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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
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四二話 真相

 

「二年前の七月十八日、夕方から夜にかけて、この屋上から1人の生徒が飛び降り、自殺した。その生徒の名前はリリー・サンチェス。翌日の朝、この学校の教官であるカミラ・フローレンスが、発見した。発見場所は、校舎と寮を結ぶ道の茂み近く、正門から見て校舎右前だ……手短に話したが、大丈夫か?」


 その場にいた全員が頷く。


「……次にいくぞ。だが、俺やエリカはその自殺という結末に疑問を抱いた。そのきっかけとなったのが、彼女の死体が仰向けで倒れていた事。自殺なら、地面の方を向いて、つまり、うつ伏せで発見されないと不自然だ。わざわざ、後ろを向いて、飛び降りようとはしないからな」


 そうだ。

 怖いからわざと、後ろを向いて飛び降りたという可能性もあるが……後ろを向いたまま飛び降りるのは、前を向いて飛び降りるよりも、恐怖があるだろう。

 前が見えないと言うのシュチュエーションは、逆に恐怖を狩り立たせる。


「それともう1つ、リリーの性格だ。あいつは自殺するようなやつじゃない。俺が見ていた限りはな」

「うん、私もそう思う。リリーちゃんはそんな後ろ向きな子じゃなかった」


 そう、サラが付け加える。


「ああ……で、ここで問題だ。だったら何故リリーは屋上から、落下した? 何故遺体として発見された。それは簡単な話だ、殺したんだ、リリーを」


 カイルの顔から、汗が吹き出す。


「そう、だから、私とエリカは真相を探った。だよね、エリカ?」


 エルは俺にバトンタッチするように促す。


「そうです。それで今から、私が調べて、私が推理した結論を話します。先ず、リリーさんは部長と教室で別れた後、何かしらの理由で、この屋上に来ました。そこで見たんです、ある人がこの屋上から飛び降りようとしている所を」

「……! 待ってくれ! じゃあ、リリーは……」


 ヴィクターが驚いた声を上げる。


「はい、リリーさんは自殺した訳でもなく、突き落とされた訳でもない……その人の自殺を止めようと、身代わりになって落ちたんです」

「本当にそんな事が……でも、本当に見えるのか? その扉から、あの位置が」

「ええ、確認済みです」


 確認と言うか、たまたまなんだがな……。


「……それで、急いでその人の元へと駆けて行き、柵を踏み台にして、空中へと飛び出し、柵側へと押し返した。その証拠は、取り替え前の鉄柵が証明してます。ですよね、カミラ教官?」

「……はい、鉄柵には、靴跡らしき凹みと、年頃の女子の腰幅程の凹みがありました。腰の凹みの方は、その人物を押し返した時に、出来たのかと」

「それに、腰の凹みの方は、怖くなって、もたれかかって出来たものだと説明出来ますが、靴跡の凹みは説明出来ません。柵を超えるには、足をかける必要がないですから」


 そう、この場にいる、誰よりも背が低いエルでさえも、簡単に跨ぐことが出来た。

 わざわざ、柵に足をかけて、乗り越える必要は無い。


「ま、待って! 幾らなんでも無理だよ! だって、そんな落ちかかってる人の元に瞬時に行くなんて……あ、もしかして……」


 サラはそう言いかけて、口を閉じる。


「そう、普通は無理、でもこの世界には魔法という便利な物がある。リリーさんは時属性の魔法、タイムストップを使ったんです。リリーさんはBクラスでも特に、ずば抜けて、実技成績は良かったみたいですから、使えた筈です」

「ええ、エリカさんの言う通り、リリーさんはタイムストップを使えていました。詠唱も早かったですし、可能だと思います」

「……さて、ここからが本題です。誰が飛び降りようとしていたのか……という事なのですが、ここで少し、話を変えましょう。部長、お願いします」


 カイルは「ああ」と頷き、話し始める。


「ここで、リリーの具体的な死亡時刻を絞ろうと思う。夕方から、夜にかけてでは無く、ちゃんとした、な。ヴィクター、あの日は何があった?」

「……もしかして、お前、試験一週間前の事を言っているのか?」

「そうだ。多くの生徒が校舎内に残っている間に、リリーが転落死したとなれば、死体はそのうちに発見されるだろう。でも発見されなかった。それは試験一週間前で、部活が無く、早い内に生徒や、教官達は寮に帰ったからだ。何時もなら、六時頃まではいるだろうが、その日は五時前には殆どの人が、校舎を離れていた。残ってるのは、そんな時間まで部員探しをしていた馬鹿な俺達と、自殺しようとした大馬鹿くらいだ……そして、俺がリリーと別れたのは五時四十五分頃。リリーの相部屋の奴から聞いたんだが、その日リリーは、部屋に帰ってきていないらしい。つまり、リリーの死亡時刻は恐らく、六時前後だろうと推測出来る」


 暫く、沈黙が流れる。

 それを破ったのは、再び話し始めたカイルだった。


「…………エリカ、そろそろいいか?」

「はい、これ以上は犯人の名前を挙げないと、話が進みません」

「……分かった……犯人は……」


 カイルがゆっくりと、その人物を指さす。


「……お前だ、フィオナ・ラミレル……」


 そう、この悲しい事件の犯人、それはフィオナだ。


「……そっか……それで、何で私が犯人なの?」

「……あくまで……俺に、言わせるつもりか……」

「うん、カイルに、答えて欲しいんだ」

「……俺は、りりーと別れた後、直ぐに寮の部屋に戻った……だが、相部屋の……フィオナは7時過ぎ頃に帰ってきた……アリバイが無い…………それに、お前は、自殺を決意しようとした、動機がある……それは、ユリアに……虐められていた事……だ……」


