二十二話 戦いの末
落ち着け、まずは目の前の奴をどうにかすることからだ。
ネハルムに加勢するにしても、雷帝ステラ達に加勢するにしても、こいつを倒さない限り妨害される。
この黒ローブの武器は短剣か。リーチが無い分、素早い攻撃を繰り出してくる。
それにさっきのように気配を消されて、近付かれたら終わりだ。ここか刀の方が良いだろう。
俺は二丁拳銃を後ろ腰にかけ、鞘から刀を引き抜く。
「やるんだね、エリカ君」
「はい。背後を取られない様、気を付けてください」
「ああ、分かっている」
俺は黒ローブの人物目掛けて刀で攻撃する。
「はぁ!」
相手はそれを避け、瞬時に華麗な身のこなしで攻撃体勢に切り替え、首元を狙ってきた。
その攻撃を間一髪で躱して、斬り返すが、距離を置かれて避けられた。
「はっ!」
避けたところをユリウスが追撃に入るが、それもまた避けられてしまう。
何という反応速度だ。このままじゃ埒が明かない。
ここは一か八か賭けに出てみるか。
「ユリウス殿下。私が合図したら、フレイムボールを放ってください」
俺はユリウスに聞こえるくらいの小さな声でそう指示した。
「何か考えがあるんだね。分かった、君の考えに乗るよ」
そう言ってくれたユリウスに俺は頷き返す。
まずは相手を空中に追い込む必要がある。
俺はまた初撃と同じように、攻撃を仕掛ける。それは案の定避けられてしまう。
「この程度ですか」
いや、まだだ。俺は体を捻って二撃目を足を狙って、繰り出す。
それを相手はギリギリの所で地から足を離して避ける。
よし、飛び上がった。だが、やはりまだ地面との距離が短い。
なので刀身を低くし、刃を上に向けて三撃目を繰り出す。
「燕返し!」
相手は少し驚いた声を零し、迫っていく刀身を片足で踏み台にして、更に高く飛び上がる。
「ユリウス殿下! 今です!」
「了解だ! フレイムボール!」
ユリウスが放ったフレイムボールは空中に飛び上がった彼女目掛けて、一直線に飛んでいく。
「くっ!」
それを体全身を捻って、無理をして避けた。まだ体制を崩さないか。
俺は刀を放り捨て、二丁拳銃を急いで手に取って構える。
一発目、左手に持った銃の引き金を引く。
「これは……!」
それを同じように避けるが、そこでやっと体制を崩してくれた。
「しまっ……!」
俺は左手の銃を仕舞い、右手に持っている銃を両手で構えて、慎重に照準を合わして――弾を放つ。
放たれた弾は、彼女の持っていた短剣を弾き飛ばす。よし、上手くいった。
「っ……」
相手は手を押えて地面に着地する。
すぐ様、先程放り投げた刀を拾い上げ、追撃に移行する。
相手は無防備、これなら確実に攻撃を喰らわせられる。
そう思って、今出せる最大の力を使って、刀を振り下ろす。
その攻撃が当たる瞬間、キン! と金属同士がぶつかり合う大きな音が鳴った。
何と彼女はそれを左手首で防御していた。
ローブの左手首部分が切れ、それが姿を現す。
彼女の左腕は義手だった。銀色で構造が見えている義手をしていた。見た感じ、肩から下は全て義手だ。
彼女を含め、他の黒ローブ二人も黒い手袋を着けていたので今まで気付かなかった。
「ここまで、やるとは……すみませんS様、ここは引かせて貰います……!」
彼女はそう言うと、右手で懐から缶みたいな物を取り出し、刺さっていたピンを口で咥えて引き抜き、それを転がした。
それを見て俺は慌てて距離を取る。
周囲一帯に、何も見えなくなる程の眩しい光が襲いかかる。
堪らず俺は目を閉じてしまい、光が収まった頃に目を開けると、そこに彼女の姿は無かった。
くそ、初めから危なくなったら、閃光手榴弾を投げて逃げるつもりだったか……!
「エリカ君、大丈夫かい!?」
すぐ様ユリウスが駆け寄ってくる。
「はい、大丈夫です。ですが、やられました、まさかあんな物を隠し持っていたなんて……」
「ああ……だがそれより今はやるべき事がある。急ごう」
ユリウスの言う通りだ。まだ三人残っている。
「そうですね。ユリウス殿下はネハルム大尉に加勢してください。私はステラ卿達に加勢します」
「分かった、くれぐれも気を付けてくれ」
「はい、殿下もお気を付けて」
俺達は別れて、それぞれの場所へと向かった。
「ステラ卿! 大丈夫ですか!?」
俺がSに苦戦している雷帝ステラ達の元へと到着すると、直ぐに雷帝ステラがこちらを見て反応してくれた。
「ああ……いや、少し厳しいな。奴、かなりのやり手だ。それにあの剣……」
雷帝ステラがそう言いかけた時、Sが攻撃を仕掛けてくる。
俺は雷帝ステラの前に出て、刀で攻撃を受け止めようとする。
「待て! 防御をしては駄目だ!」
「え?」
雷帝ステラの方を見ている間に、Sの剣撃は俺の刀が受け止めようしていた。
していたのだが、Sの剣撃は刀の刀身をすり抜け、更に斬り進む。
何だ、剣がすり抜けた?
