十六話 七星祭
―七月五日 七星祭一日目―
「へぇ、結構出店が並んでるじゃねぇか」
俺とアッシュは約束通りに帝都で行われる七星祭に来ている。
今は各地区を繋ぐ帝都一の通り、パールストス大通りを歩いている。
祭りと言うだけあって、様々な出店が大通りを彩っている。
元から賑わっているが今日は更に人通りが多い。
その為、憲兵隊が普段よりも多く人混みに紛れており、トラブルが無いか見回っている。
「ちょっと見ていこうぜ」
アッシュは出店の方に歩いて行き、俺もそれに続く。
「色々あるな……何か気になる物あるか?」
「気になる物……」
俺は出店を見ながら考える。
……それにしても祭りというのは食べ物や飲み物の出店の種類が豊富だな。
そう言えば、あちらの世界でも祭りというものには行った事無かったな……。
「無いのか?」
「うーん、強いて言うなら……全部?」
どれも目新しく選べないと言うのが率直な感想だ。
俺の意見がおかしかったらしく、アッシュが笑う。
「なんだそりゃ。初めて祭りに来た子供みたいだな。ま、時間はたっぷりあんだ。ゆっくり見ていこうぜ」
アッシュはそう言って歩き出す。
子供みたいは少し気に食わないが、アッシュの言う事は言い当て妙だ。
俺は初めての祭り事で浮かれているのかもしれない。
「そうだね」
その後俺達は出店を見ながら大通りを抜けて、スニエル地区にやって来た。
元々はこのスニエル地区に行く為にパールストス大通りを通っていた。
前日にアッシュに「行きたい場所あるか?」と聞かれたので、博物館や美術館、図書館等があるスニエル地区に行ったことがないので行きたいと言ったところ、二つ返事で了承してくれた。
「ここも出店が出ているな」
大通り程では無いが、アッシュの言う通りちらほらと出店が見える。
「で、お前さんはどれに行きたいんだ?」
どれとは恐らくスニエル地区にある施設の事を指しているのだろう。
「帝都美術館かな。色々な美術品を見てみたいからね」
「美術館か、ならあっちだな」
アッシュが指さす方向へと俺達は向かって行く。
「この地区も人多いね」
「七星祭以外の日でもこんなもんだぞ。ここは観光名所の1つだからな。特に人気なのが美術館、その次が博物館ってとこだ。この二箇所は色々な美術品、人工遺物が見れるからな」
やはりこの世界でもそういったミュージアム的な施設はそれなりに需要があるんだな。
「アッシュはよくここに来るの?」
「いや、偶に来る位だな。エリーは初めてだったよな」
「街の方自体殆ど来た事ないよ」
必要な物は大通りの店で大体揃う為、学校があるユノル地区以外の地区や通りには行ったことが無い。
「じゃあこの機会に他の所にも行ってみるか」
「そうだね、この街について知りたいし」
そんな会話をしている間に帝都美術館前に到着した。
「結構広そうだね。アッシュは来た事あるの?」
「俺が芸術に興味あるように見えるか?」
アッシュは冗談めいた口調でそう言った。
「ふふ、確かにそうかもね。でも人は見かけによらないって言うし、もしかしたらと思って聞いてみたんだけど……」
「それなら残念だったな。俺は芸術に興味なんて微塵もねぇよ。お前さんが行きたいって言わなかったら、一生来なかった場所だぜ」
もしかしてアッシュは帝都美術館に入るのが嫌なのかもしれない。
一応謝っておくか。
「ごめんね、アッシュ。私の我儘で……」
「へへ、気にすんな。別に来たくないって訳じゃねぇからな。お前はお前なりに楽しめばいいんだよ。ほら、そんな事気にしてないで、さっさと中に入ろうぜ」
「アッシュ……うん、そうだね」
俺達は帝都美術館に入って、受付でチケットを買ってから館内を見て回った。
七星祭の影響なのかは分からないが、館内はかなり混んでいた。
それにこの世界の美術品も、あちらの世界に引けを取らない程に美しかった。
絵画や大理石彫刻等見慣れた物が多かったが、一つだけ奇妙な美術品があった。
それは黒いゴシックロリィタのドレスを纏った白い肌の金髪ツインテールの人形だった。
所謂ゴシック人形という物だが、美術館で目にするのは初めてだ。
名前は常闇の姫と名付けられていた。
どうやら、半月程前に帝国内の遺跡で見つかった人工遺物らしいのだが、特に変わったところは無い。
強いて挙げるのなら、他の人形よりもリアルはところ位だろうか。
顔の作りはパッと見、本物の人間と見分けがつかないほど出来が良く、今にも動き出すんじゃないかと思ってしまう。
無表情の顔の作りになっているのだがそれも中々不気味で、ずっと見られているような錯覚に陥り、少し怖いと感じた。
一通り美術館内を見物して、玄関ホールに戻って来た。
「あの人形が人工遺物か」
アッシュが歩きながら、不意にそう言ってきた。
「そうだね、人工遺物だったら博物館の方に展示されると思ったけど……一応美術品だからなのかな?」
「綺麗だよな、あの人形。人間って言われても気付かなかった……ん?」
アッシュがそう言いかけて立ち止まる。
「どうしたの?」
俺がそう聞くとアッシュが前を指さす。
「あれ、クロウじゃねぇか?」
アッシュが指さす先には男性と女性と会話をしているクロウの後ろ姿があった。
俺達はクロウに近付いて行く。
「あ、二人も美術館に来てたの?」
どうやら彼も俺達に気付いたらしい。
