五十九話 殺人事件
ルドガーが事件の概要について、話し始める。
「――今から約一時間前、五時過ぎ頃、港の海岸沿いに人が溺れている、との通報が入った。現場に急行したところ、被害者2人の遺体を発見した」
「死因は? 溺死か?」
「いや、死因は首を刃物で掻っ切られた事による多量出血。2人共だ」
「っ…………死亡、時刻、は……?」
ゼノは悔しい、悲しい、等の感情を押さえ込み、震えた手で煙草に火をつける。
「詳しい事はまだ分かってないが、今日の深夜、つまり零時から四時にかけてだそうだ」
「……そうか……」
事務所の中が無言になる。
「……それでゼノ殿、この依頼、受けてくれるか?」
「…………その前に一つ聞かせてくれ、何故俺の所に来た? うちははっきり言って無名だ。探偵と言う訳の分からない仕事も、王国中、いや世界中探しても俺ぐらいしかやってないだろう……そんな俺に何で、天下の騎士団殿が依頼するんだ?」
「……聞く話によると、探偵のゼノ殿の仕事は人探し等が主流らしいじゃないか。様々な人からの証言や、証拠からな。騎士団の様な組織的な立ち位置ではまだしも一人、それも一般人と言う立場じゃ中々出来ない仕事だ。それも毎度完璧に、だ。それだけでも、我々、騎士団が依頼するに値すると思うが?」
「……流石騎士団だ。隅々まで調べてらっしゃる」
「依頼する人物を調べるのは当然の事だろう?」
ルドガーはふっと笑う。
「確かにそれもそうだな。だが、俺はあんた達が思ってる様な出来た人間じゃない。それにそれだけじゃないんだろう? ただ事件の解決を望むなら、その俺を調べた労働を今回の事件に注げばいいだけの話だ。本当の理由を言え」
「私は既に本当の理由を言っているつもりだが……まあ、実を言うと、もう一つ理由がある。それは、貴殿が今回の被害者である、テッサ・マクシームと知り合いだったからだ。被害者と知り合いなら、何か手掛かりがあると思ってな。その上頭も切れる探偵殿、これ以上の人材は無い……それがもう一つ理由だ」
「……そういう事か…………ふぅ……」
ゼノは煙草の火を消す。
「……分かった、その依頼引き受けよう。だが、俺は殺人事件なんて扱った事が無い。それでも良いなら、だけどな」
「ああ、もちろんだ。感謝する」
ルドガーはソファーに座りながら、深く頭を下げる。
「……おっと、言い忘れるところだった。こちらからも助っ人として、人手を貸す。ロヴァート、挨拶しろ」
ルドガーは後ろに立っていた緑髪をポニーテールにした、おどおどした雰囲気の若い女性団員に声を掛ける。
「は、はい! アルパベーラ第三騎士団、新兵のジゼル・ロヴァートでしゅ!」
言葉を噛みながらも、最後まで言い切って頭を下げる。
他の団員はそれを見て、くすくすと笑っている。
「す、すみません……」
ジゼルは顔を赤くして、恥ずかしがりながら、もう一度頭を下げる。
が、勢い余ってソファーの背もたれに頭をぶつけてしまう。
その光景で再び団員達の笑いを誘う。
「……大丈夫なのか……?」
「まあ、見た通り、抜けたところもあるが、根性ある新兵だ。事件の詳しい事はこいつから聞いてくれ。我々は他の用があるので、これで失礼する」
ルドガーはソファーから腰を上げる。
「しっかり、やれよ、ロヴァート」
帰り際にそう言い、ジゼルの肩に手を置く。
「は、はい!」
ルドガーは頷き返し、事務所の出て行く。
ジゼルを除いた他の団員達も、ルドガーの後に続く。
「……えっと……ジゼルで良いか?」
「は、はい、改めてよろしくお願いしますっ!」
「よし、早速だが、現場に案内してくれ。道中でも事件について、もう少し詳しく話せ。行くぞ」
「は、はいっ!」
ゼノは戸惑うジゼルを連れ、大通りへと出る。
「さっき、騎士団に通報が入ったと言っていたが、通報したのは誰なんだ?」
歩きながら、ジゼルにそう聞く。
「み、港通りに住んでる漁師の方です。ふ、船の整備をしようと、船が停めてある海岸に向かったところ、被害者2人の死体を発見したとの事です……」
「それじゃあ、その第一発見者にも話を聞いてみないといけないな……被害者2人が港通りへ行った理由は分かってるのか?」
「セ、セスさんの方は分かっています。き、騎士団員には、街の見回りがあるんです」
「ああ、いつものあれか。確か、一時間毎に交代するんだったか。つまり、被害者のセス・ホーランは港通り担当だったと言う訳か?」
「そ、そうです。せ、セスさんの担当は午前三時から、四時の間でした……ちゅ、中隊長はその間に殺害されたんじゃないかって言ってました……」
それを聞いたゼノは考え込む。
「ど、どうしたんですか……?」
「……いや、何でもない……テッサさんの方はどうだ?」
「そ、そちらはまだ……サ、サンチェスさんはご存知ではないんですか?」
「ゼノで良い。俺も検討が付かない。何であの人が深夜の港通りに行くなんて分からない」
「……す、すみません……」
「……何であんたが謝る」
「す、すみません……」
「……まあ良い」
2人は港通りへと向かう。




