表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
44/127

四十三話 意思

 

「エリカさん、腰が抜けてますよ!」


 そう喝を入れて、カミラが木刀を振り下ろしてくる。


「くっ……はぁ!」


 それを間一髪のところで、木刀で受け止め、押し返す。


「やりますね、なら、これは受け止められますか……!」

「っ!?」


 瞬時に懐に飛び込んでくるカミラに、慌てて木刀を構え直す。

 完全に受けに入っていた。でも、予想もしていない方法で防御は崩された。

 木刀を逆手持ちにし、柄の方で鋒を受け止め、鋒で柄の方を突き上げる。

 俺の木刀は宙を舞い、一回転して、カミラの背後に、からんからん、と音を立てて、訓練所の床に落ちる。

 また、負けた。


「……参りました……」

「まだまだですね、エリカさん」


 カミラはさっきの真剣な表情が嘘みたいに、優しく微笑みながら、そう言う。

 くそ、やはり簡単には勝てないか……。

 ……何で俺とカミラが手合わせをしているかと言うと、それは、今から三日前に遡る。

 リリーの一件から、一週間後、俺は再び、カミラに職員室に呼び出された。

 そこで、改めて礼がさせて欲しいと、申し出られた。

 リリーの事件に向き合えたのは貴方のおかげ、と付け加えられて。

 それで俺は、カミラが使う、四方一刀流を教えて欲しいと頼み、この三日間、彼女の空き時間にこうやって手合わせをしてくれている。

 だが、自分の流派の技を教えると言う事は、弟子をとると言う事。そんな易々と承諾はしてくれなかった。

 そこで、一本でも、カミラから取れたら、弟子にしてくれると、言う条件が出された。

 なのだが……その一本すらも取れない、状況が三日間続いている……。


「ふぅ……これでは、私が弟子をとる日が遠くなりそうですね……」

「…………」

「……エリカさん、何故私に剣を教えて欲しいと頼んだんですか?」

「それは……」

「もしかして、一ヶ月前みたいな事が起こった時に対処する為……なんて事は考えてませんよね?」


 ……図星だ。

 あの時、俺がもっと強ければ、奴らを捕らえれていたかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられなくなる。

 それに、ユリウスと約束した。奴らを捕らえると。

 そうなると正面激突は不可避だ。

 もっと強くならないと……。


「その表情、どうやら当たりみたいですね。だったら、私から一本を取ったとして、私は貴方を弟子にとるつもりはありません」

「っ…………」

「……一日、よく考えて下さい。明日、改めて答えを聞きます」


 カミラはそう言い残し、訓練所を出て行った。

 ……弟子をとるつもりはない……か。

 やっぱり、俺には剣の道は無理だったのか……。

 まぁ、あっちの世界でも、半年程しかやってなかったしな……。

 それにカミラは腕云々より、何故弟子にして欲しいか、その理由の方を重要視しているみたいだしな……。

 そもそもこの学校に入学した理由だって……。


「お疲れ、その様子じゃ、今日も教官に勝てなかったか」


 その時、クリスが訓練所に入って来た。


「はい……すみません、無理言って、この場所を譲って貰っているのに」

「気にするな。うちの馬鹿が、とんでもない事をやらかしたみたいだしな。まぁ、流石のあいつもこれで懲りただろう。二学期始まってから、二ヶ月間の停学処分……そう言う話はいいか。どうだ、一つ、手合わせ願えるか?」

