二十三話 ユリウスの意思
「ん……」
ゆっくりと目を開けると、眩しく感じる光と、真っ白な天井が見えてくる。ここは何処か建物の室内だろうか。
左腕に違和感を感じて見てると、細い管が付いている針がテープで貼り付けられ、刺さっていた。
管を辿って目線を移していくと、点滴スタンドに吊り下げられている輸血パックから伸びていた。
つまりここは病院で、俺は今病室のベットで横になっている状態という事か。
だが、何で病室に……。俺はそう考えながら、体を起こす。
すると病室の扉が開き、ある二人が入ってくる。
「……! エリカ姉さん!」
慌ててシフィーが駆け寄ってくる。
「目が覚めたんですね、良かったです! エリカ姉さん、あれから一週間も眠ったままだったんですよ!」
あれから……そうだ、俺はあの戦いで傷を負って……。
「っ……」
それを思い出した瞬間、体に走る痛みで顔を顰める。
「大丈夫ですか!?」
「う、うん、それよりあれからどうなったの?」
「逃げられたらしい」
そうシフィーと共に病室に入ってきたもう一人の人物、アッシュがそう言いながら、近付いてくる。
「憲兵達が必死に足取りを追ってるが、何も分かってないんだとよ」
「……そう……なんだ……あの後アッシュ達は大丈夫だったの?」
「ん? ああ、憲兵達の避難誘導が早かったからな。」
アッシュはそう言うと、病室の出口へと歩き出す。
「まあ何にせよ、お前さんの目が覚めて良かったぜ。待ってな、今医者を呼んできてやるから」
数分後、アッシュは医師と看護婦を連れて戻ってきた。
「ふむ、外傷による精神障害もありませんし、傷も見た目よりは酷くは無いですので、これなら明日にも退院出来るでしょう。点滴ももう外しても大丈夫ですよ」
医師はカルテを見ながらそう言った。
それと同時に、看護婦が俺の腕から点滴を外してくれた。
「そうですか、色々とありがとうございます」
「いえいえ、では」
医師と看護婦は、病室から出て行った。
「良かったですね、エリカ姉さん!」
「そうだね……2人共わざわざ来てくれてありがとう。学校終わった後だよね? 疲れてるところごめんね」
二人は制服を着ており、一目で学校終わりだと分かった。
「気にしないでください。アッシュさんと偶、寮の玄関であって、エリカ姉さんのお見舞いに行こうってなっただけですから」
「そうなんだ……あれ、そう言えば今日は剣道部は休みなの?」
シフィーは剣道部に入っており、学校があるこの時間帯は、大体校舎の地下にある室内訓練場で部活動に励んでいる。
今日は休みなのだろうか。
「そ、それは……え、エリカ姉さんが心配で休んで来ちゃいました、あはは……」
挙動が不自然だ、他の理由でもあるのだろうか。
今は話したくなさそうだし、また今度聞くことにしよう。
「心配してくれるのは嬉しいけど、休むのは駄目だよ。折角シフィーには剣術の才能があるんだから」
「は、はい、ごめんなさい」
優しく諭したつもりだったが、シフィーは予想以上に落ち込んだ様子だった。何か別の理由で落ち込んでいるように思えるが。
「目が覚めたって聞いたけど、もう大丈夫なの!?」
その時、勢いよく扉が開かれて、そう声を荒らげてアリッサが入って来る。
「アリッサ? どうして知ってるの?」
「私が言ったんだよ」
そう言って、アリッサの後に続いて姿を見せたのはユリウスだった。
「ユリウス殿下まで……」
「シフィー君から連絡を受けてね。その時用があって家庭科室に来てたんだけど、それを聞いていたアリッサ君も一緒に来ることになったと言う訳さ」
そう言えばさっき、アッシュが医師を呼びに行った時、シフィーも病室から出ていたな。
その時ユリウスに連絡していたのか。
「それで、もう大丈夫なの!?」
「うん、明日には退院出来るって」
俺がそう言うと、アリッサは安心した表情を見せた。
やけに心配してくれているんだな……仲はあまり良くないと思っていたが。
「……エリカ君、話があるんだ」
ユリウスが真剣な表情でそう言った。
「何ですか?」
「その……ここでは話しにくいことなんだ。場所を変えてもいいかな?」
「ちょ、ちょっと待ってください! エリカはまだ……」
「いいよ、アリッサ。少しぐらいなら歩けると思うから」
「そ、そう? でもあまり無理はしないでよね」
「うん、ありがとう」
俺はゆっくりとベットから出て、床に足をつける。
「行きましょう、ユリウス殿下」
「ああ」
俺達は心配の眼差しを向けるシフィーとアリッサを横目に、病室を後にする。
「それで、何処で話を?」
「そうだな……確かここには屋上があったな。そこまで歩けるかい?」
「大丈夫だと思います。傷も殆ど治っているようですので」
「……すまないね」
廊下を歩いて階段を上り、屋上へと向かう。
屋上に人影は無く、夕日が俺達を照らしているだけだ。
「綺麗だね、夕日」
「そうですね」
ユリウスは鉄格子の柵に手を着き、夕日を眺める。
彼は一向に話を切り出さない。言い難い事なのだろうか。
なので、こちらから話を切り出すことにした。
「話って何ですか?」
「……エリカ君、君は義姉さんの命を奪ったあいつらの事をどう思う?」
「それは……当然ですが、許せないですね」
「見つけたいと思うかい?」
「思いますね」
「……そうか」
ユリウスは何を躊躇っているんだ?
恐らくユリウスはこんな事を聞きたい訳じゃ無い筈だ。
「……エリカ君、私と一緒にあいつらを捕まえるのを手伝ってくれないかい?」
後ろにいた俺の方を振り向き、ユリウスはそう言った。
そうか、ユリウスはこれを言い出そうとしていたんだな。
「二人で……ですか?」
「ああ……」
「……ユリウス殿下、お言葉ですが私達はまだ学生の身、危険すぎると――」
「分かってる!!!」
ユリウスは顔を歪め、柵を思いっきり叩く。
「……私達が調査の協力を申し出ても、許可されないだろう。だがそれでも捕まえたいんだ、この手で! 義姉さんの命を奪った者を!!!」
ユリウスは涙を流す。
「一つ聞きたいです。何で、私なんですか?」
「……身勝手な理由だが、君なら協力してくれるんじゃないかと思ったんだ。あの時危険を顧みず、真っ先に飛び出して行った君ならってね」
普段のユリウスは、そんな理由でこんなことは言い出さないだろう。
つまり、ユリウスの中での俺は危険に陥ってどうなっても、死んでもいいって訳か。それ程までに彼女を慕っていたのか。
いいじゃねぇか、上等だ。引き受けてやる、その依頼を。
「分かりました。協力します、ユリウス殿下に」
「本当かい!?」
「はい。但し、じっくりと準備をしてからです。それに相手の居場所も分かっていませんので、捕まえれるのは当分先かと」
「ああ、分かっている」
ユリウスは力強く頷く。
「エリカ君、この話はくれぐれも内密に……」
「はい、分かっています。絶対に捕まえましょう。奴らを」
「ああ!」
俺達は強く握手をする。こうして俺達は、協力して犯人を捕まえる事となった。
この後病室に戻ると、アッシュから連絡を受けたクロウやリディア、アリッサから連絡受けたオレットが来ていた。
三人も心配してくれていたらしく、目を覚ました事を心の底から喜んでくれた。
それから皆で話し込んで、気付いた頃には外は暗くなって、綺麗な月が顔を出していた。




