六話 初試合
アッシュ、リディア、クロウ、の3人と共に集合場所のグラウンドにやって来た。
既に他のクラスメイトは俺達4人を除き、集まっていた。
「おせーぞ、落ちこぼれ共!」
俺達がくるや否や怒鳴ってきたのは、赤髪の短髪のガタイのいい青年、出席番号1番のオレット・ブラウドだ。
「まさか、あのスレイプウェル家の娘があんなに出来が悪かったとはなぁ!」
オレットがリディアを見て言う。
「あら、ブラウド卿。お久しぶりですわね。去年の社交界以来だったかしら?」
ブラウド家は侯爵の位を与えられている。
「それで? また私に何か用ですの?」
オレットとはうってかわって、リディアは静かに言い放つ。
「いやぁ? 所詮親の七光りだと思っただけだ」
オレットがニヤニヤしながら、そう言った。
「ま、もし戦う事になったら叩き潰してやるよ」
そう言うと、オレットは自分の班の所に戻って行った。
というか、何故オレットはリディアに突っかかるんだ?
オレットの態度は出席番号後尾の俺達にでは無く、リディア個人に突っかかってるように思えた。
「リディア、この学校に入る前にオレットと何かあったの?」
俺は気になり、リディアに聞いてみた。
「あーあれな。ブラウド家は元々公爵家だったんだよ」
リディアの代わりにアッシュが答える。
「ある事件があって、公爵から侯爵に降爵されたんだよ。そしてそのブラウド家の代わりに、スレイプウェル家が公爵に授爵されたんだ。だからリディアの事を恨んでるんじゃないかな」
アッシュに続き、クロウが説明してくれた。
「ある事件って……」
俺が続きを訊こうとした時、カミラがグラウンドにやって来た。
「はーい、皆さん全員集まってますねー?」
カミラの言葉で、俺達生徒はカミラの前に集まる。
「では、各班の代表者は、前に出てください。まだ代表者を決めていない班は、今決めてください」
「代表は言わば、班を指揮する指揮官です。慎重に決めてください」
カミラがそう言うと、真っ先にオレットが1歩前に出た。
代表者……班のリーダーとなる人物か。
「誰にする?」
クロウが俺達3人に聞いてきた。
「俺はそう言うのめいどいからパス」
最初に断ったのはアッシュだ。
「リディアで良いんじゃねぇか? 公爵のお嬢様なら人を従えるのに慣れてるだろ」
アッシュの言葉に「僕もリディアで良いと思うよ」とクロウが便乗する。
「お気持ちは嬉しいですが……」
リディアはゆっくりとオレットの方を見る。
「あー、オレットがまた突っかかって来そうだな。『弱い癖にでしゃばってんじゃねぇ』とか、理不尽な事言って」
「ええ、ですから私はエリカさんを推薦しますわ」
リディアは俺の方を見てくる。
「試験でのエリカさん、優秀な軍師としての戦い方のように感じましたわ。この中でエリカさんが一番リーダーの素質があると、そう私は思いますわ」
「うん、僕もエリカが良いと思うな」
「ま、俺は誰でも良いぜ」
クロウみたいな性格は人の意見に流されやすそうに思える。
現にクロウは最初、アッシュに便乗してリディアをリーダーに推薦した。
だがその直後に、リディアの発言を聞いて意見を百八十度変え、今度は俺を推薦してきた。
アッシュは見るからにやる気が無さそうだから除外。
やる気がない人間に無理強いしても意味が無い。
リディアはオレットの件もあるがどっちかと言うと、リディアは味方に命令を下す立場より味方の士気をあげる役回りの方が向いてるだろう。
自分で言うのもあれだが、この中では俺が一番適任なのかもしれない。
「どうでしょうか、エリカさん。引き受けてくださいますかしら?」
リディアが改めて、そう聞いてくる。
「……分かった、良いよ」
俺がそう言うとリディアは手を握ってくる。
「本当ですか!? 感謝しますわ!」
リディアは笑顔でそう言った。
「そろそろ始めても大丈夫ですかー?」
その直後、カミラが俺達生徒の様子を伺う。
「……大丈夫そうですね。それじゃあ改めて、班の代表の方は前に出てください」
カミラの言葉で、各班の代表者が一歩前に出る。
俺もそれに合わせ、他の代表者と横並びになるように、前に出た。
「……七、八。はい、ちゃんと八班揃ってますね」
カミラは、代表者の人数を数えて班の数と照らし合わせた。
