九十五話 七年間
「その部屋には屋根裏部屋へと続く階段があった。俺達はゆっくりとそこを登りきると、あったんだ。賢者の石が。おあつらえ向きに、ショーケースに大事に保管されていたよ。きっと、誰にも触れて欲しくは無かったんだろう」
「……そうなのです。触れて欲しくは無かったのです……私が魔力障壁を展開するのを怠ったせいで……いえ、こんな物、直ぐに破壊しておけば、クラリッサは……」
……触れたのか、クラリッサが。
「……俺達も愚かだったよ。危険な物とは知らずに、何かの手がかりになるんじゃないかと思い、近くにあった埃まみれの椅子でショーケースを破壊した。そして、察しの通り、クラリッサがその石に触れた。その瞬間、例の爆発が起こった。死んだと思った。だが、生きていた。クラリッサの目と、足を引き換えにな……」
「……あの時、石に触れた私は咄嗟に、死にたくない、そう願いました。そして、叶いました。目と、足を引き換えに……」
「気が付いた時、俺達は村から少し離れた森の中にいた。きっと、石の力で、その森まで飛ばされたんだろう。昼に教会に忍び込んだ筈が、空は真っ暗だった。数時間気を失っていた。隣には……歩けない、目の見えないクラリッサが横たわっていた……」
……二人が生き残ったまでは良いが、クラリッサは石の力で……。
「それから俺達は、何故生き残ったのか、あの後村がどうなったか、あの時何が起きたのか、何も分からないまま、村にやっとの思いで戻った。村の光景を見て、唖然としたよ。だって、ずっと暮らして来た村が、丸ごと無くなってたんだからな……」
「ルカ……クラリッサ……それからどうなった?」
「ここからはまた、バトンタッチするよ」
ルカはアリス・ガルシアに目線を送る。
「……私は爆発が起こる直前、あの人の魔法で半は無理矢理に村郊外へと脱出させられました……そこで私は、何故ドラゴンを覚醒させたのか、と問いただしたのです。答えなければ私は創世の騎士団を抜け、全てを明るみにすると言ったのです。それを彼が当然許す訳も無く、私は魔法で眠らされ、目が覚めた時には創世の騎士団の本拠地に居ました。目が覚めた私の前には、トリスメギスが立っていたのです。そして、彼は私にあの様な事をまた言い出したら殺す、そう言う風な事を告げたのです……その脅しに屈し、私はそれを諦めたのです……でも、もうそこには居たくはありませんでした……だから、私は暫く、創世の騎士団を離れると言ったのです。トリスメギスはそれを許可する代わりに、これからも創世の騎士団の目的に協力して貰う、その条件を突き付けたのです。私はその条件を飲んだのです。本拠地を出て、行く宛ての無い私は、まだ村に生き残った人は居ないかと思い立ち、ラリデルク村へと戻りました。そこで、二人を見つけたのです」
それが、三人の七年間の始まりだったのか……。
「こいつならクラリッサの体を治す事が出来る。その言葉を鵜呑みにして今の今まで、こいつに付いてきた。だが、見ての通り今でも治らなかった。治療法が見い出せないアリスは、賢者の石を使い、クラリッサの体を治そうとした」
「でも、それを私が止めたんです。人工遺物のせいで、もう誰かが傷付くのは見たくないから……例え、家族の仇でも……」
……全く、クラリッサは昔から変わってない。
超が付く程のお人好しだ。
「最初は罪滅ぼしのつもりだったのです。でも、そんなクラリッサの言葉で、私は何としてでも、救ってあげたい、そう思う様になったのです……」
……そうか、だからこいつらは一緒に居たのか……。
「ルカが怪盗として、人工遺物を盗み始めたのは私の為なのです。トリスメギスが、必要な人工遺物を手に入れろと、指示を出されたのですが、その人工遺物は既に帝国の手に渡っていたので、仕方なく自ら言い出したルカに……」
「お前が治さなければ、一生クラリッサはこのままだ。死なれては困るからな」
ルカは小さく笑いながら、そう言った。
「まぁ、そんな事があって、今はここに隠れ家を作り、活動していると言う訳だ」
「……なんと言うか、想像を絶する話だった……あんた達の人生。俺の過去が霞むくらいだ」
……こんな話を聞かされた自分は、どうすれば良いんだ……何が正解なんだ……俺はこいつを……。
「その話も気になるが……少し休憩しよう。話し疲れた」
「そうですね……あ、私、お茶入れてきますね!」
ティアは誰の返事も待たずに、台所へと小走りで向かう。




