八話 オレット班との戦い
「三……」
カミラのカウントダウンが開始され、それと同時に両者共に武器を構える。
「二……」
さて、オレットはどう出てくるだろうか。
恐らくアッシュとは、真正面がら戦いたくないと思っている。
「一……」
先ずは消耗戦にならない様に後衛を狙ってくる筈。
なら、オレットはあそこから来る……!
「零……!」
カミラがカウントを終えると同時に、アリッサが瞬発力を増強するウィングの魔法を唱え、オレットに効果を付与した。
オレットは魔法の効果を活かして、アッシュの上を高く飛び越し、こちらに向かって来る。
やはり、直接来るか。
「ちっ、直接かよ……!」
アッシュが後方に戻ってこようとするが、剣使いの男子生徒に攻撃され阻まれる。
「アッシュさん! 今参りますっ……!」
アッシュに加勢しようとしたリディアが、敵陣から飛んできたファイアーボールに阻まれる。
「あんたの相手はあたしよ!」
そう言ってリディアは、次々と魔法をリディアに向けて撃ってくる。
「くっ……! エリカさん!」
「大丈夫! グラビティ!」
俺は重力を重くする魔法グラビティを唱え、オレットに仕掛ける。
オレットは重力が重くなり、着地を余儀なくされた俺から十メートル程離れた場所で地に足を着いた。
「クロウ、今だよ!オ レットを抑えて!」
オレットはクロウから前に少し離れた場所でまだ動けずにいる。
オレットを倒すなら今だ。
「うん、まかせて!」
クロウはオレットに近付いて攻撃しようとするのだが、弓使いの男子生徒が放った弓矢が、クロウを目掛けて飛んでくる。
「っ!」
クロウはそれを避けようと、後退する体勢になる。
「駄目! そのままオレットを攻撃して!」
「……! うん、分かった!」
クロウは一瞬戸惑い、俺の方を少し見たが、すぐ様オレットに向かって行ってくれた。
その時俺は手に握っていた拳銃の銃口を、弓矢に向けていた。
クロウは俺が弓矢を撃ち落としてくれると信じて、オレットに突っ込んで行ってくれたのだ。
これは外せない――慎重に狙いを定め……弾を放つ!
「何っ!?」
弓使いの男子生徒が驚く。
見事に俺の銃弾は弓矢を撃ち落とした。
「先ずは一人……!」
俺は間も無く、銃口を弓使いの男子生徒に向けて弾を撃つ。
もちろん実弾では無く、魔法弾と言う殺傷能力が低い弾でた。
魔法弾は、実弾より低コストの魔力で作れるがその分、威力が落ちる。
あちらの世界で例えれば、ゴム弾と言った所だ。
魔法弾は男子生徒の右胸に当たった。その痛みで蹲り、戦闘続行不可能になった。
これで後は三人だ。
リディアは遠距離からの魔法に苦戦して、中々アリッサに近付けないでいる。
アッシュもこれまでの試合とは裏腹に、男子生徒の剣撃に防戦一方だ。
「はぁっ!」
クロウがオレットに向け、剣を振る。
グラビティの効果はまだ終わり切って無い。
これでオレットも倒せる筈……。
「……あめぇんだよ!」
が、オレットはグラビティの効果が終わってないにも関わらず立ち上がり、両手斧を振るい攻撃を弾き返す。
「うわぁっ!」
クロウが情けない声を上げ、しりもちを着く。
不味い。オレットがこんなにも早く立ち上がるのは予想外だ。
俺はオレットに弾を撃ちながら、走ってクロウの元に向かう。
撃った弾は大半が地面に着弾し、残りはオレットが両手斧で薙ぎ払って防いだ。
オレットはクロウに両手斧を振り下げる。
「っ……!」
両手斧が振り下げされる直前に、俺が二人の間に割って入って刀を引き抜き、その攻撃を刀身でで受け止める。
「くっ……!」
一撃が重い……でも……!
「クロウ、一旦引いてリディアの援護を!」
攻撃を受け止めるのに必死で余裕が無かった俺は、指示だけを飛ばす。
「遠距離攻撃はリディアには不利! だから二人で畳み掛けて!」
何れはリディアが隙を見せて負ける。
今は避けれているが、魔法を躱している側の方が体力の消費が大きい。
消耗戦にしても不利だ。
「で、でもエリカが……!」
「わ、私のことはいいから、早く……ぐっ……!」
オレットの両手斧に伝う力が増え、少し押し込まれる。
「……うん、分かった」
クロウは立ち上がり、オレットの横を通り過ぎて、リディアの元に向かおうとする。
「行かせるか!」
オレットがクロウを攻撃しようとする。
「させないよ!」
俺が刀を振るい、オレットは仕方なくそれを両手斧でガードする。
その間に、クロウはリディアの元に向かっていった。
「ちっ……味方が一人減るだけでも、ここまでつれぇのかよ。団体戦ってのは」
この場面、弓使いの男子生徒が戦えていればクロウを倒し切れたかもしれない。
一人倒せたのが大きく響いている。確実に戦力を削れている……!
