三十六話 編入生
「あら確か、貴方達昨日の……」
大通りの花屋に行くと、店前にミーシャが立っていた。
「エリカ・ライトです。こっちは……」
「エル・ノスタウェ……よろしく……」
「エリカちゃんに、エルちゃんね。私はこの店の店主、ミーシャ・ダーズリー、よろしくね」
ミーシャはそう言って、微笑みかける。
「早速来てくれるなんて嬉しいわ、どんな花をお求め?」
「あ、いえ、今日はミーシャさんに話を聞きたくて……」
「話?」
「リリーさんについてです。ここでアルバイトをしていたって本当ですか?」
「……ぁ……なるほど、貴方達、リリーちゃんの事件に疑問を抱いてるのね」
ミーシャは「分かったわ」と言って頷く。
「協力してくれるんですか?」
「私もリリーちゃんが自殺する子には思えないの。あんなに良い子がね」
「会長やフィオナ先輩も言ってた、明るい人だって」
「ええ、それはもう元気いっぱいで明るい子だったわ。それにリリーちゃんが亡くなる日の前、十六日もうちで働いてたけど、特に変わった様子も無かったから、益々信じられないのよ」
ミーシャの証言と、二人の証言に食い違いは無しか。
これは愈々、自殺の線が薄くなってきたな……。
「何でリリー先輩はここで働いてたの?」
エルがそう聞くと、ミーシャはにやりと笑う。
「それはね……カイル君、彼の為よ」
「部長の?」
「うん、リリーちゃんはね、カイル君の誕生日プレゼントを買う為にうちで働いていたのよ。あ、そう言えば、そろそろカイル君の誕生日ね、今日が九日だから……三日後の十二日ね」
「……もしかして、部長の事好きだった?」
「ふふ、正解。リリーちゃんって思ってる事、顔や行動によく出る子だったの。それでね1回、カイル君がお店に来た事があったんだけど、その時のリリーちゃんの様子を見てたら直ぐに分かっちゃったわ。本人は上手く誤魔化してるようだったけど、あの様子じゃ、きっとカイル君も彼女の想いに気付いていたわ」
なるほど、リリーはカイルに想いを寄せていたのか。
カイルがその想いに気付いていたとしたら、彼女の結末をどうやって受け止めているのだろう。
「本人に聞いたら、恥ずかしがって答えてくれたわ。カイル君の事が好きだってね」
「……それも理由の一つなんですね。リリーさんの自殺が信じられない理由の……」
「……ええ、だから知りたいの、何でリリーちゃんが死ななくちゃいけなかったのかを」
ああ、この人もリリーの事を大切に思っているんだな……。
どうやらリリーという人物は色々な人から愛されていたらしい。
「はい、私も知りたいです。絶対に見つけ出します。だから待っていてください」
「……うん、お願いね、エリカちゃん、エルちゃん」
俺達がそっと頷くと、暫くしてからミーシャがにこっと良い笑顔を見せる。
「それじゃあ、今度はお花を買いに来てね。2人なら安くしてあげるから。その子猫ちゃんも一緒にね」
『ニャー』
ルナが鳴くと、ミーシャが再び「ふふ」と笑う。
「はい、今度はお客として寄らしてもらいます」
「ええ、待ってるわ」
それから俺達は学校に戻った。
そしてそろそろ、生徒会の会議は終わってる頃かと思い、生徒会室に行くものの、まだ会議が終わってなく、ひとまず探偵部の部室に戻って来た。
さてこれからどうするか……。
取り敢えずカイルに話を聞きに行くか……それとも……。
「……そう言えば、今日、部長来てないね。この時間なら、部室にいるはずなんだけど……」
「部長、今日来ないよ」
「え?」
「期末試験の点数が低かったから、補習だって」
嘘だろ……これはもう、カミラに話を聞きに行く以外無いか……。
「どうする?」
「……うん、カミラ教官に話を聞きに行こう」
結局、カミラに話を聞きに行く事になり、職員室へと向かった。
「……カミラ教官、少し話が……」
職員室に入り、カミラの元へ行くと、誰かと話していた。
「あら、エリカさんに、エルさん、何か用ですか?」
「え?」
カミラが俺達に反応すると、その人物がこちらを振り向く。
それは桜色の髪でセミロング、前髪ぱっつんの可愛らしい顔付きの少女だった。
同じ制服を来ているが、この学校の制服だろうか。
「あの、その人は……」
そう言いかけた時、その女子生徒がいきなりこちらに駆け寄り、抱きついてくる。
「エリカさん! 会いたかったです!」
「え? 何で私の名前を……?」
