九十一話 アグレ・サリヴァンの過去 二
……周りの反対を押し切り、行先も無く飛び出した自分は冒険者となった。
昔は、帝国、王国で冒険者になるには、王都にある冒険者ギルド本部での、面倒な住所等の個人情報の登録が必要だった。
だが、ギルドが衰退し始めたここ数十年は、そう言う面倒な登録が一切必要無くなった。
理由は依頼を受けてくれる人を増やす為。敷居を低くし、気軽に依頼を受けれる様にする。
その策略が功を期し、今でも冒険者ギルドは何とか経営を回している。
行く宛てが無かった自分は、それに目を付け、冒険者になろうと決めたのだ。
冒険者になった自分は、依頼を受けてその日その日を食い繋いでは、帝国中を放浪していた。
そんな生活が約2年続き、剣の腕も上達してきたある日、調子に乗って、何時も受けている依頼よりも、危険度の高い、魔獣の討伐依頼を受けた。それが全ての始まりだった。
結果から言うと、惨敗。自分は魔獣にこっ酷く敗北し、死にかけた。
魔獣の隙をつき、逃げようとしたが、途中で魔獣から受けた怪我が悪化し、倒れ込んでしまう。
その間にも、死へと誘う魔の手は迫って来ている。正に絶体絶命の状態だった。
その時だ、奴が現れたのは。
怪我の痛みで遠退く意識の中、魔獣の断末魔を聞いた。先程の魔獣の断末魔を。
余力を振り絞ってそっちを見ると、そこには鉄の鎧を全身に纏った、人ではない何かが、かなりの重量がありそうな大剣で、あの手強く、到底叶わないと思っていた魔獣を一刀両断にしていた。
助けてくれたのか、その考えが頭に浮かんできたが、安心する事は出来なかった。何せ、得体の知れない物が、魔獣の血で赤く染っている剣を構えて、こちらを見据えていたのだから。
だが、その時の自分にはそんな考えは不要だった。
『――ふぅ、間一髪だったのです』
そう言って、一つの人影が瀕死で倒れている自分に近付いてくる。
その人物と言うのが、今ここに居る、狂科学者、アリス・ガルシアだ。
この時が、憎きこいつとの初めての出会いだった。
『安心するのです。傷は酷いですが、まだ助かるのです! ルスール、この人を村まで運ぶのです!』
アリスは、その鎧を纏った物をルスールとそう呼ぶと、それが自分の体を、そっと抱え上げる。
そこで自分の意識は途切た。
鉄の鎧纏った物、ルスールの正体は、一連の出来事が終わる、最後まで、何かは分からなかったが、後からエレナに聞いて、判明した。
前西暦時代の人工遺物の1種で、傀儡と言う。
魔力を注ぎ込む事で稼働する。自我は無く、こちらが命令を下す事で、動く。言わば操り人形だ。
アリス・ガルシアがどうやって、傀儡を手に入れたのか、その疑問はまだはっきりはしていない。
エレナが言うには、遺跡からまだ稼働する傀儡を持ってきたのだろうとの事。自分はそうは思っていないが……。
……話を戻すと、次に自分が意識を取り戻したのは、あのラリデルク村、そこの教会のベッドだった。
傷の手当ては既にされており、少し痛むが体は動かせる状態にまで、回復していた。
『あ! 目が覚めたのですね!』
その声と共に部屋の扉が開かれ、アリス・ガルシアが中に入ってきて、眠っていた間の経緯と、ここは何処なのか、こいつが誰なのかを教えてくれた。
こいつが自分の傷を手当してくれた事。ここはラリデルク村のこいつが管理を任されている教会。
ついでに、何故あの状況でこいつが、アリス・ガルシアが現れたのかの理由も教えてくれた。
最近、この付近で凶暴な魔獣が出たとの情報があり、討伐に来たらしい。
こんな子供が? そう思ったがその時は、あのかの有名な国家魔法師も子供の姿だが、魔法で本当の姿を隠しているので、それと一緒の様な物かと、あまり深くは考えなかった。
だが、そんな魔法を使えるなら、こいつは、彼女クラスの魔女、そう尊敬の念はあった。その時は。
アリス・ガルシアの話が終わると、次はあっちが自分について聞いてきた。
何故、あの魔獣と戦っていたのか、と。
自分は今までの出来事を話した。きっと誰かに話したかったんだろう。話して楽になる為に。
『そうなのですか……』
アリス・ガルシアは、親身になって話を聞いてくれた。
そして次の瞬間、思いがけない言葉が発せられた。
『だったら、ここに住めば良いのです! この教会に! 部屋はいっぱい余ってますから、一部屋くらいお易い御用なのです!』
その言葉を聞いた直後は信じられなかった。見ず知らずの奴を、こんな嘘か本当か分からない話を信じて、住む場所を提供してくれるなんて。
少し悩んだが、自分はその提案を有難く受け入れる事にした。
本当に感謝した。この憎きアリス・ガルシアの腹の中を知ろうともせずに……。
◇◇◇
「……ふむ。それでその村に住み始めたお前は、そこの二人と知り合ったのだな」
「ああ、そこのルカ・ヘイズ、クラリッサ・ヘイズの兄妹にな」
「だが、今のところ、そこの、アリス・ガルシア、だったか? そいつを恨む理由は見当たらないな。寧ろあんたにとっては、感謝されるべき人だろう」
「ここから、良くない方向へと、変わって行くんですかね……」
「そう言う事なのだろう……さぁ、アグレ、続きを話してくれ」
ステラにそう言われ、更に話を続ける……。




