三十九話 学校案内 三
「へぇ、エリカさんって探偵部に入ってるんですね! なんか独特な部活で面白そうですね!」
あれから二階と三階を軽く案内しながら、部室へと来た。
今は昼飯を食べながら、コルネに探偵部の事を話していた。
「あ、そう言えば、探偵で思い出したんですけど、王国にすっごい名探偵が居るんですよ! 先月も殺人事件を一件解決したって、新聞に載ってました!」
「そうなんだ。どんな人なの?」
ほう、王国に名探偵が居るのか。少し会ってみたいな。
しかしまぁ、この世界の殺人事件は厄介そうだ。
魔法が使用された可能性を考慮した上で、事件を解かなければならないからな。
「男性の人です! 年齢は二十歳くらいだったかな……それで名前は……あれ、何て言ったっけ…………あ、そうそう、確か、ゼノ! ゼノ・サンチェスです!」
ゼノ・サンチェスか……ん? サンチェス?
「エリカ、もしかして……」
「いや、まさか……」
……待てよ、リリーはその親族……年齢からして恐らく兄だろうか。その人に影響を受けて探偵部を……?
「あれ、どうしたんですか、二人共。鳩が豆鉄砲喰らった様な顔してますよ?」
「あ、ううん、何でもない」
首を傾げていたコルネに気付き、慌てて適当に返事をする。
「ふーん、そですか。ちょっと気になりますけど、話したくない様ですし、聞かないようにします」
そう捉えられたか。別に話したくないって訳じゃ無いんだが……寧ろ話してもいいとも思ってる。
でもこいつに話す必要は無いだろう。
本人もあまり、興味無さげだしな。
「エリカさんは何か私に聞きたい事無いですか? 何でも答えますよ!」
「聞きたい事……じゃあコルネは何でこの学校に編入するの?」
「あ、それはですね、うちの学校、どうやら来年から編入制度を導入する様なんです。それで試験的に一人の生徒を留学させようって話になって、一年生で一番成績が良かった私が選ばれたんです! あの名門校で、しかもエリカさんがいる、ログレス士官学校に通えるだけでなく、お金も貰えるって言われて即OKしちゃいました!」
なるほどな……って、こいつ、学年トップの成績だったのか。
「…………」
「あれぇー? どうしたんですか、ベニヤ板さん。黙っちゃって。もしかして成績の話を聞いてビビっちゃったんですかぁー?」
「……別に。あっちの学校では、Aクラスに入れるぐらいの成績があれば、学年トップになれるんだと思っただけ…………あんまり大したことないね」
確かにそう考えると、あっちの学校は甘いんだな。
イアンが言っていた事もあながち間違いでも無さそうだ。
「ふ、ふーんだ! 成績ぐらいでそんなに威張らないで下さい! 子供みたいで恥ずかしいですよ!」
いや、お前が先に言い出したんだろ……。
「そっちが先に始めた。逆にその程度で威張ってるコルネの方が恥ずかしいと思う」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」
お、今回はエルが優勢だな、っといけない、いけない。
またしょうもない言い争いが始まりそうだ。
面倒くさくなる前に止めよう。
「ま、まぁまぁ、何にせよ、コルネは学年トップだった事実は変わらないし、誇っても良いんじゃないかな? 私は凄いと思うよ」
「そうですよね! はあー、エリカさんにそう言って貰えるなんて……私もう死んでも良いです!」
ふ、一々大袈裟だな、こいつは。
だが、何故コルネは俺の事をそんなに好いているんだろう。
こいつとは昨日まで初対面だった筈。
「コルネ、ずっと気になってたんだけど、何で私の事、そんなに好いてくれてるの?」
「えー? それ聞いちゃいますー?」
コルネは体をくねくねと、気持ち悪い動きをする。
「それはですね……一目惚れです! ……その、エリカさん、先月の帝都の大広場での事件、覚えていますよね?」
「……うん、覚える」
「……実はその日偶然、帝都に来ていて、あの時私もあの場にいたんです。と言っても、カレン卿が刺された直後、直ぐ憲兵の方に、避難させられたんですけどね」
コルネがそう言った時、さっきまで笑顔だった表情に少しだけ寂しさが混じった気がする。
「……それで、その時に演説台に上って行くエリカさんの姿を見たんです。カレン卿が刺されて、皆が怖がってる中、ただ一人、一般人であるエリカさんが恐怖に屈せず、真っ先に。そんな勇敢な貴方に私は魅了されました……だから私はエリカさんが、大大大好きなんです!」
「………………」
「エリカさん?」
