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探偵の異世界生活  作者: わふ
第二部 創世始動編
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八十三話 身分制度

 

「今のは流石に酷いよ!」


 ん、何だ……?

 訓練所に到着すると、ノーラの怒鳴り声が聞こえてきた。

 何かあったのか、そう思い、周りを見回すと、訓練所でノーラがこの学校の生徒数人と言い合っていた。

 そして、そのノーラの背後には足を押え、塞ぎ込んでいるレティと、それを心配して寄り添っているレオの姿があった。

 その様子を見て、慌てて三人に駆け寄る。


「どうした! 何があった!?」


 ノーラが自分に気付き、こちらを振り向く。


「アグレさん! この人達が……」


 ノーラがその生徒達を指さす。


「お前達は……」

「うっわ、また部外者が来たぜ」


 そう言ったのは、ガラの悪い金髪の男子生徒だった。


「知ってるか? この学校は部外者立ち入り禁止なんだぜ?」


 男子生徒はへらへらと笑いながら、挑発する様な仕草をとる。

 そいつの周りにいる生徒達も、俺達を見ながらくすくすと笑っている。


「……ちゃんと生徒会から許可を貰っている。それよりも、この様子、随分と険悪だが、何をした?」

「別にー? ただこいつらが、俺らに喧嘩を売ってきたんだよ。なぁ、お前ら?」

「そ、そうだな」

「え、ええ」


 他の生徒はその男子生徒に同意する。少し様子はおかしいが。


「は!? そっちが先に売ってきたんだろうが!」


 背後からレオが怒鳴る。


「……ノーラ、何があった?」

「私達がアグレさんを待っていたら、急にこの人達が突っかかって来たんだよ! 邪魔だ、退け、とか、この平民風情が、とか……それに怒ったレティが言い返して、そしたらいきなりこの人がレティを突き飛ばして……」

「それで、その拍子に脚を挫いた、と……」


 ノーラは無言で頷く。

 なるほど、ノーラの言う事が本当なら、10対0で相手が悪い訳だ。

 ……レティの表情を伺うと、かなり痛がっている。


「ふ、突き飛ばした? ちょっと押したら、転んだだけなんだが」

「そんなの突き飛ばしたと一緒だよ! とにかく、貴方はレティに謝って!」

「はぁ? 平民ごときに謝れだと? 公爵の地位を持つ、モルガン家のこの俺にか?」

「モルガン家? じゃあお前が、デーヴィッド・モルガンか?」

「ああ、如何にも、それが俺の名前だが?」


 こいつがデーヴィッド・モルガン。この傲慢な態度、二人から聞いていた通りだ。

 なら他の生徒は取り巻きという事か。


「ふん、俺の素性を知った途端黙り込んだな。どうした、怖いのか?」

「……笑わせるな。親の七光りで威張ってる奴の、何処に怖がる理由がある?」

「んだとぉ!?」


 デーヴィッドは右の拳を振りかざしてくる。


「何!?」


 その腕を軽々と掴み、力で押し返す。


「手が早いな。モルガン家ってのは、こんな短気な奴らばかりなのか?」

「くっ……! こいつ……言わせておけば!」


 自分の手を振り払おうとするが、がっちりと固定していて、全く振り払えない。


「っ……そんなゴミみたいな平民を庇うなんて、馬鹿じゃないのか?」


 ……まさか、ここまで腐ってるとはな……。


「……ゴミじゃない。こいつらは、自分の弟子だ」


 握っていた手を緩め、軽く後ろへ、デーヴィッドを突き飛ばす。


「ふ、ふふ、ははは! 何だよそれ! 弟子? 馬鹿じゃねぇのか!? 何を言い出すかと思えば、そんなくだらない事かよ! そう言えばこいつら、惨めに剣の練習をしていたな! って事は、あんたはそいつらの剣の師匠って事か!」


