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探偵の異世界生活  作者: わふ
第二部 創世始動編
63/127

六十二話 結末、そして事件

 

「……出ないな」


 もう一度、扉をノックする。


「……やっぱり出ない……」


 ゼノは痺れを切らし、ドアノブに手を掛ける。

 すると、がちゃり。音が響いた。


「開いてる……」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。踏み込むぞ」

「い、良いんですかね……」

「良くはない。だが、嫌な予感がするんだ」

「え!? ちょ、ちょっと……!」


 ジゼルの次の言葉を待たずに、扉を開けて部屋に踏み込む。


「――!」


 踏み込んだ瞬間ゼノは何かを見て、急いで部屋の奥へと足取りを早める。

 その姿を見たジゼルも、困惑しながらも取り敢えず部屋の中へと踏み込んだ。


「ゼ、ゼノさん」


 あるものを見て立ち尽くしているゼノの背中に近付く。


「ど、どうかした――――」


 ジゼルもそれと同じものを見た直後、目を見開いて絶句する。

 天井に縄で吊るされた――ギィギィ、と音を立てて揺れている者。既に人とは呼べない物。

 それはこの部屋の主、ネッド・パチルの首吊り死体だった。


「ゼ、ゼノさん、これって……」

「ああ……死んでいる」


 ゼノは脈を測り、そう告げた。


「……まだ温かい。死んでからそう時間は経っていないな……」

「あ、あの、ゼノさん、これ……」


 ジゼルはネッドの足下にあった、踏み台にしたであろう椅子と1枚の折り畳まれた紙を指さす。

 ゼノがそれを拾い上げて開くと、中には1文だけ書いてあった。


「罪の意識に耐えきれません、ごめんなさい……遺書か……」


 それは殺人容疑を認める、そう言う遺書だった。


「決まり……なんですかね……」

「恐らくはな……」


 ゼノは死体を放置し、奥の人1人出れる程の大きさがある窓に近付く。


「……窓が開いているな。まぁ、別に不思議では無いか。暑いから開けたんだろう」

「じ、自殺で確定、ですか……」

「悔しいがな……くそ……!」


 ゼノは拳で壁をどんと叩く。

 それに驚き、ジゼルがびくっと体を竦める。


「……すまない。取り敢えず、レイブンクローを呼んできてくれ。俺はここを見張っている」

「は、はい……」


 ジゼルは部屋を出て、ルドガーや他の騎士団員達を呼びに行った。

 数十分後、彼等を連れて戻って来る。

 それからはルドガー達が部屋を調べた結果、結局2人を殺害した犯人はネッド・パチル、そしてそれを悔いて自殺、と言う結末を迎えた。


「何ともやるせない結果だが、ひとまず礼を言おう。ゼノ殿」


 夕暮れ、詰所の隊長室でルドガーがゼノにそう言う。

 あの後一連の捜査を終えたルドガーは報酬の話をする為に、ゼノを詰所へと連れてきた。


「俺は何もしちゃいない。結局何も……」

「だが貴殿は騎士団の依頼を引き受けてくれた。貴殿にとって辛い事件なのにも関わらずだ」


 ルドガーが報酬金の入った麻袋をゼノに差し出す。


「……受け取れない」

「そう言わずに受け取って欲しい。ここで手ぶらで返したら、私の気持ちが収まらない」


 そう言って、ぐいっと麻袋を押し付ける。


「…………」


 ゼノは無言で、渋々とそれを受け取る。


「用は済んだか?」

「ああ、ご苦労だった。帰りに護衛のロヴァートを付けよう。また同じ様な事件が起きぬ様にな」

「それはどうも」


 そう返事をして、部屋を出る。


「ゼ、ゼノさん、どうでしたか?」


 部屋の前では、ジゼルがゼノを待っていた。


「どうもしない。それより、ちょっと付き合え」


 そう言って、ゼノは突っ立ているジゼルを置いて廊下を歩いて行く。


「え?」


 戸惑っているジゼルに気付き、ゼノは立ち止まる。


「あんたは俺が事務所に帰るまでの護衛だそうだ。だから早く来い」


 そう言い残し、再び歩き出す。


「あ、なるほど……って、待ってください!」


 ジゼルはかつかつと靴音を鳴らすゼノの背中を追いかける。


