七三話 王国騎士団元帥
その貸家は見たところ1階建てだった。それに他の家より少しボロい。
売れ残った物件を貸したと言ったところか。
ジゼルが玄関を開けて中に入る。それに自分も続く。
家の奥へと案内される。
家の中は家具は殆ど無く、殺風景。いかにも、最近住み始めた様子だった。
突き当たりの部屋の前でジゼルが立ち止まり、扉をノックする。
「いいぞ」
そう部屋の中から男の声がすると、ジゼルは扉を開けて中に入る。
部屋の中も相変わらず殺風景。生活に最低限な物しか置かれていない。
そして、先程の声の主であろう男が、デスクに向かい座っていた。
「戻ったか。何か手掛かりは掴めたか?」
そう言い放つのは、茶髪でオールバック、眼鏡をかけた男だった。
「……ん? そちらは?」
その男が自分に気付き、椅子から立ち上がって不審の目を向けてくる。
「あ、えっと、こちらの方は……」
ジゼルがここまでの経緯や、自分との関係を説明する。
「……ふむ、なるほど……ここに来てもう1週間程経つ。少しは道を覚えろ、ジゼル」
「す、すみません……」
ジゼルは頭を下げる。
「……おっと、すまない。アグレ……と言ったか?」
男はこちらに向き直る。
「ああ、アグレ・サリヴァンだ」
「アグレ……サリヴァン……もしかしてあんたはあの、魔獣狩りとかいう奴か?」
「は、はい、その方です」
「……そのように名乗った事は無いが、そう呼ばれているらしいな」
こうも行く先々でその変な2つ名で呼ばれるのは、流石に不快感を覚える。
「それで、あんたは?」
「こちらは、ゼノ・サンチェスさんです」
ゼノ・サンチェス……聞いた事があるな。確か……そう、探偵、とか言うのをやってる奴だ。それにナカムのあの事件を解決したとか言う……。
……まさか、こいつはその事件絡みでここに……?
だったら、ここは1つ出たとこ勝負をしてみるか。
「ゼノ・サンチェス? もしかして、あのナカムでの事件を解決したゼノ・サンチェスか?」
「あ、ああ、そうだが?」
「なるほど。じゃああんたは、その事件と繋がっていると思わしき、王都で出た二つの死体の事件を追ってここに?」
「……そんな事まで、知れ渡っているのか。最近の新聞記者の仕事は早いな……まぁ、そうだな……」
ゼノは王都に来た経緯を話してくれた。
「そうだったのか。だからジゼルも一緒に王都に来ていたのか」
「は、はい」
やはり、こんな一介の新兵に家を貸し与えるのには裏があった訳か。
それにしても、ここまでの待遇を与えるなんて、騎士団はよっぽど犯人を暴き出したいらしい。
もう少し、詳しいところまで踏み込めるか……?
「捜査は順調なのか?」
「それは部外者には話せない」
「前々から興味があったんだ。これまでの経緯も話してくれた。少しくらい良いだろう?」
「駄目だ、これ以上は守秘義務に当たる。俺達からは話せない。」
無理そう、か。
流石に踏み込みすぎたか?
あわよくば、何か事件についての情報を引き出せればと思ったんだが。
探偵、ゼノ・サンチェス、中々口が堅い。
「いや、彼は部外者じゃない」
その時、部屋の扉から男の声が聞こえてくる。
次の瞬間、扉が開き、一人の人物が入ってくる。
それは白の軍服を来て、黒髪でツーブロックの凛々しい男だった。
その男を見た時、何故こいつかここに、とそう一番最初に思った。
「……何であんた程の男がここに居る? 王国騎士団、元帥、ルーベン・リア・ベリサリオ」
そう、その男はアルパベーラ王国騎士団のトップ、元帥に就くルーベン・リア・ベリサリオだった。
「どうやら、自己紹介は不要みたいだ……彼、ゼノ・サンチェスには、私が直々に依頼を出したんだ。腐敗死体の事件のね。今日はその中間報告に出向かせてもらった」
「元帥直々に依頼か。よっぽどこの事件にご執心だ。」
「ああ、何せ、我々騎士団の重役が殺されたんだからな」
重役……。
「……それで、自分が部外者じゃない、そうあんたは言ったな? それはつまり……」
「そう、貴方にも事件の捜査依頼を出したい。丁度いい時に王国に戻ってきた、魔獣狩りのサリヴァン……アグレ・サリヴァン、貴方に」
「ちょっ、ちょっとベリサリオ元帥!」
「これは私とアグレ・サリヴァンとの話だ。口を挟まないでくれ」
横槍を入れようとしたゼノをルーベンが制する。
「もちろん報酬は弾む。それに先程、彼に聞こうとしていた事も知れる。貴方は事件の事を知りたそうだったから、好都合だろう?」
「立ち聞きとは悪趣味な奴だ」
確かに、これは自分にとっては好都合だ。合法的に事件に関われるからな。
だが……。
「悪いが、断る」
「何故だ?」
「アルパベーラ王国騎士団の元帥が、ただの冒険者に依頼を持ちかけるなんて怪しすぎる。それだけだ」
「ふそれを言えば、彼らはどうなる?」
ルーベンは二人の方に視線を送る。
「こいつらは事件の重要参考人なんだろ? だったら話は違う。そこの探偵とやらが言った通り、自分は部外者だ……騎士団元帥であろう者がそんな部外者を頼ろうとする、騎士団には協力は出来ない」
「……クク、やはり貴方は面白い……なるほど、確かにただの冒険者、その部外者の人間に頼ろうとするのは浅はかな考えだった。悔しいが、今回は諦める」
今回はか……また、厄介な奴に目を付けられた。
「……そうか。それじゃあ、自分はこれで行かせてもらう。悪い、仕事の邪魔をしてしまったみたいだな」
自分はそうゼノに声を掛ける。
「あ、いや、気にしないでくれ。ジゼル、彼を通りまでおくってやってくれ」
「あ、は、はい! もちろんです!」
そんな面倒臭い事しなくてもいいんだが……断ったら断ったで、面倒臭そうだな。最後くらいは厚意を受け取っておくか。
自分はジゼルと共に部屋を出て、廊下を歩く。




