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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
41/127

四十話 一息

 

 それから俺が寮の部屋に戻ったのは、十八時頃だった。

 鍵を開けて、部屋の中に入り、一息つこうとする。


「ん?」


 だが、部屋の中心に置いている机の上に、今朝は無かった一枚の紙が目に入った。


『リディアさんの部屋に行ってきます。戻ったら来て下さい。

 エリカさんの大好きなコルネより』


 その紙にはそう書かれていた。どうやら、コルネが書いた置き手紙の様だ。

 と言うかあいつ、どうやってこの部屋に入ったんだ?

 まぁいい、本人から聞けばいいだろう。

 今日はもう疲れた。さっさと済ませて休もう。

 そう思い、リディアの部屋に向かう事にする。


「わっ!?」


 だが、部屋を出ていこうとしたその時、床に置いてある何かに躓いた。

 それは誰かのトランクだった。

 誰かのとは言ったが、恐らくはアッシュのだろうか。

 ああ、だからコルネはこの部屋に入れたんだな。

 途中で丁度帰ってきたアッシュに会って、成り行きで……と言ったところか。

 それにしても随分と早く帰って来たんだな。

 三日、四日は滞在するだろうと思っていだが……。

 それにもう一つ疑問があった。

 昨日の朝、アッシュが持ってたトランクってこんな色だったか?

