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探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
21/127

二十話 カレンの死

 

 大鎌が体から抜かれ、カレンがその場に倒れ込む。


「カレン卿!!」


 それを慌てて、雷帝ステラが駆け寄って抱き抱える。


義姉(ねえ)さん!!」


 その直後、そう叫んでユリウスが俺の背後から、演説台に登ってくる。

 その時のユリウスは見た事の無い、冷静さを失った表情をしていた。

 ユリウスもカレンの元へと駆け寄って行く。

 俺は演説台の上を見渡し、右肩を押さえて膝を着いたままのサディアスに寄り添い体を支える。


「宰相、サディアス宰相、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……大丈夫だ……それより、カレン卿を……」

「カレン卿にはステラ卿とユリウス殿下がついています。安心してください」


 サディアスは痛みで顔を歪めながら、下を向いている。

 それに続いて、橋側にある演説台の階段を上る足音が聞こえてくる。

 新たに演説台に姿を見せたのは軍服を来た紫髪の男だった。

 彼の軍服の左胸には憲兵隊を示すエンブレムが着いており、一目で憲兵だと確認出来た。


「憲兵隊に告ぐ、民衆を避難させろ!」


 その男は広場に向かって声を張り上げた。

 他の憲兵に指示を出す為に、この演説台へと上ってきたのか。

 男の指示はすぐ様広場にいる憲兵に伝わり、人々を大通りへと避難させていく。

 流石は憲兵だ、あっという間に広場にいた数え切れない人々を避難誘導する。

 その様子を見た紫髪の男性は、広場の方は大丈夫だと思ったのか、此方に向かってくる。


「サディアス宰相!」


 男も俺と同じようにしゃがみこんでサディアスの体を支える。


「右肩を撃たれています。弾は貫通しているので、止血さえすれば……」


 俺はそう言いながら、着ていた半袖の白のブラウスの右袖を破って、撃たれた箇所に巻き付け、ヒールの魔法をかける。


「随分と……手際がいいな……君は……」


 サディアスが苦しい声でそう聞いてくる。


「士官学校の生徒、エリカ・ライトです。出る幕では無いと承知ですが、助太刀に参りました」

「エリカ・ライト……そうか、あのエレナ卿の……うぅ……」


 サディアスが更に塞ぎ込む。


「エリカと言ったな、君は宰相を連れて避難してくれ」

「分かりました」


 この状況で自分がすべき事は、負傷したサディアスを安全な場所に運ぶ事だろう。

 この後、紫髪の男は奴らと戦うつもりだ。

 実戦経験の無い俺が居ても足手まとい……そう思い、彼の言葉に大人しく従おうとサディアスの体を起こして、ここを離れようとする。


「ま、待て……」


 だが、それをサディアスが止めた。


「……エリカ君、君もここに残って奴らの捕縛、そしてカレン卿の保護を頼みたい……」

「な、何を仰るのですか!? この子はまだ学生、それに宰相、貴方の避難も……」

「私は一人でも逃げられる……それに奴らを見ろ……」


 サディアスは大鎌を持った少女達を指さす。

 そこを見ると、少女達は微動だにせず、雷帝ステラとユリウスに抱かれて横たわっているカレンを眺めているだけだった。


「……奴らの目的はカレン卿の死、そしてそれを確認する事……宰相自身は狙われる理由は無い……そう仰りたいのですか?」

「そうだ」


 紫髪の男の言葉にサディアスは頷く。

 確かに俺もこの男と同意見だ。これ以上サディアスに危害を加えることは無いだろう。

 しかし、だったら何故最初にサディアスが撃たれたんだ?

 目的の障害になるから撃った……いや、それならもっと邪魔になる雷帝ステラを狙うはずだ。

 鎧を着ているが、銃弾当たったらよろめき、その隙を突いたタイミングで、ここに現れて目的を達成する、その方が効率的だ。

 それにカレンの殺害が目的なら、サディアスを狙撃した位置から、同じように狙撃すれば良い話だ。

 何か不自然だ。

 でも、今はそれよりも――!


