四十八話 グリフォン戦
倒す必要は無い。隙を作ればいい。
だから、首ではなく、脚を狙う。
「はぁっ!」
グリフォンの脚に刀を振る。
だが、グリフォンは高く飛び上がり、それ躱した。
そして、こちらを目掛けて、急降下してくる。
避ける……いや、間に合わない。なら……。
カミラの言葉が脳内を過る――――。
『基本、四方一刀流は名の通り、四つの構えがあります。それぞれの構えは、攻撃、速度、防御、バランスと、コンセプトが違っています。先ずはエリカさんに、各構えの初歩技を習得してもらいます。最初は、相手の攻撃を捌く構え、武の構え――』
そう、いま使うべきは、この構え……。
刀を鞘に納め、柄に手を掛ける。
「四方一刀流、武の構え……」
グリフォンが鋭利な爪を剥き出しにして、急降下の勢いで攻撃してくる。
「冬隠!」
素早く刀を引き抜き、グリフォンの攻撃を弾く。
バランスを崩している、今がチャンスだ。
俺は直ぐに攻撃へと切り替える。
『そこから素早く攻撃へと切り替え、相手の意表を突く、雀の構え――』
飛んでいるグリフォンの下に潜り込み、刃を上に向け、素早く斬り上げる。
「雀の構え、夏初月!」
当たった、そう思ったが、グリフォンが翼を大きく動かし、自分の足元に風を巻き起こす。
「くっ……!」
思ったより体制を立て直すのが早い……!
俺はその風に吹き飛ばされ、尻もちを着く。
そんな姿を見たグリフォンは、追撃で炎を吐く。
俺は寸前で転がって躱した。
だが、グリフォンの攻撃は止まらず、今度はこちらを目掛けて突っ込んでくる。
「エリカさん!」
コルネが弾を三発、撃ち出す。いずれもグリフォンの頭部にヒットさせる。
グリフォンはそれで動きを止め、コルネに標的を変える。
「まだまだいきますよ! 『メガサンダー』『ウォーターキャノン』『フレイムボール』!」
大きな雷、水砲、炎球、と中位魔法を詠唱無しで、連続で発動する。
凄い、あんなに魔法を……。
魔法を受けたグリフォンは、堪らず地に足を着く。
「グリフォンの動きが止まりました! 今です、エリカさん!」
俺は頷いて、立ち上がり、刀を構える。
『時に、守りが硬い、タフな相手と対峙した場合、そこは、強力な攻撃で相手を翻弄する、虎の構えです。ただ、隙が大きいので、使い所には注意です』
柄を上に、鋒を下に……。
「……虎の構え……」
見極めろ、今の技量じゃ、首は落とせない。脚を狙っても、あの風を何とかしなければならない。
だったら狙う部位は一つ。
「秋水!」
一瞬で距離を詰め、刀を振るい上げる。
「――――」
――片翼を切り落とし、グリフォンの悲鳴を聴く。
グリフォンはもがき苦しんでいる。
「今だ! 逃げるよ、コルネ!」
「はい!」
一刻も早くこの場を離れようとしたその時――。
「……! コルネ! 後ろ!」
「え――」
なんと、グリフォンが立ち上がり、雄叫びを上げながらコルネを背後から襲おうとした。
「うぐ……」
俺はコルネを突き飛ばし、代わりにグリフォンの前足で、地面に押し付けられる。
「エリカさん!」
コルネは魔法と長銃で攻撃する。
「エリカさんを離せ!」
だが、グリフォンは一切動じず、残った翼で風を起こし、コルネを吹き飛ばす。
「あうっ!」
吹き飛ばされたコルネは木に背中を思いっ切りぶつけ、蹲っている。
しくじった、さっきコルネを突き飛ばした時に、刀を手放してしまっている。おまけに、腕も押さえ付けられているから、銃を取り出す事も出来ない……。
……くそ! あの時、背中を見せずに、追撃するべきだった。
ここまでなのか……こんなところで死ぬのか、俺は……。
グリフォンが嘴を開き、炎を吐き出す準備をする。
駄目だ。今回ばかりは打つ手が無い。
俺は諦めて、目を瞑る。
…………いや、諦めては違うな、きっと怖いんだ。死ぬのが。
実を言うと、こんな大して思い入れの無い世界なら、いつ死んでもいいと思っていた。
でもいつの間にか、この世界で精一杯、生きてみたい、そんな事を考れる様になっていた。