「あ、ごめん。そんな事言われるなんて思ってなくて、ぼっーとしてた……ありがとう、コルネ、嬉しいよ」
「えへへ、エリカさんが喜んでくれて嬉しいです!」
それで何で、同性に恋を出来るかは分からないままだがな。中身は男だが。
まぁ、同性愛者の気持ちは分からないが、そう言う人も居ても良いとも思う。
なので、そこら辺には口出しするつもりは無い。
それに好意を抱かれているというのは、悪意がない限り、悪い気はしないしな。
「さぁ、この後も張り切って校内を回りますよ!」
そんなに俺の言葉が嬉しかったのか、コルネはより一層、元気になっていた。
昼食を食べ終わった後、俺達は残った四階をコルネに案内して回った。
「ここが美術室、授業でも来るから、覚えといた方がいいよ」
四階の案内も大半は終わり、残す所この美術室と生徒会室となった。
「はい! あれ、中に誰か居ますね……もしかして美術部の方達ですかね?」
「うん、そうだと思う。あ、ちょっと待ってて、コルネに紹介したい人がいるから」
「私に、ですか?」
俺は丁度良い機会だと思い、中に居ると思うクロウをコルネに会わせる事にした。
三人で入ったは、他の部員に迷惑だろう。そう思って、二人には廊下で待って貰う事にする。
コンコン、と美術室のドアをノックし、中に入る。
中には七、八人くらいの美術部員がいた。
「あれ、エリカ、どうしたの? また探偵部の活動?」
椅子に座り、キャンパスに向かっていたクロウが俺に気付く。
「クロウ、ちょっと良い? 紹介したい人が居るんだ」
クロウの元に歩み寄り、要件を伝える。
「僕に? うん、いい――――」
「わぁ! 綺麗な絵がいっぱいです!」
その時、外で待たせていた筈のコルネとエルが中に入って来る。
「二人共、どうして……」
「ごめん、エリカ。コルネが勝手に入って行って……」
「だって、私、絵が好きなんです! だから美術部の皆さんの絵が見たくて、つい……」
コルネは美術室の中をはしゃいでぐるっと見渡している。
「……もしかしてその女の子が僕に紹介したいって人?」
「う、うん……ごめんね、騒がしくしちゃって」
「はは、気にしないでいいよ。うちの部長の方がもっと騒がしいから」
クロウ、それ部長の前で言ったら怒られるぞ……。
「こんにちは、初めまして、僕はクロウ・スカーレット。君は?」
クロウは立ち上がって、今も尚、はしゃいでいるコルネに歩み寄る。
「えっ、は、はい! コルネ・アゼリアです!」
「見ない生徒だけど、転校生?」
「はい! 王国のギムレー魔法学校からの編入生です! 二学期から一年のAクラスになります!」
「ああ、そっか、だから……僕も一年Aクラスだよ、よろしくね。それにしても、凄いね、あのギムレー魔法学校から来たんなんて」
「えへへ、ありがとうございます! クロウさんはどんな絵を描いてるんですか?」
「今描いてるのはこれだよ」
「わぁ、平原の絵ですね! 開放的な感じが出てて、良い絵ですねー!」
「絵好きなんだね、もっと見る?」
「はい! お願いします!」
凄い、あのコルネと初対面で、普通の会話が成立してる……。趣味が合うからだろうか。
それともクロウの話の持っていき方が上手いのか……。
それからも二人は十分程、話をしていた。
「良かったらまた来てよ。今度は部長に頼んで、部活体験もさせてあげるから」
「はい! その時は何卒よろしくお願いします!」
やっと終わったか。あまりにもコルネが普通の会話をするもんで、うとうとしていた。
エルに至ってはルナを撫でながら、大きな欠伸を何度もしていた。
「そう言えばクロウさんっお父さんって、もしかして緋の戦域と呼ばれる、グレイグ大尉ですか?」
「うん、実はそうなんだ。あ、でもさっきみたいに気軽に接して欲しいな。あんまり肩苦しいの苦手だから」
「はい! もちろんです! ではまた来ます!」
「うん、待ってるよ」
コルネはそう言って、廊下に向かって歩いて行く。
「ごめんね、二人共、話し込んじゃって」
「ううん、大丈夫。賑やかに話してたね」
「はは、そうかな……それにしても、コルネ、良い子だね。礼儀正しいし、元気だし」
いや、それは無いな。
「クロウはああいう子が好み?」
エルがそう聞くと、クロウは「うーん」とうねる。
「好みって言うか、話しやすいって感じかな。知り合いによく似てるからね」
「そうなんだね。じゃあ、絵、頑張ってね」
「うん、完成したら改めて見せてあげるよ」
俺達はクロウに別れを告げ、残っている生徒会室へと向かった。
「ここが生徒会室。来る事は少ないかな」
「へぇー」
興味無さげだな……。
