表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵の異世界生活  作者: わふ
第一部 学校生活編
16/127

十五話 初依頼

 

「皆さん、今日もお疲れ様でした」


 六月下旬、夏が近付き、制服も夏服に変わった頃のある日の授業後のホームルームの時間で、教卓に立っているカミラがそう言った。


「梅雨の季節で雨の日が多いこの頃ですが、来月の七月五日から、七月七日の間の三日間、この帝都ログレスで七星祭が行われます」


 七月七日は七星神エンイアが現れたとされる日で、七星祭はそれに因んで、毎年行われる祭りごとだ。


「その三日間は学校もお休みになりますので是非、皆さん楽しんでください。それ知っているとは思いますが、最近怪盗Aという不審者が現れています。街を出歩く時は十分注意して下さい」


 怪盗Aか……。

 最近、巷で有名な名の通りの怪盗だったか。

 確か、半月程前に帝都博物館で人工遺物(アーティファクト)を盗んだ事件があった筈だ。


「連絡事項はこれくらいですね。それではまた明日会いましょう」


 カミラはそう言い、教室から出て行った。

 それと同時に着席していたクラスメイト達が次々と席を立つ。


「ふわぁ〜、今日も退屈だったなぁ」


 隣に座っているアッシュが、大きく欠伸をする。


「だらしないよ、アッシュ」


 そう言いながら、クロウがこちらに近付いて来る。

 それに続きリディアもこちらに来た。


「へいへい。それよりお前らは七星祭の日、どうすんだ?」


 アッシュがクロエの言葉を軽く流しながら、そう聞いてきた。


「七星祭? 僕は父さんと母さんと行くつもりだよ。母さんが帝都に来るらしいから、軍の仕事が忙しい父さんが珍しく休暇を取って三人で楽しもうって、言ってくれたからね」


 クロウが楽しそうにそう言った。

 クロウは帝国東部のイースヴェル州の海辺に面する都市、海都オラシオン出身の平民だ。

 ごく普通の家柄なのだが、クロウの父親であるグレイグ・スカーレットは帝国第五陸軍の大将というとんでもない役職に就いている。

 大将の名は伊達ではなく、武術、指揮官の才も立派なもので、『(あか)の戦域』という小っ恥ずかしい異名まで付けられている。

 恐らく姓のスカーレットから来ているのだろう。


「リ、リディアはどうなの?」


 クロウは慌ててリディアに話を振った。

 はしゃぐ子供の様に話して、少し恥ずかしかったのだろうか。


(わたくし)ですか? 私は……」


 リディアはそう言いながら目線を逸らす。

 一瞬その行動を疑問に思ったが、目線の先の人物を見て納得した。


「なるほど、リディアはオレットと行くんだね。どっちから誘ったの?」

「オ……オレットさんの方からですわ」


 リディアは少し恥ずかしがりながらも、嬉しそうにそう答えた。


「へぇ、あのオレットがねぇ……ま、最近のお前らだったら別に違和感ねぇか。良かったじゃねぇか、デートってことだろ?」


 アッシュの言葉を聞いて、リディアが顔を赤くする。


「や、やっぱり、そういう事……ですよね?」

「ああ、そういう事だ」


 アッシュがニヤニヤしながら答える。


「楽しそうだな、どうしたんだ?」


 タイミングを見計らったかの様に、オレットが話し掛けてきた。


「いや、こいつがな……」


 アッシュがそう言いかけるが、リディアが慌てて制する。


「い、いえ! 何でもないです! それよりアッシュさん! そろそろ生徒会に行かないといけませんね! 早く行きますわよ!」


 不自然な動きで鞄を持ち、教室の出入口へと歩いて行く。


「あっ、おい……ったく、どうしたんだよ」


 そんなリディアを追うように、オレットも歩いて行く。


「はは、何だか微笑ましいな」


 クロウはそう言いながら鞄を持つ。


「僕もそろそろ行くね。じゃあね二人共」


 クロウも教室を去っていった。


「エリーはどうなんだ、シフィーと行くのか?」

「ううん、シフィーは殿下達と行くらしいから、特に予定は無いかな」


 シフィーに誘われはしたが、あのユリウスと一緒だったら楽しめるものも楽しめないと思って断った。

 それにあの四人と一緒にいるシフィーは何だか楽しそうにしていたからな……。

