二十六話 帰郷
八月。試験も無事に終わり、夏季休暇に入った。
試験結果はと言うと、筆記の方は上々だったが、案の定実技でかなり点数を落としてしまい、総合結果は中の上だった。
そして夏季休暇初日、俺、シフィー、アッシュ、クロウ、アリッサの五人で、帝都から1時間程列車に揺られ、近郊都市ヘルシラの駅前に来ていた。
「はぁー、やっと着いたぜ」
アッシュは肩を鳴らしながらそう言った。
「まだ目的地じゃ無いでしょ。ここからまた移動らしいわよ」
「はい、動力車での移動ですね」
「げっ、マジかよ」
アッシュが露骨に嫌な顔をする。
「確か、駅前まで迎えに来てくれるんだよね?」
「うん、もう来てくれてるはずだよ」
「なら、駅前に出てみましょ。あんまり待たしたら悪いし」
俺達は駅のホームを歩いて、出入り口へと向かう。
「それにしても、本当に良かったの? 僕達も付いてきちゃって」
歩いている最中、クロウがそう言った。
「大丈夫だよ。手紙には友達を連れてきても良いって書いてあったから」
「そうなんだけど、何だか緊張するんだよね。これからエリカのお母さんに会うって思ったら」
「確かに少し緊張するわね。あのエレナ卿と会うなんて」
今日、俺達はイーハ村に帰る為にこの近郊都市ヘルシラに来ていた。
一週間前、エレナから手紙が届いた。内容は夏季休暇だから、家に帰ってこないかという手紙だった。
丁度シフィーについての話もしておきたかったので、了承して今に至る。
手紙には友人を連れてきても良いとも書かれており、アッシュ達に声をかけた。
リディアやオレット、それにユリウスも誘ったが、生徒会の仕事があるからと言って断られた。
なので特に予定の無いアッシュ達3人と共に帰郷する事となった。
「皆こそ大丈夫なの? 私みたいに帰郷の予定は無かったの?」
「あたしの実家は帝都内だし、何時でも帰れるから大丈夫よ」
「僕も今のところ帰る予定はないかな」
「そうだな……俺も今のところないな。それに夏季休暇つったって、何もする事ねぇし、暇つぶしにゃなるだろ」
「暇つぶしって失礼でしょ……まぁでも私も予定無かったし、誘ってくれて嬉しかったわ。ありがとね、エリカ」
そう礼を言ってくるアリッサに俺は頬を緩め頷き返す。
「二人共すっかり仲良しだね」
「アリッサさんって優しい人だったんですね、あ、す、すみません……」
シフィーは失礼な事を言ったかと思い、顔を伏せる。
「謝らなくて良いわ。入学翌日にあんな事したんだからそう思われるのは当然よ」
入学翌日の出来事は忽ち学校中に広まった。
その場にいたクラスメイト全員ももちろん知っており、クラスメイト殆どから避けられている。
シフィーがそう思うのも仕方ないだろう。
「そーそー、実際おっかなくて、ガサツで、言葉遣いが荒くて、馬鹿だからな。謝る必要ない――いてっ!」
アリッサが前を歩いていたアッシュの尻を蹴る。
蹴られたアッシュは尻を押さえている。
「ガサツとか、言葉遣いが荒いとかあんたには言われたくないわよ! それに馬鹿は余計よ! あんたの方が成績悪いでしょ!」
「ほ、ほらな……」
尻を押さえたまま、シフィーに目線を送る。
「い、今のはアッシュさんが悪いかと……蹴られて当然ですよ」
「そうだよ。アッシュに馬鹿なんて言われたら誰でも怒るよ」
それを見たシフィーとクロウの二人は否定的な意見を言う。
「辛辣だな、お前ら……」
そんなどうでも良い事を話しながら歩いていると、いつの間にか駅前に出ていた。
「おお、お前さん達、待っとったぞ」
駅前には動力車を止めて待っていたアインの姿があった。
「セルフレア博士、お久しぶりです」
「ほっほ、元気にやっとるようじゃの」
俺はアインに軽く挨拶をする。
「おいおい、まさか送ってくる奴って……」
「うん、セルフレア博士だよ。お母さんと知り合いみたいで、今日も送って貰えることになっていたんだ」
俺はアッシュとほかの2人に簡潔に事情を説明した。
「セルフレア博士と知り合いなんて、流石国家魔法師ね……初めまして、アリッサ・ブラウドです」
アリッサは慌てて名乗る。
