三話 別れと旅立ち
一応、一区切りです。
六年後。千五十七年。
シフィーが来てから、六年の月日が経った。
この世界での俺は十五歳になり、身体の成長も大人に近付いてきた。
魔法の訓練も順調で、中級魔法を半分辺りまで使えるようになった。
俺がそんな事を考えていると、部屋の扉がコンコン、とノックされる。
「エリカ姉さん、起きていますか?」
ノックの後に続いた声はシフィーのものだ。
俺は扉をゆっくりと開ける。
「エリカ姉さん、おはようございます」
シフィーは小さく頭を下げた。
「おはよう、シフィー」
俺はシフィーの銀色の髪に目を向けるとあることに気付いた。
「シフィー、寝癖立ってるよ?」
「え……?」
シフィーは自分の髪を触る。
「あ……」
恥ずかしいのか、シフィーの顔が赤くなる。
「ご、ごめんなさい!すぐに……」
シフィーはそう言いながら、自分の部屋に戻ろうとする。
「待って」
俺はシフィーの手首を掴む、シフィーはゆっくりとこちらを振り向く。
「髪、梳かしてあげる」
「え、そんな!エリカ姉さんの手を煩わせる訳には……」
俺はシフィーを半は強引に、部屋に連れ込む。
「エ、エリカ姉さん、待ってください!」
俺はソフィーを椅子に座らせ、机の引き出しに入っているクシを取り出し、シフィーの背後に回り込んで髪を梳かし始める。
「まったく……エリカ姉さんって、強引なんですから」
シフィーは満更でもない表情でそう言う。
「でもシフィーってこれ位しないと恥ずかしがって、梳かせてくれないでしょ?」
「それは……そうですけど……」
シフィーはこの家に来た頃と比べて、髄分と明るい表情を見せるようになった。
先程みたいに自ら俺の部屋に来る、みたいなことは全く無かった。
この家に来て間もない頃は聞かれたことしか答えない無口な少女だったが、心を開いてくれた。
半年後でやっと今の様な表情を見せてくれるようになった。
恐らく、シフィーの性格から考えたら恥ずかしかったんだと思う。
最初の頃より比べると明るく接してくれるようになったと言えるが、それは限られた人に対してだ。
シフィーはかなりの人見知りで俺やエレナ、アメリア等の知人以外には、恥ずかしがって顔すらまともに見れない、と言う状態になる。
人見知りは悪いことではないのだが、本人は必死に直そうと努力している。
無理に直さなくても良いのではと思うのだが、頑張っている様子を見せられては安易に口出しは出来ない。
そんなことを考えながらシフィーの髪を梳かしていたら、すっかり寝癖が治っていた。
「終わったよ、シフィー」
梳かし終わったのだが、シフィーの返事がない。
俺はシフィーの顔を覗き込む。
「シフィー?」
シフィーは目を閉じ、静かに眠っていた。
「シフィー、シフィー?」
俺はシフィーの肩を軽くぽんぽんと叩く。
「う……うーん……」
シフィーが目を開ける。
「シフィー、終わったよ」
「あ、あれ……もしかして私……眠ってました……?」
「うん、少しだけね」
シフィーは慌てて、立ち上がる。
「ご、ごめんなさい!折角、エリカ姉さんにやって頂いていたのに……」
「気にしないで」
「じっとしてくれてたし、やりやすかったからね」
俺はシフィーに笑いかける。
「そろそろ行こっか?」
「あまりアメリアさんを待たしたら、悪いしね」
クシを片付け、部屋の扉を開ける。
「そうですね」
シフィーは俺の後に続き、部屋を出た。
一階に降りると、アメリアが迎えてくれた。
「おはよう、エリカちゃん、シフィーちゃん」
「おはようございます、アメリアさん」
一階にはアメリアの姿しかなかった。
エレナは一昨日から出掛けている。
「お母さん、まだ帰ってきていないんだね……」
「今日中には帰ってきてほしいですね。アメリアさんがこの家に来るのが、最後かもしれないですから」
シフィーの言う通り、アメリアはもうこの家には来ないかもしれない。
なんとアメリアは明日この村を出て行き、アルパベーラ王国の貴族の男と結婚するらしい。
「そっか……もう明日なんだね……辺境伯の人だったっけ?」
貴族には階級があり、辺境伯の位は上位貴族に分類される。
