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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
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五十一話 裏路地での再会

 

 部屋に入ると急に疲れを感じ、ベッドに倒れ込む。


「はぁ……」

「お疲れのようですね。ここは私がマッサージをしてあげますよ! どうですか?」


 こいつ、どこまでも……。


「いい……変な事されそうだし……」


 適当にコルネに返事を――。


「……何してるの」


 コルネは返事を待たずに、俺に覆い被さる形で、後ろから抱きついてくる。


「良いじゃないですか、誰もいませんし!」


 そういう問題では無いだろ。

 それに重いし、暑苦しいから離れて欲しいんだが。


「……エリカさん、今日はありがとうございました」

「え?」


 いきなり何だ?

 何かこいつに礼を言われる事したか?


「忘れたんですか? あの魔獣から、庇ってくれた時の事ですよ」


 ああ、あの時の事か。すっかり忘れていた。


「気にしないで良いよ。逃げようって指示した、私の判断ミスでもあるから」

「いえ、気にしますよ。だって自分のせいで大好きな人を危険に晒してしまったんですから。魔獣討伐の依頼を受けようって言ったのも私ですし……」


 まぁ、確かにそうだな。

 でも、俺にも全く非が無い訳じゃない。


「……それなのに、何でエリカさんは私を助けてくれたんですか?」


 何でって……そんなの決まっているだろ。


「コルネが危ないって、思っただけだよ」

「え? それだけですか?」

「うん、何か変だった?」


 コルネの返事が予想外で、そう思わず聞き返してしまう。


「い、いえ。ただ、そんな理由で、助けてくれたとは思ってなくて……」

「ふふ、何言ってるの? コルネだって、校舎の屋上での時、慌てて駆け寄ってきてくれたじゃない」

「あ……」


 俺はゆっくりと体を起こす。

 それにつられて、コルネも体を起こした。


「違う?」

「……確かにそうですね」


 コルネは小さく笑いを零す。

 何でこいつはそんな事を聞いてきたのだろうか。

 いつも変だが、今は一段と変な奴だな。


「じゃあ、また同じ様な事があったら、助けてくれますか……?」

「うん、もちろん……だけど極力、同じ様な場面には出くわしたくないかな」

「あは、確かにそうですね! でも、私的には、あの時のエリカさんがかっこよかったので、また助けて欲しいですね!」


 ……ったく、調子の良い奴だ。

 それから暫くして、水着姿のアリッサ達が部屋に戻って来た。

 マリーの着替えもいつの間にか部屋にあり、訳を聞くと、泳ぐ前に、あの執事に水着と一緒に持って来て貰ったらしい。

 そしてまた、風呂に入る為に、着替え等を持って、部屋を出て行った。

 その際、エルにルナを預かって欲しいと頼まれた。

 ルナはお疲れのようで、俺の腕の中で眠っている。


「そう言えばルナってオスですか? メスですか?」

「メスだよ」


 俺はルナの頭を撫でてやる。


「へぇ、メスですか。名前も相まって可愛いですね。飼い主は可愛くありませんが」


 一言多いなこいつ……。

 まぁ、今に始まった事では無いが。


「あ、起きた」


 ルナが目を開け、ドアの方を見る。


「ん? どうしたの?」


 そのまま、腕から飛び出し、完全に閉めていなかったドアの隙間から、廊下へと出て行く。


「え! 出て行っちゃいましたよ!」


 まずい、屋敷の中は広い。見失ったら面倒くさい。


「追いかけるよ!」


 慌てて、ルナの後を追う。

 ルナは1階へと下り、玄関から見て、左手の開いているドアの隙間から、中へ入って行く。

 俺達も慌てて、その中に入る。

 その部屋は、一際目立つダイニングテーブルが置かれていた。

 ここはダイニングだろう。

 ……もしかしてルナは……。


「あら、エリカちゃんに、コルネちゃん」


 奥のキッチンに続くであろう場所から、エプロンを着けたイザベラが出て来る。


「ちょっと待っててね。もう少しでご飯が出来るから……って、あら」


