なので何かしらの噂が絶えない。




 周りは特にこの発言に違和感を感じていないらしく誰か疑問を抱く、と言うよりかは認めているのだろう。




「おはよヒデ」


「おはよじゃねぇよリュウ」


「何で?」




 視線を友人の席に移しつつ自身の席に座って教科書やら必要な物を取り出す。後ろに座った俺の方へ向き、怪しむ様な顔を向ける。


 今目の前でやるせない表情をしている金髪の少年、雲寺英樹が頬杖をついて話し掛ける。




 彼が俺の唯一であり初めての友人である。焔の言う事を鵜呑みにするならば常日頃からドラゴンドラゴンばかり言って夢見がちなボーイである俺とマトモに接してくれる人間。そして彼もまた、クラスの中で浮いている俺と関わるだけあって浮いていた。


 類は友を呼ぶ、とでも言えばいいのだろうか。まだ高校一年の夏だが始業式の時から友人になった。彼は情報通なのか何でも知ってるし、後雑学も教えてくれる。しかし学校生活にうつつを抜かしているのか成績はまぁ、あまり良くないといった所。何だかんだ言って頼り甲斐があって頼られ甲斐のある友達である。


 そしてその友達が今ジト目で俺の顔を覗き込む。




「な~んであのクールキャラで一匹狼の焔とお前が一緒に登校してきたんだ?まさかお前、焔とデキてんのか!?」


「頭大丈夫?焔とマトモに話したの今朝が初めてだよ」


「じゃあじゃあアイツラが珍しくあんな必死に問い詰めたりしてんのは何なんだよ?」


「知るか」




 ヒデの疑問を一蹴し、彼と共に今も尚焔に話し掛けている五人と呆れている焔に顔を向ける。




「金剛鋼太郎のあの言い様、間違いねぇぜ。あいつぁぜってぇ焔の事好きだぜリュウ」


「そ」


「って興味無しかよ!」


「いやだって興味ないし」


「何でだよ!他人の色恋沙汰程心が躍って滾って愉しくなるこたぁねぇだろリュウ!」


「ふわぁ〜」




 他人の色恋沙汰の愉快さについて熱烈に語るヒデに欠伸で返して、彼の話題の渦中に居るであろう、確か金剛鋼太郎?だったかを見る。神代の次に焔に迫った、大きく引き締まった体格の男。


 運動神経は二人以上でありこの学校スポーツマン。誰かがこの学校で一番運動出来ますかと聞かれたら百人中百人が彼と返すらしい。ヒデが調べた所実際にそうなのだと言うのだからそうなのだろう。後時折自分の事を鉄壁の騎士と自称するそうだ。




 前々から彼が焔の事が好きだと言う事は噂になっていたらしいが今の迫り方や発言からして事実なのは間違い無いとヒデは確信めいている。これで焔のファンクラブを焚き付ける良いネタが出来たぜと、ぐへへと黒い笑みをヒデは浮かべる。クラスで浮いていても学校の中で見ればツテが多いヒデの事だから色々と面白い事を仕出かしそう。




「おぅおぅ鈴野の方もキリキリしてんなぁ〜!」




 それそろ彼らの痴話喧嘩を見るのも聞くのも飽きてきたのでノートを開いてドラゴンを描き始めるがヒデは物足りないらしい。




 ヒデが次に顔を向けたのはリボンで結ったツインテールの少女、鈴野響子。ヒデ曰く快活で一番元気があって良い意味でも悪い意味でも裏表が無いらしい。


 誰とでも仲良く成れる、と彼女もまた学校で人気らしいがヒデは俺の事を目の敵にしているとの事。の挙句、俺の悪い噂を流し込んでいるそうな。俺が嫌いと言う点でも矢張り裏表が無い。実害も無いので何かしようとは思わなかった。




 お前何やらかしたの?と聞かれたが何も知らんし分からんし話した事も無い。此方も同じく自称巫女らしい。尚実家は別に神様とかは関係ない。




「丸井は……別に何も無いか。何だつまらん」




 ヒデから興味無し判定をされてしまった丸眼鏡を掛けた少年、丸井 目金。頭脳明晰で勉強の事で何時も皆から頼られているらしい。




 それだけである。ヒデ曰く頭は回るけど変な所でドジは起こすし噂も特に無い、無個性が個性?なんじゃない、だそうだ。しかし彼もまた俺を時折睨んでくるそうな。彼もまた自称賢者との事。