「……はい」


 俺はクリスと手合わせをした。

 結果は俺の完敗。手も足も出なかった。


「……基本的な立ち回り、技術なんかは、下の中と言ったところだな。ま、そこら辺は大きな問題じゃない。これから学んでいけばいい話だしな。問題は……剣が軽い事だ」


 剣が軽い……。


「ライト、お前の太刀筋には力が篭って無い。まるで、練習用の人形に一方的に剣を打ち続けているみたいな感覚だ。はっきり言うと……剣にかける意思が無い、そういう事だ」


 ……前にシフィーが言っていた事を思い出す。

 剣は心を映す……馬鹿馬鹿しい精神論だと思っていたが、あながち間違ってないようだ。


「このままでは絶対に教官には勝てない。俺はそう思う」

「そう、ですよね……」

「……すまん、少し強く言い過ぎたな……俺はもう帰るが、どうする、お前も帰るか?」

「……いえ、もう少しだけ、います」

「そうか。なら、戸締りを頼む」


 クリスは訓練所の鍵を渡し、訓練所を出て行った。

 静かに、床に座り込む。


「意思が無い、か……」


 そりゃそうだ、俺には何も……。


「おっーす! 調子はどうだエリー……って」


 また、誰かが中に入って来る。

 今度はアッシュだ。

 暇だから、俺の様子でも見に来たんだろう。


「こりゃ、随分落ち込んでるな……今日もカミラ教官にきっちりボコられたか?」


 アッシュは半笑いでそう言い、隣に座ってくる。


「ん、今日はやけにテンション低いな……どうした? 何かあったのか?」

「…………」


 俺は、自然とアッシュに今日の事を話した。


「なるほど……意思が無いねぇ……」

「……言われた時、その通りだと思った……時々思うんだ、何でこの世界で生きてるんだろうって。何でこの世界で存在してるんだろうって……」


 そう、剣のことだけじゃなく、この世界で生きてる理由も、中途半端な物だ。

 ただこの世界で生きてるから、生きてる。そんなちっぽけな……。


「……なぁ、エリー、生きてるのに、特別な理由がいるのか?」

「……え?」

「ここで生きてるから、生きてる。存在してるから、存在してる、それで良いじゃねぇか。何で特別な理由を探してるのか、そっちの方が俺には分かんねぇよ」


 …………そう、か…………何で俺はそんなしょうもない事を考えて……。


「きっと、エリーは焦ってんだよ」

「焦ってる?」

「ああ、このまま、何も残せず、ちっぽけな存在のまま、生きて行く事にな。多分、本当はこう思ってるんじゃねぇか? 『自分だけの生きてる居場所が欲しい』って」

「自分だけの……生きてる居場所……」

「そう、そんな理由で良いんだよ。生きてる……生きる理由

 なんてさ。誰かに認められたい、偉くなりたい、それで良いんだよ」


 ……そっか……そんなしょうもない、身近な理由で良いのか……。


「剣の事だって一緒だ。エリー、お前さんは何でカミラ教官にそう頼み込んだ? 大きな理由じゃねぇ、もっと根本的な、小さな理由だ」

「……強くなりたい……」


 そうだ……元を正せば、強くなりたいって理由だ。


「それで良いんだよ、それで。カミラ教官は、誰かの為じゃねぇ、エリーにとっての自分の為の理由を求めてたんじゃねぇかな」


 ……そうだ、俺はこの世界に来ても誰かの為、誰かを助けよう、そんな事ばかり考えていた。

 自分の事を考えずに、あの時も……。

 ……もしかして、一ヶ月前、カミラが怒ったのも、そういう理由だったのか……?

 他人の為に、安易に自分の命を放り出すな、そうも言いたかった……。


「……ありがとう、アッシュ、道が見えた気がする」

「へへ、気にすんな……よし、おまけに、いっちょ、俺もお前さんに稽古を付けてやるぜ!」


 アッシュは勢い良く、立ち上がる。


「ほら、立てよ」

「……もしかして、剣の?」

「当たり前だろ、それ以外に何があるってんだ」

「出来るの?」

「任せろ、知り合いから、教わった事がある。ま、少し、かじった程度だけどな」


 アッシュは俺を引っ張り上げる。


「……じゃあ、お願いするね……あ、言っておくけど、私、本当に弱いから」

「そんなの百も承知だ。半年、同じクラスで、同じ班でお前の事見てるんだぜ?」

「……ふふ、そうだったね」

「んじゃ、早速始めんぞ!」


 俺達は日が暮れるまで、剣をぶつけ合った。

 稽古もくそもない、ただの打ち合い。

 でもそれが何故か、自然と楽しかった。

 ……そして翌日。

 俺はまたカミラと共に、訓練所へとやって来た。


「……ではエリカさん、改めて聞かせて貰います。何故貴方は、剣を振るうのですか?」


 ……そんなの決まっている。


「強くなりたいからです。誰かの為じゃない、誰かを捕まえる為じゃない。ただ自分自身の居場所を探す為に」

「…………」


 ほんの数秒、間が生まれる。

 そして、ゆっくりとカミラが口を開いた。


「……合格です。エリカさん、貴方を弟子として認めます」

「あ、ありがとう……ございます! じゃあ後は、カミラ教官から一本取るだけですよね?」

「あ、それはもういいんです」


 え? そっちはもういい?


「ど、どういう事ですか?」

「簡単な事です。端から、私から一本を取れるなんて思ってないですから」


 ……ああ、そういう事か……。


「……もしかして、私にそれを気付かせる為に……?」

「はい、私の目に映ったエリカさんは、自分の事がどうでもいい様な様子をしていました。何とかしてあげたいと思いましてね」


 まんまと掌で転がされたって訳だ。

 そう思うと、腹が立つ。


「まぁ、何にせよ、これからエリカさんは、私の弟子……四方一刀流を受け継ぐという事になります。覚悟は出来ていますか?」

「はい、無論です」

「では……こほん、エリカ・ライト、貴方を四方一刀流、初伝として、皆伝、カミラ・フローレンスが認めます……私の稽古はキツイですよ? ちゃんとついてきてくださいね?」


 こうして俺は、カミラの弟子として認められた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