 ルナがイザベラの足に擦り寄る。

 やはり、腹を空かせていたのか。


「すみません、部屋を抜け出しちゃって」

「ふふ、良いのよ。お腹を空かせていたのね。待ってて、ちょっと早いけど、ご飯を持ってくるから」


 イザベラは再び、キッチンへと姿を消す。

 そして直ぐに、小皿にルナの飯であろう物を乗せて、戻って来た。


「はい、どうぞ」


 それを床に置き、ルナがそれをゆっくりと食べ始める。


「エリカちゃん達はもう少し待っててね。直ぐ出来るから」


 再び、イザベラは姿を消す。


「なんだ、お腹空いていただけだったんですね」

「みたいだね……」

「これからどうします?」

「うーん、ここで待っとこうか」


 俺達はダイニングテーブルの椅子に座り、大人しく待つ事にした。

 暫くして、他の面々もぞろぞろとダイニングに集まって来る。


「あれ、アリッサは?」


 だが、アリッサの姿だけ見当たらなかった。


「アリッサさんは、もう少し海が見たいって言って、外に居ますわ」


 結構泳いだろうに、まだそう思えるのか。

 よっぽど海が好きらしい。


「お、そーだ。エリー、今からちょっと出掛けねぇか?」


 そう、アッシュが話し掛けてくる。


「え? 今から?」

「ああ、クロウが買いたい物があるから、大通りに行きたいって言ってな。ほら、俺、まだ街を回って無かったからさ、ついて行こうって思ってな。それでエリーも一緒に来るかと思ってな」


 今からか……俺もしっかりと街を回れてないしな……。

 それにこうしてても暇だし、ついて行くか。


「うん、行くよ」

「エリカさんが行くなら私も行きます!」


 と、いつもの流れでコルネも行く事になった。


「クロウさんが行くんですか? じゃあ私も!」


 ……コルネと同じ様な理由で、マリーも行く事となった。


「じゃあ行こうぜ。クロウ、案内頼むな」

「うん、分かったよ」


 俺達は屋敷を出て、大通りに行く為に、住宅街へと向かおうとする。


「あんた達、どっか行くの?」


 その時、屋敷前の道に出たところで、浜辺から歩いてくるアリッサと出くわす。


「ああ、ちょっと大通りにな。お前さんも来るか?」

「やめとくわ。もう今日は疲れたし」

「そっか。じゃあ皆、行こうかこっちだよ」


 クロウはそう言って、住宅街の逆方向へと足を進める。


「そっち逆方向じゃないですか?」

「あ、こっちの方に近道があるんだ。だよね、マリー?」

「ええ、裏路地ですし、あんまり使う人は居ませんけどね」

「へぇ、面白そうじゃねぇか。行ってみようぜ」


 クロウの後をついて行き、住宅街とは逆方向の細い裏路地へと入って行く。


「薄暗いですね……」

「何か出そうだよな。例えば幽霊、とか」

「ゆ、幽霊……」


 コルネは身をすくめる。


「お、何だ、びびってんのか?」

「び、びびってなんかいませんよ!」


 そうは言うが……明らかにびびっている。

 意外だな、コルネがそういうのが怖いなんて。


「あ、そう言えば、ここの裏路地、海で指輪を無くした人の幽霊が――」

「や、やめてください!!!」


 マリーがそう言おうとした瞬間、コルネが声を上げ、かき消す。

 本当に怖いんだな……。

 と言うか、海で指輪を無くした人の幽霊って何だよ。

 亡くなってもいないじゃないか。

 十中八九、嘘っぱちだろ。

 そのマリーは、にやにやと怖がるコルネを見ている。


「やめなよ、マリー。コルネ、本気で怖がってるよ」

「すみません、反応が面白くて、つい」

「もう、勘弁して下さいよー」


 そんなたわいもない話をしながら、裏路地を進む。


『ふん、随分と呑気なものだな』


 その時、何処からか声が聞こえた。

 聞き覚えのある声が。

 アルベールの時とは違う、別の感情が湧いてくる声が。


「……! この声……!」


 コルネが辺りをきょろきょろと見渡す。


「! 皆さんあれを!」


 マリーが近くの屋根の上を指さす。

 そこに、その声の主は居た。

 忘れもしない、あの黒ローブの人物が。


「っ……お前は……ラグナロクの使徒の!」

「久しいな、エリカ・ライト」


 それは、声からしてSだ。

 まさかここで会うとは……!


