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探偵の異世界生活  作者: わふ
第二部 創世始動編
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八十九話 アリス・ガルシア

 

「か、隠れ家? ……見た所、ただの平原の様だが……」


 ゼノの言う通り、ここにあるのは澄み切った空に、真っ平らな緑の平原。一体何処が隠れ家なのだろうか……。


「それに、俺達は王都に居た筈……こんな場所、王都内には無い……俺達に何をやったんだ……?」

「まぁ、落ち着きたまえ、探偵君。それは追追説明するとして、今は落ち着ける場所に行こうではないか」

「落ち着ける場所? そんな場所一体何処に――」

「待て、向こうに何かあるぞ」


 ゼノの言葉を遮って、ステラが草原の彼方を指さす。

 彼女が指さした方向を、目を眇めて見ると、確かに小さく見える家らしき物があった。


「……まさか、あそこなのか?」

「そうよ、さっさと行きましょ。ったく、何でわざわざ、転移先から離れた場所に、家を作ったのやら……」


 転移先……作った……か。


「万が一、敵がこの場所へ転移してきた時の防衛戦だと言っていたぞ。少しでも時間を稼げるようにと……さあ、客人よ、案内しよう」


 自分達はアルセーヌに案内され、十分掛けて家の前へと到着した。

 家は木造で山に佇む様な、テラス付きの二階建ての家だった。


「少し待て」


 アルセーヌは自分達を待たせて、玄関の扉前に立つ。


「――ラメデル・エリク」


 彼がそう言うと、扉がガチャっと音を立てる。


「……合言葉さ。先程も言った通り、何時、敵が襲ってくるか分からないからな」


 自分達が、不審げにそれを見ていると、言い訳の様にそう言った。


「……なるほどな。簡単には攻めさせないと言う訳か」

「そんな事どうでもいいから、退きなさいよ」


 ヒスイはアルセーヌを払い除けて、家の中に入る。


「彼女は少々気が立っていてな……無理矢理駆り出したせいで」

「人形だと新聞記事で知ってはいたが、中々感情豊なんだな……」

「ああ、人形の癖にな。一時ではあるが、共に戦った時もあんな感じだった」

「一緒に戦った? 貴様とは初対面な筈だが……」

「……ふふ、やはり、怪盗の貴様でも気付かないか……どうやら、私には変装の才能がある様だな。ふふふ……」


 ステラはアルセーヌを揶揄う様に笑う。


「……そうか、そう言う事か。なるほど、確かに貴様には、変装の才能があるな……一ヶ月振りか、雷帝」

「やっと分かったか。案外、怪盗アルセーヌも大した者では無い様だな」

「ふ、なら、今からでも1戦交えるか?」

「望む所だ」


 おいおい、何ドンパチ始めようとしてるんだ……。


「ならば――」

「何してんのよ、あんた達! 早く入りなさい!」


 中々、中に入って来ない自分達に痺れを切らせたヒスイが、玄関から顔を覗かせ、怒鳴る。


「……ふむ、どうやら、今は辞めておいた方がいいみたいだな……」

「……そうだな、だが、雷帝、貴様とはいつか1戦交えてみたい」

「ああ、何時でも相手になろう」


 そして、何故か2人は意気投合して、家の中へと入っていく。


「な、何だったんだ、今のは?」

「さぁな。血の気が多い奴らの考えは良く分からん」

「魔獣狩り、なんて異名を付けられているあんたには、言われたくないと思うが」


 ……何か言われた気がするが、それはさておき、自分とゼノも家の中に入る。

 中はテーブルや台所、二階に続く階段、他の部屋に繋がる扉が視線に入った。

 一見普通の家の様だ。


「今戻った」


 アルセーヌが家中に響く声でそう言うと、右の部屋の扉が開く。


「あ、おかえりなさい!」


 元気な声でそう言いながら、自分達の目の前に出てきたのは、赤色でウェーブパーマがかかった長い髪の、ノーラくらいの歳の娘だった。


「紹介する、こいつはここの居候、ティア・ネイピアだ」

「ティア・ネイピアです! よろしくお願いします!」


 ティアと名乗る少女は、元気良く挨拶をする。


「……で、この男が昨日言っていた男、アグレ・サリヴァンだ。そして、その連れのゼノ・サンチェス、ステラ・ロペスの二人だ」

「あ! じゃあ、貴方が魔獣狩りの……そ、それに、さっき、ステラ・ロペスって……」


 ……何処に行っても、その異名を突き付けられるのは、勘弁して欲しい。


「……おい、怪盗。この子、どうしたんだ? まさか、誘拐してきんじゃないだろうな?」


 ゼノはアルセーヌを睨みつける。


「誤解する様な事を……と、言いたいが、当たらずとも遠からず、か」

「そうねぇ、あれはもう、誘拐って言っていいレベルじゃない?」

「な、何だと!?」


 二人の意外な反応に、狼狽えるゼノ。


「……どう言う事か説明して貰おうか、怪盗アルセーヌ。人工遺物(アーティファクト)だけでは、気が済まぬと言うのか!」


 ステラは怒って、アルセーヌに掴みかかろうとする。


「あーもう! 話は最後まで聞きなさい!」


 それを間に入って、止めるヒスイ。


「ちょっと複雑な理由があるのよ!