「それでは、今度こそ、練習試合を始めたいと思います。試合は、トーナメント式で行います。一回戦目は……」
カミラはそう言うと、試合相手を淡々と呼び上げて行く。
一回戦は四戦に分けて開始され、二回戦は二戦。そして、そこから勝ち残った二班の決戦となる。
「一戦目は、分後に開始します。一戦目の方々はその五分を作戦タイムとして使ってください」
カミラの言葉で、各班はグラウンドの方方へ散っていく。
俺達もそれに便乗し、カミラの元から離れた。
「はぁ……初っ端から戦うのかよ……」
アッシュの言う通り、俺達の班は、一戦目から戦うことになった。
「相手はコルギットさんの班ですわね」
コルギット・フレア、出席番号6番の男子生徒だ。
それに他の班のメンバーも出席番号1桁の強敵揃いときた。
「コルギットの班は見た感じ、魔法が得意な人が多いよね」
クロウはコルギットの班を見て言う。
「そうだな。エリー、作戦はどうするんだ?」
アッシュがそう言ってくる。
「うーん、取り敢えず、皆の武器について教えてくれるかな?」
今は敵の情報より、味方の情報の方が欲しい。
「私はこれですわ」
リディアは、背に背負っていた物を両手で持つ。
それは、穂の部分が長いのが特徴の、大身槍だ。
「僕のは、一般的な剣だよ」
クロウがそう言い、腰にかけていた鞘から、ごく普通の剣を引き抜く。
最後はアッシュなのだか……
「アッシュ……さっきから気になってたけど……それって…………」
俺はアッシュが背に背負っている武器を指さす。
アッシュは武器に手を掛ける。
「ああ、これが俺の得物だぜ?」
アッシュが背負っていたのは、柄の左右に、刃が付いている武器だった。
「それって……確か東方の国の武器だよね?」
クロウがそう言う。
「おお! よく知ってるじゃねぇか!」
「こいつは双刃薙刀って言うんだぜ」
アッシュがそう言い、双刃薙刀を俺達に見せるようにして、掴んでいる手を突き出してくる。
「……これって刃が2つ付いてるから、結構重いんじゃないの?」
双刃薙刀の利点は片手で二刀流分の手数を繰り出せる事だろうか。
但し、その代わりに片手に刃二つ分の重量が集中する事になるので、扱うにはかなりの筋力が要されるはずだ。
「それに加えて、かなりの技量も必要そうだよね」
クロウは双刃薙刀を見ながら、俺の言葉に続くようにそう言った。
「でもアッシュさんはこの武器を華麗に扱っていましたわ」
扱いにくそうな武器で本当に実践で役に立つのか心配だが、ここはアッシュの腕とリディアの言葉を信じよう。
「……うん、ありがとう皆。大体分かったよ」
三人共、前衛寄りか。
なら俺は後衛に回るのが得策だろう。
「エリーの武器はその刀と二丁拳銃か?」
俺が、戦闘時の立ち回りについて考えていると、アッシュがそう聞いてくる。
「あ、ごめん、私の武器についてまだ説明してなかったね」
俺は、後ろ腰にかけていた二丁拳銃を手に取り、3人に見せて、二丁拳銃について説明した。
「へぇ、魔力で弾を作り出せる銃か」
「人工遺物についても興味深いね……」
アッシュとクロウがまじまじと、二丁拳銃を見ている。
「どんな人工遺物が組み込んであるの?」
クロウが、俺の顔に視線を移して聞いてくる。
「錬金術関連の人工遺物だよ」
「え!?それって1年前に発見された、魔力錬金機!?」
俺が答えた直後に、アッシュが目を輝かせ、そう言ってきた。
「魔力錬金機……エリカさん、つかぬ事を聞きますが、エリカさんのお母様って、エレナ卿ではございませんこと?」
さっきまで、考え込んだ様子を見せていたリディアが口を開く。
「エレナ卿……あの国家魔法師のエレナ・ライトの事か?」
アッシュが少し考え込み、思い出した様な仕草を見せる。
「ええ、そのエレナ卿です。どうなんですの、エリカさん?」
リディアが聞いてくる。
「う、うん、そうだけど……」
俺がそう言うと、三人が驚いた表情を見せる。
「やはり、そうでしたか……その人工遺物を買い取ったのがエレナ卿と聞いていましたし、それに姓も一緒でしたから、まさかとは思っていたんですが……」
リディアがそう言った後に、クロウが口を開く。
「それにしても、人工遺物を買っちゃうなんて羨ましいなぁ……」
クロウはエレナの事より、人工遺物に興味があるようだ。
「エリーはやっぱり魔法が得意なのか?」