「目的は何だ! 何でこの街にお前が居る!?」

「目的……そんなの決まっているであろう」


 Sはあの黒の剣を取り出し、鋒をこちらに向ける。


「……! エリー、下がれ!」

「え……?」


 アッシュが俺を後ろに引き戻し、前に出る。

 それと同時に、Sが屋根から飛び降り、剣を振り下ろす。

 その攻撃が、アッシュに襲い掛かる。


「フレイムボール!」

「!」


 寸前でコルネが魔法を放ち、Sを引き離す。

 俺は直ちに刀を取り出す。


「エリカさん! いきますよ! タイムストップ!」


 コルネが無詠唱でタイムストップを使用すると、Sの動きが一瞬止まる。

 俺がその好機を逃す筈も無く、Sに斬り掛かる。


「雀の構え初夏月!」

「遅い!」


 Sは剣で攻撃を受け止める。


「っ……」

「甘いな……!」


 刀が弾かれ、腹を蹴られて吹き飛ばされる。


「ぐっ……」

「エリー!」

「だ、大丈夫……」


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「こいつ……!」


 アッシュは双刃薙刀を取り出し、Sの前に立ち塞がる。


「退け、邪魔だ」

「退けって言われて、退く奴が居るかよ……!」


 Sへと薙刀を振る。


「……」


 Sは軽々と躱し、剣を振る。

 アッシュはそれを薙刀の刃で受け止める。


「おいおい、聞いてた話と違うじゃねぇか。すり抜けるんじゃねぇのかよ。その剣」

「ふん、貴様はこの程度で倒せる、そういう事だ」

「言ってくれるじゃねぇか……!」


 薙刀をくるっと回し、もう1つの刃で攻撃する。

 Sは顔を反らし、すれすれを刃が通り落ちる。

 危険を感じたSはアッシュから距離を取る。


「はぁ!」


 そこに追い打ちをかけるように、クロウが突っ込み、剣を振る。


「もう一度いきますよ! タイムストッ――」

「タイムストップ!」


 コルネがタイムストップを使う前に、Sがタイムストップでコルネの動きを止める。

 そして、瞬時にクロウの攻撃を受け止める。


「惜しい、だが、これまでだ」


 クロウの攻撃を弾き、剣を突くように構える。


「しまっ……」


 Sの剣はクロウの左胸を目掛け、突き進む。

 まずい、このままじゃクロウが――。


「させるかよっ!」

「……!」


 アッシュが危機一髪で薙刀をSに振る。

 Sはそれを剣を右手から左手に持ち替え、受け止める。

 またまた、軽々と弾き、距離を取る。


「ちっ、これだけやって息一つあげねぇのかよ……」

「ふ、力量の差、という事だ」


 このままじゃまずい。

 悔しいが、今の俺達では、こいつには敵わない……。

 ここは潔く逃げるしか――。


「……!」


 その時背後から、ぴきっと何かが割れる音がした。

 ゆっくりと背後を振り返る。


「え――――」


 ――亀裂だ。あの時の。


「くっ……!」


 あの時と同じ様に、吸い込まれる……。



「エリカさ――――」


 吸い込まれる寸前、そうコルネの声が聞こえ、手を伸ばすアッシュの姿が――――。


「……ん、ここは……」



 気付いたら、裏路地とは別の場所で天を仰ぎ、倒れていた。

 ゆっくりと立ち上がり、周りを見渡す。


「園庭……?」


 そこは前の禍々しい空間とは違い、華やかな園庭だった。

 鳥のさえずりが聞こえ、蝶が優雅に飛んでいる。

 本当に同じタルタロスなのか疑ってしまう。

 そして、どうやら吸い込まれたのは俺だけのようだ。

 恐らく、皆と距離が離れていたから、俺だけが吸い込まれてしまったのか……。


「取り敢えず……進んでみるか……」


 ゆっくりと園庭を歩く。


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