 水を差すのはどうかと思ったのも理由の一つだ。

 それにしても、シフィーの父親の事が知れ渡った時はどうなる事かと思ったが、上手くやれているようで安心した。

 と、言っても俺も知らされてなかったのだが。

 恐らくエレナは大事になる事を恐れ、シフィーの父親の事は一切話さなかったと思う。


「そうか……ならさ、俺と一緒に行かねぇか?」

「え……?」


 まさかアッシュからそんな事を言ってくるとは思ってなかったので、少し戸惑ってしまった。


「だから、七星祭一緒に行こうぜ」


 アッシュは俺が言葉の意味を理解していないと思い、改めてそう言った。


「……うん、いいよ。でもアッシュがそう言い出すの珍しいね」

「そうか?七星祭行ったことねぇし、行ってみようと思っただけだよ。それに折角の祭りごとだからな。参加しない手はねぇよ」


 アッシュも鞄を持ち、席から立ち上がる。


「ま、お前さんが寮に帰ってきたら、当日の計画考えようぜ」


 まだ七星祭まで一週間半あるから、気が早い気もするが……まぁいいか。

 当日グダるよりはいい。


「そんじゃ、部活頑張れよ〜」


 アッシュは教室から出て行った。

 さてと、俺も行くか。

 俺も鞄を持ち、席から立ち上がる。


「……ねぇ、少し良い?」


 俺が立ち上がった時、アリッサに声を掛けられた。


「いいよ、どうしたの?」

「相談があるの」


 アリッサが俺に相談なんてこれまた珍しいな。


「あんた、確か探偵部? ってやつに入ってるんでしょ?」

「うん、入ってるけど……もしかして何か事件?」

「事件って程じゃないけど、少し困ってるのよ」


 うーん、これは部室に連れて行って詳しい話を聞いた方が良さそうだ。


「分かった。取り敢えず部室で話さない? 他の部員にも聞いて欲しいし」

「ええ、いいわよ」


 俺はアリッサを連れ、教室を出て部室に向かった。

 何事も無く部室の前に着き、扉を開けて中に入った。


「おお、助手二号!遅かったではないか!」


 部室に入るや否やそう言ってきたのは、探偵部の部長、カイル・アーペントだ。

 最初に会った時に名前を聞き忘れたが、次の日にカイルの事を本人に色々と教えて貰った。

 学年は三年のBクラスで、新聞部の部長、フィオナと同じクラスで同じ班だ。

 あれから本当に俺の事を助手二号と呼んでいる。

 フィオナの言った通り傍若無人な性格で、毎日と言っていい程、振り回されている。

 特に酷かったのは怪盗Aの情報を手に入れるべく、事件後の帝都博物館に乗り込むと言い出した時だった。

 カイルが――。


「怪盗Aの正体を暴く!」


 と言って、それを止めるのが大変だった。

 エルも乗り気だった為、倍疲れた。

 それにカイルは偶に、部活自体に来ない日がある。

 何をやっているのかは知らないが、もう少し部長という立場を考えて欲しいものだ。


「部長、依頼人連れてきましたよ」

「何!? それは本当か!?」


 カイルが目を輝かせる。


「久しぶりの依頼人……良かったね部長」


 エルはそう言い、カイルの近くに来る。

 久しぶりも何も、初めての依頼なんだがな。


「ああ! この流れで次々に依頼人が来るに違いない! フハハハハ!」


 まずこんな訳の分からない部活に依頼しようとする物好きなんてそうそう居ないだろう。

 いや、ここに居るか。

 横目でアリッサを見ると、案の定唖然としていた。


「と、取り敢えず話を聞いてみませんか?」


 このままいったら話が進まないだろうと思い、強引に本題を持ち掛ける。


「そうだな! 依頼人よ、座りたまえ!」


 そう言って、カイルはアリッサを部室の中央にある椅子に案内する。


「……ほんとにここに相談して良かったのかしら……」


 アリッサはそう呟き、渋々椅子に座る。

 そう言いたい気持ちは分かる。

 現に俺もこの部に入って良かったのか?と疑問を抱いている。

 椅子に座ったアリッサを見て、俺達三人も机を挟んで彼女の正面に座る。


「それで、どういった依頼なんだ?」

「その……些細な話なんですけど、家庭科室からお玉杓子が無くなったんです」


 アリッサは料理部に所属しており、料理部の活動は家庭科室で行われている。