アッシュが聞いてくる。
「うん、だから私が後衛で皆が前衛って形で行きたいんだけど……どうかな?」
俺がそう聞くと、三人は二つ返事で了承する。
「良いと思いますわ。私は魔法は苦手ですから」
リディアに続き、二人は了承する。
「分かった、じゃあそのフォーメーションで行こう」
三人は頷き、この班の戦い方が決まった。
「はーい、皆さーん、そろそろ開始しますよー」
カミラの声が聞こえ、方方に散っていた生徒達が、集まっていく。
「じゃ、俺達も行こうぜ」
アッシュの言葉で、俺達もカミラの元に行く。
「では、コルギット君の班は、あちらへ。エリカさんの班はあちらに行ってください」
俺達は、カミラが指定した場所に移動した。
二班は左右に別れ、両班が約二十メートル離れる形で位置に着いた。
「それでは、先ずはルール説明から。勝敗はどちらかの班が全員戦闘不能、もしくは降伏した時です」
「私が試合続行不可能、危険な状態と判断した場合、直ちに中止します。それと過度な攻撃も禁止とします」
カミラがそう言い、二班の間の丁度真ん中に立つ。
「では、私が唱えるカウントダウンの零で開始してください」
カミラは両班を見る。
「……それでは…………三……」
カミラのカウントで、両班は構えを取る。
「二……一……」
「……零!」
カミラがカウントを終える瞬間に、あちらの班の後方の、杖を持った男子生徒が魔法を唱える。
「ファイヤーボール!」
やはり初手で魔法を撃ってきたか。
「ウォーターレイン!」
俺が魔法を発動すると、こちらに飛んでくるファイヤーボールを空から降る雨で鎮火する。
「はぁ!」
その直後、メイスを持ったコルギットが突っ込んできた。
「アッシュ! 迎え撃って!」
「おうよ!」
俺の言葉で、アッシュはコルギットの攻撃を双刃薙刀で受け、弾く。
コルギットの後ろから走り込んできた、剣を持った女子生徒が右からアッシュに向けて剣を振る。
「甘いぜ……!」
アッシュは軽々と片方の刃を使い、攻撃を弾く。
「リディア、クロウ! 敵陣へ!」
「了解ですわ!」
「分かった!」
前衛が体勢を崩した今がチャンスだ。
リディアとクロウは後衛の生徒に向かっていく。
「くっ! 行かせるか!」
コルギットと剣士の女子生徒が2人を迎え撃とうとする。
「やらせないよ!」
俺は二丁拳銃をそれぞれ、コルギットと女子生徒に向け、弾を撃つ。
「っ!」
「きゃっ!」
2人は武器で弾を弾くが、再び体勢を崩す。
「今だよ、2人共! アッシュは敵陣に!」
後衛の魔法使いに向かって行こうとしているリディアとクロウが、コルギットと女子生徒に標的を変えて攻撃する。
「はぁっ!」
「っ……!」
二人は見事、敵の防御を崩し、武器の鋒を突き付ける。
二人がコルギットと女子生徒に追撃してる間に、アッシュは後衛の生徒の元に走り込んでいた。
「は、離れないと! ウィン……」
「遅いぜ!」
アッシュは双刃薙刀の両方の刃を使い、後衛の2人の杖を弾き飛ばす。
「勝負あり!」
直後、カミラが声を張り上げ、そう言った。
「勝者、エリカさんの班!」
カミラの言葉で、俺達4人は、武器をしまう。
「お疲れ様、2人共」
俺はリディアとクロウに近付く。
「見事な采配でしたわ、エリカさん」
「うん、僕はてっきりアッシュが二人を抑えると思っていたよ」
アッシュもこっちに向かって来る。
「おつかれさん、エリー」
「うん、アッシュもお疲れ様。あの時の防戦、かっこよかったよ」
「それを言うなら、お前さんの指示を出す姿もかっこよかったぜ」
俺達がそんなやり取りをしている間に、相手の班も武器をしまい、こちらに向かって来ていた。
「見事な戦いだったよ」
そう言って握手を求めてきたのは、コルギットだった。
「そっちも中々バランスの取れたいい班だね。もう少し前線を下げてみたら良いと思うよ。中衛ががら空きになっちゃうから」
俺は握手に応じる。
「はは、確かに。僕とセリナがもう少し、後衛をカバーしないとな」
セリナと言うのは、剣使いの女子生徒の事だ。
「うん、そうだね、ありがとう検討してみるよ」
セリナはそう言った。
「両者ともいい戦いでした。では次の試合に移りたいと思います」
カミラがそう言い、俺達は観戦していた生徒の元に向かった。




