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プロローグ:龍始又は生まれ、龍は笑う





運命っていうのは決して打ち砕けない物なんだぜ。俺達が『勝つ』って言う運命みたいにな─────龍者ドラゴノイド








 ドボドボと滝の様に流れ落ちる紅い液体。その源は紛れも無く俺の体だ。あった筈の腹は既に無くなり、見た事も無かった自分の内臓が生生しくその姿を顕にする。




「ハァ……ハァ!」




 あり得る筈のない光景に俺は息を荒げる。何故俺がこんな事になっていると言うんだ!勇者を滅ぼして至高なる存在へとなる筈がどうして俺が地についているんだ!




 可笑しいじゃないか!相手は魔力も無い唯のゴミだ!だと言うのに膨大な魔力を誇る俺が負ける筈等有り得ない!




「ァァ…………」




 本来地に伏すべきであるゴミが呻き声を上げる。目の前に居るのは魔力ゼロのゴミである唯の人魔じんま、にも関わらずその半身は余りにも歪。




 体の半分を白い鱗の様な物で覆い、見た事の無い形をした翼を右半身からはためかせ、腰からは太く長大な尾を揺らめかせていた。




「何なんだよぉ!何なんだよぉお前はぁ!」




 人魔でも天魔てんまでも冥魔めいま、ましてや皇魔でも無い男は冷徹な瞳で俺を見やる。黄緑色に輝く縦長の瞳孔はその歪さも相まって俺を恐怖の底に落とす。




 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。こんな所で!




 憐れに涙を流す俺に化物は首からゴキリと音を鳴らす。月明かりに照らされた右腕の爪は妖しく輝く。俺の腹を抉った忌々しき右腕。此処で死ぬ位ならばせめて奴の右腕を奪わなければ気が済まん!




 そう覚悟していると、また男の首がゴキリと音を立てる。




「俺が何なんだ、だっけ。少なくともお前等が言う人魔じゃなくて人間だよ」




「何だ人間というのは!お前のその姿は何なんだ!」




 一歩また一歩、化物は俺を殺そうと迫りくる。その歪な鱗をまた一枚また一枚と生やしながら。




 両腕両足は捥がれ、翼は既に折られている。圧倒出来るだけ魔力ももう無い。逃げる術はとうに失われていた。




「お前、俺を殺そうとしたよな?満足する様な人生を送らなきゃいけない俺を」




「ヒィ!な、それが何だと言うのだ!この世界では命等奪われて当然だろうが!」




「そっか。だったら俺はお前を殺さなきゃいけない。俺の人生にお前の様な不条理なんて要らない」




「や、やめろ……。ヤメロヤメロヤメロヤメロォォォ!」




◆◆◆◆◆




 泣き喚く男の頭を、右半身が白く刺々しい鱗に覆われた青年が容赦無く貫き、男の首から上を跡形もなく握り潰す。始まりは壮大であろうとも、命の終焉は余りにも呆気ない物だった。




 男を殺した青年は憐れみの目でたった今死んだ者の死体を見る。五体欠損、折れた蝙蝠の様な翼を生やした人体の姿。腹の表面は消え去り今もまだ血を吐き出し続ける。




 地球に居る人類とは全く違う知的生命体。この星では彼等を冥魔と言う。




 青年に殺された冥魔は傲慢であり、愚かであった。彼は手を出す相手を見事に間違えたのだ。自分と相手の力量差を計れず、己の魔力が絶対だと信じた末路。




「ふぅー」




 冥魔を殺した青年から鱗は次々に姿を消していく。まるで無かったかのように青年の半身は人間の物へと還る。決定的に歪だった翼も尾も消え去り、瞳を茶色い物へと戻る。






 赤色の羽織を着た茶髪の青年は終わったという事実に安堵し重くなった腰を下ろす。




 その様を見ていた女性は何処からともなく現れ、青年に寄り添い、その首に手をまわす。




 青年に纏わり付く女性の服は余りにも変わっていた。左半身には軽装を、右半身にはドレスという絶対に見ないであろう服装。白く美しい髪は長く、夜風に浴びている。




「良くやったね。流石はドラゴだ。また一歩進化したね」




 疲れ果て意識を朦朧とする青年に囁く白髮の女性。当の本人は全く耳にはしていなかった。




 女性は嗤う。何よりも大切で、この宇宙そらで最も愛おしい青年を抱いて。




 そんな彼等を満月は淡く照らしていた。

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