やばい、このままじゃあ俺の体をあの剣が……。
その時急に肩を掴まれ、後ろに体が下がる感覚を感じた。それと同時に、目の前に何か金色の物体が現れる。
「ぐっ!?」
それは雷帝ステラの鎧だった。彼女は俺の身代わりになって、Sの攻撃を受け止めたのだ。体全身を使って。
Sの斬撃は鎧をも貫き、いやすり抜け、胴を斬り裂いていた。
「ステラ卿!?」
「み、見ての通り、奴の剣は、物をすり抜ける……ぐっ……恐らく、そういう能力の人工遺物だろう……」
雷帝ステラは膝を着いて、血を流している。
物をすり抜けて攻撃出来る、そんな代物まであるのかこの世界は。いや、とにかく考えるのは後だ。
俺は急いで雷帝ステラの前に立ち、刀を構える。
「どうやら、あの義手の奴は片付けたようだな」
そこに怪盗Aとヒスイが近付いてくる。
怪盗AはSと戦いながらも、俺達の事を見ていたのか。こいつもかなりのやり手か。
「ああ、それにしても厄介だな、あの剣」
「ええ、あんな剣聞いたこと無いわよ。奴を分析する暇もないし、困ったわ」
あの剣は危険だ。どうする。こっちの攻撃は防御されるのだろうか。
もしかしたら、奴の攻撃がすり抜ける分、あの剣でこちらの攻撃も防御出来ないんじゃないか?
「なぁ、一つ聞きたいんだけど、こっちの攻撃は防御されるのか?」
「当たり前よ、だから苦戦してるのよ。こっちの攻撃もすり抜けるなら、苦労はしないわ」
そりゃそうか、そんな簡単にいくわけがない。
「どうすんの、指揮官さん。あたしにはもう打つ手はないわよ。もちろんこいつにもね」
「いや、一つだけある。だが、その手はあまりおすすめはしない」
…………確かに一つだけあるにはある。だが、それは誰もやりたがらないだろう。
「……俺がやる」
「俺?」
しまった、いつの間にか緊張のあまりで素の口調で話していた。
慌てて口調を戻して、再び口調を開く。
「……私がやる、その唯一勝てるかもしれない手を」
「ほう、自ら名乗り出るとは中々の勇気だな」
「悔しいけど、この三人なら、戦闘力が1番低いのは私だから、二人には保険として残しておきたい」
「……なるほど、そういう作戦ね」
どうやらヒスイも気付いたようだ。
「どうした、来ないのか? ならば、こちらから行くぞ」
Sはこちらに素早く近付いて剣を振る。俺達は三方向に別れて避ける。
俺は注意を引くため、攻撃を仕掛ける。Sはそれを避け、俺と対峙する形になる。
「来い、若き指揮官よ」
俺は再び攻撃を仕掛けるが、Sは俺を飛び越え、背後に回る。慌てて振り返り、Sを捉える。
剣に加えて、S自身のこの身のこなし、やはりあの手しかない。
Sは再び剣を振る。来た、ここで防御の構えを取る。
「ふん、期待外れだな」
Sの攻撃は刀の中心を目掛けて襲ってくる。
ここだ、俺は体ごと刃をS側に押し出す。相手の斬撃を避けようとせずに。
「何!? まさか……」
そのままSの体を下から上に切り上げる。その代わりに、右胸から左腰へと斜めに、Sの刃が俺の体を襲う。
「がはっ!!」
俺は堪らず吐血してしまう。
「ぐっ!」
Sを見ると、左肩に傷を負っていた。どうやら、右に少し体をずらしたようだ。
「まさか、この手を使ってくるとはな……少々甘く見ていたようだ……ぐっ、ここは引かせてもらう、もう目的は達成したからな……死神、B、撤退だ!」
そう言うと、Sは近くのビルを登って屋根上を駆け抜けて行く。それに続き、BもSの後を追って姿を消す。
「ま、待て!」
必死にSを追おうとするが、頭が朦朧として上手く立ち上がれない。それに傷が痛みそれどころではない。
「怪盗A、ヒスイ! 今すぐあいつらを追ってくれ!」
「はぁ? あたし達にそこまでする義理はないわ。ねぇ、アルセーヌ?」
「ああ、貴様が奴らに一杯食わした事で、我らの目的は達成されたからな。それに……」
周りを見ると兵達が俺達、いや怪盗A達を取り囲んでいた。
全員では無く、一部の兵はS達を追って大通りへと向かった。
「今すぐは無理だ……ん?」
そんな最中、俺達の前に大鎌の少女がいきなり現れた。
「怪盗アルセーヌ、貴方に伝え忘れていたことがありマス」
怪盗A達はもちろん、兵達の視線も一気にその少女に向いた。
「帝国での任務はもう良い、一度帰ってこい。そう彼女からの伝言デス」
「律儀だな、わざわざ伝えるなんて」
「データ収集に協力してくれた礼デス。それに今回の一件で、彼女も裏切るなどと言い出さないでショウ。デハ」
少女はそう言うと、足元に魔法陣が浮かび上がり、数秒後、煙のように消えていった。
「さて、我らも撤退するか」
「そうね、もうここに居る意味も無いし」
「ああ……止まっていろ、フリーズ!」
怪盗Aは赤色の石が付いた金のリングを取り出してそう言うと、兵達はピクリとも動かなくなった。
「ではさらばだ、皆の衆!」
怪盗A達もビルを登って、その上を去って行く。
「ま、ま……て……」
そこで地面に倒れ込み、俺の意識は途絶えた。
ユリウスやネハルム、雷帝ステラが俺の名前を呼ぶ声を耳に残しながら……。