 黒色じゃ無くて、茶色だった気がする……気のせいかもしれないが。

 まぁ、取り敢えずリディアの部屋に行こう。

 今度こそ部屋を出て、四階への階段を上る。

 そして、難なくリディアの部屋の前に辿り着いた。

 扉を軽くこんこんと、ノックする。


「…………」


 しかし、ノックをしても返事が返ってこない。

 だが、中に誰もいないとは思わなかった。

 その理由は、中から騒がしい声が聞こえてきたからだ。

 俺のノックが掻き消されるような騒がしい声が。

 こんこんと、もう一度ノックをする。今度は少し強めに。


「…………」


 これもまた返事が返ってこない。

 痺れを切らし、ドアノブに手をかける。


「開いてる……」


 ……仕方ない、勝手に入ろう。ここで待ってても埒が明かない。

 ドアノブを回し、扉を開ける。無言で入るのは失礼だと思い、最低限の声を上げながら。


「リディア、入る――」

「コルネさん! 今度こそ逃がしませんわ!」

「ふっ、甘いですねっ! カウンターです!」


 そのような声が聞こえた後、何か白い物がこちらを目掛けて飛んでくる。


「むぐっ……」


 その物はそのまま俺の顔面にぶつかる。

 最初は肌触りで、布かと思ったが、ぶつかった時の感覚で、そんな軽い物ではないと理解出来た。


『あ』


 2人の重なった声が聞こえる。

 ぶつかった物……枕が足元に落ち、部屋の様子と、コルネとリディアの気まずそうな顔が目に入る。


「えっ、と……あはは、置き手紙読んでくれたんですね!」

「うん、来たけど?」


 俺は少しだけイラっとしてしまい、普段より強いトーンで返事をする。


「エ、エリカさん、お茶飲みますか? 待って下さいまし、直ぐ用意しますわ!」


 リディアは慌てて、台所前に立つ。


「ささ、座って下さい、エリカさん! 狭い所ですけど!」

「狭いとはなんですの! あっ……」


 何があっ、なのかは分からないが、取り敢えず部屋に入って中央の机前に座る事にした。


「災難だったね、エリカ君」


 そう言って話しかけてきたのはユリウスだった。


「本当ですよ……それにしても今日は、随分と人が多いですね……」

「ふふ、コルネ君の歓迎会を開こうと言う話になってね。いつの間にか、この大所帯さ」


 この部屋には他にも、クロウはもちろんのこと、オレットにエル、それにアリッサ、ウィルバートまで居た。

 そしてもう一人。


「アッシュ、やっぱり戻ってたんだね」


 お早いお戻りのアッシュが俺と同じ様に、机の傍で胡座をかいて座っていた。

 俺含めて、十人だ。この部屋じゃ狭すぎるだろうと思う。


「あ、ああ、まぁな。退屈だったから早めに帰ってきちまったぜ」


 にひひ、と笑うアッシュだが、何処か暗い顔をしているな。

 実家で何かあったんだろうか。


「そっか、ごめんね、戻って来て疲れてるのに、来てくれて」

「はは、何だよそれ、お前が謝る必要ねぇだろ。どっかの偉そうな皇太子が、ばったり会った俺を無理矢理連れて来たのが悪ぃんだからな」


 アッシュは冗談混じりにそう言った。


「ふふ、確かにアッシュ君の言う通りさ。私が彼を引きずって連れて来たんだ。その場に居なかったエリカ君が謝る必要は無いよ」

「確かにそうですけど……どっかの馬鹿を殿下に押し付けたのは私ですから、直接的な原因は私にありますよ」


 俺は少し、さっきの仕返しにコルネをからかってやる事にした。


「ちょっと、エリカさん! それ、無理矢理過ぎませんか!?」

「えぇ? そうかなぁ」

「何か昼間の優しいエリカさんが嘘のように、意地悪なエリカさんになってません!?」

「なってないよ。ただ、ちょっとだけ、怒ってるだけ」


 悪いな、コルネ、今の俺は少しだけ機嫌が悪いんだ。


「一緒じゃないですか! それ! 勘弁してくださいよー!」


 反応面白いなこいつ。

 ……といかんいかん、弄る過ぎるのもあれだ、これぐらいにしておいてやろう。


「ふふ、ごめん、ごめん。それで何でさっきは枕投げなんてやっていたの?」

「え、えっと……それはー……」


 コルネは口を噤む。

 ああ、この反応で、こいつが原因と言う事だけは分かった。


「コルネがリディアの秘蔵の菓子とやらを勝手に食べたんですよ」


 そうウィルバートが、コルネの代わりに答えた。


「それでリディアが『人の物を勝手に食べてはいけませんわ!』とか注意したら、コルネが『紙』だの何だの言って、挑発して、リディアが怒って、流れで枕投げが始まったってわけよ」


 アリッサがそう付け足す。


「そこに私が来て……」

「言い難いけど……エリカは運が悪かったとしか言い様がないね……」


 クロウの言う通り、確かに俺は運が悪かった。

 でも、原因はやはり、コルネ、こいつじゃないか。

 くっそ、今日はコルネに振り回されてばかりだ……。


「エリカさん、お茶が入りましたわ」


 頭を悩ませている時、リディアが俺の前に茶を置く。


「あ……ありがとうリディア」

「いえいえ、(わたくし)がエリカさんに失礼な事をしましたし、それに客人にお茶を出すのは当然ですわ」


 リディアが投げた枕が当たったのでは無いのに、どっかの馬鹿より反省している感じが伝わってくる。

 でも、あの温厚なリディアが怒る事なんてあるんだな。

 怒ったところも見た事ないし、怒ったと言う話も今日のさっきまで聞いた事も無かった。

 一体コルネは何と言って、リディアを怒らせたんだ。

 さっきアリッサが紙だの何だの言っていたが…………あ。

 やっと合点がいった、そりゃリディアは怒る筈だ。

 つまるところ、コルネはリディアにとっての禁句に触れたんだ。何がとは具体的には言わないが。


「……ううん、いいよ。リディアも大変だったみたいだからね」

「エリカさん……かたじけないですわ」

「何か私の時と、態度違いすぎじゃないですか!? 私にも優しくしてくださいよ!」


 何を言ってるんだこいつは。

 こうなった原因はお前だろうと、言いたくなる。


「悪いのはコルネでしょ。エリカの反応は当然」

「ああ、エルの言う通り、エリカさんが怒るのも無理は無いと思うぞ」


 2人の追撃が、コルネに襲いかかる。


「むー、だったらエリカさん! 今日、生徒会室で別れる時の約束、覚えますか!?」

「約束? 確か……」


 不味い、すっかり忘れていた。


「そうです! エリカさんはあの時、こう言いました! 私達が学校案内を終えるまでに合流するって! でも、エリカさんは来ませんでした! 約束を破ったという事になります! そして、約束を破った時の事、覚えてます、よね?」


