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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
50/127

四十九話 魔獣狩りのサリヴァン

 

「……これで大丈夫」


 少女がコルネの治療を終え、そう告げる。

 手際が良く、ほんの数分で治療は終わった。


「軽い打撲だったけど、回復魔法で治したらから、心配しないでいいよ」

「ありがとうございます!」


 コルネが元気良く、お辞儀をする。

 本当にもう大丈夫そうだな。良かった。

 まぁ、それはさておき。


「あの、それで貴方達は?」


 そう、さっき聞きそびれた、この男性と少女の事だ。


「あ、確かに、ちゃんと名乗ってなかったね。じゃあ改めて……こほん、私はノーラ――ノーラ・ルイス! それでこっちの物静かな人が、アグレさん!」

「……アグレ・サリヴァンだ。魔獣の叫び声を聴いて、助けに来た」

「アグレ・サリヴァン……もしかしてあんた、あの魔獣狩りのサリヴァンか?」


 二人が名を名乗った後、アルベールがそう聞いた。


「凄いね、アグレさん! アグレさんの事、軍の人にも知られてるよ!」

「どうでもいい。別に名を上げようと、やってる訳じゃない」

「えぇー、折角なんだから喜ぼうよー!」


 一人で舞い上がっているノーラを顔色一つ変えず、アグレが軽くあしらう。


「そ、それで、魔獣狩りのサリヴァンってのは?」

「……あ!」


 コルネが少し考え込み、口を開く。


「……魔獣狩りのサリヴァン……聞いた事があります。帝国各地のギルドで、危険度の高い魔獣討伐依頼を解決しまくってるってるって……他にも、あのドラゴンを倒したって噂もある人ですよね、確か」



「……買い被りすぎだ。その噂は事実無根、それにそう名乗ったことも無い」


 周りが勝手に言ってるだけ……という事か。

 だが、そんな噂を流される程度には強い、それは確かだ。


「次はお前達の名を聞かせて欲しい」

「私はコルネ・アゼリアです!」

「エリカ・ライトです」

「エリカ・ライト……そうか、お前が……」


 そうアグレが小さく呟く。


「え?」

「……いや、お前があの国家魔法師の娘かと思ってな」


 ああ、そういう事か。


「国家魔法師って確か、帝国で一番強い魔法師だよね?」

「……ざっくり言えば、そうだ」

「ええ!? じゃあエリカも強い魔法師なの!?」

「私はまだまだですよ。足元にも及びません」

「そんなことは無いさ。エリカだって、充分に魔法師の素質はある」


 アルベールがそう言ってくれるのは嬉しいが、素質があっても、それを生かしきれなければ無意味だ。

 さっきも言った通り、今はまだエレナの足元にも及ばないだろう。


「それでそっちの軍の人は?」

「失礼しました。俺は帝国第五陸軍所属の、アルベール・ハーシェルです。よろしく頼みます」

「随分と若いようだが、新兵か?」

「ええ、今年配属されたばかりです」


 そう言えば、何でアルベールはここに来たんだろうか。

 まぁ、助かったから良いが……一応聞いておこう。


「何でアルベールは来てくれたの?」

「ああ、まだ言っていなかったな。お前達と別れた後、ここの魔獣の事を思い出してな。魔獣討伐依頼を受けたって聞いたから、万が一、ここの危険度の高い魔獣を討伐しに行ったいたらやばい、と思って来てみたら、エリカが襲われていたって訳だ」