「今までの試合で、手の内を隠す事を意識し過ぎて、連携出来ていなかったのが仇になったね」
横切りでオレットを攻撃する。
「ああ、これは俺のミスだ」
オレットはそう言い放ち、俺の攻撃を薙ぎ払って弾き返す。
「意外だね、貴方の様な性格だったら責めると思ってたけど……!」
再び、攻撃を交えめ力の押し合いになる。
「あいつは別に不利になる様な事はしてねぇ。何処に責める理由がある?」
オレットは俺が思っているよりも、人格者なのだろうか。
「自分なりに頑張ってる奴を貶めるなんてマネはしたくねぇ……ただ、裏切り者は別だがなぁ!」
オレットの力が増し、俺は少し後方に押される。
「裏切り者……?」
何処からその言葉が出てきた?
さっきのオレットの言葉は矛盾している。
俺達がグラウンドに来た時、オレットは真っ先に、俺達の事を落ちこぼれと罵ってきた。
もしかしたら、俺達では無く、リディアに特別な恨みがあるんじゃないか?
家柄の事じゃなく、もっと個人的な……。
オレットはリディアをその個人的な理由で、貶めたいがために、貶める理由に俺達三人を使ったと言うことか?
いや、そもそも、オレットはリディアの事に関しては、親の七光りだの何だの言っていたが、俺達には抽象的な事しか言ってない。
オレットとリディアの間には何かある……そう考えて良いだろう。
「クロウさん!一気に畳み掛けますわよ!」
その時、前方からリディアの声が聞こえてきた。
「そうだね、早くエリカを助けたいしね!」
リディアとクロウは、アリッサの魔法を躱しながら着実に距離を詰めて行く。
「こんの……!二人がかりなんて卑怯よ!」
アリッサは尚も二人に攻撃魔法を放っているが、尽く躱される。
一方を集中攻撃したら、もう一方が距離を詰めてくる。
アリッサが倒されるのも時間の問題だ。
「ここですわ!」
リディアが、アリッサの元にたどり着き、槍の攻撃で、長杖を弾き飛ばす。
「私の勝ちですわね」
「くっ……!」
リディアは、アリッサの喉元に槍の鋒を突き付ける。
「リディア、早く後方へ!」
「ええ!」
リディアは槍を下ろし、二人はこちらに走って来る。
アリッサは俯いて、何かを呟いていたが、この距離じゃ聞き取れない。
アッシュはまだ、交戦中か。
そろそろ、腕が痛いから早く救援に来て欲しいんだが……。
「ちっ、あいつらが来る前に方をつけさせてもらうぜ」
オレットは俺を攻撃で弾いて、後ろに下がって飛び上がり、再びこちらに上から両手斧を頭の上に振り上げ、攻撃を仕掛けてくる。
上からの体重と勢いを掛けた攻撃。
それに対処する為に、刀に魔力を流し強度を上げる。
恐らく、あの攻撃は通常の刃では防ぎ切れない。
「オラァ!」
俺は刀の柄の部分を逆に握り、鋒が地面に向くように持つ。
「……木の葉返し!」
攻撃が刀身に当たると同時に勢いよく刀を振り上げ、攻撃を弾き返した。
「何っ……!」
オレットを前方に弾き返す事に成功した。
オレットは着地するに成功するが、体勢が崩れる。
好機は逃さない。銃を一丁だけ引き抜き、アッシュと戦っていた男子生徒に向ける。
「アッシュ! 避けて!」
アッシュは戦いながらこちらを振り向き、直ぐに言葉の意味を理解してくれ、攻撃を受け流して後方に飛び退いた。
俺はそれを見て、男子生徒に魔法弾を放つ。
「ぐあっ!」
男子生徒は、胴体に当たった魔法弾の痛みで蹲る。
「くそっ!」
体勢を立て直したオレットは、再び両手斧を振り下げて、攻撃してくる。
「おっと! そうはさせないぜ!」
こちらまで戻ってきてくれたアッシュがその攻撃を防いでくれた。
「大丈夫か?」
「うん、だけど……」
俺は、膝を着き、刀でいるを地面に刺し、体重をかける。
流石にあの攻撃を無傷という訳にはいかない。
「ごめん、後は……」
「おう、任せとけ!」
アッシュとオレットは、それぞれ後方に飛び退く。
「リディア、アッシュ、決めろ!」
敵陣から戻って来る二人に、アッシュは叫ぶ。
「ええ!」
オレットはリディアを迎え撃とうと振り返り、両手斧で防御の姿勢をとる。
「……風よ、我の望むべき姿に変形せよ、ウィンドランス!」
クロウが放つ魔法がオレットに飛んでくる。
オレットはその魔法の対処を余儀なくされ、両手斧を薙ぎ払って、魔法を掻き消した。
だが、その動作のせいで守りが崩された。
「終わりですわ! はぁっ!」
その隙に、リディアがオレットの両手斧を弾き飛ばした。
「そこまでです!」
カミラの声がグラウンド全体に響き渡る。
「勝者、エリカ班!」
観戦していた生徒達が、歓喜の声を上げる。
