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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
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三十三話 リリー・サンチェス

 

「すみません、遅れまし――」

「何回言えば分かるのよ!」

「ふん、貴様の事情など知った事か」


 二十分程時間をかけて学校へ戻り、部室へ行くとまたカイルとフィオナが言い争っていた。

 二人の言い争いは日常的なので珍しいものではないが……。


「えっと……部長、どうしたんですか?」

「いつもの事。部長が騒がしくして、フィオナ先輩が怒った」


 俺の問いにはカイルの代わりに部室の隅で猫……もといルナを撫でているエルが答えてくれた。

 ちなみに猫のルナと言う名前はカイルが付けた。

 それにしても毎度毎度飽きないな……。仲が良いんだか悪いんだか分からない。


「部長とフィオナ先輩、仲良いよね」


 いつの間にかルナを抱きかかえて、隣に立っていたエルがそう言った。


『良くない!』


 エルの言葉に、二人が声を揃えて反論する。

 仲は良くないが、息は合っているな……。


「はぁ、あんたと話してたら疲れるわ……まあ、そういう事だから。じゃあね」


 フィオナはそう言って部室を出て行った。


「あ、おい……ったく、あいつときたら……」

「部長、それで今日は何をするんですか?」

「おお、そうだったな。二人共行くぞ!」


 そう言ってカイルも部室を出て行こうとする。


「え? 行くって何処に?」

「ついてくれば分かる。ほら、早く行くぞ!」


 カイルは廊下へと姿を消す。


「ええ……?」

「行こ、エリカ」


 エルは戸惑いも無く、猫を抱いたままカイルの後を追うように部室を出て行く。

 カイルの傍若無人ぶりはいつもの事だが、未だに慣れない。まあ慣れたいとは思わないが。

 俺とエルはカイルに連れられ、帝都の大通りへとやって来た。


「部長、そろそろ行先ぐらい教えてくれても良いんじゃないですか?」

「ついてくれば分かると言っただろう。本当に貴様はせっかちだな」


 カイルは溜息をつく。いや、溜息をつきたいのはこっちなんだが。

 そんな事を思いながらカイルの後ろを歩いていると、いつの間にか大通りの一角にある、着いていた。


「あらカイル君、今日も行くの? そっちはお友達?」


 店前でしゃがんで花の整理をしていたチェック柄のエプロンを付けた黒髪の女性店員がこちらに気付き、立ち上がる。


「ああ、後輩だよ。俺1人じゃ寂しいだろうと思ってさ」

「ふふ、そうね。きっとあの子も大勢の方が喜ぶと思うわ。それで今日はどのお花にする? ストックの花でも持って行く?」

「はは、茶化さないでくれよ、ミーシャさん」


 カイルと女性店員は微笑み合う。

 女性店員の名前はミーシャと言うのだろうか。

 それにしても随分と親しげに話しているな。カイルは良くこの店に来るんだろうか。


「そうだな……ん? その花は?」


 カイルは店前に出ていた赤い花を指さす。


「あ、それ、綺麗でしょ? 先日メルディアシエから来た彼岸花って花よ」

「彼岸花……じゃあそれを貰おう」

「分かったわ。それじゃあ少し待っててね」


 女性店員はそう言い残し、彼岸花を持って店内へと入って行った。


「この店にはよく来るんですか?」

「ああ、ここの店主、ミーシャさんには前から良くして貰っていてな。花はいつもこの店で買ってるんだ」

「と言う事はよく花を買うんですね」

「まぁな……」


 そんな話をしている間に、女性店員が彼岸花を包んで戻ってきた。


「お待たせ。それじゃお代だけど……」

「ああ、幾らだ?」

「今回はいいわ。カイル君はお得意様だし、それに私もあの子にお花を供えたかったしね」

「良いのか?」

「ええ、気にしないで」

「ならお言葉に甘えるとしよう。ありがとう、ミーシャさん」

「ふふ、また来てね。そっちの二人も」

「ん」

「はい、花が必要な時は買いに来ます」


 俺達は花屋を後にし、そのままカイルに連れられるがままに、帝都東門から出て、直ぐの所の丘の上にあるキエラ霊園にやって来た。


「着いたぞ、ここだ」


 やはり墓参りか。


「やっぱり何方かの墓参りだったんですね」

「気付いていたか。こっちだ、ついてこい」


 再びカイルの後をついて行く。

 やがて帝都を見渡せる場所に出た。


「……わぁ……綺麗だね、ルナ」

『ニャー』


 エルは木製の柵に身を乗り出し、帝都を見渡す。


「しまった……二人共、少し待っていてくれ、管理人から掃除道具を借りてくる。助手二号、花を持っていてくれ」


 カイルは俺に花を預け、来た道を戻って行く。


「……こんな綺麗な場所だったんだね。部長がいつも来てた所」

「あれ、エルは知ってたの?」

「うん、来た事は無かったけど、話には聞いてた。頻繁にここに来てるって部長が言ってたから」


