七十八話 ファントムリージョン
地面を駆け、サリルの背後を取って太刀を振る。
サリルは少し動揺を見せながらも、攻撃を躱す。
「フフ、イイデス、その調子デス」
にやりと笑い、いつの間にか自分の背後に回っていた。
特に苦労することも無く、振り向き鎌の攻撃を受け止める。
「疾影大太刀流四の型、斜影!」
四の型、斜影。相手の攻撃を弾き、下から斜めに斬り上げるカウンター技だ。その説明した通りに太刀を奮う。
サリルは寸前で、正面から攻撃を喰らうのは避けるが、かろうじて自分の太刀はこいつの右腕を掠る。
サリルはそれに気を取られ、もう一度隙を与えてくれる。
「五の型、無双斬!」
斜影の体勢から、一撃、二撃、三撃と、高速で無数の連撃を放つ。
「っ……」
最初の一撃は掠ったものの、以降の連撃は鎌で防がれる。
これを防ぐか……。だが、今はこちらが優勢。次の攻撃をするまでだ。
それにこうなっては、速攻でケリをつけなければならない。
無双斬を放ちながら、次の技へと切り替えようとする。
「疾影大太刀流、六の型――」
「――サセマセン……!」
「何っ!?」
サリルが太刀を弾き、鎌を横に振る。
自分はそれを避ける為に、一歩後ろに下がる。
「次はこちらの番デス……マサカこの手を使う事になるトハ……ファントムリージョン!」
サリルがそう声を轟かせると、一瞬言葉に出来ない不思議な感覚に囚われる。
「な、何だ、今のは……」
どうやらネハルムも、同じ感覚を感じたようだ。
「クク……もう、貴方は私から逃げる事は出来マセン……」
サリルはそう言うと、目の前から姿を消す。
「き、消えた……」
「いや、近くにいる筈だ……くそ、どこに行った……!」
太刀を構え、周囲を見渡す。
「――コッチデス」
「後ろか!」
背後から声が聞こえ振り向くと、そこには鎌を振り下ろそうとするサリルの姿があった。
慌てて、太刀で攻撃を受け止める。
「速さは一流……デスガ……」
「次は――!?」
左方向から足音が聞こえ、そっちを見ると、そこにはなんと、鎌を構えたもう一人のサリルの姿があった。
同じ容姿、同じ鎌を持った、全く変わらないサリルの姿が。
……これはもしかしたら、幻属性の魔法……いや……。
「もう一人だと!?」
ネハルムが驚きの声を上げている間に、もう1人のサリルがこっちに向かって鎌を振り下ろす。
「っ……はぁ!」
もう一本の太刀を引き抜き、その攻撃を防ぐ。背負っていて正解だった。
……だが、これはやはり……。
幻属性の魔法は、確かに、自分の分身を出す魔法はある。
しかし、幻属性の魔法で出した分身、それに相当する他の物体は所詮幻でしかない。
触れようとしても触れる事が出来ず、ただすり抜けるだけだ。
つまりこいつの出した分身は、普通の幻属性の魔法で出した、分身では無いと言うことだ。
「アグレっ! 今助ける!」
「外野は黙っていてクダサイ」
「うわっ!」
銃を構え、こちらに向かって走って来ようとする彼の前にももう一人、新たなサリルが現れる。
「退け!」
銃を撃つが、鎌で弾かれる。
「アグレさんっ!」
ノーラもこちらに来ようとするが、同じ様に、目の前に新たなサリルが立ち塞がる。
「大人しくしていてクダサイ。そうすれば、貴方がたは殺しマセン……貴方は別デスガ」
こちををにやけ顔で見る。
「斜影!」
二人諸共弾き、後ろへと飛び退く。
「こんな隠し玉を持っていたとはな」
「クク、言ったデショウ? 本気で行く、ト……まだまだ行きマスヨ?」
サリルの背後から、次々に分身が現れる。
この状況は不味い……。
相手の奥底が見えない、その上そろそろ――。
「ぐっ……」
全身に激痛が走り、体勢を崩す。
「……?」
サリルが不思議そうな顔でこちらを見る。
体が熱い……視界が……ぼやける……。
「ど……し……デ……?」
何か言っているが、言葉が耳に入ってこない。
……ここが限界か……これ以上は体が持たない。
「――――はぁ……はぁ……」
魔力武装を解除し、呼吸を整える。
……段々と視界がはっきりとしていき、周囲の音も聞こえるようになってくる。
よし、動ける。そう思い、奴の姿を確認する。
サリルはさっきと同じ位置で突っ立ったままだ。
「どうした、来ないのか?」
太刀を構え直す。
「ハイ、やめてオキマス」
「何? どういう事だ?」
自分の問いには答えずに、分身を消し、大鎌を仕舞う。
そして、この場から立ち去ろうと屋根の上に飛び上がる。
「待て! 質問に答えろ!」
サリルは動きを止め、こちらを見下ろす。
「……時間が必要、それだけデス」
時間が必要? 意味が分からない。何の話だ。
「……ソレともう一つ」
「?」
「……貴方がたが何をしたかは知りマセンガ……周りに気をつけることデス。意外な所に敵が潜んでいるかも知れマセン」
そう言い残すと、奴は建物の屋根を進み、姿を消した。
……全くもって意味が分からない。今のは忠告だろうか。
何故的であるあいつが、自分達に忠告を……。
「アグレさんっ! 大丈夫だった!?」
「……ああ、問題無い。お前達は?」
いつの間にか傍に居たノーラに、少しだけ内心驚く。
「私は大丈夫……だけど、また逃がしちゃったね……」
「あ、ああ、面目ない……うぷ……」
そう言いながら、口を押さえたネハルムがこちらに歩いてくる。
「どうした、何処かやられたのか?」
「い、いや、少し、気持ち悪いだけだ……」
気持ち悪い?
「吐きそうなのか?」
「そ、そうだ……」
「た、大変!」
「ああ、休める場所に連れて行こう。近くに宿屋がある。そこでいいか?」
近くと言っても、十分程歩かないといけないが。
「だ、大丈夫だ……」
自分とノーラはネハルムを連れ、その宿屋へと向かった。