 なら、彼女の依頼は個人的なものでは無く、料理部からの依頼と言う事か。


「お玉杓子? あの調理道具のか?」

「そうです。昨日の放課後、いつも通りに家庭科室に来た部長が、お玉杓子が一本無いことに気付いて、それで探したんですけど見つからなくて……」

「ふむ、いつ頃まであったかというのは分かるか?」


 カイルが顎に手を当てて、真剣な表現をしてそう言った。

 この人もそんな表情を見せるのか。

 いつもふざけている様にしか見えないが、こういう時はしっかりしているだな……。


「一昨日あたしが帰る時まではありました。その後は部長が戸締りをしたので分からないです」

「だったら、その間に何かあったのかも……家庭科室も調べた方が良い」

「……そうだな、一度家庭科室に行ってみるか!その料理部の部長とやらにも話を聞きたい。助手二号はどう思うのだ?」

「そうですね、家庭科室に行ってみた方が良いです。アリッサの話だけでは、一昨日の夜から昨日の放課後までの状況が分かりませんから」


 話が纏まると、カイルが勢い良く立ち上がった。


「そうと決まれば、助手一号、助手二号! 早速調査に行くぞ!」


 さっきまでの真剣な表現とはいって変わって、楽しそうな表現をする。


「おー」


 右手を上げて気の抜けた返事をし、エルも立ち上がる。


「よし! 我が探偵部、本格的に始動だ! フッハッハッハ!」


 カイルとエルは部室の出入口に向かって行く。


「……ほんとに大丈夫なのかしら……」


 アリッサも立ち上がり、二人の後を追う。


「助手二号! 早く行くぞ!」


 カイルの声で俺も席を立ち、三人の後に続く。

 その後、俺達四人は家庭科室にやって来た。

 家庭科室では、料理部の部員達がガヤガヤと活動している。


「アリッサ、遅かったじゃないか」


 そう言ったのは三年の男子生徒の料理部部長だ。


「すみません……それよりあの無くなったお玉杓子の事について聞きたいんですけど……」


 アリッサは単刀直入に本題を話す。


「お玉杓子……? ああ、昨日の……ん? そっちは……ってBクラスのあのアーペントじゃないか」


 あの……?


「そっちの二人は……」

「えっと、実は……」


 俺は手短に事情を説明した。


「なるほど、それで三人は無くなったお玉杓子を探しに来たのか」

「はい、それで詳しい話を聞きたいんです。先輩が最後にそのお玉杓子を見たのは何時ですか?」

「えっと確か、一昨日家庭科室を出る前だったはずだ。部員の皆を先に帰して、片付けをしている時はあった」


 アリッサの証言と矛盾は無いか。


「だが……」


 料理部の部長は言葉を言い淀む。


「どうしたんですか?」

「その、お玉杓子をどうやって片付けたか覚えていないんだ」

「……? どういう事ですか?」

「いや、最初はあっちの窓際の流し台に置いていたんだ」


 ロドニーは家庭科室の奥の流し台を指さしてそう言った。


「他の場所の片付けをして、再びそっちに目をやったら、いつの間にかお玉杓子が消えてて……知らない内に片付けたと思っていたんだが……」


 ちょっと待て、絶対その時に無くなっただろ。

 何でもっと早くそれを言わないんだ……。


「部長! そういう事は先に言って下さい!」


 アリッサも俺と同じ気持ちだったらしく、声を上げてそう言った。


「すまない、気に止めるほどの事だとは思っていなかったからな……」

「……取り敢えず、その時の状況を教えて下さい。先輩は窓際の流し台に置いていたんですよね?」

「ああ、洗って乾かす為にな」


 特に変わった所は無いか。


「他には?」

「他は……そうだ、窓を開けていたな」

「そのお玉杓子を置いていてた流し台の傍のか?」


 カイルがそう言うと、料理部部長は頷いた。


「そうだ、帰る前に部屋の換気をしようと思ってな」

「なるほどな……」


 カイルは何か分かったらしい。


「なにか分かったんですか、部長?」


 俺がそう試しに聞いてみるが……。


「いや、全く分からん」


 カイルの返答に思わずずっこけそうになる。


「だが、盗み易いと言う事は分かった」


 分かったのか、分からなかったのかどっちなんだ……。

 窓から手を伸ばし、お玉杓子を盗んだということか?