「うん、美術館に行こうってなって……そちらの二人は……」
俺はクロウから視線を逸らし、後ろにいるアッシュと同じ髪色の強面の髭を生やした男性と、ラズベリー色の髪の優しそうな女性を見る。
「前に言ってた、僕の父さんと母さんだよ」
という事は、男性の方が緋の戦域と呼ばれているグレイグ・スカーレットか。
「クロウのお友達?」
クロウの母親がそう聞いた。
「うん、エリカにアッシュだよ」
「初めまして、エリカ・ライトです。クロウ君にはいつも良くして貰っています」
俺はそう言い、軽く会釈する。
「あらあら、礼儀正しいいい子ね。もしかしてクロウの彼女?」
「ち、違うよ!やめてよ母さん!」
クロウは焦りながら否定する。
「ふふ、ごめんなさい。私はこの子の母親、イザベラ・スカーレット。それでこっちの怖そうなのが、父親のグレイグ・スカーレット。よろしくね、エリカちゃん、アッシュ君」
イザベラがそう言うと、グレイグが1歩踏み出して口を開く。
「グレイグだ、よろしく頼む。君がエリカ君か、話は聞いている。かなりの指揮官だとか……それにあのエレナ卿の……」
グレイグはそう言いながら、まじまじと俺の顔を見てくる。
「あ、あの……何か?」
グレイグの強面の顔に少し身震いしてしまう。
「貴方、エリカちゃんが困ってるわよ?」
グレイグはイザベラの声で我に返り、一歩引く。
「す、すまん……」
「もう、父さんの顔は怖いんだから、あんまりビビらせたら駄目だよ」
「あ、ああ……」
グレイグは顔が怖い事を気にしているようで、本気でも落ち込んでいる。
「あはは、仲の良い家族ですね。皆さんも美術館を見に来たんですか?」
「ええ、そうよ。この子が来たいって言ったから」
そうか、クロウは確か芸術家を目指しているんだったな。
それなら美術館に興味があるのも納得だ。
「あ、そっかクロウは……」
俺がそう言おうとした時、クロウが慌ててそれを遮る。
「あ、そう! 僕が来たいって言ったんだよ! 二人共早く行こうよ! エリカ、アッシュ、じゃあね!」
アッシュは受付の方へと歩いて行く。
もしかしてクロウは芸術家を目指している事を話していないのか?
「もう、あの子ったら……ごめんなさいね。慌ただしくて……」
そういう事なら黙っておくか。
「あ、いえ、気にしないでください。それより早く行ってあげてください。クロウ君結構楽しみにしていたみたいなので」
「あらあらそうなのね〜、なら私達ももう行くわね。またね、エリカちゃん。アッシュ君も」
アッシュは慌てて軽く会釈する。
「うむ、これからもクロウと仲良くしてやって欲しい」
「はい、もちろんです」
二人もこの場を去っていった。
「俺達も行くか。次どこ行く?」
アッシュがそう聞いてきた。
「そうだね……ちょっと落ち着ける場所に行きたいかな」
「なら、ロータス公園に行ってみるか?」
ロータス公園か。
確か帝都の北西にあるんだったか。
「うん、公園なら静かそうだし良いかも」
「よっしゃ、なら早速行こうぜ」
俺達はその後帝都西部に位置する、貴族の屋敷が立ち並ぶ貴族街、サンチュアル通りを抜けてロータス公園にやって来た。
ロータス公園は広さの割には人が少なく、比較的静かな場所だった。
俺達はベンチに座る。
「腹減ったな……もう昼か」
アッシュが公園の時計を見ながらそう言った。
時計の針は十三時二十三分を示していた。
「お、あれ食べねぇか?」
アッシュは公園の中央に出でいたクレープ屋を指さしてそう言った。
「うん、私もお腹空いたし、いいよ」
「OK、なら買って来るから待っとけ」
アッシュは立ち上がってクレープ屋に歩いて行く。
数分後、両手にクレープを1つずつ持ったアッシュが戻って来た。
「ほらよ」
アッシュは持っていたクレープを1つ差し出してくる。
買ってきたクレープには苺や蜜柑等のフルーツが色々乗っていた。
「ありがとう、幾らだった?」
俺はクレープを受け取り、金を返そうとした。
「気にすんな。俺の奢りだ」
アッシュはそう言いながら隣に座る。
「いいの?」
「ああ。俺こう見えて結構金持ちなんだぜ?」
ドヤ顔でそう言ってから、アッシュはクレープを1口食べる。
まぁ、本人がそう言うなら払わないでいいか……。
「お、これうめぇな。エリーもぼーっとしてないで早く食えよ」
俺はそう言われ、クレープを食べる。
「ほんとだ、美味しい……」
「だろ?」
クレープという物は食べた事がなかったが、中々美味しい物なんだな……。
生地が食べやすく、クリームとフルーツの相性が良くてついつい食べ進んでしまう。
好んで食べたくなるのも頷ける。
俺達は一気に食べ終わった。
「美味かったな。また食いたいぜ」
「うん、また食べようよ。何時でも食べれるんだし」
「……そうだな。また来ようぜ」
俺達はその後、再び七星祭を楽しんだ。
◇◇◇
同時刻。帝都美術館。
「今日はお客様が多いですね……」
そう言いながら、忙しくて項垂れている老人が館長室に入って来る。
彼はこの帝都美術館の館長だ。
館長は机に近付いて行く。
「……ふむ、これは……」
館長は机に置かれている物を見つける。
それは見覚えの無い物だった。
『本日午前零時、常闇の姫を頂戴する。怪盗 アルセーヌ』
それは怪盗アルセーヌからの予告状だった。




