七十六話 ノーラとジゼル
騎士団本部前へ行くと宣言通りに二人は居た。
「アグレさーん、こっちー!」
自分に気付いたノーラが手を振る。
「悪い、待たせた」
そう一言添えて、二人の元へ歩く。
「全くだ。昼には合流すると言い出したのは君だろう。その本人が遅れてどうする」
ネハルムは出会い頭に言い詰めてくる。
「まあまあ。アグレさんにも色々と事情があるんだよ。それよりも、何処かでお昼ご飯にしない?」
ノーラがフォローしてくれる。
腹はあまり減ってないが、もう今日は他人の小言を聞くのは勘弁だ。話に乗ろう。
「そうだな。丁度いい頃合いだ。ついでに、そこでお前らが聞いた情報を教えてくれ」
「……はぁ、分かった」
納得のいかないネハルムを連れ、適当な店へと入り、適当に注文する。
「そう言えば、いつの間に、太刀が一本増えているんだ?」
料理を待っている時にネハルムがそう聞いてくる。
「この街の知り合いに刀鍛冶が得意な奴がいてな。質のいい物を安くで譲ってもらったんだ」
「なるほど……しかし、何故二本も背負っている? 一本でいいだろう」
リゼと同じような事を言われ、少しうんざりする。
「一本が折れた時のためだ。瞬時に抜ける様に」
そして、同じ返答を投げ返す。
「重くないのか――」
「重くない」
「そ、そんなに食い気味に返さなくても……」
そりゃ二度同じ質問をされたら、こうなる。
「い、何時もこうなのか?」
「ん? うん、まぁそうだね。用心深いと言うか、なんと言うか」
二人がこそこそしているつもりで会話をしていると、注文した料理が届き、昼食を摂る。
「……そろそろいいか?」
料理を食べ終わり、暫く経った時にネハルムは口を開く。
「ああ。どうだった?」
「先ずは、騎士団が俺達に協力してくれる事になった。新たな情報が入り次第、こっちに回してくれるらしい」
「そうか」
それは分かりきっていた。
そこは良い。それよりも知りたい事がある。
「目撃情報の方は?」
「そっちは怪盗アルセーヌ、だっけ? その人が3日前に王都の中央通りで目撃情報があったって、騎士団の人が言ってたよ」
大通りか。人目が多いところで何をやっていたんだ?
それと、ノーラはそろそろ名前ぐらい覚えてくれ。
「ラグナロクの使徒の方は、一週間前に王国東部のフィンテル地方のエレチトル森林だ。その森林の奥にある遺跡の調査に行った、騎士団員が目撃したらしい」
エレチトル森林……そう言えばあそこには一つ遺跡があったな。
「使徒の方は一週間前か。こりゃもう、こっちの目撃情報は意味が無いな」
「そうだね……それに、無理に探さなくていいし。だって、その人達はアグレさんを狙ってるんでしょ? じゃあそのうちあっちから来るよ」
「いや、彼が狙われいるのなら、尚更早く捕まえないといけないだろう」
「大丈夫だって! アグレさんがあんな人達にやられるわけないよ!」
ノーラは信頼の目を向けてくる。
「しかしだな……」
「こいつの言う通り、自分なら大丈夫だ。だから先ずは、怪盗アルセーヌの方に集中しろ」
「……それは出来ない」
「何?」
「君はこうやって、憲兵隊に協力してくれているが、あくまで民間人だ。その民間人が凶悪なテロリストに狙われているのを、憲兵隊として見過ごせない!」
ネハルムがテーブルに拳をどんと音を立てて、乗せる。
その音にノーラが一瞬、体をすくめる。
今更な気もするが、自分と同じように、こいつなりの信念、そういう事だろう。
「そうは言うが、今自分達の出来る事は、新鮮な情報を利用して、アルセーヌを追う事だ。どっちにしろ、片一方は放置するしかない。騎士団からの新たな情報が入るまでな」
「そうだな……すまない。君達の自分がどうなってもいいみたいな言い方に少し気が立ってしまった」
「気にするな。お前の立場からの言い分も分かる。取り敢えず、この後は大通りで捜査、改めて異論は無いな?」
「異議なーし!」
「……ああ……」
明るいノーラの返事とは裏腹に、ネハルムは少し苛立っているような返事だった。
「さて、じゃあ会計を済まして店を出るか」
「そうだね!」
「二人は先に出ていてくれ。俺が会計をする」
「分かった。頼む」
自分とノーラは一足先に店を出て、ネハルムが会計を済ますのを待つ事にした。
「ねぇねぇ、私達が騎士団本部に行ってる間に、何処に行ってたの?」
店の前でネハルムを待っていると、ノーラがわくわくしながら聞いてくる。
「そうだな……」
ノーラに別行動していた間の出来事を手短に話す。
「ふーん、じゃあそっちも今のところは放置?」
「ああ、先ずは怪盗アルセーヌの件を片付ける」
「そっかー」
「それと、ノーラ。この街にジゼルが居る」
「そうなんだー……え、ええ!? ジゼルって、あのジゼル!?」
ノーラは盛大に声を上げる。
「何で!? なんでジゼルが!?」
「理由は聞いてないが、あいつは騎士団になったそうだ。それにあいつも自分達と同じ殺人事件を追っていた。あの探偵とか言うやつと」
「もしかしてゼノ・サンチェスと!? やるねー、ジゼル。騎士団になるだけじゃなくて、殺人事件の捜査を任されるなんて。昔はあんなに弱気な性格だったに立派になったなぁ」
「ふ、そこは昔と今で、全然変わってなかったぞ。今日あった時は迷子にもなっていた」
「あはは、ジゼルらしいねー!」
ノーラは嬉しそうに笑う。
「それで、ノーラ。お前はジゼルに会いたいか?」
「え? そりゃもちろん!」
「そうか……じゃあ、会いに行ってみるか」
「……」
……ん? こいつの事だから、即答すると思ったんだが。
「……まだ良いよ」
「何故だ?」
「だってジゼル、頑張ってるんでしょ? 私が行ったら邪魔になっちゃうよ。それに今会えなくても、きっといつか会えるから」
……どいつもこいつも……。
「そうか……ジゼルもお前と同じく、今はまだ会わなくていいと言っていた。お前に会いたいと言う気持ちを押し殺して」
「ふふ、私達ってやっぱり似た者同士なのかな」
「かもな」
そこで会話は途切れ、数分後ネハルムが店から出てきた。
「それじゃあ、大通りへ向かうか」
「うんっ!」
「やけに嬉しそうじゃないか。何かあったのか?」
「うん! ちょっとね!」
悪戯をした後の子供の様に笑うノーラを、ネハルムが不思議そうに見る。
「まぁ、何はともあれ、出発だよ!」
ノーラは先頭を歩き、その後を自分達がついて行く。