 しかし……。


「でも、ここ四階ですよ。流石に無理があるんじゃ……」

「うーむ、外壁の出っ張りや窓庇を伝って……は無理があるか」


 まぁ不可能では無いと思うが、そこまでしてお玉杓子を手に入れたいとは思わない。


「……失礼します、生徒会の者ですが……あら、エリカさん、どうしたんですの?」


 そう言いながら、リディアが家庭科室に入って来る。


「家庭科室のお玉杓子が一つだけ無くなったらしくて、それでアリッサに頼まれて調査に来たの」

「え? 家庭科室の備品も無くなったのですの?」

「他にも無くなった部があるの?」

「ええ、私、丁度各部の備品調査をしていたのですが、先程美術室行ったところ、一本の筆が無くなったと聞きまして……他にも園芸部では小さい鉄シャベル、技術部ではネジの束、吹奏楽部では鉄の指揮棒が無くなっています」


 四箇所もか……。


「多いな、いつ頃無くなったか分かるか?」


 カイルがそう言うと、リディアは手に持っていたファイルを開く。


「えっと……全部バラバラですわね。一昨日だったり、昨日だったり……」

「だが、最近だな。助手二号、今回の事件と関係あると思うか?」

「まだ何とも言えませんね。取り敢えず同じ四階の美術室に行ってみたいのですが、いいですか?」


 俺がそう言うとカイルが頷く。


「そだね、関係ありそうなら行ってみた方が良い」

「あたしも行くわ。もしかしたら見つかるかもしれないし」


 エルとアリッサもそれに賛成する。


「先輩、ありがとうございました」

「ああ、また何かあったら言ってくれ。うちの部の為に協力してくれているんだ、少しは力になるよ」

「分かりました、では」


 俺達は家庭科室を後にして美術部の部室、美術室に着いた。


「あれ、エリカに、それにアリッサも……どうしたの?」


 美術室に入ると、絵を描いていたクロウが真っ先に俺達に気付いた。


「それが……」


 俺は事情を説明して美術部の部長の三年の女子生徒を呼んで貰った。


「あ、筆の件? うん、昨日私が片付けをしていたんだけど、その時に筆が無くなってるのに気付いてね。昨日の部活の最中はあったんだけどね」

「最後に見た場所は教室内のどこですか?」

「あそこの窓際の机の上。パレットの上に置いてたんだけど、美術室を戸締りしようとした時には、無かったの」


 また窓際か……。


「その時窓は開けていましたか?」

「うん、開けてたよ。最近は少し暑いからね」


 状況もほぼ一緒か。


「……ありがとうございます。大体分かりました」

「そう?なら私はもう戻るわね」


 美術部の部長はそう言い残し、美術室の奥へと向かって行った。


「何か大変そうだね。手伝おうか?」


 クロウはイーゼルに立て掛けたキャンパスに、筆を走らせながらそう言った。


「ううん、心配しないで」

「そう?ならいいけど」


 俺は少し気になり、クロウのキャンパスを覗き込む。


「クロウ、やっぱり絵上手だね」


 クロウの絵は美術展に出しても恥ずかしくないくらいに出来のいい物だった。


「本当? 僕、美術家を目指してるからそう言ってくれると嬉しいな」


 クロウは美術家を目指しているのか。

 確かに美術科の授業でも、クロウは終始真剣な顔をして絵を描いていたな。

 ……ん?