「あ、あの、ゼノさん。事務所ってこっち、でしたっけ?」


 詰所を出て大通りを暫く歩いた時、ふとジゼルがそう口を開いた。

 ゼノは事務所とは反対方向の北へと進んでいた。


「寄り道だ、寄り道だ。黙ってついてこい」

「え、えぇ……」


 また暫く歩き、ある建物の中へと入って行った。

 その建物の入口の看板には『バー ヘブン』と書かれていた。

 店の中は薄暗い明かりが点灯し、開店直後なので客が居なく、カウンターでただ1人、男性のバーテンダーがグラスを拭いていた。


「ここって、バー……ですか?」

「ああ」


 ゼノは店に入った勢いで、カウンター席に座る。

 ジゼルも仕方なく、ゼノの横に座った。


「なんだ、あんたか」

「いつも通り適当に頼みます。ジゼル、あんたいくつだ?」

「じゅ、18です……」

「なら、こいつには適当にジュースでも出してやってくれください」

「あいよ」


 数分後、ゼノの前にはカクテル、ジゼルの前には炭酸ジュースが置かれた。


「あ、あの、私待ち合わせが……」

「気にするな。今回も俺の奢りだ」

「す、すみません……」


 ゼノはグラスに口をつけ、カクテルを飲む。


「はぁ……」


 ゼノは煙草に火を点け、溜息をつく。

 ジゼルはと言うと、周りをきょろきょろと見て、落ち着かない様子だ。


「どうした?」

「い、いえ、こういう店には来た事が無かったので……」

「ふ、そんな固くならなくてもいい。別に未成年は入ったらいけないと言う決まりは無い」

「そ、それは分かってますけど……落ち着かないんです……」

「やれやれ……」


 そんな話をしていると、店の扉がからんからんとベルの音を立てて開かれる。

 そうしたら、四十代ぐらいの男性が数人、店に入って来る。


「お、人探し屋兼ペット屋の坊主じゃねぇか。連れが居るなんて珍しいねぇ」


 入って来た男性の一人がゼノに気安く話し掛ける。


「探偵ですよ、探偵。皆さんも仕事終わりですか?」

「おうよ。そっちもか?」


 男性達は、ゼノと話しながらカウンター席に着く。


「ええ、まあ」

「また猫探しかぁ?」

「違いますよ、今回は騎士団からの依頼ですよ。詳しくは言えませんが」

「ほぉ、だからこんな騎士団のべっぴんさんが居るのか。そりゃ納得だ。あんた、こいつに何かされなかったか?」

「い、いえ……」

「何かされたらおじさんに言いなよぉ? おじさんが退治してあげるから」

「は、はい……」


 急に話しかけられたジゼルは、更に落ち着かない様子を見せる。


「相変わらず、失礼ですね。それにほら、貴方が急に話しかけたから驚いてるじゃないですか」

「んにゃ、そんな事ねぇだろ。な?」

「は、はい……」

「ほら、こう言ってるじゃねぇか」

「いや、明らかに驚いてると思うんですが……」


 それから二時間程、店で飲んだり喋ったりして、2人は店を後にした。


「……はぁ、ったく、こんなに長居するつもりは無かったんだが……あの人達、中々解放してくれないんだよなぁ」

「そ、そう言う割には、楽しそうに話していましたね……」

「そうか?」

「そうでしたよ」

「……まぁ、満更でもないんだろうな」


 ゼノは小さく笑いを零す。


「あ、あの店にはよく行くんですか?」

「まぁな。気分転換や、嫌な事があった時によく……今日みたいに」

「ゼノさん……」


 事務所に近付いた頃、ゼノは足を止め、後ろからついてきているジゼルの方を振り返る。


「ここまで良い」

「そ、そうですか?」

「ああ…………ジゼル、今日のお礼だ」


 ゼノはそう言って、ポケットから取り出した麻袋を投げて、ジゼルに渡す。

 ジゼルはそれを落としそうになりながらなんとかキャッチして、中身を見る。


「こ、これって、今日の報酬金じゃないですか! それに結構な額……こんなの受け取れません!」

「弟さんが苦しんでるんだろ? それで少しでも足しにしてやれ。それに俺はそれを受け取りたくない、いいや、受け取れない。俺は結局、二人が殺された理由を見つける事が出来なかった。騎士団が依頼は成功と言っても、俺の中では失敗だ。だから受け取れない」