「クロウ・スカーレットです。こっちはアッシュ・クレセントです。今日はよろしくお願いします」
クロウも名乗り、付け加えてアッシュのことも紹介した。
「ほう、ブラウド家の娘と戦域の息子とは、中々濃い面子じゃな。まぁ取り敢えず動力車に乗れい。遅くなったらまたあやつにどやされるからの」
俺達はアインに諭されるように、動力車に乗り込む。
助手席には俺が座り、後部座席に他の四人が座った。
「皆乗ったかのう?」
アインは車内を見回してから、アクセルを踏むとゆっくりと走り出し、段々とスピードが上がっていく。
「初めて乗ったがすげぇなこれ」
「そうね、帝都で何度か走ってるの見て信じられなかったし、実際乗ってみてもまだ信じられないわ」
「やっぱり馬車よりも遥かに早いんだね」
動力車に初めて乗った三人は感想の言葉を添えながら、車内を見ている。
確かシフィーが初めて乗った時もこの三人のように興味津々に見ていたな。
彼女らの様子を見ていると、やはりこの世界では信じられない事なんだと改めて実感する。
「セルフレア博士、動力車の技術を応用して、軍事兵器を作っているって本当ですか?」
動力車が走り出してから暫く経った後、クロウがアインにそう聞いた。
「本当じゃよ。詳しい内容はまだ言えんが、近い将来完成するじゃろう」
「どんなのが出来るんだろう……楽しみだなぁ」
「……まあわしは反対じゃがな」
アインが小さく後部座席の皆に聞こえない声でそう呟いた。
「え? それってどういう……」
「あ! あれがイーハ村じゃない?」
俺はアインに聞き返そうと思ったが、アリッサが前方を指さしながら言った声で掻き消された。
俺も前を見るとアリッサの言った通り、イーハ村が見えてきていた。
動力車はそのまま村に近付いて行き、村の中を進んでいく。
村の景色は変わらず田畑ばかりで、長閑な雰囲気が伝わってくる。
四ヶ月程しか経っていないが、それよりももっと長く村を離れていた気がする。
やがて見慣れた家の前で動力車は停車する。
「ほれ、着いたぞ」
俺達は動力車から降りる。
「セルフレア博士、ありがとうございました」
「気にせんでいい。迎えは四日後で良かったのかのう?」
「はい、その時もまたお願いします」
「うむ、それじゃあわしは帰るとするかのう。エレナの奴によろしく伝えておいてくれ」
アインは再び動力車に乗り、去って行った。
「へぇ、ここがエリーの家か。思ったより普通だな……」
アッシュは家を見ながら、そう言った。
「だから失礼でしょ! 私は良い家だと思うわ。村も長閑で良い場所だし」
「長閑ねぇ……俺は退屈しそうだなぁ……」
「あはは……確かにアッシュの性格だったら退屈しちゃうかもね……ちょっと待っててね。今お母さんを呼んでくるから」
俺はそう言って玄関へと歩いて行く。
玄関のドアをノックして少し待つと、ドアの向こう側から聞き慣れた声で返事が返ってきた。
そして返事が返ってきてから数秒後、ドアが開かれて小さい体が姿を見せる。
「久しぶり、お母さん」
「エリカ! 久しぶりじゃのう! 元気にやっとったか?」
エレナはぱっと笑顔を見せる。
「うん、シフィーも元気だよ」
俺がそう言うと、シフィーもこちらへ来た。
「久しぶりです、お母さん」
「シフィー! どうじゃ、学校生活は?」
「えと、まぁ……ぼちぼちです」
「何じゃ、歯切れが悪いのう。まぁ良い、取り敢えず……ん? そ奴らはもしかして……」
エレナは後ろにいたアッシュを見る。
「うん、学校の友達だよ」
「ほう、やはりそうか!」
アッシュ達もこちらへと来る。アッシュは普通だったが、他の2人は覚束無い様子だ。
「は、初めまして、クロウ・スカーレットです」
「アリッサ・ブライドです……」
「アッシュ・クレセントだ……です」
三人は名前を名乗り、頭を下げる。
アッシュは流石に不味いと思ったのか、似合わない敬語をぎこちなく使っている。
「ほう……こりゃまた……わしはエレナ・ライト。知っての通り、エリカとシフィーの母じゃ。外は暑いじゃろ。さ、入った入った」
エレナは家の中へと入って行く。
「は、はい」
「お邪魔……します」
俺達もエレナの後を続き、家の中へと入って行く。