「クロウ、もしかして無くなった筆ってそれと同じの物?」


 俺はクロウが持っていたハンドルと毛が鉄のフェルールで留られている筆を見て、そう聞いた。


「え?うん、そうだけど……」


 そういう事か……。


「そっか、ありがとうクロウ」

「……? うん、どういたしまして」


 俺は振り返り、美術室を出て行く。

 それに続いて他の三人も、美術室を出た。


「結局、収穫無かった」

「分かったのは同じ状況というだけだったな」


 廊下を歩いている時、カイルとエルが落胆する。


「……いいえ、分かりましたよこの事件の真相」


 俺がそう言うと、三人が驚く。


「本当?」

「はぁ? 今ので分かるの?」

「フフ……フハハハハハ! 流石は助手二号だ! 話したまえ! 誰が犯人なんだ!?」

「それはですね……」


 俺は考えをまとめ、それを話した。


「なるほどな、だったらどう捕まえる?」

「考えがあります」


 俺はそう言い、ある場所に三人を案内した。




 ◇◇◇




「……ねぇ、本当にこんな事で捕まえられるの?」


 隣に居たアリッサが小声でそう言ってきた。


「うん、大丈夫だと思う」


 俺が考えた作戦は窓際に太陽の光が当たって、光るものを窓際に置き、犯人を誘き出すという作戦だ。

 犯人と言っても人では無いんだがな。

 その為に今は保健室を使わして貰い、窓際に銅貨を置いている。

 俺達四人はベットの影で身を隠し、それを待っている状態だ。


「おい、あれじゃないか?」


 カイルがそう言うと、下の窓枠から黒い耳が見えた。

 それの外見は段々はっきりしていき、猫と認識出来た。

 そう、紛失した五つの物を持ち去ったのは猫だ。

 猫なら壁の堀を伝って四階に行く事も可能だし、動機もある。

 盗まれた五つの物は全てが太陽の光が反射する鉄等で出来ている、或いは部分的に使われている。

 猫は光るものが好きで、太陽の光が反射した物を持ち去ってしまったのだろう。

 最近被害が多い理由は、六月下旬の夏至の季節に入ったからだろう。

 クーラーはまだ使用が禁止されており、窓を開ける生徒が多かったのが理由だ。

 黒猫は窓枠に乗って銅貨を咥え、逃げて行く。


「追うぞ!」


 カイルがそう言って立ち上がり、窓を飛び抜けて猫を追う。


 それに続いてエルとアリッサも猫を追った。


「もう良いか?」


 保健室の扉が開きイアンが入って来る。

 俺達が作戦を実行している間「俺は外に出てる」と言ってイアンは扉の前で待っていた。

 ちなみに作戦場所を保健室にした理由は、外にすぐ出れて追い易いと言う事で一階の方が良く、尚且つ一階で場所を貸してくれそうなのがイアンくらいだったからだ。


「はい!ありがとうございました!」


 俺は礼を言い残し、三人を追った。

 外はまだ生徒が多く歩いており、猫を見失いそうになる。


「うわっ!なんだ!?」


 猛スピードで駆ける猫に生徒達は驚いている。


「邪魔だ! 道を開けろ!」


 そんな生徒達をかき分けてカイルが追って行く。

 カイルが作った道を俺達三人も走る。


「はぁ……はぁ……エル、作戦通りに!」


 俺がそう言うとエルは頷き、カイルのルートから外れる。


「待ちなさい! 黒猫!」


 アリッサはペースを上げ、カイルを追い抜く勢いで走る。

 やがて黒猫を追い、門前までやって来た。

「はぁ……はぁ……」


 二人の背中が小さくなる。

 あいつら早すぎだろ……。

 それよりも俺が体力の無さが原因か?