「エリカ・ライトさんですよね! あのエレナ卿のご息女のエリカさんですよね! ね!?」
「う、うん、そうだけど……」
俺がそう言うと、女子生徒は俺から1歩離れる。
「……ずっと前から好きでした! 付き合って下さい!」
女子生徒はそう言って、頭を下げる。
「え……ええぇぇ!?」
俺は思わず驚いた声を上げる。
……何なんだ、こいつは。初対面でこんな事を言う奴は初めてだ。
それにこの世界での俺の肉体的な性別は女だ。
そしてこいつも性別は女……。
困惑の二文字しか出てこない。
「わぁ……」
エルは口をぽかんと開け、そんな様子を見ていた。
「ちょ、ちょっと待って! いきなりそんな事言われても……それに私も貴方と同じ女性だよ?」
「はい! 分かってます! それでも好きなんです!」
えぇ……これは取り付く島もないな……。
「あ、あの、カミラ教官、この女子生徒は何なんですか?」
俺はまだ頭を下げたままの女子生徒を横目に、カミラに助け舟を求める。
「その子は……うーん……何と言うか、エリカさんの熱狂的なファンって感じ……かしら?」
カミラは首を傾げる。
いや、そこはちゃんと説明してくれ……。
「あ、あの……えっと……」
「コルネです! コルネ・アゼリアです! 呼び捨てで結構です!」
「じゃあ……コルネ、取り敢えず顔上げて?」
「はい! エリカさんの頼みなら!」
コルネは勢い良く頭を上げる。
「それでカミラ教官、改めて聞きますけど、この子は?」
「二学期から貴方と同じクラスになる編入生です。それで今丁度、このコルネさんの編入手続きやら、なんやらしていたところなんです」
同じクラス…………。
「それでエリカさん! さっきの返事、聞かせてください!」
「え!? えーと……その……」
俺がなんて言おうか困っている時、エルが口を開く。
「エリカが困ってる。やめてあげて」
ナイスだ、エル。もっと言ってやってくれ。
「困ってなんかないですよ! きっとエリカさんは私の烈熱な告白に心を打たれている筈です!」
そんな訳ないだろ。どう見たらそう思えるんだ。
「そんな訳ない。明らかに困ってる」
「困ってなんてないですってば! はっ、もしかして貴方もエリカさんを……」
待て待て、話が変な方向に……。
「はい、そこまでです」
その時、カミラが俺達の合間に入り、手を叩く。
「コルネさん、少し落ち着いてください」
「だけど、カミラ教官……」
「だけどじゃありません。周りを見てください」
職員室中の視線は俺達に集まっていた。
「あ……」
やっと周りの状況を理解したコルネは落ち着きを取り戻す。
「エルさんも。これから同じ学校の生徒になるんです。あまり喧嘩腰のような発言は控えるように」
「……ごめん、でもコルネが……」
「私が何なんですか!?」
「だから! それをやめなさいって言ってるんです!」
その様子を見たカミラが溜息をつく。
「……取り敢えず、コルネさん。手続きは一通り終わったんで、今日はもう帰っても大丈夫ですよ」
「本当ですか!? じゃあエリカさん! 学校案内して下さい!」
「え、えぇ……」
「そんな露骨に嫌な顔しないで下さいよ!」
いや、だってなぁ……。
「……それ良い提案ですね」
「え? カミラ教官?」
「2学期が始まる前に、コルネさんに校内を案内した方が良いでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
だとしてもこいつを案内するのは嫌だな……。もの凄く疲れそうだ。
「エリカ、それ引き受けよ」
「エルまで…………」
……そう言う事か。
「……分かりました、ですが、引き受ける代わりに、頼みがあるんです」
「頼み?」
「はい、もちろん、コルネを案内してからで良いです」
「頼みですか……まぁ、良いでしょう。私に出来ることなら」
よし……。
「その言葉忘れないで下さいね。じゃあ、コルネ、案内するからついてきて」
「はい! エリカさんとデート出来るなんて光栄です!」
いや、だから、何でそう言う考えになるんだ……。
「……私も居る」
「え、貴方もついてくるんですか?」
「……エリカ、やっぱりやめよ」
「いやいや……取り敢えず、ついてきてね、コルネ」
「はい! エリカさんとなら何処まででも!」
俺達は職員室を後にし、先ずは一階を案内することにした。




