三十五話 二年前の事件
「フィオナ先輩、ルナ、預かってくれてありがとう」
エルはノックもせずに新聞部の部室の中に入る。
「あ、やっと戻って来たわね。全く、いきなり押しかけてきて『ルナを預かっていて』ってだけ言い残しで言っちゃうんだから、びっくりしたわよ」
フィオナは抱いていたルナをエルに渡す。
「あれ、エリカも居たの?」
「はい、少しフィオナ先輩に聞きたい事があって……」
「私に?」
「その……二年前の事件について聞きたいんです」
「っ……」
フィオナは一瞬険しい顔をする。
この反応は話を聞くのは難しいか。そう思っていた。
「はは……そういう事なのね……良いわよ」
だが、フィオナはあっさりと了承してくれた。
「え、良いんですか?」
「良いんですかって……あんたが言い出したんでしょ。ほら、丁度他の部員も居ないから、ここで話してあげるわ。座りなさい」
俺とエルはフィオナに言われるまま、部室の椅子に座る。
「……随分と簡単に答えてくれるんですね。部長はこの話をする事すら嫌ってるらしいですけど……」
「あいつはきっと、彼女の事を思い出して辛くなるのが嫌なのよ。だから事件の話をしない。でも私は違う想いがあるの」
「違う想い……?」
「あんた達、ヴィクターに言われて来たんでしょ? 事件の真実を見つけ出して欲しいって。私もね、あの事件の真実を知って欲しい、解いて欲しいって思ってるのよ。だからあんた達が事件に興味を持ってくれて嬉しいと思ってる」
そうか、フィオナはヴィクターと同じで事件の真実を知りたいのか。
「フィオナ先輩、私達が絶対に真実を明らかにする」
「そう、ありがとう。それじゃあ、何から聞きたいの?」
「じゃあ先ずは、事件の当日、リリーさんに何か変わった様子はありませんでしたか?」
「そうねぇ、特に無かったと思うわ」
「では一部の女子生徒から何か言われていた、と言う話は?」
「それはあったわ。でも彼女はいつもの様にあまり気にしてない様子だった」
ヴィクターの証言と同じか……。
「その理由は知っていますか?」
「ええ、それはカイルが原因よ」
「え……?」
俺達は予想外の答えが返ってきて、驚く。
「そりゃそんな反応するわよね。今のあいつからじゃ想像出来ないだろうけど、一年の時は結構クラスの女子から好意を抱かれてたのよ。同じ班だけに留まらず、放課後もよく一緒にいたリリーは『調子に乗るな』とか『言い寄るな』言われて、よく突っかかれてたの。でも一緒の部屋になったのはもちろん偶然で、班に誘ったのもカイルからだったし、ざっくり言えば、言い掛かりね」
「それを聞いた部長は自分のせいだと思ってるから、嫌がってる?」
「恐らくね……でも、さっきも言ったけど、リリーはそれを気にしてる様子は無かったわ。それにあいつもそこまで馬鹿じゃない。本当は分かってる筈なのよ……本当は……」
フィオナの声は暗くなり、下唇を噛む。
「あいつは今、自分の意志を偽っているわ。本当はあの事件には別の真実があると気付いているのに、踏み出せずにいる。私には分かるの」
「……フィオナ先輩は部長の事、よく分かっているんですね。もしかしてお二人は、学校に入学する以前からの知り合いですか?」
「ええ、幼馴染よ」
やはりか。この二人は喧嘩はしているものの、何処か仲良は良さそうだとは思っていたが……。
「私はね、本当はこの学校に来るよりも、やりたい事があったけど、おやに無理矢理、ね……でも昔から筋金入りのお人好しだったカイルは、そんな私を見兼ねて、一緒に来てくれたのよ。今のあいつからは想像出来ないでしょ?」
フィオナは「ふふ」と小さく微笑む。
まるでその頃が懐かしいと言う風に。
「今のあいつは自ら嫌われる様に振舞ってるわ。それが自分に出来るせめてもの償いだと思ってね。でもそれは違う、カイルは何も悪くない。だから真実を知って欲しい、目を覚まして欲しい。だから、他に聞きたい事があれば、何でも答えるわ」
……これはいよいよ、本気で真実を見出さないといけないな……。
ヴィクター、フィオナ……そしてカイルの為にも。
「では、最後に彼女と会った人ってご存知ですか?」
「カイルよ。放課後、教室を出て別れたのが最後だって言っていたわ」
カイルが最後の目撃者……。だとすると必然的にカイルに話を聞く必要があるか。
「最後に聞かせてください。もし、リリーさんが殺害されたとしたら、犯人に心当たりは無いですか?」
「そりゃあ、さっき話した女子達だろうけど、流石にそんな事で殺害するとは思えないわね。それ以外だと、うーん……彼女は誰にだって親切で優しかったし……ごめんなさい、思い当たらないわ」
「いえ、ありがとうございました」
「また何か聞きたい事があったら、いつでも来て」
「はい」
俺は頷き、エルと共に新聞部を出て行こうとする。
「あ、ちょっと待って」
だがフィオナに呼び止められ、立ち止まる。
「これからも他の人に話を聞くんでしょ? だったら大通りの花屋に行ってみるといいわ」
大通りの花屋……もしかして。
「それってミーシャって人が店主の……」
「そうそう、リリー、その店でアルバイトをしていたから」
そうだったのか。確かに学校外での様子も知っておきたい。
行ってみる価値はありそうだ。
「ありがとうございます。そこにも行ってみようと思います」
「うん……絶対に真実を見つけてね」
「はい!」
今度こそ、俺達は新聞部を後にする。
「新しい手掛かりが増えたね。次は誰のところに行く?」
エルが歩きながらそう聞いてくる。
そうだな……ここは花屋のところに行ってみるか。
カミラとカイルは難しいだろうし、ヴィクターはまだ生徒会の会議中だろう。
「花屋に行ってみようかなって」
「そうだね、私もそれが良いと思う」
「分かった、それじゃあ行こうか」
「ん、行こ」
俺達は大通りの花屋へと向かった。




