八十話 騒がしい双子
「ねぇ」
……。
「ねぇ!」
……。
「ねぇ! アグレさん!」
「ん? 何だ、いきなり大声を出して」
中央通りを歩いていると、ふと隣に居たノーラが話し掛けてくる。
「いきなりじゃないよ! さっきからずっとアグレさんに話し掛けてたよ!」
……そう言われてみれば……。
「悪い、考え事をしてて気付かなかった」
「考え事?」
「ああ。それで、何だ?」
「あ、そうだった。今から何処に行くの?」
「旧市街だ。そこに死体発見現場となった廃家がある」
リゼは行っても無駄だと言っていたが、一度は行っておきたいと思い、今こうして旧市街へと向かっている。
「死体発見現場となったって、何かおかしな言い方だね」
「そう言えば、詳しく言っていなかったな」
歩きながら、ノーラにリゼから聞いた情報を伝える。
「……うーん、結構ややこしいね……でも何となくは分かったよ」
ノーラは殆ど分かっていない様子だった。
まぁ、こちらとしても、完璧に理解して貰うつもりは無かったが。
こいつは、こういう事に関しては理解を示さない事が多いからな。分かりきっていた事だ。
「あ、そろそろ旧市街に着くね」
自分達はいつの間にか、旧市街の近くの路地まで来ていた。
こっち方面は旧市街しか無いから、相変わらず人影が少ないな。
「その廃家、だっけ? 場所は分かるの?」
「詳しくは聞いていないから分からないが、殺人現場となった廃家には、騎士団が警備に就いている筈だ」
「あ、それを目印にして探せば良いんだね!」
「そういう事だ」
「おっけー、じゃあ旧市街へ行こ!」
そう言って、先を歩いていくノーラ。
……だが、自分はその場で立ち止まる。
「あれ、どうしたの、アグレさん?」
そんな自分に気付き、ノーラがこちらを振り向く。
「……おい、そろそろ姿を見せたらどうだ」
「え?」
ノーラを無視して、誰かに対してそう言い放つ。
「後をつけているのは気付いている」
「――ふふ……」
背後の建物の物陰から声が聞こえ、振り向く。
「……そこか、早く出て来い」
そう言うと、物陰から二つの影が姿を現す。
「やー、バレちゃったかー」
「完璧だと思ったんだけどなー」
その二人はまだ子供で、その上この王都にあるギムレー魔法学校の生徒だった。
何故魔法学校の生徒か分かったかと言うと、二人はそこの制服を着ていたから。
一人は女子生徒、もう一人は男子生徒だ。
女子生徒の方はショートカット、男子生徒の方は短髪。
どちらも髪の色は同じ小麦色、目の色も同じ緑色、顔も似ている。双子だ。
「……お前達……」
自分はこいつらを知っていた。
「やっほー、久しぶりだね、師匠」
「元気にしてたかー?」
……三年前、王国に居た頃、王国南西のミエル地方にあるネイン村に立ち寄った事があった。
理由はノーラが変な物を食って、腹を壊したから。その治療を受ける為に、丁度近くにあったネイン村に立ち寄った訳だ。
そこである双子と知り合った。それがこいつらだ。
きっかけはこの二人が木剣を持って、一勝負挑んで来たのが始まりだった。
最初は相手にする気は無かったが、あまりにも五月蝿かったからで渋々相手をした。
結果は当然自分の圧勝。もちろん、子供相手に本気は出す訳が無い。軽い準備運動の様な心構えで相手をした。
はっきり言って、剣も握った事の無い初心者と戦った様だった。
それもその筈。本当にその日初めて、剣を握ったばかりだった。
自分に勝負を挑んだ理由を聞くと、村のいじめっ子を見返す為に、剣の腕を磨きたいから、太刀を背負っていた自分に勝負を挑んだと言っていた。
勝負が終わった後、二人から自分達の剣の師匠になって欲しいと頼まれた。
特にノーラの治療の為、村に滞在している間、特にやる事も無いので、軽い気持ちで引き受けた。
なので、さっき自分は師匠と呼ばれた訳だ。
そして、その双子の姉、女子生徒の方の名前はレティ・フィンレー、弟の、男子生徒の方はレオ・フィンレーだ。
「あ、レティとレオだよねっ! 久しぶり!」
ノーラがこちらに駆け寄ってくる。
「えっと……誰だっけ?」
「おいおい、忘れたのかよ、レティ。師匠の腰巾着のノーラだよ」
「あー、そう言えばそんな奴いたねー。師匠に迷惑掛けてた」
「何か私の扱い酷くない!?」
レティとレオの二人は、言動から分かる通り、少しだけノーラの事を良く思っていない。
それは、前述の自分達がネイン村に立ち寄る理由のせいだ。
二人はどうやら、ノーラは自分に迷惑を掛けた奴、と言う認識らしい。
「そんな事より、やっぱすげぇよ師匠! 俺達ずっと、尾行バレて無いと思ってたのに!」
「そうそう! いつ気付いたの?」
「大通りを歩いている時だ。バレバレだったぞ」
「ほんとかよー!」
「もっと腕を磨かないとね、レオ!」
「ああ!」
二人は顔を見合わせる。
相変わらず仲がいいな、こいつらは。
「何でお前達は自分を尾行していたんだ?」
「大通りを歩いていたら、師匠っぽい人を見掛けたから。何処に行くのかなーって思って」
「……それだけか?」
「うん、そうだよ?」
もしも違っていたらどうするつもりだったんだ……。
「あ、そうだ。師匠! あたし達、今年魔法学校に入ったんだよ!」
「ああ、見れば分かる。しかし何故だ? お前達は剣の腕を磨いていたんじゃないのか? 三年前も、東部の剣術学校へ行くって言っていただろう」
「それがさー、親に無理矢理入れさせられたんだよ」
「うん『名門校に入って立派になってこい!』って言われて。別に名門校に入ったら、立派になれる訳じゃ無いのにねー」
「そうだったのか」
確かこいつらの家は平民だった筈。
親は何としてでも、二人を立派に育てあげ、自分達の家名を上げたいのだろう。
「二人共、大変だね……」
「お前に同情される為に言った訳じゃ無い」
「そうそう、勝手に同情しないでよね」
「やっぱり私の扱い酷いよね!?」
「そんな事より、師匠! また、剣の稽古付けてくれよ!」
「うん! 久しぶりに!」
……ふむ、確かにこうなっては、今から殺人現場へ行くのは難しいだろう。こいつら二人もついてきてしまう。
「ああ、良いぞ」
「ほんとか!? じゃあ、何処でする!?」
「学校の訓練所で良いんじゃない? 訳を話せば、師匠だって入れると思うし」
「そうだな! 師匠もそれで良いか?」
魔法学校か……そう言えば、あそこにはあいつが居るんだったか。
一度は顔を出しても良いかもしれない。
「分かった、そこで良い」
「決まりね!」
「そんじゃ、行こうぜ、師匠! ついでに腰巾着も!」
「わ、私の扱い……」
落胆するノーラを連れ、自分達は行政区に隣接するスクルハ地区にあるギムレー魔法学校へと向かった。




