四十五話 街中
そうスカートの裾を摘み、お辞儀をする。
……薄々見当はついていたが、まさか本当だったとは……。
「リディア卿、それにアリッサ卿とオレット卿もお久しぶりです」
「え、ええ、お久しぶりです。まさかクロウさんの知り合いが貴方だったとは……」
「いいえ、知り合いではありません。婚約者です!」
「こ、婚約者!?」
リディアが驚く。
クロウの反応を見る限り、とてもそうとは思えないが……。
「ち、違うよ! マリーが勝手に言ってるだけだから!」
「うぅ……酷いです……初めてのモノを奪っておいて」
「は、初めてのモノ……」
「はい、私の初めての恋心を」
……そりゃそうだ。
そうじゃなきゃ、マリーはクロウに惚れてないだろう。
「中々変わった人ですね……」
コルネ、お前は人の事言えないだろ。
「そ、そんな事より! 何で母さんが迎えに来る筈だったのに、ルーデッヒさんが迎えに来たの?」
「マリーちゃんにクロウが帰ってくる事を言ったら、迎えを出すって言ってくれてね。甘えちゃったわ」
「甘えちゃった、じゃないよ! 僕達の為だけに、わざわざ来てくれた、ルーデッヒさんに悪いよ!」
「でも、殿下もいらっしゃるのよ? それならマリーちゃんに頼むのが良いと思ったんだけど」
「う……それはそうだけど……」
クロウとイザベラは言いあっている。
「そんな事どっちでもいいだろ。それよりもここじゃ、通行人の邪魔になる、早く行こうぜ」
「あ、そうだね……えっと、母さん、皆を泊める所は家だよね?」
「ええ、流石にそこまでお世話になる訳にはいかないわ」
「私は良いって行ったんですけどね」
まぁ、本人がそう言っても、気が引ける。
王族の屋敷でなんて、落ち着いて寝れやしない。
執事を迎えに来させてる時点で、充分世話になってる気がするが。
「それじゃあ道すがら、街を案内するわね。ついてきてね」
俺達はイザベラの後をついて行く。
今居る西門から、店等が並ぶ中央通り、住宅街と通り、街の東に位置する、港等がある海辺通りへと到着した。
「どう、良い街でしょ?」
「ええ、海や、街並みも綺麗、それに加えて活気も溢れている、良い街です。話でしか知らなかったので、来れて良かったです」
「へぇ、お堅い奴かと思ってたお前さんから、そんな感想が聞けるとはねぇ……」
「心外だな、僕だって、人並みぐらいの感想は言える」
「誰だって思うわよ、この街を見たら。よっぽど、この街を治めてる人が立派なのね」
アリッサはそう言って、マリーに話を振る。
「あら、お上手ですね、アリッサ卿」
「グレスティア家の今の当主は、マリー卿の祖父でしたね。確か、両親は十年前に……あ……」
オレットはそう言いかけて、慌てて口を塞ぐ。
グレスティア家の現当主は、フランク・フォン・グレスティアだったか。
十年前に元当主、つまりマリーの父親、エルトン・フォン・グレスティア、及び母親のテア・フォン・グレスティアが亡くなってから、再び当主として、イースヴェル州を収めていると聞いている。
確か、二人の亡くなった理由は暗殺……。
「ちょっと、兄貴」
「す、すまん……」
「いえ、お気になさらず。事実ですから」
「……そう言えば、何でお前さんもついてくるんだ?」
「言ってませんでしたっけ? 皆様が滞在中、私もクロウ様のお家にお邪魔させて頂きますの」
「え!? そうなの母さん!?」
「ええ、そうよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてないよ!」
……何はともあれ、マリーもクロウの家に泊まるようだ。
「まぁ良いじゃない。賑やかな方が楽しいわ」
「それはそうだけど……はぁ、もういいや……」
そんなたわいない話をしながら、海辺通りを歩くと、海水浴場前にある立派な屋敷に着いた。
「ほう、これがクロウ君の家か。中々立派だね」
「そーだな。あの堅物のおっさんの事だから、もっと質素な家だと思ってたな」
「だからあんたは毎回失礼なのよ……」
俺達は二階の部屋に案内された。
男女一部屋ずつ与えられ、後で合流する事になった。
「私、エリカさんの隣が良いです!」
部屋に入って、荷物を整理していると、そうコルネが声を上げる。
恐らくは寝る時の話だろう。
部屋にはダブルベッドが四つあり、最大八人まで寝れるようになっている。
「まぁ、いつも寝てるから良いけど……」
「ありがとうございます!」
「じゃあ私は――」
「クロウと寝る、ってのは無しよ?」
「な、何で分かったんですか……」
「そりゃ分かるわよ。あんたはベッド一つ丸々使っていいわよ。エル、あんたは?」
「……出来るなら、私も一人が良い。寝相、悪いから」
「そ、分かったわ」
「なら、アリッサさんは私の隣ですね」
リディアは嬉しそうにそう言った。
「……そ、そうね……寝る場所も決まった事だし、早く行きましょ、皆が待ってるわ」
アリッサは部屋を出て行く。
「……やっぱり、アリッサさん、私の隣、嫌なんですかね……」
「うーん、どうかな。アリッサって素直じゃ無いからね」
恐らくあれは、照れ隠し、と言ったところか。
俺達も1階の玄関ホールへと向かった。
「エリカ君達、待っていたよ」
「…………」
玄関ホールには既にアッシュ達、そして、大きな浮き輪を抱えた水着姿のユリウスが居た。
どうやら泳ぐ気満々の様だ。
「えっと……殿下、その格好は?」
だがそう分かっていても、反応に困る。
リディアとアリッサも口を開けて、固まっている。
「何って泳ぐのさ。皆は泳がないのかい?」
「私は遠慮しておきます……」
「えぇー!? エリカさん泳がないんですか!?」
「う、うん、私泳げないから……」
「そんなぁ……」
……前にもこんなやり取りをした覚えがあるな……。
「そうか……無理強いはしない。他の皆はどうかな?」
「私は、行く。海綺麗だから」
そう名乗りを上げたのはエルだ。
「それじゃあ、私も……」
「……はぁ、あたしも行きますよ、殿下」
「エリカさんが行かないなら、私も行きません!」
そう三人が返事をした。
「マリー君は?」
「クロウ様も来られるのですか?」
「ああ」
「行きます!」
マリーは即答する。
「そうか、なら決まりだ! 浜辺で待っているから、着替えて来てくれ!」
ユリウスは元気満々に、屋敷を出て行く。
海に行くメンバーも玄関ホールを後にし、再び部屋へと戻って行った。
「エリカさん、これからどうしましょうか?」
そして玄関ホールに残ったのは俺とコルネの2人だけだった。
「そうだね……じゃあ街の中でも見て回ろうか」
「え、それって……エリカさんとデートって事ですね! 早く行きましょう! 今すぐ行きましょう! 一刻も早く行きましょう!」
コルネはそう言って、俺の手を引っ張る。
「分かった、分かったから! そんなに引っ張らないで!」
引きずられるままに屋敷を連れ出され、大通りへと向かう。