「ゼ、ゼノさん…………分かりました」


 ジゼルはぎゅっと麻袋を握る。


「それで良い。今日は改めて助かった、ありがとう。じゃあな」

「はい、また」


 ジゼルは深く頭を下げる。

 それを見たゼノは何も言わずに、事務所へと歩いて行く。


「ゼノさん、ありがとうございます……」


 そう小さく呟き、ジゼルはゼノの背中が見えなくなるまでその場を動かなかった。



◇◇◇



 それから一ヶ月後、八月十八日。朝八時過ぎ。

 その日は何も依頼が無かったので、ゼノはソファーに横になり、ぼっーとしていた。

 今日は何をしようかと考えながら。

 そんな時、事務所の扉がノックされる。


「どうぞー」


 気の抜けた返事をする。

 すると扉ががちゃっと音を立てて開き、大きな体が扉の代わりに出入り口を塞ぐ。


「今日は依頼は無いのか? ゼノ殿」

「……はぁ、またあんたかルドガー・レイブンクロー」


 ゼノは面倒くさそうに体を起こす。


「休みのところ、失礼する。急ぎの用なのだ」


 ルドガーがそう言って、ゼノと反対側のソファーに腰を掛ける。

 そしてもう一人、彼とは打って変わって小柄な体もルドガーの横に座った。


「なんだ、あんたも来てたのか、ジゼル」

「お、お久しぶりです」

「今日は二人だけか?」

「ああ……それで用と言うのは、貴殿にまた依頼をしたいのだ」

「またか……」


 ゼノは溜息をつく。


「なんだ、嫌そうだな」

「ああ、あんたらの依頼はどうせ、ろくでもないものだからな」

「ふふ、ろくでもなくは無いが、今回も厄介なヤマだ……昨日、八月十七日。王都エルドラドにて殺人死体が発見された」

「王都エルドラド? あんた等の所属する第三騎士団の管轄外じゃないか。何でそんな事件がこっちに回ってくる?」


 ルドガーはまぁ待てと言いたげに、右手を伸ばす。


「それを今から説明する。その発見された遺体は腐敗が進んで、殺されてから少なくとも一週間前後経っているそうだ。だが死因は特定出来た。喉を掻っ切られて即死、だそうだ」

「あの事件と同じ、か……それだけじゃ無いんだろう? それだけならただの偶然だ」

「ああ……今回の事件にはもう一点、重なっている点がある。それは被害者が二人。それもあの事件と同じ様に、教会のシスターと騎士団員が被害者、と言う点だ」


 被害者がシスターと騎士団員、その言葉を聞いた瞬間、ゼノの顔色が変わる。


「どうやら、興味が湧いてきたみたいじゃないか。偶然が2つ重なる、これはもう偶然とは呼べない」

「……あの事件はまだ終わってない、そう言うのか?」


 ルドガーは頷く。


「……つまり、一ヶ月前の事件と関わりがあるから、その事件の管轄だった第三騎士団に話が回ってきたと?」

「そうだ。王都エルドラドが管轄の第一騎士団は、そちらの事件を担当した団員を寄越せと言ってきた」

「俺に王都に行けと?」

「ああ。ゼノ殿は団員では無い、それは百も承知だ。だからこうして、依頼という形で貴殿に頼み込んでいるのだ」

「そこの新兵が居るだろう」

「ふむ、ロヴァートからは殆どゼノ殿が事件を解き明かしたと聞いたが?」


 厄介な事を、ゼノはそう心の中で思った。


「別に依頼が入っていると言うわけでは無いのだろう? それに貴殿も、あの事件の結末に納得がいっていなかった。もう1度、事件を調べられるチャンスだと思うのだが」

「それもそうだが……」

「安心しろ、何も一人で行けと言う訳では無い。今回もこのロヴァートをつける。報酬も弾むぞ?」

「……分かった、行こう。だが、準備に一日くれ」

「もちろんだ。では明日の朝七時、南門に来てくれ。馬車を出す」


 ルドガーはそう言い終わると、ソファーから腰を上げる。


「ロヴァート。私は詰所に戻るが、貴殿はもう上がっていい」

「は、はい、ありがとう、ございます……」

「うむ、では明日」


 ルドガーは事務所を出て行く。


「……あ、あの、またよろしくお願いします、ゼノさん」


 しーんと静まり返った事務所で、ジゼルが口を開く。


「……ああ、こちらこそ」


 ――翌日、二人は前日に準備を終え、南門に来ていた。


「お、おはようございます!」

「ああ、おはよう。レイブンクローが言っていた馬車ってあれか?」

「みたいですね」


 南門前には一台だけ、馬車が止まっていた。


「じゃあ早速――」

「あれれ、探偵君じゃないか」


 二人が馬車に乗り込もうとした時、後ろから女声が聞こえた。

 振り返るとキャソックを着た、中性的な顔立ちで、鼠色の髪のサイド位置を右側だけ三つ編みにした青年がいた。


「……確か、アシェル・クルムだったな。その、テッサさんの代わりに派遣された神父の」

「覚えててくれてたんだね。赴任初日以降、一度も教会に顔を出してくれないから忘れらてるかと思ったよ。それで今、馬車に乗ろうとしてたけど、どっか行くの?」

「……ああ、ちょっとな…………二週間は帰らないと思う。子供達によろしく伝えておいてくれ」

「うーん、自分で伝えた方がいいと思うけどなー、まぁ分かったよ。あ、僕、買い物の途中だったんだ、そろそろ行くね。じゃあまたね」


 そう言い残して、アシェルは市場の方へと戻って行った。


「……行くか」

「あ、あの、本当に子供達に挨拶しなくてもいいんですか?」

「別に、一ヶ月やそこらも王都に居る訳じゃ無い。別に良いさ」

「そ、そうですか……そうですよね……」

「ああ、だから早く行くぞ」

「は、はいっ!」


 こうして二人は馬車に乗り込み、港街ナムカを発ち、王都エルドラドへと向かった。


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