五十三話 証拠
屋敷に戻った後、丁度グレイグが帰っていたので、事情を話し、軍の人達を呼んでもらった。
「……どうですか? 足取りは掴めましたか?」
そして、あれから約三十分後、俺達五人は屋敷前でグレイグを含む軍の人達と話をしていた。
俺達の中にSと繋がっている人物がいるという話を皆に出来る筈も無く、グレイグ達にしか話していない。
「いや、海軍の方でも捜索を行っているが、何処に行ったか分からずじまいだ」
グレイグはやるせない顔をして、そう言う。
「……本当なのか、君達の中にSと繋がっている人物、或いはその本人がいると言う事は?」
「ええ、十中八九、間違いないでしょう。確かに、他にも私達がこのオラシオンに来る事を知っていた人は居ました。でも、私達がこの日、この時間に街へ出掛ける事を知っていたのは、出発前、ダイニングにいた、リディア、オレット、ユリウス殿下、ウィルバート、エルの五人、それと浜辺にいたアリッサ、そして私達五人。絶好のタイミングを知っていたのはその11人に絞られます」
Sは俺達が人気のない所に入った所を狙って、現れたのだろう。
人数も五人と少ない。その上、五人全員が子供、目的が達成しやすいと判断して、俺達を襲った……そう考えるのが妥当だ。
「……確かに、私達が裏路地に入ったタイミングで、Sが現れたのは、引っかかりますね……タイミングが良すぎる……」
「じゃあ……本当に僕達の中に……」
「……信じられねぇが、そうとしか考えられねぇな……」
「……取り敢えず、今日はもう休め。エリカ君には、後で護衛の者を寄越す。今日は大人しくしていろ、いいな?」
「はい……」
そうだな、今日はもう大人しくしておこう。
「マリー嬢もお気を付けて。本当は宮殿に戻って欲しいところですが……」
「ええ、戻る気はありません。お客人が襲われたんです。私も傍に居ます。それに、Sさんはどうやら、私には興味は無いみたいですからね」
そう言えば、マリーはSに見ぬ気もされなかったな。
普通なら、王族のマリーを狙うだろうに。
本当に狙いは俺だって事か……。
「分かっています。ですが、それでも気を付けて下さい」
「そんなに何度も言われなくても分かっています。それにいざとなったら、クロウ様に守ってもらいますし」
マリーはクロウの腕に抱きつき、ウィンクをする。
「そうだな。頼んだぞ、クロウ」
「ええ!? ま、まぁ、出来る限りの事はするよ。マリーだけじゃなくて、友達のエリカを守る為にもね」
クロウ……。
「よく言うぜ。さっきは危うく、Sに刺されそうになってたのにな」
「う、そ、それを言われると……」
「ふ……とにかく頼んだぞ、クロウ。私は奴の足取りを引き続き追う」
グレイグはクロウの肩に手を添える。
「うん、父さんも頑張ってね」
「ああ」
グレイグは部下を連れて、裏路地の方へと歩いて行く。
「私もエリカさんをお守りしますよ! 当然アッシュさんも、ですよね?」
「何で俺に振んだよ……ま、その通りだがな」
アッシュは頭を掻きながら、顔を逸らして、そう言う。
「素直じゃ無いなぁ、アッシュは」
「うっせ。ほら、早く屋敷ん中入るぞ」
アッシュはゆっくりと屋敷へと歩いて行く。
「ふふ、良かったですね、エリカさん」
マリーはそう俺に聞いてくる。
「うん、アッシュには頼ってばっかりだよ」
些細な事だが、心強い。アッシュの戦闘能力は確かだ。
それ以外も、なんと言うか、頼りになる。
「おい、早く戻んぞー!」
俺達はアッシュの後に続き、屋敷の中へと入る。
「皆、大丈夫だった?」
玄関ホールではイザベラが居た。
彼女にも一応事情を話している。
「待っていてくれたんですか?」
「うん、心配でね。それと、もう1人……」
イザベラがそう言い終わると、後ろからユリウスが現れる。
「殿下……」
「エリカ君、Sに襲われたって本当かい?」
イザベラから聞いたのだろう。
「……ええ、本当です……殿下、少し2人きりで話出来ますか?」
「ああ、丁度私も話したいと思っていたところだよ」
俺とユリウスは屋敷前に出る。
「……なるほど、だから君は私達の中にSの共犯者、又は本人が居ると?」
単刀直入に、一通りユリウスに事情を話した。
「殿下はどう思いますか?」
「ああ、私もエリカ君の推理は正しいと思う……ただ、その推理で行くと――」