「うん、フレズベルク家の人だよ」
「もうかれこれ、彼とは十五年の付き合いになるのかな……」
アメリアは今二十六歳だから……十一歳の頃に知り合ったということか……。
ちなみにアメリアと結婚相手は同い年だ。
「何だか寂しくなるね……」
俺がそう言うと、シフィーが「そうですね……」と相槌を打つ。
「もう、二人共そんなくらい顔しないで? 別にもう二度と会えないって訳じゃないんだから、ね?」
アメリアは俺達二人の頭を優しく撫でる。
確かにアメリアの言う通りだが、身近に居た人に暫く会えなくなると思うと少し悲しくなる。
もちろん、アメリアが結婚することに対してはめでたいことだとは思う。
その後俺達は少し暗い雰囲気の中、朝食を食べ明日の準備があると言って、家に帰って行くアメリアを見送ってから中庭に出た。
◇◇◇
中庭に出たシフィーは木剣を、俺は木刀を握り向かいあった。
「エリカ姉さん、今日も剣術の稽古やりますよ!」
シフィーは木剣の剣先を俺の方に向けてくる。
俺はシフィーが来てから、毎日剣術の稽古をつけてもらっている。
シフィーは亡くなった父親から剣術を教えて貰っていたらしく、かなり剣の腕が立つ。
その為、俺の方から剣を教えてくれと頼んだ。
「さぁ、全力で来てください!」
「いつも通り、魔法の使用も許可します」
俺は魔法と剣術を組み合わせた戦い方を練習している。
「うん、それじゃあ遠慮なく……!」
「『ウィング』!」
下級風属性魔法のウィングを使う。
足腰に風を纏い、瞬発力をアップさせる魔法だ。
「はぁっ……!」
俺は一気にシフィーとの間合いを詰めて木刀を振るう。
その攻撃をシフィーは軽々と弾き返す。
俺は後方に飛び退き、刀を構え直す。
「その程度ですか?」
シフィーは静かにそう言い放つ。
普段の性格からは信じられない物言いだ。
彼女は剣を握ったら、人が変わる。冷徹な性格に。
「まだまだ……!」
俺は高く飛び上がりファイアーボールとウォーターをシフィーに向けて放つ。
「甘いです……!」
シフィーはファイアーボールを右に避け、すぐさまウォーターを躱す為に空中に飛び上がる。
ファイアーボールは空中で破裂し、ウォーターはシフィーが立っていた場所に着弾し半径十メートルに水が広がった。
俺はシフィーが飛び上がったことを確認して地面に足を着け、シフィーの下に走り込み刀の鋒が低位置になるように構える。
「不味い……!」
シフィーが焦った表情を見せる。
「燕返し……!」
低く構えた刀身を勢い良く振り上げ、刃のを方を上に向ける。
「っ……!」
シフィーは俺の攻撃を止める為に剣を下に構え、自ら落下してくる。
俺はその動作を確認すると魔法の発動準備をする。
シフィーの体重が乗った刀身が、刀に重くのしかかり、俺の木刀は空中から地に押し付けられてしまい、その勢いで俺の体も地に近付く。
それと同時にシフィーは地面に着地し、その時地面に広がっていた水がシフィーの足に掛かる。
俺はすぐさま体を上げ、上に飛び退く。
今だ。
「『フリーズ』!」
フリーズ……水属性に属する、冷気を発生させる下級魔法だ。
地面に広がった水が冷気によって凍っていく。
先程、水が掛かったシフィーの足も靴のつま先から凍って行き、その場を動けない状態になった。
「しまっ……」
シフィーが、そう言いかけた時、着地した俺が、刀の鋒をシフィーの首元に突きつける。
「勝負あり、だね」
「……流石です、エリカ姉さん……!」
シフィーの強ばった表情が緩む。
俺は木刀を引っ込める。
シフィーの剣の腕はかなりのものだ。
現にシフィーはこの勝負において、自発的に攻撃していないのにあれだけ戦える。
シフィーと本気で戦ったら、間違い無く俺の剣の腕では魔法を使っても負けている。
それを裏付けるかの様に、シフィーは足の氷を木剣の一太刀で砕く。
「おーい!」
その時家の敷地の外からティアの声が聞こえた。
どうやらアルベールも一緒に居たらしく、彼と一緒に庭に入ってくる。
「さっき大きな音がしたが、何かあったのか?」
先程の俺が放った、ファイアーボールの破裂の音のことだろう。