 エルは知っていたのか。

 じゃあカイルが誰の墓参りに来ているのかも知っているのだろうか。


「じゃあエルは部長が誰の墓に来ているか知ってるの?」

「ううん。でも部長の友達で、二年前に亡くなったって言ってた」


 二年前……もしかして……。


「その人が探偵部を作ろうって言ったらしい。だけどその前に亡くなって……でもそれでも部長はその人の意志を継いで、今年の春まで一人で部活を作ろうと頑張ってた」

「そこにエルが加わった……」

「うん、私はその話を聞いて部長を手伝いたいと思った。だからこの探偵部に入ろうと決めた」


 この探偵部にそんな訳があったなんてな……。

 それにカイルの事も少し見直した。決して適当にやっていた訳では無かったのか。


「すまん、待たせたな」


 その時丁度、カイルは掃除道具を持って戻ってきた。


「部長……あれ、そっちの方は確か……」


 カイルの横には学校で良く目にする姿があった。

 茶髪でミディアムロング、目つきが悪い青年、生徒会長のヴィクター・クライスだ。


「生徒会長がなんでここに?」

「ああ、こいつはな俺と同じクラスで同じ班なんだよ」


 生徒会長ってBクラスだったのか。てっきりSクラスだと勝手に思っていた。


「戻る途中でこいつと会ってな。どうやらこいつも墓参りに来たらしいんだ」

「一年のエリカ・ライトとエル・ノスタウェだな。こいつやユリウスから話は聞いている。ヴィクター・クライスだ、よろしく頼む」

「よろしく……です」

「よろしくお願いします」


 俺とエルは小さく頭を下げる。


「こいつには随分と振り回されてるようだな。何かあったら言ってくれ。生徒会の権限で廃部にしてやる」

「おいおい、ヴィクター…」

「冗談だ……あいつが遺した部をそんな事にはしない。それじゃ行こう」


 俺とエルはカイルとヴィクターの後をついて行く。


「最近、生徒会の仕事はどうなんだ? 見た感じ忙しそうだが」

「今年は優秀な1年が3人も入って来てくれて助かってる。まぁそれでも忙しいのには変わりはないな。そう言えば、エリカ。あんた、かなり頭が切れるようじゃないか。良かったら生徒会に入らないか?」

「え? えーと……その、辞めておきます。私は探偵部の部員ですから」

「そうか……お前も良い部員を持ったな、カイル」

「当たり前だろう、俺の目には狂いは無い」

「ふ、どうだかな……」


 生徒会長って意外にも気さくな人なんだな。もっと堅苦しい人かと思っていた。


「よし、着いたぞ」


 数分歩き続け、一つの墓の前で立ち止まる。


「このお墓が部長の友達の?」


 エルはそう聞くと、カイルは「ああ」と頷く。


「……リリー・サンチェス」


 俺は墓に書いてある名前を読み上げる。


「女の人……」

「ああ、同じクラス、同じ班だった奴だ」


 やはり二年前に自殺した生徒なのか……?

 だとしたら、カイルはどんな辛い想いなんだろうか……。


「助手二号、花を供えてやってくれ」

「はい」


 俺は墓に前に静かに花を供える。

 その後俺達は目を閉じ、手を合わせる。

 一分間後目を開け、最初に口を開いたのはカイルだった。


「お前達、墓の掃除を手伝ってくれ」

「まかせろ」

「ん」

「はい」


 俺達はしゃがんで墓の掃除を始めた。


「……こいつは……リリーは、二年前のこの時期ぐらいに亡くなったんだ」


 カイルは掃除をしながら、静かに語り始めた。


「……自殺だった。突然だった。放課後、いつものように笑顔を見せて別れて、次の日また会えると思っていた。なのに、遠くに、手の届かない所に行ってしまった……」


 カイルは悲しそうな声で話す。

 当事者ではない俺では計り知れない悲しみがこもった声で。


「……悪いな、勝手にぺらぺらと話してしまって」

「いえ……部長は何でその話を私達に……?」

「さぁ、何でかな……ただ単純に聞いて欲しかった……のかもな」

「カイル、お前……」


 そこで会話は途切れ、掃除が終わるまでこの場にいる誰もが無言だった。


「……これくらいで良いだろう」


 最初に生徒会長……ヴィクターが腰を上げる。それに続いて俺達も立ち上がる。


「ああ。悪かったなお前達、付き合わせてしまって」

「部長、水臭い。これからは手伝うから、またここに行く時は呼んでほしい。だよね、エリカ?」

「そうですよ。それにこんな事で謝るなんて部長らしく無いじゃないですか」

「お前達……確かにそう……だな……ならばこれからは存分にこき使ってやる! 覚悟しておくんだな!」

「あはは……お手柔らかに……」

「ふ、ならそろそろ帰るとするか」

「そうだな! 帰るぞお前達!」


 俺とエルは頷き、カイルと共に丘を降りて行く。

 その時の俺は二年前の事件、カイルの事、探偵部発足の秘密を知れて良かったとしか思っていなかった。

 この二年前の事件に、残酷で悲しい、予想もしていなかった真実が隠されているとも知らずに、俺はそんな呑気な事を考えていた……。


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