「そうだったんだ……ありがとう、アルベール。本当に間一髪だったから、助かったよ」

「気にするな、お前が無事で良かったよ」


 ……変わらないな、アルベールは。


「それにしても、まだこんな魔獣の依頼があったとはな……依頼内容はどんなだった?」

「小型の鳥魔獣を討伐って依頼でした」

「あの依頼か……報酬金は高いなとは思っていたが……次からはちゃんと確認するか……すまん、お前達を危険に晒したのは自分の責任だ」


 アグレはそう言って頭を下げる。

 何でこいつが謝るんだ。こっちは助けて貰った側なのに……。


「アグレさんのせいじゃないよ。依頼の書き方が悪い、ギルドが悪いんだよ!」

「それはそうだが……俺が先に気付いておけば、無駄な危険は避けられたかもしれない……やはり、自分のせいだ」

「もう! そうやって何時も自分を卑下する! アグレさんの悪い癖だよ?」


 アグレとノーラは言いあっている。


「そ、そんな事より、早く街に帰りませんか? お2人もオラシオンから来たんですよね?」

「あ、そうだね。皆、疲れてるもんね……」

「……そうだな、帰るとするか。歩けるか?」


 アグレがそう、俺達に聞いてくる。


「はい、大丈夫です」

「私も大丈夫です!」

「そうか、なら行こう」


 俺達はアグレの後をついて行き、街道を戻る。


「ノーラさんは医者の娘さんなんですね。さっきも手際が良かったのも、頷けます」


 街道を歩いている途中、身の上話になった。

 ノーラは王国出身で、医者の娘らしい。


「ふふ、そんな堅苦しい喋り方じゃなくていいよ。歳も近いみたいだしね。それと、ノーラで良いよ」

「うん、分かったよ。ノーラはアグレさんと旅をしているんだよね? アグレさんとは長いの?」


 ノーラは冒険者のアグレと一緒に、帝国を旅して回っているらしい。


「うーん、かれこれ三年ぐらい一緒に居るかな? アグレさんが私が住んでた街に来たのがきっかけだったかな」

「へぇ……三年も一緒に居たら、そういう事もあるんじゃないですかぁ?」

「そ、そんな事無いよ! アグレさんはそういう事は興味無いし……私にも無関心だし……」


 ノーラはコルネの問いに、顔を赤めながら答える。


「……止まれ」


 アグレが背中に担いでいる太刀に手を掛け、急に立ち止まる。


「魔獣?」

「ああ、下がっていろ」


 そう言った数秒後、狼型の魔獣が五体、近くの茂みから出て来る。

 全く気付かなかった。やはりやり手だ、この男……。


「数は多いですけど、雑魚ですね! 私がちょちょいと倒してあげます!」


 コルネがそう言って、長銃を取り出そうとする。


「下がっていろ!」


 だが、アグレが声を荒げ、コルネを睨みにつける。


「え、は、はい……」

「……すまない……」


 アグレはそう一言だけ呟き、大太刀を引き抜き、右手だけで軽々と構える。

 そして、間髪入れずに、魔獣の群れへと突っ込んで行く。


「大丈夫なのか、一人で……」

「心配要らないよ。アグレさんはめっっちゃ強いから!」


 ノーラの言う通り、心配無いだろう。

 あの力量なら、直ぐに終わる。

 その予想の通り、アグレと魔獣の群れの戦いは呆気なく終わった。

 いや、予想を通り越して、凄かった。

 なんと、アグレが群れに突っ込んで行き、駆けたままの太刀の一振で、魔獣五体、全てを倒した。

 魔獣が一斉にアグレに飛び掛ったところを斬り殺したのだ。

 気付いた時には、太刀を鞘に納め、こちらに戻って来ていた。


「す、凄い、五体の魔獣を一度で……」

「やっぱり凄いね、アレグさん!」

「相手が弱かっただけだ。行こう」


 アグレは何事も無かったかのように、再び歩き出す。

 それを同じような様子で、ノーラが後を追う。

 どうやら、二人の間ではこれが普通らしい。


「……太刀を振ったところ、見えなかったです……」

「ああ、なんて腕だ……」


 恐らく、いや十中八九、こっちの反応の方が正しいのだろうな……。

 呆気に取られていた俺達も後を追う。

 十分程歩いて、街に到着した。


「それじゃあ、今度こそ、俺は持ち場に戻らせてもらう。アグレさん、ありがとうございました」

「気にするな」

「はい、では……」


 アルベールと別れ、冒険者ギルドに向かう。


「……はい、確かに、依頼達成確認しました。こちらが報酬金です」


 ギルドの受付で三十分くらい、色々な手続きを踏んでやっとの事、報酬金を手に入れた。


「それと、この度は申し訳ございません。依頼書に不備があった事、上に伝えておきます」

「ほんとですよ! 災難だったんですからね!」

「はい、承知しております」


 受付嬢は、丁寧に頭を下げる。

 いや、金に目が眩んだコルネも悪いだろう。

 まぁ、何にせよ、これでやっと終わった。肩を落としながら受付を離れる。


「……そっちも終わったか」


 出入口付近に居たアグレ達に声を掛けられた。

 アグレはそう言いながら、懐に、報酬金が入った袋を仕舞う。

 彼等も何か依頼を受けていたのか。


「今日はありがとうございます。あの、この報酬金は……」


 そう言って、俺はさっき貰った報酬金を渡そうとする。

 依頼された魔獣を倒したのは、アグレだ。

 俺達が受け取る資格は無い。


「要らない、それはお前達が受けた依頼の金だ。それに自分は、金が欲しいからやっている訳では無い」


 だが、そう言われてあっさり断られた。

 ……まぁ、相手がそう言うなら……。

 俺は渋々、報酬金を仕舞う。


「……じゃあこれで……改めて、今日はありがとうございました」

「今度からは気を付けろよ」

「はい、と言っても、これっきり受けないと思いますけど……」

「そうか」

「はい、では……」


 俺とコルネは建物を出て行こうとする。


「……待て」


 その時、アグレに呼び止められる。


「何ですか?」

「さっきとは別で忠告しておく。傭兵団『紺碧(こんぺき)の月』には気を付けろ。最近ここらを彷徨いているらしい」


 紺碧の月……金を受け取れば、どんな汚い仕事で引き受ける、と噂の帝国の傭兵団だ。

 来ているのか、この街に。

 恐らく会うことは無いだろうが、アグレの言う通り、気には止めておく事にする。

 それにしても何で、それを俺達にわざわざ言ってくるんだ……?


「何でそれを私達に?」

「奴らは危険だ。近寄らない方が良い。それを忠告しておこうと思っただけだ。他意は無い。不快に思ったなら、謝る」


 ……どうやらアグレは善意で話してくれたらしい。

 潔く、忠告を受け取っておこう。


「分かりました、ありがとうございます」

「ああ、またな」

「じゃあね、エリカ、コルネ!」


 俺達は今度こそギルドを後にして、屋敷へと戻る。


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