「えっと……」
俺は2人に事情を説明する。
「事情は分かったが……あまり派手なことはやめておいた方がいい」
「ごめんね、心配させちゃって」
アルベール達はいつもの大樹の所でさっきの音を聞き、心配して来てくれたそうだ。
「お二人は何をやっていたんですか?」
シフィーがそう聞く。
「特になにもやって無かったよ?」
「ああ、大樹の下で話していただけだ」
なるほど、つまりいつも通りというわけか。
「どんな話してたの?」
「えっと……なんだっけ?」
ティアは、アルベールの方を向いて言う。
「人工遺産の話だろ?」
「そうそう! 一昨日錬金術関連の、同じ人工遺産が2つ発見されたらしいのよ!」
人工遺産……この世界は1000年前、大きな戦争で滅びかけていた。
人工遺産はその頃の遺物で今この世界にある道具では、実現出来ないことが出来る代物らしい。
この世界には錬金術という技術がある。
錬金術は鉱石類の素材を元に別の物を作り出せる。
例えば鉄を素材にしたら、鉄製の武器や道具を作り出せる。
「どんな錬金術の道具なんですか?」
シフィーがそう聞くと、ティアは満面の笑みを浮かべて答える。
「それがね! その錬金術の道具、魔力だけを材料にして物を作り出すことが出来るらしいのよ! どう? 凄いでしょ!?」
ティアは自分の事のように自慢するように語る。
「だが、その錬金術の道具、どこかの大金持ちが買い取ったらしいんだ」
「そう! そうなのよ! 見つかったその日の内に、有り得ないくらいの金額で2つとも買い取ったらしいのよ! どこの誰だか知らないけど、妬ましいわ!」
ティアは怒りながらそう言った。
「ティアって錬金術の話になると、凄く楽しそうだよね」
「そりゃそうだろう。ティアは錬金術師を目指しているんだからな」
ティアの夢は錬金術師になって、世界中を旅する事だと前に聞かされたことがある 。
「……と言う事は……ティアさん、村を出るつもりなんですか?」
「ええ、再来年には出ようと思っているわ」
シフィーは少し寂しそうにする。
「そうなんですか……」
「そういえば、アルもこの村を出るのよね?」
ティアはアルベールに聞く。
「ああ、来年にな」
「どうして?」
「軍人になるんだよ。もちろん帝国のな」
これは初耳だ。
「どうして軍人になるんですか?」
シフィーが聞いた。
「色々理由はあるが……強いて言うなら、両親に楽をさせてやりたいからだ。軍人は給料が良いからな」
なるほど、親孝行のつもりで軍人になるのか。
「エリカ達はどうするの?」
ティアが聞いてくる。
「どうするって……?」
「村を出るのかって、ことよ。私達、もう十五歳なのよ?そろそろ将来のこと、考えないといけない時期なんじゃないの?」
確かにティアの言う通りだ。
どうするか、か……。
「……私も来年、村を出ようかな……?」
「え…………」
シフィーが小さく、声を漏らす。
俺は村以外にも色々な所に行ってみたいと思っていたり
「村を出た後はどうするんだ?」
「うーん……」
……そこなんだよな。
「エリカは、何かやりたいことないの?」
やりたいこと……。
「……それなら、剣術や魔法を上達させたいかな?」
最近、魔法の訓練に行き詰まっている。
流石にいつまでも独学では厳しいかもしれない。
ちゃんとした、魔法を習える……。
「学校! 学校なんかいいんじゃないの?」
当たり前だが、この世界にも学校はある。
「学校?」
「うん!」
「確かに、学校なら、エリカの望みが叶うかもしれないな」
学校か。確かにいいかもしれない。
「学校だったら帝都の……なんて名前だったかしら?」
「帝都ログレスにある、ログレス士官学校だろ?」
「そう、それよ!」
「そこだったら、剣術や魔法を教えて貰えるはずよ」
「他にも、戦略、戦術なんかも学べるはずだ」
ティアとアルベールが帝都にある学校について教えてくれる。
ログレス士官学校……いいかもしれない。ただ、一つ問題がある。
「お金……どうしようかな……」
「あ、そっか……」
学校に通うには当然お金が必要だ。