「理由だと!? どんな理由でこんな歳頃の娘を誘拐するんだ!」

「だから――」


 ステラの怒りの矛先は、アルセーヌではなく、ヒスイに向く。


「おい、居候。あの二人の喧嘩を止めろ」

「む、無理ですよ、私なんかに……アルセーヌさんが止めてくださいよ」

「面倒だ。それに、こう言うのは居候の仕事だろう。それより――」


 アルセーヌはそれを無視して、話を進める。

 そんな冷静な彼を見て、自分は止めようか止めないべきか、悩んでいた。


「アルセーヌさん! さっきから、私の事、居候、居候、言ってますけど、ちゃんとしたここの住人なんですよ! 何せ、私は、ここの主の錬金術、アリス・ガルシアさんの公認の弟子なんですから!」


 !! アリス・ガルシア……!


「ふん、我はあいつをここの主等と――」

「ちょっと待て!」


 自分が大声を出すと、部屋が静まりかえる。


「おい! ティア・ネイピアとか言ったな!?」


 そして、ティアの肩に掴みかかる。


「え、は、はい」

「今、お前、アリス・ガルシア、その名前を口にしたのか!?」

「そ、そうですけど……」


 アリス・ガルシア……こんな所で奴の名前を……まさかこいつの協力者と言うのは……。


「! さっき、ここの主と言ったな!? 奴は今何処にいる!? 答えろ!?」

「え……ちょ、痛っ……」

「おい! いきなりどうしたんだ!? 落ち着け!」

「……っ……」


 ゼノに肩を掴まれ、我に返る。

 ティアは顔を顰めて、痛がっていた。どうやら相当強く、肩を握っていた様だ。

 自分は咄嗟に手を離す。


「わ、悪い……」

「い、いえ……」


 ティアは顔を逸らす。


「……いきなり取り乱してどうしたんだ? アリス・ガルシア、その名前がどうかしたのか?」

「い、いや……」


 ゼノの問いに、言葉を濁す。


「…………ふむ、アグレ・サリヴァン、一つ聞きたい事がある」


 アルセーヌがそう聞いてくるが、自分は何も言葉を発さない。

 アリス・ガルシア、その名前を聞いた衝撃で、今は何も話す気にはなれない……。

 ……だが、次の一言で自分の気持ちは変わる。


「貴様は、ラリデルク村の悲劇、それに関係しているのか?」

「……! 何故、ラリデルク村、その名前がピンポイントで、出てくる……?」


 アルセーヌは何も言わずに、二階へと続く階段の元に歩いていく。


「それは、ついてくれば分かる」


 ……ついてくれば分かる、それはつまり……。


「……分かった、案内しろ。この問いの答えに」

「ふ……ああ。全て説明する」


 自分はアルセーヌについて行こうとする。


「待て! どういう事か説明しろ! アグレ!」


 ゼノに呼び止められる。


「説明して欲しいなら、あいつについて行く事ね。あんたの知りたい事、全部教えてくれるわ」

「……そうだな。ゼノ、ここは大人しくついて行こう」

「……腑に落ちないが……分かった」


 ゼノはステラとヒスイに諭され、2人と共に此方へ来る。


「ティア、貴様も来い。奴の弟子として、ここに居るつもりならな」

「は、はい」


 そして、ティアはアルセーヌに諭され、結局、全員で2階に行く事になった。


「ここだ」


 アルセーヌは二階の奥の部屋の前で立ち止まり、軽くノックをする。


「我だ。今戻った。ここを開けろ」

「はーい! ちょっと待ってくださいなのです!」


 この声……!

 自分はここで確信した。自分が知っているアリス・ガルシアが、ティアやアルセーヌの言う、アリス・ガルシアなのだと。

 少しして、扉が勢い良く開かれる。


「お待たせなのです!」


 ……中なら出てきたのは、自分が知っているアリス・ガルシアだった。


「こ、子供……? 怪盗、この子もまた誘拐したのか?」

「ああそうだ、と言ってやりたいが、これは違う。逆にこっち側が被害者みたいなものだ」


 そう、見た目は子供。

 身長は百四十センチ程。床を摩っている茶色の長い髪。ダボダボの白衣を身に着け、それもまた床を摩っている。

 顔は童顔で、可愛らしい声。外見は、一切悪意の無さそうな子供。

 だが……こいつは……!