「分かっています」
「……そうか。なら、思い切って本題をぶつけてみるか?」
「いえ、まだ証拠不十分です」
まだ憶測の域を出ない。
決定的な証拠も無いし、動機も分からない。
「分かった。だが、これで当分の間の方針は決まったな」
「はい。何としても、証拠、動機を見つけ出す……それにあります」
ユリウスは力強く頷く。
「おいおい、二人して内緒話か?」
その時、そうアッシュの声が聞こえた。
「え? アッシュ君にクロウ君? それにコルネ君も……もしかして聴いていたのかい?」
アッシュは頷く。
「俺達にも一枚噛ませろよ」
「……危険だ、相手はテロリスト何だぞ?」
「そんな危険な事に、殿下が首を突っ込もうとしてるのを見過ごせませんよ」
「そうですよ! エリカさんに至っては相手から狙われているんです! それを分かっていて、見過ごすなんて事、私にだって出来ませんよ!」
「ああ。それに、二人だけでどうこうできる問題じゃねぇ……それとも、俺達が信用ならねぇってのか?」
お前ら……。
「ふぅ……やれやれ、君達には負けるよ。良いよね、エリカ君?」
「……仕方ありませんね。こうなっては、何を言っても引き下がらないと思います」
「へっ、よく分かってるじゃねぇか……手伝うからには、絶対に捕まえるぞ。何でも言ってくれや」
「僕もアッシュと同じ気持ちだよ」
「私もです! どんどん言ってください!」
「うん、心強いよ」
「ああ、君達と友人で本当に良かったと心から思う」
こうしてアッシュ、クロウ、コルネの3人が、協力してくれる事になった。
その後、ダイニングで食事を取り、部屋に戻ろうとしたところ、屋敷に来客があった。
それはアルベールで、グレイグが言っていた護衛の者らしい。
アルベールの話によると、グレイグが俺とアルベールが幼馴染という話を知り、それならとアルベールに護衛を任せたとの事。
俺がオラシオンにいる間は、傍についてくれるらしい。
夜も部屋の前で警備してくれると言っていた。
まぁ、殆ど意味は無いだろうな。
これ以上、オラシオンでは襲って来そうにも無い。
何にせよ、備えあれば憂いなしだ。
今日はもう休む事にし、部屋に戻ってベッドに入る。
だが、疲れているのに何故か寝付けない。
仕方なく、外の風にでも当たってこようと思い、皆が寝静まった頃に、部屋から出る。
「……どうした、眠れないのか?」
部屋の前に居るアルベールに声を掛けられる。
「うん、ちょっとね。だから、外の風にでも当たろうかと思って。アルも来てくれる?」
あれ、何で俺こんな事口にしたんだ?
「もちろん。俺はお前の護衛役だからな」
そういう訳で、二人でまたまた屋敷の前に出る。
「……良い、潮風だね」
外は気持ちいい、柔らかな潮風が吹いていた。
「ああ、この街の良い所の1つだ……あの話は本当か?」
あの話と言うのは、俺達の中に協力者、又はS本人が居る、という話だろう。
「うん、まだ決定的な証拠は無いけどね」
「そうか……エリカ、もしかしてお前は迷ってるんじゃないのか? 犯人の名前を挙げるかどうかを」
「…………」
迷っているか……確かに、そうかもしれない。
「……うん。もっと言えば信じれない、信じたくないと思う。あの人がSと繋がってるなんて。情けないよね……要は怖がってるって事」
「そんな事ない。寧ろ優しいと思う」
「優しい?」
「ああ。要するにエリカは友達を疑いたくないって思っているんだろ? 優しいじゃないか」
「……違うよ、怖がっているだけ。今の関係が壊れるのを。それに、間違っている事を間違っているって言えないのは本当の優しさじゃない」
「エリカ……」
分かっているんだ。今すぐ名前を挙げた方がいいって。
証拠云々で誤魔化して逃げてるって事も。
「……ごめんね、変な事言っちゃって」
「いや……気にするな……そろそろ部屋に戻るか?」
「そうだね」
俺は屋敷へと入ろうとする。
「エリカ」
「ん?」
「辛くなったら言ってくれ。俺がその役目を代わってやるから」
「……ううん、大丈夫。そこまで甘える訳にはいかないよ。それなら証拠を見つけて欲しいな。私が踏み出せるきっかけになる証拠を」
「ああ……! 出来る限り、力を貸す!」
本当は、アルベールに助けを求めたかったんだろうな、俺は……。
俺達は屋敷に戻り、今度こそベッドで眠りに落ちた。