「なら、暫くは冒険者をして、稼いだらどうだ?」
「そうだね……それしか……」
「……はぁ、二人共……何言ってるのよ? そんな事しなくても……」
ティアが何かを言いかけた時、庭にもう一人の人物が現れた。
「一部始終、話は聞かせてもらったぞ」
それはエレナだった。
「あ、お母さん、おかえり」
エレナの姿を見たアルベールとティアは「こんにちは」と挨拶した。
「うむ……それでエリカ。ログレス士官学校に行きたいのかの?」
「う、うん、でもお金がないから暫くは……」
俺がそう言うと、エレナが「はぁ……」と溜息をつく。
「ほんと、子供らしくないのう。おぬしは」
「え……?」
戸惑っている俺を横目にエレナは話し続ける。
「なぜわしに相談せんのじゃ?」
「え、いや、さっき行きたいって思ったから後で……」
「そういうことではない。学費についてじゃ」
確かにその手がある。
しかしそこまで世話になる訳に……いや、何故俺はそんなこと思っている。
エレナはこの世界では俺の母親だ。何も遠慮することなんてない。
親を頼るということは普通の事の筈なのに。
何故、俺はこの最善の策を思いつかなかったんだ?
……そうか、あっちの世界で俺はこんな、普通な事を体験していなかったからなのか……。
「……出してくれるの?」
俺が恐る恐る、エレナに聞く。
「当然じゃ。おぬしはわしの娘だからのう」
「ありがとう……お母さん!」
親がこんなに頼りになるとは、思っわなかった。
「……お母さん、私もエリカ姉さんと一緒にログレス士官学校に、通わせてくれませんか?」
「エリカ姉さんと一緒に、学校に通いたいんです」
シフィーは深く頭を下げる。
「お願いします……!」
「うむ、もちろんじゃ。血は繋がって無くとも、シフィーもわしの娘じゃからの」
そのエレナの言葉を聞いたシフィーは、ぱっと明るい顔になり、頭を上げる。
「あ、ありがとうございます……!」
シフィーは、再び深く頭を下げた。
◇◇◇
翌日。
早朝、俺とシフィーとエレナは、アルパベーラに発つアメリアを見送る為に村の門にやって来た。
「アメリアさん、元気でね?」
俺はアメリアにそう言う。
「エリカちゃんこそ、士官学校頑張ってね。もちろん、シフィーちゃんも」
アメリアはそう言いながら、俺とシフィーの頭を撫でる。
「エレナさん、今まで本当にお世話になりました」
アメリアは俺達から離れ、エレナの方を向き頭を下げる。
「うむ、アルパベーラに行っても達者でな」
エレナの言葉に、アメリアは静かに頷く。
「アメリア様……そろそろ……」
近くに止まっていた馬車から、フレズベルク家の執事の老人が降りてきてアメリアにそう言った。
「はい……行きましょう」
アメリアは馬車に乗り、その馬車が門から去って行く。
俺達は、馬車が見えなくなるまで静かに立っていた。
「それじゃあ、帰るとするかのう」
沈黙を破ったのは、エレナの言葉だった。
「……そうだね」
俺は振り返り、家に帰ろうとするが、何かが自分の頬を伝う感覚を覚え、立ち止まる。
「エリカ姉さん、それ……」
俺の頬には涙が伝っていた。
最初は一瞬、何故涙を流しているのか分からなかった。
だが直ぐに、アメリアが居なくなったことが哀しいという感情が湧き上がってきた。
「エリカ姉さん……」
シフィーは俺を静かに抱き締めてくれる。
俺の涙でシフィー服を濡らしてしまう。
2度と会えない訳では無い……それは分かっているが、涙が止まってくれない。
「……哀しいですよね…………当たり前にいた人がいなくなったら……日常から居なくなったら……」
シフィーは俺の後頭部を優しく撫でてくれる。
俺は暫く、涙を流していた。
どれ位の時間かは、分からない。
ただひたすらに、涙が枯れるまで、流れていた。
◇◇◇
一年後。千五十八年。
次の歳の春が訪れた。
四月、出会いと別れの節。
俺は姿鏡の前に立っていた。
「……よし…………」
俺はログレス士官学校の白のYシャツと紺青の上着と、スカートの制服に身を包む。
俺とシフィーはログレス士官学校の試験に無事合格した。
