表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵の異世界生活  作者: わふ
序章 幼年期編
2/127

一話 異世界での生活

 

 ―あれから七年後―


 俺……いや、今は私と言った方がいいだろうか。

 ……とにかく、俺、来栖 久遠はどうやら異世界に転生してしまったらしい。

 御伽噺で聞いた事しかなかったが、自分自身に起こるなんて思ってもみなかった。

 この世界に転生した俺の名は、エリカ・ライトへと変わった。

 ……それに住む世界、容姿が変わっただけでなく性別まで変わってしまったのだ。

 エリカという名前は母親のエレナ・ライトから貰った。


「エリカ、起きとるかのう?」


 噂をすればなんとやらだ。

 母親のエレナが扉の前で、俺の事を呼んでいる。

 今は早朝だから、用件は予想出来る。

 恐らく、朝食が出来たのだろう。


「どうしたの、お母さん?」


 俺はベッドから立ち上がり、部屋の扉を開けた。


「起きてたんじゃな」


 扉を開けると母親のエレナが立っていた。

 ただ、母親とは思えない幼い容姿をしており、知らない人が見たら十四かそこらの子供だと思うだろう。

 気になって聞いてみたら、どうやら魔法で体を幼くしているらしい。


「朝食の準備が出来たから呼びに来たんじゃ」


 やはりか、と心の中で呟く。


「うん、分かった。着替えたらすぐに行くね」


 ……数年間、少女らしい口調で喋っているが、未だに慣れない。


「うむ……しかし、ゆっくりでいいぞ」

「ん……」


 エレナは俺の頭を指差して、触ってみろと合図を送る。


「あ……」


 触ってみると寝癖が立っていた。


「折角綺麗な長い黒髪なんじゃから、ちゃんと整えないといけないぞ」


 俺の髪はエレナ金色の髪とは違い、黒髪だった。

 普通親の髪が遺伝するんじゃないのか?

 それとも父親の方を引き継いだのか。

 しかし、俺は父親を見た事がない。

 何か事情があるのかもしれないが、たかが七歳の子供が首を突っ込む話では無いだろう。

 ただ、推理する事ぐらいは許されるだろう。

 例えば俺が産まれてからすぐに他界したか、長期の仕事で遠方にいるかだ。

 一番最悪なケースは、俺は元々エレナの子では無く、孤児というケース。

 俺は赤ん坊の頃から明白な意識はあったが、意識が明白になる前にはもう引き取られていたという可能性も捨てきれない。

 ああ、駄目だ。推理を始めると歯止めが聞かなくなる。

 今はこれぐらいにしておこう。


「うん、お母さんから貰った長い髪、大切にするね」


 そう俺が言った瞬間にエレナの顔が暗くなった。


「……そう……じゃのう……..」


 これは何かあるな。

 だがその謎は今暴く謎では無い。これは無理に暴く必要のない謎だ。

 いずれは乗り越えなきゃいけない謎だが。


「お母さん……?」

「……な、なんでもないぞ!」


 エレナは少し焦った仕草をする。


「それじゃあ下で待っとるからな。冷めない内に来るんじゃぞ?」

「うん、分かった」


 その言葉を聞くとエレナは1階に降りていった。

 俺は部屋の扉を閉めて白いキャミソールワンピースに着替え、寝癖をクシで直して自室を後にする。

 やはり、この服装も落ち着かない。

 特にこのスカートという要素が違和感を感じる。

 しかし、この様な服しかこの家には無いので、仕方なく着ている。


「おはよう、エリカちゃん」


 俺が1階に降りると、茶髪のショートヘアの女性が笑顔で迎えてくれる。


「アメリアさん、おはよう」


 彼女の名前はアメリア・エクス。隣の家に住んでいる人、所謂隣人だ。

 彼女は子供の頃、重い病気にかかったらしく、その病気を治してくれたエレナに恩返しをする為に、なんと毎日朝食と夕食を作ってくれている。

 俺は軽くアメリアに挨拶をして、食卓のテーブルに腰掛ける。


「アメリアさん、いつもご飯作ってくれてありがとうね」


 キッチンにで料理をしているアメリアに感謝の言葉を告げる。


「ふふ、いいのよ? これぐらい」

「エリカちゃんのお母さんには、これぐらいじゃ返し切れない恩を貰ったからね」


 料理をしながら、振り向き、俺の言葉にそう返してくれた。


「そうじゃぞ、エリカ。こやつはもっとこき使ってもいいんじゃぞ?」


 はぁ……全く……。


「お母さんは、少し傲慢すぎると思うけど……」

「アメリアさん、辛かったらいつでも言ってね? 私、アメリアさんのお手伝いするから」


 お手伝いなんてセリフ、何十年振りに言葉にしただろうか。

 少し小っ恥ずかしい気もするが、アメリアにはいつも世話になっている。


「うぅ……なんて優しい子なの……エレナさんとは大違い……」


 アメリアは泣いた振りをする。なんと大袈裟な演技なんだろうか。

 彼女が役者になったら絶対に大根役者になれると確信する。


「わ、わしはそこまで酷い扱いはしとらんわ! ……多分」


 心当たりがあるのか歯切れが悪い。


「ふふ、わかってますよ。エレナさんは本当にお優しいお人なんです。そうじゃなかったら、毎日料理しに来たりなんてしませんよ」


 アメリアは優しい笑顔をして、答える。


「そ、そうか、分かってるなら良いんじゃ」


 エレナは少し照れている。

 しかし、今更だがアメリアがエレナの姿に疑問を持たないと言うことは昔からあの姿なのかとふと思い、いつ頃からあの姿なのかと考え込もうとした時、丁度朝食が出来たらしくアメリアの声で思考を止めた。