 う……。


「……何でもコルネの言う事を聞く……」

「ええ! だから私はエリカさんに要求します! 一緒にお風呂に入りましょう!」


 コルネはそう言って、俺に人差し指を突き立ててくる。

 うわぁ……絶対言い出すだろうと思った……。

 まぁ、そのぐらいの事なら聞いてやろうと思えるが……すまない、コルネ、今日は無理だ。


「……ごめん、それはちょっと……」

「何でですか!? 何でもって言ったじゃないですか!?」

「今日はちょっと不都合があって……それに、コルネにも迷惑かけるかもだから……」

「エリカさんの迷惑なら、ばっちこいです!」


 いや、そういう事じゃ無いんだが……。

 ああ、もう、察してくれよ、コルネ。お前なら分かる筈だ。


「ごめん、本当に今日は無理だから。一週間後ぐらいなら、大丈夫だから、ね?」

「一週間……そんなに待ってられませんよー!」


 いや、一週間ぐらい我慢してくれ。

 ああ、どうしたら納得してくれるんだ。

 こうなったら、直接――。


「コルネ、エリカをあんまり困らせんなって」


 その時、アッシュがそう言った。


「えぇ、でも……」

「わーってる、それじゃあ、約束破られたお前の気持ちが収まらねぇだろ。だから、代わりにアリッサが一緒に入ってくれるってよ」

「は、は、はぁ!!??」


 アリッサは驚きの声を上げる。

 ……アッシュは恐らく、面倒事をアリッサに押し付ける気だろう。


「いや、私が一緒に入りたいのはエリカさんです!」

「まぁ、待て待て、ちょっと耳かせ」

「え、何ですか?」


 コルネは言われるがままに、耳をアッシュの口元に近付ける。


「ア……を見……ろ、なか……の大……だと……ねぇか? 恐ら……はエ……に劣ら……。だか……あ……を……エリカ……思……」

「ええ!? でもそれって何か違う気が……」

「まぁまぁ、最後まで話を聞け。つまりそう思えばこれから………………………………」

「! なるほど! 確かにそうです! 私、アリッサさんと一緒に入りたいです!」


 コルネは飛び跳ねて、アリッサの方を見た。

 ……マジか。どうやってアッシュはコルネを説得したんだ?