腰上辺りまである、黒い長い髪も寝癖が立っていないか確認する。
前髪も変な事になっていないか確認した。
「……」
これで何処もおかしな所は無い……筈だ。
最後に赤色の細い紐の帯を締め、ティアから貰った青色のネックレスを首に掛け、Yシャツの中に潜める。
完璧だ。
ただ、スカートが少し短いような気がする……。
仕方ない、規則だ。我慢しよう。
俺は服装の最終確認をしてから、荷物を持って部屋を出ようとする。
この部屋は少なくとも三年間は使わない。
そう思うと少し寂しくなる。
俺はそんなことを思いながら、部屋を後にして1階に降りた。
1階にはシフィーが既に来ていた。
「わぁ……エリカ姉さん、良く似合ってます!」
シフィーの方も中々似合っている。
紺青の制服がハーフアップロングにしている銀色の髪を良く目立たせる。
「シフィーも似合ってる、可愛いよ」
士官学校の制服の帯の色は選べる。
シフィーは水色の帯を締めていた。
「えへへ、ありがとうございます!」
シフィーが笑顔を見せる。
「お母さんは?」
「家の前です。何かさっきから、誰か待ってるようで……」
その時外からキュイイイイ、と車のブレーキのような音が聞こえた。
俺達は慌てて外に出た。
そこにはあったそれは、音の通りで黒塗りの自動車らしき物が止まっていた。
「な、なんですか、これ?」
シフィーは困惑している。
自動車らしき物から腰の悪そうな白衣を着た、スキンヘッドの老人が降りてきた。
「ふぅ、間に合ったわい」
老人は腰を叩きながら、そう言う。
「遅いわ! もっと早く来れんのか!」
エレナが、老人に怒鳴る。
「仕方ないじゃろ、こいつの扱いに慣れとらんからのう」
老人は自動車らしき物のボンネットを叩きながらそう言った。
「それで、例のアレは出来たんじゃろうな?」
エレナが老人に向けてそう言う。
「当たり前じゃ、わしを誰だと思ってるんじゃ」
老人は助手席から何かを取り出す。
「えーと、エリカと言う嬢ちゃんはいるかのう?」
「え、は、はい、私ですけど……」
俺が返事をすると、約70cm位の正方形の箱をこちらに放り投げてきた。
俺は慌てて受け止める。
箱の中を確認したてみると、二丁の拳銃が入っていた。
「これって……」
二丁の内、一丁を手に取ってみた。
「それって、銃ですよね?」
シフィーがそう言った。
「良く軍の方達が持っているのを見ます……あ、でも、良く見るのはもう少し大きいですけど……あの……ところで貴方は……?」
シフィーは今更ながら老人に名前を尋ねる。
「ほっほっほ、これはうっかりしとったわ」
「わしはアイン・セルフレア。空前絶後の天才じゃよ」
アインは再び「ほっほっほ」と笑う。
「もしかして……セルフレア博士!?」
シフィーは知っているようだ。
「知ってるの?」
「はい……ここ百年、パソコンやラジオ等、色々なものを開発をしてきた方です」
「銃も、この方が作ったんですよ」
この世界に来て意外だった事実が一つあった。思ったよりも文明が進んでいる事だ。
この村に住んでいて、シフィーが言ったパソコンや銃は微塵も見ないが、それはこの村がただ単に発展していないのが原因だろう。
「そう言えば最近、セルフレア博士が馬車に代わる乗り物を開発したって……」
なるほど……それじゃあこの自動車らしき物がそうなのか。
「お前さんよく知っとるな。そうじゃ、それがこの動力車じゃ!」
動力車……それがこの世界での正式名称になるらしい。
「あの……それで、この拳銃は……」
俺がアインに聞く。
「それはただの拳銃ではない。それはのう……使用者の魔力を使って、弾を補充出来るのじゃ! ま、そのシステムを作ったのは、わしではないんじゃがの」
魔力を使って……もしかして……。
「人工遺産ですか?」
「ほう、よく知っとるのう」
「その拳銃は、1年前に発見された錬金術の人工遺産を組み込んでおる」
「わしはその人工遺産を使い易いように、改造しただけじゃ」
「もしかして、買い取った大金持ちって……」
「いや、わしではない」
この爺さんじゃ無いのか。
「じゃあ誰が……」
「お前さんの母親じゃよ」
エレナが?
