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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
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二十五話 大暑

 

 数日後の放課後、俺とアリッサは校舎の廊下を歩いていた。

 今日から試験一週間前という事で部活動は無く、一緒に寮に帰ろうと言うことになった。


「はぁ……」

「どうしたのよ、溜息なんかついて」

「ほら、今日も水泳の授業あったから……」


 俺は水泳の授業が苦手で、体力的にも、精神的にも疲れていた。


「あー、あれは確かに疲れるわね……いや、鬱陶しいってレベルね……」


 泳ぐのが特別嫌いなわけじゃない。プールに入るまでが辛い。

 水泳の授業なので、当然水着に着替える事になる。

 そして当然、この世界では女である俺は女子更衣室で着替える事になる。その時が地獄だ。

 別に恥ずかしいとか、申し訳ない等と言うことではない。

 毎度、クラスの女子(主にリディア)が俺の体に視線を集め、騒ぎ立てる。

 もっと酷いのは、一部の女子(これも主にリディア)が胸を揉んでくること。それもちょっとではなくがっつりと。

 リディア曰く「胸が大きい上にスタイルが良いなんて羨ましすぎますわ!」とのこと。何故それで胸を揉むのかは理解出来ないが。

 それが水泳の授業が苦手な理由だ。


「リディアがあんな事するなんて思ってなかったよ。アリッサは知ってたの?」

「あたしも知らなかったわよ。あいつ胸小さいからきっと、あんたの事羨ましがってるのよ」


 毎回そんな理由で揉まれるのは勘弁なんだがな。

 より一層気を落とし、昇降口から外に出る。

 すると、そこでアリッサが急に立ち止まる。


「どうしたの?」


 アリッサは俺の問いに答えず、門の方を見ていた。その視線を追って俺も門を見ると、そこにはネハルムと、相変わらず鎧を着ている雷帝ステラの姿があった。

 彼等はまだ俺達の存在には気付いて無い様子で、何かを話しながら学校の敷居に足を踏み入れる。

 そこから数歩歩いたぐらいで俺達に気付き、近付いてくる。


「ネハルム大尉、それにステラ卿も、どうしたんですか? 何か学校に用ですか?」

「学校というか、その今日も君に話を聞きたくてね。例の件とは別でね」

「別ですか……立ち話も何ですし、場所変えましょう。ちょっと待っていてください、使っていい空き教室があるか聞いてきます」

「ああ、すまない」


 俺は職員室に行き、一階の空き教室の使用許可を貰い、二人をそこに案内した。

 空き教室に入り、長机を挟んで左右に二人づつに分かれ、鉄パイプ椅子に座る。

 左側にネハルムと雷帝ステラ、右側に俺とアリッサが座った。

 アリッサには先に帰ってもいいと言ったが、付いてくると言って聞かなかった。


「元気そうで安心したよ。もう怪我はいいのか?」

「はい、ネハルム大尉も元気そうで何よりです。ステラ卿も怪我は大丈夫なんですか? 事件翌日に復帰したと聞きましたが……」

「ああ、あの程度の傷、どうってことないからな」


 流石に回復魔法で傷が早く治るからって、怪我翌日に現場復帰はどうかと思うが、そのタフさもスリーナイトと言われる所以なのだろう。


「あはは……それにしてもステラ卿、今日も鎧姿なんですね……なんというか、暑くないんですか?」


 鎧姿の雷帝ステラは案の定、廊下を歩いている時生徒達の視線を集めた。


「君もそう思うだろう? 流石に鎧は脱いだらどうだと言ったんだが、ご覧の通り聞かなくてな」

「当たり前だ。騎士たるもの、何時危険が待ち受けていても、身を守れるようにしておかなくてはいけない。それに誇り高き士官学校の生徒達に、醜悪な姿を晒したくはないからな」


 表情は見えないが、雷帝ステラはそう得意気に話す。

 そんな彼女を見て、ネハルムがやれやれと言った感じに首を横に振る。


「……あの、エリカに話って何ですか?」


 ずっと黙っていたアリッサが、明るい雰囲気の中で冷めた声を通してそう聞いた。


「こっちは試験前なんです。早く用件を話してください。エリカに迷惑です」

「あ、ああ、すまない、手短に話すよ」


 ネハルムは引腰でそう頷き、咳払いをしてから本題に入る。


「聞きたいことと言うのは怪盗Aについてなんだ。奴の足取りも同時に追っているんだが、こちらの方も手掛かりが無くてな。何か気付いた事はあるか?」


 やはり怪盗Aの件か。これもあまり力になれないかもしれない。


「それが……ネハルム大尉も知っての通り、あの大鎌の少女が言っていた事から、もう帝国には居ないということしか分からないです……」

「そうか……帝国内ならまだしも、大陸全土となると捜索が困難になるから、もう少し絞りたかったんだが……」


 ネハルムは難しい顔をしてうねっている。


「ネハルム大尉、一つ聞きたいことがあるですけど、いいですか?」

「ん? どうした?」

「怪盗Aが去っていく時、金色のリングを取り出した途端、憲兵達の動きが止まっていましたけど、あれも何かの人工遺物(アーティファクト)ですか? 時魔法を使ったとしても、止められるのは一秒程ですよね?」


