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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
30/127

二十九話 ケルベロス戦

 

「先手必勝だぜ!」


 アッシュがそう言い放ち、ケルベロスの首下へと潜り込む。


「オラァ!」


 そして三つあるうちの一つの首を下から斬り落とす。



「よっしゃ! まず一つ……おいおい、まじかよ……」


 なんと切り落とした所から、新しい首が生えていた。

 その新しく生えた首がアッシュを攻撃しようとする。


「アッシュ! 避けて!」

「っ……!」


 避けようとするもアッシュは頭突きを受け、こちらへ吹っ飛ばされる。


「がはっ!」


 アッシュは地面に倒れ込み、咳き込んでいる。


「大丈夫!?」


 俺はアッシュの元へと駆け寄り、手を引っ張って体を起こす。


「あ、ああ……しかし厄介だな……斬り落としても直ぐに再生されちまう」

「多分だけど、三つとも斬り落とさないと駄目なんだと思う。それも一つでも残したら再生する隙を与えるから、三つ同時にね」

「ええっ、同時に三つとも……!? そんなの無理だよ!」


 クロウはケルベロスを見ながら嘆く。

 彼の言う通り、三つ同時となると厳しい。

 さっきは先手を打って、攻撃を仕掛けたから切り落とせた。しかし、当然その手はもう使えない。

 ケルベロスはこちらを威嚇し、警戒体制に入っていた。これじゃあ三つ同時は厳しいだろう。

 せめて一瞬で奴の動きを止められたら……待てよ、もしかしたら……。


「アリッサ! 時属性の魔法って使える!?」

「え、急に何? まぁ、使えなくは無いけど……まだ不慣れだから効果も一瞬だし、詠唱も必要よ?」

「助かるよ。私はまだ使えないから、アリッサも使えなかったら、打つ手なしだったよ」


 本当に助かった。これで希望が見えてきた。


「アリッサ、準備が出来たら即座に時魔法を撃って」

「もしかして、こいつの魔法で動きを止めてる間に、奴を仕留めるつもりか?」

「え……ええっ!?」


 アッシュの言葉にクロウが驚きの声を上げる。


「時魔法の効果時間って、一秒程度なんだよね? それにまだ不慣れって……」

「うん、恐らくそれ以下だろうね」

「無理無理無理! そんな一瞬の間に首を切り落とすなんて……」


 まぁ、そういう反応をするよな。でも……。


「やるしかないんだよ。少しでも可能性があるなら、やらなきゃいけないんだ。生き残る為に」

「っ……生き残る……為……」


 もう少し騒ぐと思っていたクロウは、意外にも表情に冷静さを見せて黙り込む。


「そうだな、少しでも可能性があんなら、足掻いてみようぜ。どうせこのままじゃお陀仏だ。斬り落とすタイミングは任せたぜ」


 アッシュはそう言って俺の肩をぽんと叩く。


「そうね、こんな訳分からない場所で死にたくないわ。もう一度言うけど、まだ不慣れだから、効果は本当に一瞬、1秒以下よ。それに上手く魔法を発動させれるかも分からないわ」

「うん、分かってる。それでもやるよ」


 今のアリッサの魔力量では、時魔法を撃てる回数は一回きりだろう。

 その一回きりのタイミングを逃したら、今度こそ打つ手なしだ。


「……はは、そうだね、こんな所で死にたくないや。僕もやるよ。その作戦」

「……うん、じゃあ、クロウは右側の首を。アッシュは左側の首、私は真ん中の首を。タイミングは私が合図するから。アリッサはさっきも言った通り、準備が出来たら即座に。それまでは私達が時間を稼ぐ」

