七十二話 再会
「あ、あの、まだお二人は王国を旅して回っているんですか?」
「いや、今は違う。三年前、お前達の村を出てからすぐに、帝国へ行った。それ以降は、今の今まで、王国に帰っていなかった」
「そうなんですか……何か用事でこっちに来たんですか……?」
「ああ、少しな……それにしても、驚いたな。まさか弱気なお前が騎士団になるなんて」
「あ、えと、それは……」
ジゼルはゆっくりとこれまでの事を話し始めた。
父親が他界した事、弟が朝霧病にかかった事。そして、その弟のための治療費を稼ぐために、第三騎士団になった事を。
「……そうだったのか……朝霧病の事は知っていたが、お前の弟がかかっていたとは……」
「はい……あ、あの、その……ノーラちゃんは朝霧病の事、何か言ってましたか?」
やはり気になるか。ノーラ達の故郷の村は、朝霧病が発生したど真ん中だ。
その村の同じ郷友である、ノーラの反応が気になるのは当たり前だ。
「ああ、ノーラに朝霧病の事を伝えた時、あいつはすぐに故郷へと帰ろうとした。だが、それを自分は止めたんだ。あいつを――ノーラを、危険な渦に飛び込ませるような事はしたくなかったから……悪い……」
「い、いえ! アグレさんのせいじゃ……それに、私もアグレさんの立場なら同じ事をしていたと思います……」
「そうか……ここにノーラも来ている。ノーラに会いたいなら、会わせてやるが……」
「ほ、本当ですか……? な、なら、時間がある時、是非……!」
ジゼルの表情が少し明るくなる。
「分かった……しかし、何で第三騎士団に所属しているお前が王都に居るんだ?」
確か、第三騎士団の管轄はエルルーズ地方だった筈だ。
こいつがここに居ると言う事は、何かあったのか?
「えーと、それにも少し深い訳がありまして……」
ジゼルは言葉を濁す。何か言いにくい理由でもあるのだろうか。
まぁ、無理に聞かなくてもいいか。騎士団のような組織的なものには必ず守秘義務と言うものが付きまとう。
ジゼルが言い難いのもそれが理由だろう。
「部外者に話せない情報なら、大丈夫だ。何はともあれ、騎士団の仕事、頑張ってくれ。じゃあな」
「あ、は、はい!」
そう言ってジゼルの元を立ち去り、目的の場所へと再び歩き出す。
……のだが、ジゼルはと言うとおどおどとしているだけで、その場を動かない。
「……どうしたんだ?」
ジゼルの元に戻り、声を掛ける。
「あ……あ、あの……! み、道に、迷いました……」
……そうだった。こいつは弱気な性格の上に、ドジという個性を兼ね備えているんだった。
「……何だと?」
「あ、え、いえ! すみませんっ! 先程、アグレさんとぶつかった時、帰る方向が分からなくなってしまって……!」
ジゼルが必死に、再び謝ろうとする。
「……はあ、何処に向かおうとしているんだ?」
「じゅ、住宅区です……」
住宅区……という事は王都東か。
「それなら――」
それなら、王都の東部だ、そう言おうとした時、寸で止める。
今のこいつには、その言い方では伝わらないだろうと思ったからだ。
何か良い言い方は無いか…………仕方ない、これはもう、こいつを住宅区まで案内した方が良いだろう。
「ついてこい、自分が案内してやる」
「え、い、いえ! それは流石に……」
「良いから、早く行くぞ。ここでお前を放り去ったら、ノーラに何言われるか分からん。だから、早く行くぞ」
「あ、ありがとう、ございます……!」
照れて礼を言うジゼルを連れて、王都東の住宅区に行き先を変える。
本来の場所に行くのは、少し遅れる事になるが……こちらの用事の方が大事だ。
何せこいつはノーラの幼馴染。流石の自分も粗略には扱えない。
「あ、あの……」
少し歩いたところで、ジゼルが口を開く。
「もう一つ……気になる事があるですけど……その、帝国の皇帝が殺害されたって……本当なんですか……?」
次はそれか。
「……ああ、本当だ」
「や、やっぱり、本当、だったんですね……今日昨日で、帝国から王国に渡った方達から話を聞いた、一部の方々が噂にしているらしくて……」
「ん? こっちでは公表されていないのか?」
「は、はい。昨日、帝国の軍の方から伝達があったようなのですが、正確に事実確認を出来ていないので誤った情報を伝えて国民の皆様を混乱させない様に、こちらではまだ公表していないんです。なので、こちらでは軽い情報規制が成されているんです」
なるほどな……。なら、うっかりと口を滑らせないようにするか。
「……そう言えば、何でお前は住宅区に向かっている?」
今更な事なんだが、そんな最初に聞くような質問を投げかける。
「それに帰るとか何とか言っていたが」
「そ、それは、先程言った様に少し深い訳があって、王都に来ているんですが、その間王国から提供されている貸家があるんです。アグレさんとぶつかった時、そこに一旦帰ろうとしてたところなんです」
そうだったのか。
……しかし、一介の新兵に貸家なんて……一体どんな用でこいつは王都に……?
そんな事を考えながら、ジゼルを連れて住宅区に辿り着いた。
「ここが住宅区だ。道は覚えたか?」
「は、はい、なんとか……」
不安だな……。
だが、流石のジゼルでも何度も迷う訳が無いか。そう、祈っておこう。
「ここからは分かるな? 自分はもう行く。もう迷うなよ」
「あ、ちょっと待ってください!」
今度こそ本来の目的の場所に行こう、そう思って中央通りに戻ろうとした時、ジゼルに呼び止められる。
今度は何なんだ一体……。
「こ、ここまで案内してもらったお礼がしたいので、その、さっき言っていた貸家に寄って行きませんか?」
なんだそんなことか。
「礼なんていい」
「い、いえ、そういう訳には……私の気が晴れないんです……お願いしますっ!」
ジゼルが深く頭を下げる。
……ったく、こいつは何でそう大袈裟に……。
「……はぁ、分かったから頭を上げろ」
ここまで来たら、多少時間を食っても良いか。そんな軽率な考えで了承する。
「あ、ありがとうございます! それじゃ案内しますね」
「ああ。迷った、とか言い出すなよ」
「さ、流石に、大丈夫ですっ。すぐそこなので」
それからジゼルの言う、貸家に案内された。
こいつの言っていた事は本当で、ほんの二、三分でそこに到着した。