「って、事だ、良いよな、アリッサ?」

「え!? え、ええ、まぁ、それでエリカが困らないなら」

「う、うん、私はアリッサが良いなら……」

「じゃあ、アリッサさん! 早速行きましょう!」

「今から!?」


 コルネはアリッサの手を取って、シャワー室の方へと突っ走って行く。


「コルネさん!? もしかしてこの部屋のを使う気じゃ……ちょっと待って下さい! タオル等を用意しますので!」


 リディアもそう言って、シャワー室の方へと消えて行った。


「……凄い、アッシュ。どうやってあの頑固なコルネを説得したの?」


 三人が消えて行ったのを見計らって、エルはそう聞いた。


「知りたいか?」


 アッシュはにやりと笑い、ちょいちょいと、手招きをする。


「……………」

「……なるほど、その手があった」

「何だい? 私にも聞かせてくれないか」

「しょうがねぇな、ほら」


 ユリウスも同じ様に、アッシュに寄る。


「……ほう、流石はアッシュ君、中々の策士だ。クロウ君も聞きたまえ。きっとびっくりするぞ」

「え? は、はい……」


 クロウは渋々、アッシュの話を聞く。


「ええ!? 確かに……いやいや、それってコルネが望んだ結果じゃないよね!? と言うか、思いっきりこじつけだよね!?」

「へへ、良いんだよ、こんなもんは、こじつけ程度で。それに本人も納得してるんだからな」


 ……クロウの反応で、何か良からぬ事なのは分かった。

 相変わらずの悪知恵だな、アッシュ……。


「お前さん達も聞くかー? 今なら無料で聞かせてやるぜー?」


 金取るのか……。


「……いや、遠慮しておこう。きっとろくな事じゃない……」

「ああ、聞きたくはないな……それに大体は予想はつくからな……」

「うん、私も遠慮しておくよ……」

「何だよ、つまんねぇな」

「それより、アッシュ。アッシュの見立てだったら……」

「お、エル君、中々いい質問だね。私もそれ気になるな」

「えぇ、それは流石に不味いんじゃ……」

「いいぜ、教えてやるよ……」


 そこの四人はまたこそこそと、何かを話し始めた。


「……エリカさんも苦労してるんですね……」

「あはは……はぁ……」


 きっとウィルバートも、ユリウスに振り回されているんだろうな……。


「……そう言えば、ウィルバート、何でお前は、エリカにだけ敬語なんだ?」


 不意にオレットがそう聞いた。

 確かにそうだな、ウィルバートは俺にだけ敬語だ。


「え、いや、特に深い意味は無いが……何だか同級生の姉って事で、歳上だと思って、気を使ってしまって……」

「そんなの気にしなくていいよ。同い年なんだし。それに私だけ敬語を使ってなかったら、逆に申し訳ない気持ちになっちゃうから」

「そ、そうですか……? なら、エリカ。これでいいか……?」


 何だかぎこちないが、別にそこはいいだろう。


「うん、それでいいよ。ウィルバート」

「……確かに、タメ口の方が良いかもしれないな。ありがとう、オレット、機会を作ってくれて」

「ふん、何だそりゃ。俺はただ、エリカだけに敬語を使ってたのが気に食わなかっただけだ」

「はは、素直じゃないな、君は」


 三人の中に微かな笑いが生まれる。

 些細な事でこんなに、良い雰囲気になるものなんだな。

 その後すぐ、リディアが疲れた顔をして戻って来た。

 それから約十分後、げんなりしたアリッサと共に、満天の笑顔のコルネも戻って来た。

 オレットが「何があったんだ?」と聞くが、アリッサは何も答えなかった。

 ……それ程にもコルネの扱いが大変だったんだろう。

 そして、その後はクロウが手料理を振舞ってくれて、それを食べてから、二十時過ぎ頃に歓迎会はお開きとなった。

 俺はアッシュ、そして何故か付いてきているコルネと共に部屋へと向かう。


「はぁ、結構遅くまでお邪魔しちまったな」

「うん……アッシュ、ありがとうね、あの時」

「ん、ああ、気にすんな」


 アッシュはそう短く言い放つ。

 あの時は本当に助かった。手段はあれだがな。


「……それで、コルネ。いつまでついてくるの?」


 俺達はもう部屋の真ん前まで来ていた。


「あれ、言ってませんでしたっけ? 私、今日からお2人の部屋で寝泊まりするんですよ!」


 ……は? 聞いてないぞ、そんなの。


「そうなのアッシュ?」

「……ああ、そう言えば言ってなかったな」


 ……どうやら本当らしい。

 だとしたら、部屋にあったあのトランクはコルネの物か。


「こいつの話によると、カミラ教官が決めたらしいんだ」

「はい! 私がエリカさんと同じ部屋にして欲しいって、ちょっと頼んだら、了承してくれました!」


 ちょっと、ねぇ…………。

 そんな話をしながら、部屋の中に入る。


「でも、コルネは何処で寝るの?」

「エリカさんの横で寝ます!」

「うーん、それしかないかな……」

「え!?」


 何でこいつ、自分から提案しといて驚いているんだ?

 もしかして、冗談だったか?


「嫌だった?」

「い、いえ、エリカさんなら、絶対断りそうだったんですけど……」


 正直に言うなら断りたい。でも、断れないだろう。

 カミラが許可したんだ、その時点で俺が何を言っても結果は変わらないだろう。

 それにコルネを床に寝させる訳にもいかない。

 多少狭くはなるが、我慢できないほどではない。

 まぁ、それはずっとという訳でもないからな。そのうち、学校側がコルネのベッドを用意してくれるだろう。

 部屋は狭くなるとは思うが……。


「それはそれ、これはこれだよ。コルネの寝る場所は必要だからね」

「エリカさん…………初めて私の要求が通りました! こんなに嬉しい事はないです!」

「そ、そう……」


 コルネは声を上げて喜ぶ。若干引いてしまいそうなくらい……。


「んじゃ、暫くはコルネはエリカのベッドで、一緒に寝るって事で良いんだな?」

「うん、ちょっと狭いけどね」

「はは、違いねぇ。エリー、先シャワー浴びるか?」

「あー、じゃあそうさせてもらおうかな」


 俺は寝間着を持って、シャワー室へと向かう。


「じゃあ私も――」

「待った」


 俺の後をついてこようとするコルネをアッシュが肩を掴んで、止める。

 助かる、本当に今日のアッシュには感謝しかない。


「それより、面白い遊びがあるぜ」

「え?」

「それはな…………」


 ……コルネに変な事を吹き込む以外は。


「……確かにそっちの方が夢がありますね! エリカさん、安心して、シャワーを浴びてきてください!」


 とてつもなく安心出来ない……。

 コルネが大人しくなって、嬉しいのか、怖いのか、何とも言えない気持ちのまま、シャワー室へと向かった。

 結論を言うと、何も無かった。

 ……無かったのだが、何か背筋がぞくぞくする、感覚に襲われた。


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