「それで……やってくれるかね、エリカ君……」


 サディアスの言葉で我に返る。


「……分かりました。サディアス宰相がそう仰られるのなら。お受け致します、その命令」


 実を言うと、このまま何もせずノコノコ逃げ帰るのは癪だった。

 目の前に犯罪者が居るのに、逃げる様な真似は嫌だ。


「ありがとう……私が言うのは何だが、気を付けてくれ。ネハルム君も」

「はい、必ず奴らを捕まえます」


 どうやら、紫髪の男はネハルムと言うらしい。


「ああ……」


 サディアスは満足そうに頷く。


「エリカ、君はあくまでも学生、一般人だ。身の危険を感じたら、すぐに戦線離脱しろ」


 ネハルムはそう言うと、立ち上がって懐から銃を取り出す。


「はい、分かっています」


 俺も立ち上がり、魔法アイテムボックスで刀を取り出し、左腰に掛ける。

 上位属性の空間属性に属する魔法だ。

 魔法には下位属性の他に、空間、時、幻の三つの属性があり、それ等が上位属性魔法だ。

 魔法アイテムボックスは空間属性の簡単な部類、下位魔法で、五月の下旬頃にやっと使えるようになった。

 上位属性と言うだけ難しく、今使えるのはこれだけだ。


「最初に奴らを攻撃し、注意を引く。準備はいいな?」


 俺は無言で頷き、刀の柄を握る


「よし、行くぞ……!」


 俺はネハルムの合図と共に、奴らの元まで颯爽と駆けて行き、刀を引き抜いて、背後から少女目掛けて刀身を振る。

 少女は振り返りもせずに、難なく大鎌でその攻撃を防いだ。

 刀身を軽々と弾き返し、やっと此方を振り向く。

 その瞬間、俺の背後から少女目掛けて銃弾が飛ぶ。

 少女はそれを躱す。


「誰デスカ、貴方達ハ」


 少女が此方を見る目は、凍りつくような冷たい目だった。


「ログレス士官学校一年、エリカ・ライト。お前達を傷害罪の罪で捕縛する」

「士官学校の生徒ですか」


 黒ローブに黒仮面を着けた人物のうち一人が、少女の背後に歩み寄り、男の声でそう言った。


「B、油断しないでください。この少女、恐らくあのエレナ卿のご息女です。相当な魔力の持ち主かと」


 もう一人の黒ローブの人物も少女の背後に歩み寄り、短剣を逆手持ちに構える。今度は女の声だ。


「ほう、あの国家魔法師の……それにあの憲兵、ネハルム・ロバーツ大尉ですね。あの方の話によれば相当な洞察力を持った人物だとか」


 あの方……?

 それにネハルム・ロバーツ、新聞でその名前を目にしたことがある。

 憲兵隊の大尉で怪盗Aの事件を担当していた筈だ。

 顔写真等は載っていなかったが、見出しに大きく『憲兵隊大尉、ネハルム・ロバーツまたも怪盗Aを取り逃がす』と書かれていたので覚えている。


「あの方……怪盗Aか!?」


 怪盗A、なんでその名前が?


「どう言う事ですか、ネハルム大尉。何故怪盗Aの名前が?」

「昨日、カレン卿に怪盗Aからの予告状が届いたんだ。いつも置かれている予告状と形状、色や柄が全く同じ物がな」


 だからやけに軍の関係者が多かったのか。


「確か、予告状の特徴等は世間に公開されていなかった……全く同じものを用意出来るのは、それを知る軍の関係者か、怪盗A自身……」

「そうだ。それに今回、予告状が届いた件についても外部は公開していない。つまり、ここに現れ、カレン卿の命を狙ったお前達は、軍の関係者じゃない限り、怪盗Aの共犯者という事だ!」