 アリッサは一気にカイルを追い抜き、先頭を走る。


「待ちなさい!」


 アリッサの足取りは止まらず、黒猫に接近する。

 するのだが……。


「おい! 危ないぞ!」

「え? きゃっ!?」


 アリッサは門から学校の敷地に入って来る生徒に気付かず、ぶつかってしまった。

 倒れ込むアリッサを間一髪で後ろからカイルが支える。


「っと……大丈夫か?」

「は、はい……大丈夫……です……」


 恥ずかしがりながらアリッサはカイルの元から離れる。


「いってぇなぁ、誰……ってお前らかよ」


 ぶつかった男子生徒はアッシュだった。

 俺はやっとの事で追い付き、止まる。


「はぁ……はぁ……アッシュ、大丈夫だった?」


 俺は息を整えながらそう言った。


「ああ、俺は大丈夫だが、何か追ってたんじゃないのか?」

「あ、そうよ! 黒猫……」


 アリッサが周りを見渡すが、黒猫の姿はもう見当たらなかった。


「大丈夫だよ、それにここで捕まえる必要は無いから」

「はぁ!? どういう事よ!?」


 アリッサが声を荒らげてそう言った。


「ま、とにかく大丈夫なんだな? じゃあ俺はもう行くぜ」


 アッシュはそう言い残して寮の方向に向かって行った。


「ちょっとどう言う事よ! 説明しなさい!」


 アリッサが迫ってくる。


「捕まえたかったんじゃなくて、追い詰めたかったの。ここで捕まえても持っていた物は返ってこないから」

「……住処の場所を探したかったって事?」

「ああ、お前には伝え忘れていたな。すまない」


 カイルがアリッサに謝る。


「べ、別にいい……ですよ、作戦だったんなら……」


 アリッサは顔を背ける。


「そ、それで住処の場所は分かったの?」

「うん、そろそろ……」


 その時、エルが帰ってくる。

 エルには密かに黒猫を監視する役目を任した。


「住処、発見した。こっち」


 俺達はエルの案内されるままについて行く。


「ほら、あそこ」


 俺達はしゃがんで黒猫を見る。

 黒猫の住処は廃寮裏だった。


「あ、あれ!」


 猫がいる近くの茂みにはお玉杓子の取っ手の部分が見えた。


「どうやって捕まえる?」


 カイルがそう聞いてきた。

 ここで黒猫を取り逃がせば、また同じような事が起きるかもしれない。

 その為に、盗まれた物を取り返すだけでなく、ここで黒猫を捕まえなければならない。


「……力ずくで捕まえましょう。エルの素早い動きなら捕まえれる筈です」

「了解……」


 エルは頷いて立ち上がる。


「待って、一応……」


 アリッサはエルにウィングの魔法をかける。


「一気に捕まえなさい」

「ん、ありがと」


 エルは黒猫との距離を一気に詰めて、全身を使って捕まえた。


「ニャー!」


 黒猫はエルの腕の中で暴れる。


「成功だ!」


 俺達も立ち上がり、エルの元に向かった。

 猫は脱出を諦め、次第に大人しくなった。


「あったぞ」


 その間に茂みを探っていたカイルが、隠し場所を見つけた。


「ほら、探し物のお玉杓子だ。少し汚れているがな」

「ありがとう……ございます……」


 アリッサは少しぎこちない動きでお玉杓子を受け取る。

 さっきからカイルと接する時だけ、様子が変だがどうかしたんだろうか。

 まぁ、それよりもアリッサには少し聞きたいことがる。


「アリッサはどうして、依頼してきたの?」

「え?」

「マルファスト先輩はアリッサが私達に依頼する事知らないみたいだったし、頼まれた訳じゃないよね?」

「それにお玉杓子くらい部費で買えるんじゃないかな?」

「そ、それは……」


 アリッサは少し口を噤む。


「……のよ……」

「え?」

「だから! 私が料理する度に備品壊してるから新しいの買えないのよ!」


 は?