 俺はずっと気になっていた事を来ていてみることにした。

 その問いにネハルムはあっさりと答えてくれた。

 話してくれないと思っていたが、それ程重要な情報では無いのだろうか。


「ああ、恐らくは君の思っている通り、人工遺物(アーティファクト)だろうな。それに動きを止めるだけでなく、洗脳なんかも出来る代物だ」

「洗脳も……ですか……それは厄介ですね」

「全くだ、何処で手に入れたかは知らんが、作った奴には文句を言いたいものだ」


 ネハルムは溜息をつく。彼の表情は疲れ切っている様だった。憲兵の仕事が忙しいのだろう。


「そう言えば、何でステラ卿も今日いらっしゃったんですか?」

「ああ、私はネハルムとは別件だ。君の義妹、シフィー君に話があってね」


 シフィーにか……大体予想は付くが……。


「シフィー君を私の弟子として、ラドルファス卿の後継者として、スリーナイトに任命したいのだ」

「やっぱり……ですか」


 そろそろ来る頃合だと思っていた。

 シフィーはあの闘神ラドルファスの娘なのだから、もっと早くこの話が来ても良いくらいだ。


「聞いた話によると、今期の生徒ではずば抜けて腕が立つとの事。それになんと言ってもあのラドルファス卿のご息女だ。もちろん皇帝陛下の了承も得ている。今すぐという訳ではないが、士官学校を卒業後、ラドルファス卿の席に着いてもらおうと思っている」

「それまでは貴方の弟子という訳ですか?」

「そうだ」


 これは安易に返事は返せない。シフィーの人生がかかっている話だ。


「シフィーには私から伝えておきます。しかし返答は暫く待ってもらうことになると思います。シフィーには考える時間が必要ですので」

「もちろんだ。エレナ卿にはこちらから話を通しておく」

「いえ、それは私とシフィーから話したいと思っています」

「そうか、余計な気を回してしまったな、謝らせてくれ」


 雷帝ステラは座ったまま、頭を下げる。


「では、我々はここで失礼する。行こう、ネハルム」

「そうだな。二人共時間を取らせてしまってすまないな」


 二人はそう言って立ち上がる。

 俺とアリッサもそれに続いて立ち上がる。


「いえ、また何かあったら言ってください。何時でも力になります」

「ああ、こちらも何かあったら力になるよ。では」


 二人は軽く解釈をして空き教室を出て行った。

 廊下からは雷帝ステラの鎧姿を見て、驚く生徒の声が聞こえてくる。後日騒ぎにならないといいが……。


「私達も行こう?」

「……ええ」


 俺も教室を出ようとしたが、アリッサの悲しそうな声を聞いて、扉にかけていた手を止める。


「アリッサ、どうしたの?」

「別に……何でもないわよ……」


 はぁ、どいつもこいつも隠し事をしやがって。俺はそんなに信用ないのか?


「何でもなくなんてないよね?」


 俺はアリッサの方を振り向く。


「…………」


 アリッサは黙って俯いている。

 そんなアリッサに手が届く距離まで歩み寄る。


「思い詰めないで欲しいんだ。それにアリッサの力になりたいの。だから話してくれない?」


 アリッサは顔を上げる。話してくれる気になったらしい。


「……あたしの家の件、覚えるでしょ?」


 俺は無言で頷く。


「その……密輸を暴いたのが、あのネハルムって憲兵なの……」

「だからネハルム大尉と会ってから、元気が無かったんだね……彼はその事件で大尉に?」

「ええ、そうよ。彼はあの頃まだ二等兵だったけど、一気に大尉に昇格したわ」


 アリッサとネハルムの様子を見てまさかとは思ってはいたが、改めて理解すると責任を感じてしまう。


「ごめんね、あまり会いたくない人と合わせちゃって……」

「エリカのせいじゃないわ! あたしが悪いの……勝手に憎んで、勝手に拒絶して……でも、どうしても交友的な関係にはなれなくて……あたしって本当自分勝手よね……」


 アリッサは泣きそうな顔をして、再び俯いてしまう。

 ……何なんだろうか、今のアリッサの顔を見るとこっちまで悲しい気持ちになる。

 一刻も早く彼女の顔に笑顔を取り戻したい、そうも思える。


「アリッサ」

「なに――え……?」


 アリッサはゆっくりと顔を上げる。それと同時に俺は彼女をそっと抱き寄せた。


「アリッサは自分勝手じゃないよ。自分勝手だったら、今ここでそんな悲しそうな、泣きそうな顔してるはずないよ」

「エリ……カ……」

「そんな泣きそうな顔しないで? それにそんなアリッサの顔を見たら私も悲しくなってくるから……だから君には何時も笑っていて欲しいの」

「…………」


 アリッサと俺はしばらく黙ったままだった。

 ただただ、蝉の鳴き声と窓から吹き抜ける風音がこの教室を包み込んでいた。

 やがてアリッサが口を開く。


「なんで……抱きしめたの?」


 その声は何時もの明るいアリッサの声だった。


「えっと……さっきのアリッサの顔を見たら、自然に……」

「ふふ、何よそれ。ほっとけなかったってやつ?」

「多分そうかも……」

「あはは! 本当あんたって変わってるわね!」


 アリッサは俺から体を離す。


「そうかな?」

「ええ! こんなどうしようもないあたしを抱きしめる大馬鹿よ!」


 アリッサの顔には、すっかり笑顔が戻っていた。


「帰りましょ! 帰って試験勉強するわよ!」

「うん、そうだね」


 アリッサは教室の扉に歩いて行く。だが、扉には手をかけずに立ち止まる。


「ありがとね、エリカ」

「うん、どういたしまして」


 アリッサは扉を開け、教室を出て行く。俺もそれついて行き、廊下を並んで歩く。


「そう言えば、あの拾った猫どうなったの?」

「部長とエルと三人で交互に世話してるよ。でも夜はエルが部屋に連れて帰ってるの」

「へぇ、そうなのね」

「でも相部屋の子が猫嫌いらしくて……」

「それは……お気の毒ね……」


 蝉の鳴き声や、他の生徒達の話し声に混ざりながら、笑顔のアリッサと話して寮に帰る。

 アリッサを抱き寄せた後の俺の服は汗ではない別のもので少しだけ濡れていた。

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