 デーヴィッドは、腹を抱えて笑っている。


「こんなゴミ共を弟子にするなんてお前相当馬鹿だぜ!? きっと剣の腕も大した事ねぇんだろう!」


 ……我慢の限界だ。

 この腐ったガキの根性、叩き直してやる。


「なら、試してみるか?」

「……おう、望む所だ」


 自分とデーヴィッドは同時に1歩、前に踏み出す。


「――やめて! 師匠!」


 その瞬間、レティが声を張り上げ、自分を止める。


「ああ、やめてくれ、師匠!」


 続いて、レオも自分を制止する様に、声を出す。

 自分はレティとレオの方を向く。


「師匠がそいつなんかに手を出す必要は無いよ!」

「そうだ! 師匠とそいつじゃ、勝負にならねぇ! それに、そいつは俺達の相手だ! 師匠に出張って貰ったら、俺達の面子が無い!」

「……お前達……」


 ……どうやら、自分がしようとしていた事は、二人にとって無粋な行為だったらしい。

 そうか、お前達はお前達の手で、こいつに勝ちたいんだな……。


「っ……お前らぁ! 好き勝手言いやがって!!」


 デーヴィッドが怒鳴り声を上げて、殴りかかって来る。


「絶対許さ――」

「そこまでよ!」


 その時、訓練所に声が響いた。

 デーヴィッドは動きを止め、声のした方へを見る。

 振りかざしかけた拳は、自分の目の前で止まった。

 それに動揺することも無く、自分もその方向を見ると、そこにはエレノアの姿があった。


「エフィ!」


 レオがエレノアを見て、歓喜の声を上げる。


「両方とも、そこまでよ! 引きなさい!」


 エレノアは自分とデーヴィッドの間に、割って入る。


「な、何だよ……」


 何故かエレノアに狼狽えるデーヴィッド。

 さっきまでの威勢が、まるで嘘のようだ。


「これ以上はやめて、デーヴィッド君。何か気に触ったのなら私が謝るから」


 エレノアはそう言って、頭を下げた。


「エフィが謝る必要なんか無いわ! そいつらが――」

「良いの!」

「っ……エフィ……」


 エレノア、お前は二人の為にここまでしてくれるのか……。


「……ちっ、しらけた。お前ら行くぞ」


 デーヴィッド達はそう言って、あっさりと去って行った。

 それから暫くして、エレノアがやっと頭を上げた。


「……エフィ」


 レオがエレノアに声を掛ける。


「……ごめん、俺達のせいで……」

「気にしないでいいわ。十中八九、彼が悪いって分かってるから。さ、それよりも、怪我をしてるレティを保健室に連れて行ってあげて。ルイスさん、手伝ってあげて貰えませんか?」

「う、うん!」


 レティが二人の方を借り、立ち上がる。


「ご、ごめん、二人共……」

「気にすんなって!」

「そうだよ、レティが謝る事無いよ」

「う、うん」


 そして、校舎の方向へとゆっくりと歩かせて行く。


「……ふぅ、まさかこんな事をするとは……」


 三人の背中が小さくなった頃に、エレノアがそう言ってくる。


「……悪い、自分が奴を煽ったせいでお前に頭を下げさせてしまった……」

「気にしないでください。私は自分の今出来る精一杯の事をしただけです」


 エレノアは、言葉通り気にしていない様子で、笑いかけてくる。


「訓練所から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえて、まさかと思って来たら、殴り合い寸前になっていたのは驚きですけど」

「奴は何でお前の姿を見た瞬間、威勢が無くなったんだ?」

「あー、あれですか。どうやら彼、私の事好きみたいで……」


 ……何とも言えない理由だ……。


「一応、私も平民と言う設定で、この学校で在校しているんで、入学当初は同じ扱いをされると思ったんですけど、何故か気に入れられちゃって」

「なら、あいつは平民どうこうじゃなくて、気に入らない奴をいびっている、そう言う事か」

「そうですね……でも大体の平民生徒には、先程の様な傲慢な態度を取っています。それに比べて、貴族生徒には一切、そう言う事は無いですね」


 平民いびりはあいつなりの見栄の張り方。そう解釈した方が良いのかもしれない。


「取り敢えず、私はそろそろ行きますね。貴方との約束を果たさなければいけませんから」

「自分はあいつらを追って保健室に行く」

「保健室は校舎に入って、右の突き当たりです」

「分かった。じゃあな」

「はい」


 自分はエレノアと別れ、保健室へと向かった。

 保健室に入ると、レティが先生から回復魔法を受けていた。

 今は大事を取って、ベッドに寝かされている。

 自分とノーラ、レオはそのベッドの周りに集まっていた。


「大丈夫か、レティ」

「うん……師匠、今日はごめんね。折角稽古をつけてもらう予定だったのに……」

「今は大人しくしていろ。治ったら幾らでも、つけてやる」

「うん……!」

「それにしても、許せないよ! あの人!」

「ああ! レティをこんな目に合わせて……いつかぎゃふんと言わせてやる!」


 レオはやる気満々の様だ。レティも特別落ち込んでいる様子は見せていない。

 これなら、精神面の心配はしなくても良さそうだ。

 ……ふと、窓からその景色を見たら、日が落ちかけていた。

 そろそろ宿屋に戻るか。ネハルムも戻っている頃だろう。


「ノーラ、そろそろ宿屋に戻ろう」

「あ、そうだね」


 ノーラも窓の外の様子を見て、理解してくれたらしい。


「そっか、もうこんな時間か」

「師匠、ありがとうね、私達の為に怒ってくれて」

「ああ。余計な事みたいだったが」

「そんな事ないよ……あの時はああ言ったけど、正直嬉しかったし……」


 レティは照れながらも、そう言ってくれる。


「そうか……じゃあな。自分達は暫く王都に居るつもりだ。見かけたら声を掛けてくれ」

「おう! またな、師匠! ……それとノーラも」


 レオがぼそっと、ノーラの名前を呼ぶ。


「レオ……うん! またね!」


 ノーラは満点の笑みで別れを告げ、自分達は宿屋に戻った。

 宿屋に戻った頃には、外は真っ暗になっていた。


「ただいまー! って、あれ?」


 ノーラが勢い良く、部屋の扉を開ける。

 だが、そこには誰も居なかった。


「まだ、ネハルムさん、戻ってないね」

「そうみたいだな」


 部屋の電気をつけ、中へ入る。


「警備の手配が長引いているのかな?」


 そう言いながら、ノーラは部屋のベッドに腰かける。

 ……ここが良い、タイミングかもしれない。

 落ち着いた時に話そう、今日ジゼルに会ってから、ずっとそう思っていた。

 それに、なるべく王国にいる間に、この話をしたかった。

 ここを逃せば、当分先になる、そんな予感がした。


「ノーラ」


 自分は声のトーンを落とし、ノーラに話しかける。


「んー? なぁに?」


 それに対し、腑抜けた返事が返ってくる。

 そして、魔法学校でエレノアにああ言われ、覚悟が出来た。

 自分は……。


「ノーラ、話がある」


 ノーラに、真実を告げようと決心した。


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