「壊すって、フライパンとか?」

「そうよ!」


 他の二人もアリッサの返答に驚いている。


「……どのくらい壊したの?」

「……覚えてない」


 アリッサはそっぽを向きながら答えた。

 この二ヶ月で覚えていない程調理道具を壊すってどんな使い方をしているんだ……。


「そ、そうなんだね……そ、そんな人もいるよ、うん……」

「絶対そう思ってないでしょ!?」


 当たり前だ。

 短期間で数え切れない程壊す奴など見た事も聞いた事も無い。


「はは、とにかく見つかったんだから良いじゃないか! それにお前は壊した事を悔いて、探したんだろ?」

「は、はい……」

「だったら、俺達がどうこう言う資格はない! それは料理部の問題だ。俺達は依頼された案件を解決するだけ、そうじゃないか、助手一号、助手二号!」

「ん、これで依頼終了。良かったね、アリッサ」


 エルは猫を撫でながらそう言った。


「う、うん……あ、報酬は……」

「報酬? そんな物は要らない! あくまで部活動だからな!」

「そ、そうですか……」


 アリッサは腑に落ちない様だ。


「依頼の方はそれで良いんですけど……部長、その猫どうしますか?」


 俺はエルが抱いている黒猫についてどうするか聞きたかった。


「我が部で飼うに決まってるだろう」


 はぁ……言い出すと思った。

 確かにこのまま放置したら、また同じ事をするかもしれない。


「……本気ですか?」

「当たり前だ! それに見てみろ!」


 カイルは黒猫を指さす。


「ニャー?」


 黒猫はエルの手をぺろぺろと舐めていた。


「あんなに懐いているだろ! それにここで引き離したら助手一号が泣き喚くかもしれないからな!」


 カイルは黒猫を飼う事に必死だ。

 そんなにも黒猫を飼いたい様だ。


「……はぁ、分かりました。その代わりしっかり面倒見てくださいよ?」

「ああ! 助手一号もそれで良いな!」

「ん、了解」


 その後俺達は盗まれた物を取り敢えず職員室に持っていく事にした。

 殆どの部は今日の活動は終了しており、全部返すのは無理だ。


「……事情は分かりました。これらは私が明日返しておきます……それよりカイル君、その黒猫、どうするんですか?」


 職員室に行くと、カミラが応じてくれた。

 カミラに事情を話し、盗まれた物を渡した所までは良かったのだが、エルが抱いている黒猫について問いただされている。


「もちろん飼うに決まってるだろう!」


 カイルが自信満々に答える。


「はぁ……貴方の事なので言い出すと思ってはいましたが……責任を持って飼えますか?」

「ああ! 俺だけでは無い。こいつらもちゃんと世話をする!だから頼む、俺とあんたの仲じゃないか!」


 カミラは目を瞑って悩んでいる。


「……分かりました。ちゃんとお世話するんですよ?」

「ああ! 恩に着るぞ!」


 話はまとまったみたいだ。


「エリカさん、あの件どうなりましたか?」


 ……鍵の件か……。


「……すみません、まだ少し……」

「分かりました。なるべく早めにお願いしますね?」

「……はい」

 そんなに俺達の会話を三人は、不思議そうに眺めていた。


「では、また明日」

「はい、失礼しました」


 俺達は職員室を退出して、部室に戻って鞄を取って戸締りをした。

 取り敢えず猫はエルが預かる事になり、後日部室に猫の寝床等を作ることになった。

 今は廊下を歩いて、玄関に向かっている最中だ。

 その時俺は尿意を感じ、三人と別れてトイレに向かった。

 何事も無くトイレを済まし、玄関に向かう。

 玄関に到着して、門前に出る。

 ん?あれは……誰だ?

 いつもの門前の景色と一緒に目に映ったのは、白い日傘を差した人物の後ろ姿だった。

 日傘では隠しきれない程長い綺麗なプラチナブロンド色の髪が見えた。

 他の人影は見当たらず、より一層その人物の存在が強調される。

 日傘の人物がこちらを振り向き、口を開く。


「ごきげんよう……貴女はここの生徒よね?」


 その人物は白いワンピースから白い肌が見え、華やかな風貌で何処かミステリアスな雰囲気を醸し出す若い女性だ。

 夕焼けに照らされ立つその姿は、今にも溶けてしまいそうな小さく積もった雪のようだった。

 触れてしまえば崩れてしまいそうな……。


「そうですけど……何か学校に用ですか?」


 明らかにこの学校の生徒ではなかった。


「いいえ、少し気になって見に来ただけよ……?」


 女性はひたすら静かな声を通す。


「今日は暑いわね……もう夏って事なのね……そろそろ行くわ……じゃあね、一年Aクラスのエリカ・ライトさん……」

「え、あ、はい」


 女性は手を振り、学校を去って行く。

 ……なんであいつは俺の名前を知っているだ?

 学校の関係者か、もしくはクラスメイトの誰かの家族か。

 ……とにかく、寮に帰ろう。

 俺は不思議な感覚を感じながら、寮に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