 カイルは言葉に詰まりながらも、最後まで言い切った。


「……うん、正解」


 フィオナはあっさりと認める。


「……何で……何で……なんだ……何で……お前が……!」

「……今カイルが言った通り。私はあの時、精神的に、追い詰められていた。ユリアに毎日、嫌がらせや、暴行を受けてね。私はカイルの近くにいたし、それと、辺境伯の出だしね……」


 ……そうか、昨日言っていたな……。親に半場強引に、この学校に入学させられたって。

 この学校は帝国きっての名門校、そこに子供を入れたいと思う気持ちは分かる。

 特に貴族はな。その家の名に劣らないように、子供を立派に育て上げようと言う気持ちが。


「……その日はね、特にユリアからの嫌がらせが酷かった。それで追い詰められた私は、遂に自殺を決意して、屋上へと向かった。でも、数時間、怖くて、出来なくて、その間、ずっと、屋上に居た。それでやっと、自殺を決意して飛び降りようとしたら……」

「……そこに、リリーが来た、という訳か」


 フィオナは無言で頷く。


「……フィオナさん、何で相談してくれなかったんですか? 教官である私に……」

「怖かったんです、ユリアが。もし、カミラ教官に相談して、それがバレたらって思うと……」


 フィオナは泣きそうな顔をしている。


「……ごめんね、私が泣く資格なんて無いのに……私がカイルの大切な人を奪ったのに……ごめんね……ごめんね……リリーのお兄さんにも悪い事をしちゃって……」


 次第に涙が零れ、顔が歪む。


「……フィオナ、これは誰も悪くない、不幸が重なった、悲しい事件だ。だから、もういい、お前がこれ以上苦しむ必要は無い……」

「でも、私、リリーを死ぬきっかけを――」

「それなら、俺も同罪だ! 俺はお前が虐められているのを気付けなかった! お前のせいってなら、俺にも罪はある!」

「そんな! カイルに罪なんて――」

「だったら辞めてくれ! ……もう、自分を卑下するのは……辞めてくれ…………」


 カイルの目にも涙が浮かぶ。


「……それでも、自分のせいって言うなら、俺が一緒にその罪を死ぬまで、背負ってやる。だから、いい加減、前に歩きだそう、フィオナ」


 カイルはフィオナに手を差し伸べる。


「カイル……」

「こいつだけじゃねぇ。俺にだって罪はある。同じ班だったのに、お前の虐めに気付けなかった俺にもな」

「私だって、罪はある……同じクラスだったのに、止められなかった……ごめん、フィオナ」

「それを言うなら、罪は私にあります。フィオナさん、貴方の担任だったのに、気付いてあげられなくて、本当にすみません」


 その場にいた俺とエル以外の全員が、フィオナに手を伸ばす。


「皆……わ、わたし、前に進んで、いい、の……? 皆と同じ様に……」

「当たり前だ、この大馬鹿、次からはちゃんと俺に相談しろ、幼馴染だろ?」

「うぅ……カイル……!」


 フィオナはカイルに抱きつく。


「一件落着……?」

「うん、多分ね……帰ろっか、エル」


 俺達はお邪魔みたいだしな……。


「ん……あ、エリカ、それ」


 エルは俺の頬を指さす。

 俺はそこを触ってみると、何故か濡れていた。

 ふ、何だよこれ。


「……嬉しいの?」

「……うん、そうだね、多分」


 俺とエルは、カイル達をそっとしておき、屋上を後にした。

 後日、屋上の柵は、乗り越えるのが困難な、4m程の高さがある鉄柵に取り替えられる事が決定された。

 カミラが提案したらしい。

 学園長のダリオスも、二つ返事で了承し、早速工事が行われている。

 工事が終わった後は、屋上は立ち入り禁止になるらしい。

 そして、騒動から2日後……。


「……何だが、信じられないわ。前までここに来るのが怖かったに、こんなにすんなり来れるなんて……」


 俺とエル、そしてカイルとフィオナで、リリーの墓に来ていた。

 フィオナが行きたいと言い出し、それを了承したカイルの付き添いで、俺とエルも来た。


「これも、エリカとエルのおかげね……ありがとう、2人共」

「いえ、私達は、ただ、貴方の依頼をこなしただけです」


 フィオナはあの時、真実を見つけてと言っていた。

 きっと、フィオナは、あの時から自分の罪を告白したいと、思っていたのかもしれない。

 彼女も、前へ踏み出そうとしていたのだ。


「……そっか、それでも、私は2人に感謝する。カイルにも、他の人にもね」


 静かな霊園に、風が吹き抜ける。


「……いつか、ゼノさんにも、謝れたらいいな…………何時になるかは分からないけど……」

「その時は一緒に罰を受けるさ」

「…………うん……ありがとう、カイル!」


 また風が吹き抜ける。優しく、この2人を包み込むような温かい風が……。


「……そう言えば、部長が付けてるそのネックレス……」


 ふと見ると、カイルの首には、銀色の花のネックレスが掛かっていた。


「……ああ、贈り物さ……大事な人の、二年振りの、な……」


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