「では皆さん、後程私の元に来てください」
カミラは、この試合で負傷した男子生徒の元に行き、回復魔法を使っている。
「やったね、皆!」
クロウがこちらに向かって来て、そう言った。
「ええ、クロウさんの援護、素晴らしかったですわ!」
「いや、僕なんて……それに一番凄かったのは……」
クロウはそう言って俺の方を見た。
「ああ! ほんとすげぇぜお前!」
アッシュが俺の元にやってくる。
俺は地面から刀を引き抜き、鞘に収めながら立ち上がった。
「うん、あの弓矢を撃ち落としたの凄かったよ! 良くそんな使いにくい武器扱えるよね……僕なんか、反動でブレるから一発も当たらないよ」
なるほど、だから銃火器を使う生徒を全然見ないのか。
殺傷能力は高いが、魔法や弓等の遠距離攻撃と比べると反動が大きく、使いにくいのだろう。
「オレットさんのあの一撃を防いだのも見事でしたわ。エリカさんが足止めしてくれてなかったら、この勝負、恐らく勝てていなかったでしょう」
リディアは前々からオレットの事を良く知っているような口ぶりだ。
「リディア、ひとつ聞いてもいいかな?」
俺は真剣な顔をして、リディアに問う。
「リディアとオレットって、昔何かあったの?」
「それは……」
リディアは苦い顔をしてオレットの方を見た。
「……好きにしろ、勝ったのはお前達だ。そいつが聞きたいってんなら、教えてやれ」
オレットは先程弾き飛ばされた両手斧を拾いながら、そう言った。
リディアは頷いてから、再びこちらを向き、口を開く。
「実は――」
「ふざけないでよ!!!」
叫んだのは、血相を変えてこちらに向かって来ているアリッサだった。
「おにぃ! 何でそんな奴の言うことを聞くの!? 五年前にそのクソ女がやった事忘れたの!?」
アリッサはリディアを指さしてそう言った。
「それにその話をそんなよく知らない奴に話すなんて、どうかしてるわよ! その話は――」
「辞めろ」
オレットがそう言ってアリッサを制する。
「俺が話していいって言ってるんだ……少し黙っていてくれ」
アリッサはその言葉を聞いて、更に口を開く。
「全部……全部そのクソ女のせいなのね!? いいわ! ここで消してあげる……!」
「おい! 辞めろアリッサ!」
アリッサは長杖を構え、火属性の中級魔法、フレイムボールを無詠唱で発動し、リディアに向けて、放った。
「消えなさい!」
ファイアーボールとは比べ物にならない程に、大きな炎の玉が、リディアに向かって飛んでいく。
「っ……! ウォーター!」
俺はすぐ様水属性魔法を発動するが、アリッサの魔法は勢いを落とさず、まるで焼け石に水。
そのまま、リディアの方に飛んでいく。
不味い……どうする。このままでは……!
「ぐはぁっ!」
「オレットさん!?」
フレイムボールがリディアに直撃する直前に、オレットが身を呈して、リディアを庇って、フレイムボールに直撃した。
地面に倒れ込むオレットを間一髪、リディアが抱きかかえる。
「え……おにぃ?」
アリッサは驚いた顔をして、恐らく無意識に、握っていた長杖を手から落とす。
「オレットさん!オレットさん!」
リディアがオレットの体を揺する。
「何事ですか!?」
リディアの声にカミラが気付き、こちらに走って来た。
「……!」
カミラはリディアに抱きかかえられているオレットの姿を見て、血相を変える。
「カミラ教官! オレットさんが……!」
「とにかく保健室へ運んでください!」
リディアは頷いて、オレットの右胸腕を自分の肩に回し、オレットの体左手を支え、立ち上がる。
他の生徒達も続々と集まって来る。
「手伝うぜ」
アッシュも同様にオレットの体を支え、左腕を肩に回す。
「エリカさん!回復魔法を!」
「うん!」
俺は魔法が直撃したオレットの背中に、両手をかざして、回復魔法を唱える。
「早く保健室へ!」
俺達三人は、カミラの言葉に頷き、保健室に向かった。
◇◇◇
「……何があったんですか?」
エリカ達が保健室に向かったのを確認し、カミラはそう言った。
「実は……」
クロウが事の顛末を話した。
「そんな……事が……とにかく皆さんは教室に戻って下さい。近くにいたクロウ君、当事者のアリッサさんはここに残ってください」
クロウは「はい」と力強く頷いたが、アリッサは何の反応も見せなかった。
他の生徒達は、言われた通りに、教室に向かって、グラウンドから出ていく。
(また……起こって……二度起こさないって誓ったのに……)
カミラは俯いてそう心の中で呟いていた。
その時のカミラは怒りと悔しさが混じったなんとも言えない表情をしていた。