「はい、出来たわよ〜」


 アメリアが、食卓に3人分の料理を皿にのせて、椅子に座る。


「うむ、それじゃあ、頂くとするかのう」


 俺達3人は、両手を合わせ「頂きます」をして、食事を始めた。

 今日の朝食はベーコンエッグだ。


「うむ、相変わらずアメリアの手料理は美味いのう」


 エレナは手を止めることなく、料理を食べていく。


「ふふ、ありがとうございます」


 このやり取りもテンプレになりつつある。

 エレナが感想を言い、アメリアがお礼を言う。

 エレナが毎日美味しいと言う気持ちは分かる。

 本当にアメリアの料理は絶品で、つい毎日美味しいと言葉にしてしまう。


「本当に美味しいね、アメリアさんの手料理」


 こんな風に自然と言ってしまう。


「あらあら、エリカちゃんまで……」

「毎日聞いてるけれど、その言葉を言われるとやっぱり嬉しいわね〜」


 なんだかんだ言って俺はこの世界での生活を楽しんでるのかもしれない。

 この世界に来てからはこんな賑やかな食卓を毎日囲んでいる。


「ごちそうさまでした」


 最初に食べ終わったのはアメリアだった。

 アメリアはこの後、勤務先の村の酒場に向かう。


「それじゃあ、今日も部屋お借りしますね」


 アメリアはいつもこの家の一室を借り、着替えてから酒場へと向かう。

 アメリアが一階の部屋に入室したと同時にエレナが朝食を食べ終わり、席を立つ。

 そして……アメリアが入っていった部屋の方へと向かっていく。


「お母さん、駄目だよ?」


 エレナは何時もアメリアの着替えを覗こうとする。


「む、ちょっとぐらい良いではないか」

「それに同じ女じゃ。減るもんでは無いじゃろう」

「それでも無断で見るのは良くないよ」


 これは毎日のことでは無いが、頻繁にエレナはやる。

 それを俺が止める、という流れまでがセットだ。


「仕方ない、今日は諦めるかのう」


 出来れば明日からも諦めてくれたら助かるんだがな。

 まぁしかし、エレナも本気では無いんだろう。

 言うなれば、毎朝のお決まりって奴だ。

 そんなやり取りをしている間にアメリアは着替え終わったらしく、部屋から出てきた。

 アメリアは何時も白いメイド服に着替える。

 今日もメイド服に身を包んで部屋を出てきた。


「エリカちゃん、今日もエレナさんを止めてくれてありがとうね」


 アメリアは俺に近付き、そう言った。


「うん、お仕事頑張ってね、アメリアさん!」

「ええ、行ってくるね」

「エレナさん、また今晩お邪魔しますね」

「うむ、ドジを踏むでないぞ」

「ふふ、はい!」


 アメリアは一礼をして、家を出ていった。


「さてとわしらもやるかのう。エリカ、食べ終わったら庭に来るんじゃぞ?」

「うん、分かった」


 エレナも家を出ていった。

 俺も、食事を終わらせると、家を出て、中庭に向かった。




 ◇◇◇




「うむ、来たか」

「それでは今日も魔法の練習を始めるぞ」


 ()()というのは魔法の練習の事だ。

 毎日、朝食の後に魔法の練習をする。

 5歳の頃からの習慣で、毎日欠かさずにエレナの魔法指導を受けていた。


「手始めに火の魔法を使ってみるんじゃ」

「うん」


 俺は右手を構え、詠唱を開始する。

 魔法の発動には詠唱が必要だ。


「火よ、我の魔力に集え『ファイアーボール』!」


 そう唱えると右手の前に火球が現れ、それを用意された的に飛ばす。

 火球は見事に的に命中し、木製の的は焼かれて灰になった。


「うむ、見事じゃ。次は水の魔法じゃ」


 俺は頷き再び右手を構え、詠唱を始める。


「水よ、地に恵を与えたまえ『ウォーターレイン』!」


 詠唱を終え右手を空に掲げると、小範囲だが無数の水の雫が降ってきた。


「よし、次は雷の魔法!」


 再び構えを取り、詠唱を始める。


「雷よ、敵を討て『サンダー』!」


 木製の的を雷撃が射抜き、破壊する。


「風の魔法!」


 エレナはもう指示だけしか出さなくなっていた。


 再び詠唱を開始する。


「はぁ……はぁ……..風よ、我の望むべき姿に変形せよ『ウィンドランス』!」


 魔法を使うのには集中力、魔力が要る。

 体は動かして無いのにいつの間にか、息が途切れ途切れになっている。

 何とか詠唱を終えた俺の右手の前には風が集まり、うっすらと槍へと姿を変える。

 その槍状の風を的に向けて放つ。

 的の中心を捉え、破壊する。


「光の魔法じゃ!」


 魔法の連続使用で魔力の消費も加算されていき、更に辛くなってきた。