……よし、校内は一通り案内は終わったか。
屋上は……いいか、特に何も無いし。
後はグラウンドと礼拝堂、それと寮か。
さて、どれから――。
「あら、エリカさん達、どうしたんですの?」
その時丁度、生徒会室のドアが開き、生徒会の連中がぞろぞろと出て来る。
その中にはリディアとオレット、それにユリウスの姿があった。
「生徒会に来るなんて珍しいな、何かあったのか?」
「そうなのかい? 良ければ話を……おや、そっちの子は……」
「あ、えっと……」
俺は三人に訳を説明した。
「そうでしたのね。私はリディア・リース・スレイプウェル、それでこっちがオレット・ブラウドですわ」
「同じクラスになるんだ、よろしくな、コルネ」
「そして、私がユリウス・フォン・ユスティア、この国の皇太子さ。まぁ、気軽に接してくれればいい。呼び捨てで構わないよ」
いや、流石無理だろ、このコルネでも……。
「はい! よろしくお願いします! リディアさん、オレットさん、ユリウス!」
……まじかよ。初対面で面と向かってこいつの事、そう呼べるのはコルネぐらいだろう。
「ほう、中々見所があるね、初対面でそう呼んでくれたのは君だけだよ。ありがとう」
だろうな。
「いえいえ! それぐらいの頼みなら幾らでも叶えますよ!」
「お、おぉ…………」
ユリウスは目を見開いて、感動している。
そんなに嬉しいのか……。
「おい、どうしたんだ、お前ら。入口で立ち止まって……って、ライト達か」
そこに生徒会室の奥から、ヴィクターが出て来る。
「会長、紹介します。コルネ・アゼリアです」
「ん? ああ、教官達が言ってた一年の編入生か。生徒会長のヴィクター・クライスだ」
「よろしくお願いします!」
ヴィクターはやはり知っていたか。
一応紹介しておこうと思ったが、不要だった様だ。
「そうだ、ライト、ノスタウェ。今、時間あるか? 例の件、準備出来ている」
そう言えば……コルネの案内をしていて、すっかり忘れていた。
「えっと……今は……」
「大丈夫」
今はコルネの案内をしているから無理だ、と言おうとした時、エルがそう返事をした。
「エル?」
「コルネの案内は私に任せて。エリカは会長の話を聞いて」
「いいの?」
「うん、大丈夫。エリカは早く話を聞きたいんでしょ?」
それはそうだが……エルはコルネの事を嫌っているだろう。
そんなエルをコルネと二人っきりにするのは気が引ける。
「エリカ君、心配しないで、会長の話を聞いてきなよ。コルネ君の案内は私達が引き受ける。良いかい? リディア君、オレット君?」
俺が迷っていると、ユリウスがそう言ってくれた。
「はい、何か事情があるようですから」
「大丈夫だ、カミラ教官には、お前が最後までこいつを案内したと言っておく」
「二人共……じゃあ、お願いするね」
俺はそう言って、生徒会室に入ろうとする。
「ええ!? エリカさん、行っちゃうんですか!? もっと一緒に居たいのに……」
「ごめんね、皆が学校案内を終わった頃には、合流するから」
「うぅ……絶対ですよ!? 約束ですよ!? 破ったら何でも言う事を聞いてもらいますからね!?」
「うん、分かった、分かったから」
俺はそう言って、コルネ達と別れて、生徒会室に入る。
「少し待っていろ。直ぐに連れてくる」
「はい」
ヴィクターは生徒会室から出て行った。
数分間、大人しく椅子に座って待っていたら、ヴィクターが紺髪でロングヘアーの女子生徒を連れて戻って来た。
「うちのクラスのムードメーカー的存在で、クラス委員長のサラ・ノルベスト。伯爵家の家の出で、可愛くてクラスメイトから人気物の生徒だ」
「ちょ、ちょっとお立てすぎだよ! ヴィクター君!」
「……ごほん、こいつなら、クラスの事は大体知ってる。何でも聞いてやってくれ」
確かにクラスの中心にいる生徒と言う感じだ。
この生徒からなら、色々な事が聞けそうだ。
「あの早速なんですけど……」
「……うん、何でも聞いて、リリーちゃんの死の真相が分かるなら」
この人も、リリーの死に疑問を持っているのか。
そうなると、この時点で自殺の線はほぼ無くなったと言ってもいい。
「じゃあ、単刀直入に聞きます、リリーさんって虐められていましたか?」
「ううん、私が知る限り、それは無かったわ。言い掛かりはつけられていたけど、リリーちゃんは気にしてなかったし……」
えーと、つまり、虐めと言う程の物は無かったが、何人かの生徒から、些細な言い掛かり等はあったという訳か。
きっと、リリーの反応が薄く、それを行っていた生徒達は飽きてしまったか、虐めの標的にしようと思ったが、リリーは気が強い方で、それ以上の事は出来なかったんだろう。
