三十一話 思惑
それから四日が経ち、八月五日。エリカ達が帝都に帰る日がやってきた。
イーハ村の滞在は初日以降、特に大きな出来事は無く、ただ楽しい時が流れた。
そしてその日の朝、エリカ達は迎えに来るアインを家の前で待っていた。
「この四日間、お世話になりました」
エレナにそう言ってお辞儀をしたのはクロウだった。
クロウに続き、アッシュとアリッサもお辞儀をする。
「うむ、何時でも歓迎する。また来るんじゃぞ」
三人はエレナに力強く返事をする。
「お母さん、私、立派スリーナイトになってみせます。だから見ていてください」
「……良い顔じゃ。お主がスリーナイトになる時を楽しみにしておるぞ」
エレナはそう言って、シフィーの肩に手を置く。
「はい!」
「……それとエリカ、あまり危ない事はしないように、な」
「し、知ってたの?」
「憲兵のネハルムとやらが直接謝りに来よったわ。自分のせいでエリカに怪我をさせてしまったとな。全く律儀な奴じゃったわ、話を聞く限りエリカが勝手に突っ走ったせいだと言うのに……」
「あ、あはは……返す言葉も無いです……」
エリカはぐったりと肩を落とす。
「お主はまだ弱い、だから危ないことはするな」
「……うん」
「分かればいいんじゃ……お、迎えが来たようじゃの」
エレナがそう言うと、動力車が音を立てて向かってくるのが見えた。
その動力車はエリカ達の前に止まり、中からアインが降りてくる。
「待たせたの。もう発つ準備は出来とるか?」
「はい、今日もよろしくお願いします。セルフレア博士」
「うむ、ほら早く乗るんじゃ」
「はい……それじゃお母さん、またね」
「またいつでも帰ってきて来ていいからのう。シフィーもじゃ」
エリカとシフィーは頷き、動力車へと乗り込む。
他の三人も最後に解釈をしてから、二人に続く。
アインはそれを確認してから、運転席へと戻ろうとする。
「全員乗ったな? それじゃあ――」
「待て、アイン」
だがアインはエレナに呼び止められ、足を止める。
「少し話がある。こっちへ来い」
エレナは中庭に顔を向けて、顎をくいっと上にあげる。
「……分かった。皆、少し待っておれ」
アインはエレナの後をついて行き、中庭へと移動する。
「なんじゃ、深刻な顔をしよって」
「そのな……少し厄介な事があってだな……」
エレナはタルタロスの1件を伝える。
「……待て、冥界への裂け目が出たと言うことは……」
「ああ、恐らくは……な」
「なんと……」
アインは目を見開き、驚愕する。
「だったら早急に手を打たねばならないのう……」
「ああ、分かっておる……だが、まだ確定では無いし、あまり大事にも出来ぬ……どう対処するべきか……」
「……ならこう言うのはどうじゃ?」
「ん?」
アインはエレナに淡々と考えを説明する。
「……確かにそれなら……だが、お主にそんな事が出来るのか?」
「出来るとも。それにお前さんの名前を出せば、確実じゃ」
「うーむ……分かった。わしも後日そちらへ向かおう。しかし、この手を使うことになるとはのう……」
「決まりじゃな。なら早いところ戻るとするか。あ奴らをあまり待たせるのも悪いからの」
エレナは頷き返し、動力車の元へと戻る。
「お、やっと戻ってきた。待ちくたびれぜ」
「二人共何話してたんですか?」
動力車の元へと戻ると、エリカとアッシュが動力車から降りていた。
「すまんな、またこやつに小言を言われていてな。ほら、早く出発するぞ」
アインは二人の間を通り過ぎ、動力車へと乗る。
その様子を見て、二人も渋々動力車の中に戻る。
「それじゃ、またな、お主ら」
「うん、元気でね、お母さん」
エリカとエレナはそう言葉を交わし終わった後、近郊都市ヘルシラを目指し、動力車が動き出す。
エレナはそれを見えなくなるまで、見送っていた。
「……さて、わしも発つ準備をするかのう。あそこに行くのは久々じゃな……」
エレナは憂鬱な表情をして家の中へと戻る。
それから約1時間後、エリカ達は列車に乗っていた。列車は快晴の空の下を走り、帝都を目指す。
そして、その列車を丘の上から眺めていた人物達がいた。
「第二段階は完了……でいいデスカ?」
それはサリル達三人だった。
「ええ、ほぼ、と言っていいかと」
「まさか、先に第二段階が完了してしまうとは……サリル様、貴方の機転に感謝しますよ」
サリルはBの言葉に何の反応も示さない。
「後は進行中の第一段階ですね……でもこれだけ探しても無いなんて……何処にあるんでしょうか……?」
Kの問いにすぐに答えたのはBだった。
「もしかしたらもう、帝国には無いのかも知れませんね」
「え? 何を言って……帝国に無いなんてそんなはずは……」
「……有り得マスネ。行ってみまショウ」
そう言ってサリルは丘を下ろうとする。
「行くって何処にですか?」
「アルパベーラ、デス」
サリルはKの問いに足を止める。
「アルパベーラ……確かにあの国にならあってもおかしくはありませんね」
「それにあの作戦以降、帝国で動きづらくなっていマス。アルパベーラでなら、多少は動き安くなるでショウ」
「……そうですね、行ってみましょう。アルパベーラに」
「決まりデス。K、Sには貴方から連絡をお願いしマス。帝国での捜索、第二段階の仕上げは貴方に任せると」
「分かりました」
「それじゃあ準備が出来たら行きましょう。アルパベーラに」
Bはそう言うと、三人は丘を降りて行った。