段々と炎の熱が伝わってくる。
ああ、あそこでコルネを何としてでも止めるべきだった。
何時でも逃げれる、そんな甘い考えを辞めるべきだった。
だが、終わった事を今更どうこう言っても変わらない。
俺がここで死ぬと言う結末も。
……やっぱり、最後まで立ち向かおう。死と言う恐怖に。
どうせ死ぬなら、逃げずに立ち向かう。そうしたいと思えた。
ゆっくりと目を開ける。
グリフォンの嘴が大きく開き、炎の溜められている。
一撃で殺すつもりだろう。さっきの炎とは比べ物にならない熱気だ。
遂にその炎が解き放たれようとする。
……こい、覚悟は出来てる。
嘴が更に大きく開き、炎を吐き出す――――。
「させるかっ!」
――――それは一閃だった。聞き慣れた声が聞こえ、グリフォンの体の側面を、上半身から下半身へと掛けて、何かが通った。
グリフォンは悲鳴を上げ、俺から離れる。
拘束も解け、上半身を起こす。
「大丈夫か! エリカ!」
そう言って、アルベールが手を差し伸べてくる。
「アル!? 何でここに!?」
俺は戸惑いながらも、アルベールの手を取り、立ち上がる。
「話は後だ! あれを倒すぞ!」
アルベールはそう言って、槍を構える。
「エ、エリカさん、無事……ですか?」
コルネが苦しみながら、こちらにふらつきながら歩いてくる。
俺はコルネに肩を貸す。
「大丈夫!?」
「は、はい、なんとか……」
「お前達は下がってろ。俺が仕留める」
アルベールは俺達に背を向けて、グリフォンと対峙する。
無茶だ。あいつは一人で倒せる相手じゃない。
「私も戦うよ! アルだけじゃ、無茶だ!」
「一般人を守る。それが俺の……軍人としての仕事だ」
アルベールはゆっくりとグリフォンに歩み寄る。
「来い、俺が倒してやる!」
グリフォンは再度雄叫びを上げ、アルベールに突っ込んでいく。
「はぁっっ!!」
アルベールも槍を突き出し、グリフォンへと距離を詰める。
まずい、このままじゃアルベールが殺られる。
止めたい、その一心でコルネから手を離し、アルベールの背中を追う。
止める、何としてでも――。
「――疾影大太刀流、一の型、閃雷!」
一瞬だった。そう、男の声が聞こえ、何かが目に追えないスピードで前を通る。
数秒時が止まった、そんな感覚を覚えた後、グリフォンが断末魔を上げ、首が落とされる。グリフォンの首が、だ。
やがて体も力を失い、ばたりとその場に崩れ落ちる。
「……大丈夫か、お前達」
先程と同じ声でそう、言葉が聞こえた。
声の主を見ると、黒のスボンを着用し、黒のTシャツの上に赤黒色のロングコートを羽織おっている、黒茶色のロング髪が特徴的な、高身長の男性だった。
さっき振るったであろう太刀を鞘に納めながら、こちらに近付いて来る。
「怪我は無いか?」
落ち着いた、静かな声色でそう聞いてくる。
「え、は、はい……えっと、貴方は?」
俺は戸惑いながら、そう聞いた。
「自分は――」
「はぁ……はぁ……やっと追いついた……もう! 先に行かないでよ!」
そう、男の言葉を遮るように、茂みから人影が出て来る。
クリーム色の髪をボブカットにして、躑躅色の上着に、白のトップス、灰緑色のスカートを履いて、茶色革のリュックを背負った少女だった。
肩で息をしながら、男性に近付く。
「速いよ! アレグさん! って、この魔獣は?」
少女は消滅しかけている、グリフォンの死体を見る。
「こいつらを襲っていた魔獣だ。それよりもノーラ。こいつらを診てやってくれ」
「怪我人?」
「いや、一応だ」
「うん、分かったよ!」
アレグと呼ばれた男性と、ノーラと呼ばれた少女は勝手に話を進める。
「エ、エリカさん、酷いですよぉ……私を放り出すなんて」
その時、コルネがゆっくりとこちらに歩いて来る。
……すっかり忘れていた。
俺は慌ててコルネに肩を貸す。
「そっちの女、怪我してるみたいだな。先に頼む」
「うん、分かった!」
俺はノーラと呼ばれる少女の指示で、木陰にコルネを連れて行った。