「あいも変わらず影蔵 幻は何処から出てくるんだろうな」




 影蔵 幻。取って付けたようにニンニンと語尾をした長い黒髪の赤目の少女。神出鬼没とでも言うべきか、彼女は居なかった筈の場所に突然現れるのだ。影の中に潜んでいるとしか思えない。口数が少なく、ヒデも彼女の事はよく分からないらしい。


 しかしクラスカーストに居座っている事は確かだ。彼女の噂等は一切無いらしい。カーストの上位には居るが他の人間との詳しい関係はあまり聞かない。


 彼女もまた自称暗殺者だったがある時期から忍者に変わったらしい。ヒデ曰く放課後は忍者の格好をした彼女が見られるとか何とか。




「こうして見ると俺含めて何処か変人多いな」


「かもな……ってそれ俺も入ってるのか!?」


「いやだって他人の事を人一倍知ってる位の変態だし」


「変態って……お前なぁ……」




「あはは、皆朝から元気一杯だね。詳しい事は後で話すから〜」


「あ、天野は何で居たんだよ!?」


「それも後で話すから席に戻ろうね金剛君。もう時間だよ〜」


「……分かったよ」




 中々退かない金剛に対して鬱陶しそうな顔をしながらも優等生として返す焔。強めに言われたせいか金剛は体格に似合わずオドオドと自分の席に帰っていく。


 その様子に他の四人も自分の席へ戻りチラチラと視線を焔に、鈴野は俺に敵意か殺意的な視線を向ける。ヒデは相変わらずニヤニヤと気持ちの良い笑みを浮かべていた。




「出来た」


「何が?……またか……。よく飽きねぇな」




 焔達が何やら話している間に俺はノートに描いていたものを完成させる。その様子にヒデは俺のノートを覗き込み、呆れた顔をした。


 何本も生えた角、長い首、巨大な身体に大きく羽ばたかれた翼、鞭の様に撓っている尻尾、全身を覆う尖った鱗。


 俺がノートに描いていたのは紛れも無く西洋のドラゴン。もう何度目にもなるドラゴンの絵に俺は興奮し、それを見たヒデもまた何度したか分からない呆れ顔をしていた。




「だってだってカッコイイじゃんドラゴン。何度描いたって飽きやしない」


「ほらそんな事言ってるとまた……」




 恍惚とした表情をしているだろう俺にヒデはクイクイと首を何処かへと向けていた。そこに有ったのは物凄い眼力で睨んでくるクラスカースト最上位の人達だった。これも何度目になるのだろうか。毎度毎度俺がドラゴンと口に出すと必ずと言っていいほどに睨むなり口出すなりしてくるのだ。


 何がそんなにいけないのだろうか。具体的に何が駄目なのかは言ってくれない。ただ気に入らないと言うだけで一々ちょっかいを出すなら止めてほしい……。




「知るか。一々気にしたってしょーがねーもん。大体入学してから何度目だ、このやり取り?」


「ったってお前の学校の地位や噂が悪くなる一方だぜ?」


「実害無いし知ったこっちゃねーや。学校の地位とやらも役に立っても迷惑にもなってないし」


「はぁ……俺お前の将来が心配だぜリュウ」


「俺はヒデの頭脳的な意味で将来が心配だよ」


「うぐっ……ま、まぁお前に教えてもらえば点数はそれなりに取れるしな!」


「ちゃんと自分でもやれる様にしなよ?部活に入ってる訳でも無いし、他にもやってる事も無いんだから時間はたっぶりあるでしょ」




 頭に金槌を打たれたように凹み始めるヒデ。そんな彼を尻目にノートのページを捲ってまた新しくドラゴンを描こうとし始めると担任がやって来た。ホームルームが始まるのでコソコソとノートを仕舞う。敵意と言うか殺意と言うか変に粘った視線を向けた五人は何も無かったように爽やか顔で前を見る。




 何の因果でこんな人達と同じクラスになってしまったのか、知っている人が居るならば教えて欲しい。感謝するのはヒデと同じクラスになった事だけ。俺はただ伸び伸びと自分の事がしたいだけだ。


 高校生になって一日が過ぎる時間が速くなった様な気がしたけどやっぱり一年っているのは長いかもしれない。

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