恐らく話を聞く限り、後者だと思う。
いや、今はそんな事はどうでもいい。俺が聞きたいのは、何故それが起きたかだ。
「確か、それを行っていた生徒は何人か居たんですよね? その中で主犯格になっていた生徒って分かりますか?」
「それはユリア・ラスマンって生徒。知ってる?」
ユリア・ラスマン、あいつも同じクラスだったのか。
まぁ、確かにあの感じなら、そういう事はしていそうだ。
「はい、剣道部の人ですよね?」
「そうそう、そのユリアちゃんね、初日の模擬戦の時、初戦に、カイル君達の班と戦ったんだけど、リリーちゃんに手も足も出ずに、ボコボコにされたのよ」
……まさかとは思うがそんな理由で……。
「それにカイル君、結構イケメンでしょ? ユリアちゃん、密かにカイル君の事好きだったのよ。だから近くに居たリリーちゃんを根に持ってたの」
「そんな理由で、ラスマンはリリーに生徒をけしかけてたのか? 理解に苦しむな」
「うん、私もやめろって言ったんだけど、やめるどころか、私にも、ちょっかいを出してきてね。まぁ、リリーちゃんと同じで、突っ張ったけど」
「お前にもか? それだけの事で……」
「あ、ううん、私の理由は他にもあるの。さっきも言ってたけど、私もユリアちゃんと同じで、伯爵家の出でしょ? 私のクラスには貴族が少なくて、どうやら自分が、貴族ってだけで、クラスを支配出来るって思ってたらしいの」
まぁ、大体ユリアの性格に予想はついて居たが……うん、正直、予想していたよりも酷い。
「そんな事が起こってたのか……一緒のクラスだったのに、知らなかった。すまない」
「あ、ううん、気にしないで。ユリアちゃん、男子がいる前では絶対そんな事はしなかったから。評判が落ちることを気にしてたから。だったら最初からやらなければ良いのにね」
ご最もだ。
まぁ何にせよ、これで聞きたい事は大体聞けた。
だが、念の為にもう一度聞いておこう。
「他にユリア先輩が、リリーさんにした事って無いですか?」
「そう、それで全部……あ、えと、いや、これは関係ないわね。うん、それだけかな」
ん、何か引っかかるな……。
「あの、それって――」
その時、生徒会室のドアが開き、一人の男子生徒が顔を見せる。
「ちょっと、部長、いつまで油売ってるんですか。そろそろ、対戦始めちゃいますよ」
「あ、ごめんね、すぐ行くから」
「チェス部か?」
「うん、ごめん、二人共。そろそろ行かなくちゃ。また聞きたい事があったら言って、じゃあね」
サラはそう言って、生徒会室を出て行った。
最後の不自然な言動について聞きたかったが、仕方ない。
恐らく部活動の合間に無理言って逃げ出して来てくれたんだろう。
それはまた明日にでも聞こう。
「すまないな、少ししか時間をさけなくて」
「いえ、ありがとうございます。あ、それと会長にも一つ聞きたいんですけど、良いですか?」
「ん? 何だ?」
俺はゼノ・サンチェスの件を思い出し、ヴィクターに聞く事にした。
「ゼノ・サンチェスって人、リリーさんの御家族ですか?」
「ん? ああ、リリーのお兄さんだが、知らなかったのか? 結構有名だと思っていたが……」
ほう、それ程までに有名な探偵か。益々会いたくなった。
「と、言う事はリリーさんは王国からの留学生という事なんですね」
「ああ………………」
そう頷いて、顔を顰める。
「どうしたんですか?」
「……いや、すまない。あの時のゼノさんの泣き崩れる姿を思い出してな……」
……ああ、そうか。
この話は安易に聞くべきでは無かったのかもしれない。
「ゼノさんも『絶対自殺じゃない』と訴えていたが、その訴えは届かず、結局自殺と決定づけられた。仰向けで発見された件も、空中で体制を変えた等と、適当な理由をつけてな。きっと今程の有名な探偵であれば、少しはゼノさんの訴えに耳を傾けていたのかもしれないな……」
辛かっただろうな……。
自分が探偵なのにも関わらず、目の前の大切な人の事件を解けない……。
痛い程分かる、そのゼノと言う人のやるせない気持ちが……。
「……ゼノさん、大切だったんですね、リリーさんの事」
「ああ、唯一の肉親だと聞いている。小さい頃に両親が病死して、孤児院に預けられたらしい」
それなら尚更だな……。
「会長、この事件、絶対に解きます」
「ああ、俺も出来る限りの事はする。頼んだぞ、エリカ」
「……はい」
俺は静かにそう返事を返し、生徒会室を後にした。
絶対に、解いてみせる。
その為には、出来る限りの手を使って情報を集めるんだ。