「あ、連れて来てくれたのですか? 昨日、転移魔法陣前で戦ってた人を――」


 自分は一歩前に出る。アリス・ガルシアの前に。


「……え?」

「久しぶりだな。アリス・ガルシア……いや、創世の騎士団、序列五位、(マッド)科学者(サイエンティスト)アリス・ガルシア!」


 自分は太刀を引き抜く。


「お、おい!」

「な、何故、貴方が……あの時、死んだ筈ではないのですか!?」

「生きている。今こうして。お前を殺すと誓った、7年前のあの日からずっとな……!」

「ひぃぃ!」


 太刀を振るがアリス・ガルシアはそれを避ける。

 そして、部屋の中へと逃げ込む。

 自分もそれを追って、部屋の中に入る。

 部屋の中は機械や、錬金術の道具で溢れかえっていた。

 左にはカーテンが掛かっていたが、奥にまだ部屋が続いている様だ。

 アリス・ガルシアはと言うと、部屋の奥に設置されている窓に背を付け、怯えている。


「年貢の納め時だ、もう逃げ場は無い。覚悟しろ、外道!」


 太刀を、アリス・ガルシアに向け、振り下ろす。


「や、辞めてくださ――」

「アリスさん、何をなさっているんですか……?」

「……!」


 さっきのカーテンが掛かっている向こう側から、女の声がして、アリス・ガルシアの眉間を掠る所で、刃を止める。


「誰だ!?」

「出てきては駄目なのです! クラリッサ!」

「クラリッサ……?」


 その名前には聞き覚えがあった。

 恐らく、そのカーテンの向こう側にいる人物の名前だろう。


「……」


 自分はそのカーテンに視線を向けて、歩き出す。


「だ、駄目なのです! そっちに行っては……」


 そして、カーテンの前に辿り着き、勢い良くカーテンを剥がす。

 ジャラジャラと音を立て、隠れていた者が姿を現す。


「……な……!?」

「……? 何方ですか……?」


 それは白い服を身に纏った、白い長い髪に白い肌の今でも崩れ落ちそうな細い体。

 その体を車椅子に預けた、盲目の娘だった。


「何処に居るのですか? 誰なのですか?」


 娘は車椅子に座りながら、手を伸ばして、自分の存在を探す。


「……この声……」

「……え?」


 自分は名前だけでなく、この娘の声にも聞き覚えがあった。


「クラリッサ……」

「……? はい、何でしょう?」


 ……やはり……じゃあ……。


「……答えを知った様だな」


 そこに、皆を連れたアルセーヌが入ってくる。

 自分はそんなアルセーヌの顔を見る。

 ……仮面に隠されているが、面影がある。


「……どういう事なんだ、アルセーヌ……いや、ルカ! ルカ・ヘイズ! お前なんじゃないのか!? なあ!?」

「……ふ、ふふ……」


 アルセーヌ……ルカはその仮面を取り、素顔を見せる。

 その顔は、7年前のあの時の面影を残したままだった。


「……久しぶりだな、アグレ・サリヴァン。7年振りだ」

「……! アグレ・サリヴァン!? アグレさんなんですか!?」


 車椅子の娘……クラリッサ、クラリッサ・ヘイズが、更に手を伸ばす。

 声がする、自分の方へと。


「……何故、お前達が、この女と一緒にいる!? この外道と! あんな事をした女と!?」


 ルカの胸倉を掴む。


「……全て説明する、そう言っただろう?」


 ルカは優しく笑いかけてくる。


「っ……」


 それを見て、自分は胸倉から手を離す。


「我が協力者、貴様もそれで良いな?」

「……もちろんなのです。私には、選択権は無いのですから」

「ならば、下で話そう。こんな散らかった部屋より、話しやすいだろう」

「……分かった」


 自分達はルカの提案で、一階へと降りる事にした。

 もちろんクラリッサも連れて。

 ルカがクラリッサを背負い、自分が車椅子を持って降りた。

 リビングの机に着き、話を始める。


「じゃあ、アグレ、ここ七年間の事を話す。だがその前に……」


 ルカはステラとゼノの方を見る。


「その前に、事情を知らないそいつらに事情を説明したらどうだ?」


 ……。


「そ、そうだ、せめて事情くらい聞かせてくれ!」

「うむ、大体は予想は付くが、改めて、お前の口から聞いておきたい」

「……そうだな。分かった、話そう。少し長くなるが……後――」

「聞いたら、もう引き返せない、そう言うんじゃないだろうな?」


 ……言おうとしていた事を、ゼノに言われる。


「ふ、その顔は図星だな……今更だ、気にせず、話してくれ。俺も聞いておきたいんだ、その話。ここまで来たら」

「……分かった。なら話そう……まず初めにこの話は、自分が何故、こんな境遇になったのかの話でもある……」


 自分は過去を遡る様に、話を始めた……。


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