「少し不安だけど……やってやるわ。必ず奴の動きを止めてやるわ!」


 アリッサは力強く頷く。


「よし……行くよ、皆!」

「おうよ!」

「うん!」

「ええ!」


 俺は先陣を切って、ケルベロスへと突っ込んで行く。

 アッシュとクロウも俺の後に続く。


「はぁっ!」


 俺は力を込めて刀を振るが、それは難なくケルベロスの前足で防がれてしまい、力負けして体ごと押し戻されてしまう。


「くっ!」


 その時に体制を崩して、膝を着いてしまう。

 半端ない力だ。前片足だけであの威力か……。

 そして間を置くことも無く、ケルベロスがこちら目掛けて中央の頭を突き出し、突進を仕掛けてくる。

 っ……不味い、早く立ち上がらければ……。


「させるか!」

「絶対に止める!」


 そう思った時、俺の前に立ち塞がったアッシュとクロウが武器で、ケルベロスの頭を押さえる。


「1人で先走るんじゃねぇ! いつも通り連携を取るぞ!」

「エリカらしく無いんじゃない? いつもみたいに僕達を巧みに操って……みせてよ!」


 2人の力でケルベロスを数歩後ろに下がらせる。


「ほら、立てよ」


 俺はアッシュの手を借りて立ち上がる。


「ごめん、ありがとう。そうだね、連携を取って、アリッサのために時間を稼ごう」

「うん! っ……来るよ!」


 再びケルベロスが突進を仕掛けてくる。

 それを左に躱す。アッシュもクロウも躱したことを確認する。


「光よ、天に伸びる柱となって敵を滅せよ『シャイニングレイ』!」


 俺が光属性の中位魔法、シャイニングレイを発動させると、ケルベロスの足元から光が溢れ、筒状の柱となって天に伸びる。

 ケルベロスは怯み、アッシュとクロウが左右の首を斬り落としにかかる。

 だがケルベロスは噛み付こうとし、二人はそれを躱せざるを得なかった。


「くっそ、素早いな……」

「でも注意は引けてる。後は……」


 その時、後ろからアリッサの声が聞こえた。


「時よ……」


 あれは時魔法の詠唱……。準備が出来たということか。


「アッシュ! クロウ! 攻撃の準備に入るよ!」

「おうよ!」

「うん!」


 俺達がケルベロスに近付いて行く合間も、アリッサの詠唱は続く。


()の物に静寂なる時間を『タイムストップ』!」

「今だ!」


 アリッサが詠唱を終えるとほぼ同時に俺達は飛び上がる。

 ケルベロスは動きをほんの一瞬止め、その決定的な隙の間に、ケルベロスの首へと刃を入れる。

 そして勢い良く、首を斬り落とした。


「どうだ!?」


 アッシュがそう言い放った時、ケルベロスの体が、斬り落とした首と共に黒い塵みたいになって消えていった。


「や……やったの?」


 クロウはそう呟いて立ち尽くしている。


「……うん、終わったみたいだね……」

「そ、そっかー……はぁ、一時はどうなるかと思ったよ」

「ああ、流石に手強かったな」


 俺達三人が溜息をついて落ち着きを取り戻した時、アリッサが走ってこちらに来る。


「皆大丈夫なの!? 怪我はない!?」

「うん、アリッサのおかげで大丈夫だよ」

「あたしの?」


 アリッサはきょとんとした顔をして、首を傾げる。


「そうだな、お前さんが魔法を成功させて、あの化け物の動きを止めたから、俺達でトドメを刺せたんだからな」

「僕達と同い年なのに時の魔法を使えるなんてね。驚いたよ」

「や、やめなさいよ……」


 アリッサは褒められ慣れてないのか、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。


「そ、それより、ここからどうやって出るのよ? この先はもう行けそうな道も無いし……エリカはどう思う?」

「そうだね……この場所じゃないのかな……」

「――――いや、待て、なにか来る……!」


 アッシュがそう言うと、近くに人一人分くらいが入れる、ブラックホールみたいな物が現れた。


「な、何これ?」


 クロウは恐る恐る手を伸ばすと、ブラックホールの中に手がスっと入った。


「うわっ!」


 手をすかさず引っ込める。


「きっと出口よ! あの魔獣を倒した後に現れたってことは、きっとそう言うことよ!」

「……確かに一理あるな。このタイミングで現れたってなら、可能性は充分にあるだろうな」

「えぇ……? 僕は怪しいと思うけど……」

「ま、そん時はそん時だろ」


 アッシュはそう言って、ブラックホールの中へと入って行った。


「さっきはああ言ったけど、少し怖いわね……」


 アリッサもアッシュに続く。


「ちょ、ちょっと二人共! はぁ、もう少し警戒してよ……」


 そう言う怖がっているクロウも、ブラックホールの中へと消えていった。

 仕方ない、俺も入ってみるか。そう思ってブラックホールへと近付いた時……。


「ん?」


 さっき、ケルベロスが消滅した場所に光る物が目に入り、足を止める。

 それを躊躇も無く拾い上げると、それは中指程の長さがある、ひし形の結晶だった。

 結晶は無色で透き通っており、温かさも冷たさも何も感じなかった。

 何だろうか、この結晶は。単純に考えれば、ケルベロスを倒したことで生成されたと言うことなのだろうか。

 一応持って帰るか……。

 俺は結晶をスカートのポケットに入れ、改めてブラックホールに入る。

 ブラックホールの中に入ると、裂け目に吸い込まれた時と同じ感覚に襲われ、視界が歪む。

 気付いた時には、元いた大樹の根元にいた。

 空は既に茜色に染まっていた。

 裂け目に吸い込まれた時は昼頃だったから、数時間も経っていたのか。


「良かった……全員戻って来れたみたいだね……」


 クロウの声が聞こえた方を向くと、クロウの姿だけでなく、アッシュとアリッサの姿もあった。


「おーい!!」


 村へ続く道からそう声が聞こえて振り向くと、エレナが走って来るのが見えた。


「無事か! お主達!」

「お母さん? どうしてここに? それに無事ってどう言う事?」

「うむ……少し長い話になる。ここではなんじゃ、家で話すとするかのう……」


 そう言ってエレナは来た道を戻って行く。


「何をぼーっと突っ立っておる。早く帰るぞ」


 エレナは動こうとしない俺達を見兼ねて、手招きをする。

 俺達は何も分からないまま、エレナについて行くことにした。


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