 ……だが再び構えを取る。


「光よ、暗き地を照らせ『ライト』!」


 手の平に眩しく光る球体が現れる。


「闇の魔法!」


 光の玉を消し再度右手を構える。


「闇よ、その力で敵を押し潰せ『グラビティ』!」


 唱えると、目の前の地面がズドンと、小さく抉れた。


「最後じゃ、回復の魔法!」


 エレナは俺に近付いてくると、ナイフを取り出して自分の手首を切る。


「治癒よ、傷付きし者に癒しを与えよ『ヒール』!」


 エレナの手首に右手を掲げると、碧い光がうっすらと現れて傷口が閉じていく。


「うむ、合格じゃ!」


 俺は力が抜け、その場に座り込んでしまった。


「まさかその歳で基本属性を全て使えるようになるとはのう……」

「で、でも……魔力の消費が、はぁ……はぁ……」


魔力を消費すると、身体に負担が掛る。


「いそこはまだ仕方ない。じゃが、その魔力量は驚異的。魔法を発動させるまでのインターバルも初心者にしては少ない。ちゃんと基礎は出来上がっておるんじゃ。もっと誇っても良いぞ」

「..そう、なの……?」

「うむ……おぬしならこれが出来るかもしれぬ」


 エレナはそう言うと自分の背丈程ある杖を構える。


「エリカ、よく見ておれよ?」

「う、うん」


 エレナは詠唱をしていない筈だった。

 しかし……。


「……!」


 エレナの杖からは、火属性魔法のファイアーボールが放たれていた。


「……無詠唱……..」


 俺は思わず、考えていた事が言葉になっていた。


「エリカ、おぬしにはこれから、無詠唱をやってもらう」

「……」


 俺は無詠唱に感動を覚え、言葉が出なかった。

 この2年間必死に魔法の練習をして、ようやく基礎と呼ばれる、下級属性魔法を全属性使えるようになったのに……。


「ふふふ……」


 俺は無意識に笑っていた。

 恐らくその笑いは…


「お母さん」

「ん?」

「魔法って……面白いね」

「ほう……」


 未知の領域に足を踏み込んだ事を嬉しく思ったのだろう。

 俺は立ち上がり、右手を構える。


「……」


 やってやろうじゃないか、無詠唱ってやつを。

 とは言ったものの……やり方が分からない。


「……お母さん、コツとかって……ある?」

「うーむ、コツのう……」


 エレナは少し考え込む。


「……そうじゃな……発動させたい魔法をイメージする事……ぐらいかのう……」


 イメージ……なるほどそういう事か。


「もしかして詠唱ってそのイメージを強くする為にあるのかな?」

「ほう、それに気付くとは流石エリカじゃ」


 やはりか。

 なら簡単な事だ。言葉を紡がずに、頭でイメージすればいいだけの話。


「……やってみる……」

「なら、手始めにファイアーボールを使ってみるんじゃ」


 俺は頷き、頭の中でイメージを作る。

 火、球体、燃える、熱い……よし、いける!


「っ……!」


 すると、火球が現れる。

 その火球を的に向けて飛ばす。

 火球は見事に的を捉え、焼き尽くした。


「……出来た……?」


 困惑している俺にエレナが抱き着いてきた。


「ようやったぞ! エリカ! おぬしは最高の魔法使いになれるぞ!」

「出来たの……? 私…無詠唱を……?」


 まさかこんなに綺麗に発動出来るとは思っていなかった。

 発動は出来るが、魔法は不発に終わると思っていた。


「うむ! じゃが無詠唱時の魔法の発動までの速度が遅いが……これからそれを極めればどんどん早くなると思うぞ」


 まだ成長の見込みがあるのか。そう考えたら何だか嬉しい気持ちになってくる。


「そうじゃ。何がかご褒美をやらんとな!」

「エリカ、欲しいものはあるかのう?」


 欲しいもの……強いて言えばあるにはあるのだが…。


「じゃあ……お母さんみたいな杖が欲しい……」

「ほう、そんなのでいいのかの?」

「うん……もっと魔法、上手になりたいから」


 一々右手を構えるのも疲れるしな。


「分かった。そういうのを作るのが得意な知り合いがお、るから、そやつと相談して見ようかのう……」


 エレナは俺に抱きつくのをやめて、顎に手を当てながら、そう言った。


「とびっきり良いのを用意するから期待して待っとれ」

「うん!」

「ただ、暫く時間をくれんかのう?」

「うん、楽しみにしてるね!」


 それから俺達は魔法の練習で付いた泥を落とす為、一緒に風呂に入り、アメリアの帰りを待っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