 ネハルムは銃を構え直し、銃口を少女達に向ける。

 その時、タイミングを計ったかの様に全く人が居ない広場に、憲兵隊、陸軍隊の軍人達が大通りから流れ込んで来て、この演説台を取り囲む。


「ロバーツ大尉! 民衆の避難、完了しました!」


 軍人の中の一人の鴇色の髪を二つ結びにした女性軍人がそう言った。


「了解だ、トレス伍長。まずは怪我人の救助を!」

「はっ!」


 トレスと呼ばれた二つ結びの憲兵が、憲兵達を指揮して、サディアスとカレンの元へと向かう。

 彼女もネハルムの隣に立ち、アサルトライフルを構える。


「エリカ、君もカレン卿の避難を手伝ってくれ。奴らは我々が捕らえる」


 確かに、今は恐らく重症のカレンが優先だ。

 雷帝ステラに代わって俺が救助の手伝いをした方がいい。


「分かりました」


 俺は刀を鞘に仕舞い、雷帝ステラの元に向かった。

 だか、少女達は一歩も動かなかった。止めようともせず、ただ、その冷たい目でそんな俺を眺めていただけだった。


「ステラ卿、私がカレン卿の救助を手伝いますので、貴方はあの者達をお願いします」


 だが、雷帝ステラは俺の言葉に耳を貸さずに、無言で回復魔法をカレンにかけ続けていた。

 そばにいたユリウスも同じ様子だった。

 俺は二人と憲兵達の影で見えなかったカレンの体を覗き込む。

 それはもう一目で助からないと判断出来るような状態だった。

 刺された左胸には大きな穴が開き、そこから血がとめどもなく流れていた。

 呼吸も荒く、顔色も悪かった。

 予想はしていた。この演説台に上がった時俺は、彼女は左胸を貫かれ、もう助からない、そう踏んだ上でサディアスの元へと向かったのかもしれない。

 俺は静かにしゃがみこんで、傷口を確認する。やはりこれはもう……。


「あ、貴方は……確か……」


 カレンが掠れた声を発して、虚ろな目で俺の顔を見る。


「はい、学校の門であったエリカ・ライトです」

「また……会えて……嬉しいです。それも……最期の時に……」


 彼女は死が近付いている事を確信しているのか。


「2人も、ありがとう……でももういいわ……」


 今度は雷帝ステラとユリウスを見て声を発する。


「回復魔法ももう効かないわ……だから……」


 回復魔法は傷を治す効果はあるが、代償なしになんでも治せるという万能な手段ではない。

 回復魔法は使用者の魔力で、使用された側の自然治癒力を活性化させて傷を治す。

 上位の回復魔法にいくほど自然治癒力の活性化させ、治癒を早めるが、人間の自然治癒力には限度がある。

 この怪我を治すのは無理だろう。


「……申し訳ありません、カレン卿。私が至らぬばかりに……」


 雷帝ステラは回復魔法の発動をやめて、ただ下を向く。

 ユリウスもそれを見て、手を下げる。


「いいのよ、貴方のせいじゃないわ……ユリウス、貴方はこんな最期を迎えたら、駄目よ……」

「カレン義姉さん……」


 1滴の雫がユリウスの頬を伝う。

 それから少しの間、沈黙が生まれた。その沈黙を破ったのは息絶えようとしていた彼女の声だった。


「……最期に会えて……良かった……ユリ……スに、も…………さんにも……」


 その言葉を最期に彼女は俺の方を見て、糸切れたように静かに眠った。

 最期の言葉は良く聞こえなかったが、恐らく俺の名前を呼んだのだろうか。


「……」


 雷帝ステラが静かに立ち上がり、少女達の方を向く。


「貴様ら……誰の差し金だ……怪盗Aか!?」


 雷帝ステラが剣を抜く。

 それを見た俺とユリウスも静かに立ち上がる。


「ハイ、怪盗Aの指示デス」

「何だと?」


 あっさりと答えた様子に驚いたのか、ネハルムが声を上げる。


「ですから、怪盗Aが首謀者です」


 Bと呼ばれていた黒のローブの人物が答える。


「貴方も先程仰ったでしょう。お前達は怪盗Aの共犯者だと」

「……ああ、確かに言った。だがそれは、お前達が本物の怪盗Aの共犯者だった場合だ」

「どういうことデスカ?」

「確かに怪盗Aに共犯者がいるという情報はある。だか、今回の予告状の文面には明白な時間指定がない。いつもは必ずあるんだがな。それにどうして突然、人工遺物(アーティファクト)しか盗まなかったのにカレン卿を標的にした? 何故その当事者がこの場にいない? 必ず奴は自分の手で実行していた。何もかも不自然だ。手口も、標的も、予告状も、何もかもだ。だから、お前達を怪盗Aと共犯と結び付けるには無理がある。それが俺の意見だ」


 ネハルムがそれを見抜いた時、何処からか、男性の笑い声が響き渡る。


「フフ……フハハハハハ! 流石は我の好敵手! 良くぞ見破った……!」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、大広場が煙幕に包まれる。

 数秒後、風で煙幕が上がり、視界が開けると、演説台の上に新たな2つの人影があった。


「怪盗A!」


 ネハルムが怪盗Aと呼んだ黒のテールコートを着た人物に銃口を向ける。

 あれが怪盗Aか、新聞に載っていた通りの格好だ。

 それに横に立っているのは、一昨日盗まれた常闇の姫か。


「そう身構えるな。我はお前達と争いに来たのではない」

「なら何故ここに来た!?」

「決まっている、それは……」


 怪盗Aはネハルムから視線を外し、少女達の方に移す。


「我の名を騙った不届き者達に、罰をと思ってな」


 こうして長い様で短い、大広場での戦いが幕を開けようとしていた。


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