「え、え? お母さん、そんなにお金持ちだったの!?」
「当たり前じゃ。わしは元国家魔法師じゃぞ?」
「たかが人工遺産二つ、簡単に買える位の金はある」
「それに、ギルドの依頼でかなり貰っとるからのう」
うちの家は、そんなに金持ちだったのか。
「でもなんで……?」
「……エリカよ、少しガッカリするかもしれぬが……その銃は、九年前、約束していた杖の代わりじゃ」
九年前……ああ、あの時の事だろう。
俺の杖を作ってくれると言う約束の事。今になってはそんな約束をしたなくらいの出来事だ。
しかし、何故杖が拳銃になったんだ?
「この馬鹿が杖は作れないとか言い出してのう」
エレナはアインを見てそう言う。
「当たり前じゃ。わしは機械専門じゃからの。魔法具は専門外じゃ。その銃も人工遺産がなかったら、普通の銃と大して変わらんからの」
だから九年間も遅れたということか。
「エリカ、本当にすまない。詫びとしてもう一品こしらえてある。それで許してくれんかのう?」
エレナがそう言うと、再びアインが何かを投げつける。
今度は冷静にキャッチする。
「これは……刀?」
それは黒い鞘に納められている刀だった。
「ほれ、そっちの嬢ちゃんにも」
アインはそう言うと、シフィーに1本の剣を投げつけた。
「わわっ……」
シフィーは何とかキャッチする。
俺は、刀を引き抜くと黒い刀身が顕になった。
「それはヒヒイロカネという希少な鉱石で、打たせた刀じゃよ。剣の方もヒヒイロカネで打ってある」
シフィーも剣を引き抜くと、今度は金色の刀身が顕になった。
「わぁ……綺麗です……!」
シフィーが金色の刀身を見て、そう言った。
「ヒヒイロカネは魔力が伝うという、性質を持っていてのう」
「……刀身に魔力を通して、戦える、ということですか?」
俺がそう聞くとアインは「そうじゃ」と頷く。
確かにこれは戦い易くなる。
「ありがとう、お母さん」
俺はエレナの方を向きそう言った。
「そんなのでいいのかの?」
「うん、充分だよ」
「アインさんもありがとうございます」
俺はアインにも礼を言う。
「ほっほ、気にする事はないぞ」
シフィーも二人に礼を言った。
「二人共、動力車に乗るがよい。近郊都市ヘルシラの駅まで、送ってやろう」
帝都ログレスには、最寄り駅の近郊都市ヘルシラから汽車に乗って行く。
俺とシフィーは言われた通りに、動力車に乗ろうとする。
「エリカー! シフィー!」
ティアの声が聞こえ、聞こえた方向を見ると、ティアとアルベールが、こちらに走って来ていた。
「はぁ……はぁ……間に合った……って、何これ!?」
ティアは動力車を見て驚く。
まぁ、この世界では当然の反応だろう。
「見送りに来てくれたの?」
「ああ、暫く会えなくなるからな」
「そうだね……また会えるのかな……?」
俺がそう聞くとティアが答える。
「当たり前でしょ?」
「ああ、いつかまた会おう」
「あ、じゃあこうしない?」
ティアがそう言う。
「あの大樹の所で、いつになるかは分からないけど、またこの四人で集まりましょ!」
「いいですね、それ」
「ああ、いつかあの場所で」
「うん、集まろう」
俺達四人は頷きあう。
「……それじゃあ元気でね、アル、ティア」
「ふふ、あんた達もね!」
「うん……!」
俺とシフィーは動力車に乗り込む。
「シフィー、エリカ、元気でのう」
最後にエレナがそう言ってきた。
「行ってくるね、お母さん」
「うむ、立派になって帰ってくるんじゃぞ?」
俺とシフィーは頷き、動力車のドアを閉める。
動力車はゆっくりと動き出し、家から遠ざかっていく。
アルベールとティアは、見えなくなるまで手を振ってくれていた。
その後俺とシフィーは無事に駅に着き、汽車に乗って帝都ログレスに向かった。




